十四時限目 捜索活動です(その1)
すいません、短いです。
今日からしばらく夜更新です。
子供の心なんてもんは単純な様でいてその実、複雑だ。
実際に口に出してそんな事を言えば、弱冠十六のお前みたいなクソガキがわかったような事を言うなとひどく怒られてしまいそうなもんだが、俺はそう思ってる。雅が生まれてこの方十一年間、毎日あいつの姿を見てきた俺が言うんだから間違いない。
アイツを喜ばせようと思ってプレゼントを買ってやれば、「趣味が悪い」と一刀両断されたり、そのくせその時のストラップを毎日使う鞄に付けて登校してたり。
ちょっとした手伝いをしてやれば喜ぶくせに、ガッツリ手伝おうとすれば「私の仕事を取るな」とガチギレされたり。かといって何もしなければ「少しは手伝え」と、「お前はオカンか」と突っ込みたくなる小言を聞かされたりだとかな。
まあそんなのは比較的分かり易い方で、アイツは辛いことがあっても心配させまいと無理やり笑うような妹で、表面上を取り繕うのは最近では特に上達してくれて、そうなるとずっと一緒にいる俺でも中々雅の内心を汲み取ってやるのは難しい。取り繕えてなかったら、それはマジでやばい状況だということだが。
とまあ、子供心は大人が思う以上に複雑だ、という一例として我が可愛い妹を挙げたわけだが、当然それはまだ見ず知らずの「正くん」にも言える事だと俺は考えている。
(ましてや孤児だしな)
孤児になってしまったのには何らかしら重たい事情があるんだろう、と想像する。それこそウチみたいにな。
世の理不尽を幼いながらも感じて、幼い思考ながらも色々と考えてしまう。そうすると自然と同世代の子と比べて成熟が早くなるし、年齢と精神性のアンバランスが起きやすいんじゃないだろうか、と一応孤児に分類されてしまう俺は愚考するわけで。
そんな浅はかな俺の思考が正しいとするならば、正くんも普段から色々と、普通の少年なら感じないようなところも色々と感じ取ってしまうわけだ。
例えば小学校での周りの子との違いであったり。
或いは自分を見る先生の視線に含まれる感情であったり。
他の子と違う。アメリカじゃあそれを個性として誇れる部分もあるっちゃあるが、それでも他人と違う事は、他の子から無邪気な悪意にさらされる事が多い。まして日本なら尚更だ。
それは多分ストレスで、だが精神が大人であるほど誰か周りの大人に頼ることも躊躇しちまう。まして、周りにいる子供が自分と同じ様な境遇だとすれば余計に相談しにくいはずだ。
だいたい大人なんてのは、関わり合いが弱いほど「何でも分かってますよ」的な訳知り顔で子供を馬鹿にしているもんだしな。
別にあの職員の人がそうであるとは思わないが、小学校に入学して大人の人を目にする機会が増えれば、悩み事を抱えていても誰に頼ればいいか分からなくなっちまう、なんてこともあるんじゃなかろうか。
だが、一方で。
起こす行動はひどく単純だ。
気分を害すれば怒るし、悲しければ泣く。一人になりたければ勝手に一人になる。
別に何か隠蔽工作じみた事をやるわけでもなくて、感情の赴くがままに動く。当たり前だ。悪知恵を働かせるほど経験があるわけでもないし、そこまで複雑な事を考えてるわけじゃないしな。
で。
ここまで長々と語ったのは「子供の考えることだからすぐ見つかるだろう」なんて数十分前までの俺の浅はかな思考を反省するためである。別の名を「現実逃避」とも言う。マジで何も考えずに手当たり次第に探しまわり始めた自分を殴り飛ばしたい。
つまり。
「どこにいるってんだよおぉぉぉぉぉぉっ!?」
まだ正くんを誰も発見できていないわけである。
正くん捜索隊を緊急結成した俺達はそれぞれ四手に分かれて孤児院近くを探しまわる事にした。孤児院を中心にして東西南北に地図を四等分し、先輩は北、深音は南でゴンザレスは西、そして俺が東という割り振りだ。
