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十五時限目 捜索活動です(その2)




 結局俺と咲は一緒に探して回る事にした。

 理由は二つあって、一つは咲が孤児院近くに来る途中に商店街を見かけたらしくそこに案内してもらうため、もう一つはその商店街の店の中を含めて集中して探すためだ。通りをトボトボと歩いてくれてるならともかく、店の中に居たら外から見ただけじゃ分からんしな。そうなると中まで踏み込んで見てかないとならないし、一人で探すには時間が掛かり過ぎる。

 出来ればここで見つけ出したい。


「もう一時間か……」


 いい感じの時間になって、陽も傾き始めている。頭の上から差し込んでくる光は熱をやや失い始めて、うっすらと黄味がかった色に商店街の建物を染めている。

 正くんが「お腹空いたら帰ってくる」みたいな脳天気な少年だったら周りも余り心配しないんだろうが。


「咲……」

「はぅ! な、なんでもありません! 別にパフェを見てヨダレ垂らしたりなんかしてませんヨ?」


 こいつみたいにな。

 俺は盛大に溜息を吐いてみせた。


「デートじゃねぇんだからな。真面目に探せよ」

「でででででーとっ!?」

「だから意識してんじゃねぇよ」


 顔を赤くしてうろたえる咲の頭をぱかん、と叩く。その間ももちろん俺の眼は咲では無く商店街の店やすれ違う人達の姿をチェックしていく。

 叩かれた咲が「いったぁ~い!」と叫びながら恨みがましく俺を見上げてくるが無視だ。お前何しに来たんだよ。

 そんな俺の内心が伝わったのかどうかは知らんが、咲はそれ以上何を言うでもなく真面目にスマホの正くんの写真を見ながら正くんを探し始める。相変わらず表情は少しふてくされてるようでいて、それでいて少し嬉しそうだ。

 その様子を見て俺も咲とは反対側の店を探しながら口を開く。


「ワリィな。せっかくの休みのとこ、急に呼び出したりして。どっか出かけてたんじゃなかったのか?」

「え? ううん、別に大丈夫だよ。昨日が練習試合だったから今日は部活も休養日だったし。深音ちゃんから連絡貰ったのも買い物終わって帰りの電車の中だったからちょうど良かったし」

「そっか」

「それに、直くんが困ってるんだったら力になってあげたいんだもん。この前お父さんが言ってたもん。困ってる時は手を貸してあげなさいって」


 別に親父さんはこういう時を想定して言ったワケじゃないと思うが。


「それに……」

「……なんだよ? 人の顔ジロジロ見て」

「うーんー。なんでもなーい」


 人の顔を覗きこんだかと思えば咲はすぐに首を横に振って、上機嫌に鼻歌混じりにまた店の中を覗き込み始める。

 何がしたいんだか、と軽く嘆息して俺もまたすぐに捜索を再開する。

 その後しばらく商店街を中心に正くんを探し続けるが、一向にそれらしい子供の姿は無い。時々店の中に入り込んで写真を見せてみるが、誰も見ていないとの返事だった。


「居ないね、正くん……」


 隣で咲も肩を落とし、俺も頭を掻く。

 商店街に来てないなら良いんだが、他の連中からも連絡ないし、もしかして、冗談じゃなくてマジで何か事件に巻き込まれたんじゃないだろうか。

 不安が胸を締め上げ始め、いよいよ本当に警察に相談するのを提案してみようかと思ったその時、俺らの行く先から誰かが走ってくるのが見えた。


「直!」

「先輩……」


 先輩は俺らの直ぐ前まで走り寄ると乱れた呼吸を整える様に何度か深呼吸をして、顔中を流れる汗をマントで拭った、って――


「なんで衣装のまんま出歩いてるんスかっ!!」


 先輩は破れた黒のタンクトップっぽいシャツにスラリとした脚を露出した黒いホットパンツ姿だった。汗びっしょりで微かにシャツは透けてるし、正直目の遣り場に困る。若干年齢層が高い商店街において結構場違い感がある格好で、数少ない俺らと同い年くらいの少年が先輩を見て視線を引き寄せられながら通り過ぎて行く。あ、一人電柱にぶつかった。


「衣装を着替える時間も惜しかったからな。最初にも言っただろう? 今優先されるべきは少年を見つけることだと」

「いや、まあそれはそうですけど」


 一緒にいるこっちも恥ずかしくなるんですけどねぇ。幸いにしてマントのおかげで扇情的な姿を目の当たりにするのが俺らくらいなのが幸い、と言っていいのかは分からんが幸いと言っておこう。とは言ってもマント姿は目立つので周囲の注目を集めがちなのだが。


「……誰、この人?」

「ウチの生徒会会長の河合先輩」


 先輩の格好が恥ずかしいのか、少し顔を赤らめながら尋ねてくる咲に説明する。が、その眼差しには多大なる興味の色が含まれているのが気になるんだが。


「私のことはどうでもいい。それよりもだ。直、そっちはどうだった?」

「いえ、まだ何処にも……

 あ、コイツは真枝・咲っていいます。ウチの隣に住んでる奴で、正くんを探すのを手伝ってくれる事になりました」

「真枝です。よろしくお願いします」

「河合・陽芽だ。申し訳ないな。わざわざ来てもらって」

「いえ、どうせ暇だったので」


 先輩の方から手を差し出してとりあえずの自己紹介が終わり、先輩は綻ばせた表情を引き締めた。


「しかし、これだけ探しても見つからないとはな。一体何処にいるのやら……」

「先輩は北側を探してきたんですよね? 店の中とかも覗いてみました?」

「いや、北側は住宅地ばかりでな。路地も含めて全部探してみたが、少年が一人で入れそうな店舗は一件も無かったよ」

「……全部、ですか?」

「ああ、全部だ。細い路地が結構多くてな。マンションの屋上に昇って見下ろしてみたりしたが見つからなかった。できるだけ急いだが公僕の邪魔が入ってしまってここまで時間掛かってしまったが」


 どうやら先輩はこの短時間で地図上の全てを網羅してしまったらしい。なるほど、であればこの汗の量も納得だな。ついさっきまで舞台で激しい攻防を繰り広げていたというのに何だこの体力お化けは。あとアンタはお巡りさんに何をした。


「なら少し休憩しましょう。俺、ジュース買ってきますから先輩は咲とここで待ってて下さい」

「いや、少年がどういう状況かも分からんのだ。こんな所で休んでいる暇は無い」

「なら作戦でも練ってて下さい。このまま闇雲に探しても見つけられるか分かりませんし、ここは一度情報収集なり対策を考えるなりした方がいいと思います」

「それはそうかもしれないが……」


 俺がそう主張すると先輩は少し考えこむ様に口元に手を当てて軽く頭を振った。


「……いや、そうだな。少し焦っていたようだ。急いては事を仕損じる、ともいうしな。少し落ち着いてフローラや上遠野にも連絡を取って、少年が行きそうな場所を考えてみよう」

「お願いします」


 溜息みたいな吐息を吐きつつ先輩は言った。どうやら少し疲れてるように見えたのは間違い無さそうだ。ぱっと見はいつもどおりな感じはするけれど、なんというか、覇気みたいなものが今の先輩からはあまり感じられない。

 咲に先輩の相手を任せて近くにあった自販機にジュースを買いに行く。適当にスポーツドリンクやらお茶やらを購入して、急いで二人のところへ走っていった。

 が。


「ねぇねぇ、君たちィ~。ちょっと付き合ってよぉ~」

「一緒にさぁ、お茶でもしよ? 高校生でしょ? 結構今日暑いしさぁ、どっかのお店で涼もうよ? もちろんオレらの奢りだし」


 二人の前に何だかチャラチャラした連中が二人立ち塞がっていた。どうやら昼間っから酒を飲んでるらしく、手にはビールの缶が握られていた。日本人のくせに金色に髪を染めて鼻やら唇やらにピアスを着けてやがるし、だらしなく着崩したシャツにはデカデカと「LOST LOVE!」だとか「KICK MY ASS!」とか書かれてる。お前らそれくらい英語の意味は分かってて着てるんだよな、と突っ込んでやりたい。

 そいつらを見た途端、俺の頭に急速に血が昇っていく。そもそもああいう遊び歩いてるような奴らはアメリカに居る時から大嫌いだったし、何より腹が立つのが先輩と咲の二人をだらしなく鼻の下を伸ばしていやらしい眼で見てることだ。そんな男連中に先輩は顔を顰めてるし咲は怯えた様に身を縮こませてる。


「アイツらぁ……」


 自然と右腕の握り拳に力が入っていく。二人との間に割って入って、相手の対応次第ではぶっ飛ばしてやるつもりだった。相手が年上だとか、そんなのは関係ねぇ。


「私達はやらねばならんことがあるんでな。申し訳ないが遊び相手を探しているのであれば他を当たってくれないだろうか?」

「まぁ~たまた。そんなエロい格好しちゃって、実は誘ってんだろ? 俺らみたいなのがやってくるのを待ってたんだろぉう?」

「なんだそうだったのか! よし、なら話は早ぇ! さっそく……」


 気丈にハッキリと先輩が断りを入れたにも関わらず野郎どもは都合の良い解釈をして離れようとしない。うざったらしい癪に障る話し方をしながら、男の一人が先輩の腕を掴んだ。

 それを見て、俺は我慢できなかった。問答無用で殴りかかるつもりでダッシュしかけた。

 その時だった。


「……今、私の腕を掴んだな?」

「え?」


 先輩の口元がニヤリ、と笑って、男の口から戸惑いの様なものが漏れたと同時に。

 男の体が宙に舞った。


「……は?」


 目の前で先輩の体がぶれたと思ったら次の瞬間には先輩の体は、何処ぞの格ゲーキャラ宜しく空中で一回転していた。そのままシュタッ!と危なげなく着地すること、僅かに遅れて顎先を盛大に蹴り上げられた男がベチャリと落ちて地面に貼り付いた。人ってあんなに飛ぶんだな。初めて知った。


「な、夏のお塩キック……」

「……あの技、人間でも出来るんだ……」

「生きててよかった……」

「あの生足ペロペロしたいでござる」


 先輩の軽やかな御業に慄く咲の言葉をきっかけに、辺りを取り囲んでいたやじ馬連中からざわめきが広がっていく。あと最後のセリフ吐いた奴、あとでちょっとツラ貸せや。


「な、な、な……っ!」


 獲物だと思っていた女の子の突然の凶行に呆然とするもう一人の男。その隙を逃すはずもなく、素早く先輩は地面を滑る様に懐に潜り込むと突然目が眩むような眩い光が周囲の俺らの眼を焼いた。


「うおっ、まぶし!?」


 俺も含め周りに居た全員が眩しさに眼を逸らす。その直後に何やら連続して何かが潰れる音だったり切羽詰まった悲鳴が聞こえたりしたが、その時の様子は誰も目撃できなかった。

 顔を上げた時には、ただ一人先輩だけがマントを風にはためかせながら何か波動の残滓の様なものを漲らせながら男らしい仁王立ちでボコボコにされた男たちを見下している姿だけがそこにあった。


「さて、私の気持ちはたった今明確に示したつもりだが、これ以上更に言葉が必要だろうか?」

「ず、ずびばぜんでじた……」


 先輩のにこやかな笑顔に、腫れ上がった顔を青ざめさせると動かないままの相方の男を引きずりながら泡を食って逃げ出していった。その判断だけは全く以て懸命な判断だったと言っておこう。


「先輩、大丈夫でしたか?」

「ん? ああ、直か。もちろんだ。あの程度の輩に遅れを取るほど柔な鍛え方はしていないからな」


 知ってます。家の屋根の上を走って登校してますもんね。

 今の動きといい、そろそろ俺は先輩を人間と考えないほうがいいのかも知れないな。

 そんな感想を抱きながら先輩と咲の二人に買ってきたドリンクを手渡す。


「咲も、怪我は無かったか?」

「え? ああ、うん。大丈夫だよ」


 受け取りながら咲はそう生返事をする。その視線はさっきからずっと先輩に釘付けである。頬も若干赤らんで、何だろうか、先輩を見るその眼が恋する乙女の様に見えるんだが。腰に手を当ててスポーツドリンクを豪快に飲む先輩の一挙手一投足を見逃すまい、とばかりに熱視線を送るが、先輩は気づいてないのかそれとも気づいてない振りをしてるのやら。


「しかし余計な時間を食ってしまったな」

「……何か思いつきました?」

「いや、さっぱりだ」深く溜息を吐いた。「上遠野にも電話で状況を尋ねてみたが状況は芳しくない。途中で見かけた公園とかにいた子供にも聞いてみたが今日は見てないと言っていた。すれ違う人にも尋ねてみたりもしたんだが、正くんを見た人は一人も居なくてな。フローラに至ってはろくに聞き込みすら出来なかったらしい」


 そりゃそうだ。あんなのに近寄られたら迷わず逃げるわ。


「何処かの店の中にでも居るのかもしれんが、小学一年生の子供が一人でそう長時間店で過ごせるとも……」


 悩ましげに眉根を寄せていた先輩だったが、何気なく顔を上げたところで不意にその声が止まった。先輩を凝視していた咲もつられて同じ方向を見て同じく動きを止めた。

 そして俺もまた。


「あ」


 声を上げて固まった。

 俺ら三人が向けた視線の先にある喫茶店の中には。

 見知らぬ老人と向き合ってジュースを飲んでいる正くんの姿があった。






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