職員さんから借りた正くんの写真をスマホで撮影し、職員さん達には「任せとけ!」とばかりに胸を張って勢い良く飛び出した俺達は住宅街の中を走り回った。ショーの途中で抜けだしていたあの少年だ。小学一年生ということだし、短時間ではそう遠くへは行ってなくて、四人で探せばすぐに見つかるだろうと高をくくってたんだが――
「この有り様である」
たかが子供一人、と侮っていたのは否めないがまさかここまで苦労するとは思わなかった。
よくよく考えてみれば四人揃いも揃ってこの土地に来たのは初めてなわけだし、子供が集まる場所がどこであるだとか、何処にどんな建物があるかだとかそういった土地勘は皆無。一応地図だけは見せてもらってスマホに保存はしたが、何処を探せば居そうだとか、そこら辺の情報も聞き集めることすら無く飛び出していったわけだ。
今更な話だが、見つけ出せる気がしない。我ながらよくもまあ、ああも自信満々に啖呵を切れたもんだ。先輩の無鉄砲さが早くも移ってきてしまったのかもしれん。まだ転校して四日目だけどな。
走り回る脚を一度止めてスマホを見てみるが、まだ誰からも着信は無い。探し始める時に何か情報が入ったらすぐに連絡を入れ合うように示し合わせて別れたから、連絡が無いってことは誰もまだ何も分かってないということだ。
「さて、どうしたもんか……」
お空では季節外れの真夏日を演出してくださっている太陽様が俺らを嘲笑うかのように燦々と紫外線を振りまいている。ただ立っているだけで汗が滲み出てきて、流れる汗のベタつきが余計に不快感を増長させてくれやがる。
ここまで見つからないとなると――。
少し悪い想像が浮かび上がってくる。もしかしたら変な奴に誘拐されてたりしないか。事件に巻き込まれてたりしないか。子供が排水溝に落ちた、なんてニュースもたまにあるし、水路に転落したとかって話も聞く。
いかん、そんな事考えてたら余計に不安になってきた。
水路の中で顔を下にして浮かぶ雅の姿が頭ん中に浮かんできて血の気が引いていく。冷静に考えれば今居なくなってんのは正くんであって雅は関係ないとは分かるんだが、こういうのは感情だからな。
一刻も早く正くんを探しださねば。正くんの身もそうだが、このままだと俺の精神がヤバイ。
頭を振って想像の雅を振り払った時、突然手の中のスマホが鳴り出した。全然別のことを考えてたからビビって落としそうになったのを慌てて捕まえる。
モニターを見ればそこには「真枝 咲」と表示されていた。
(こんな時に……)
一体何のようだ、と怒鳴り散らしそうになる八つ当たりに近い気持ちを何とか抑え、通話表示を押した。
「もしもし!? 直くん?」
「咲か? ワリィけど今は……」
「直くん今何処にいる!?」
後で掛け直す、と言うつもりだったんだが、それよりも早く咲の方が切羽詰まった様子で尋ねてきて、思わず口ごもってしまう。
「何処って、川崎だけど……」
「もうちょっと詳しく!」
言われて俺は近くにある電柱に駆け寄った。取り付けられた住所表示板を見て住所を咲に伝えると、咲は「ちょっと待ってて! そこから動かないで!」とだけ一方的に叫んで電話が切られた。
「ちょっと待てって言われてもな……」
そんな悠長に待ってる余裕は無いんだが。
一瞬、一方的に取り付けられた約束をブッチして正くん捜索を再開しようかと思ったが、そんな思考を実際に行動に移すよりも早くこっちに向かって全速力でダッシュしてくる幼馴染の姿が。
「ごめん、お待たせ!」
「なんでやねん」
なんでお前がここに居る。まさか、横浜からこの短時間に走ってきたというのか!?
「んなわけないじゃん。たまたま近くに居ただけだよ」
そりゃそうだよな。
「でもなんでお前がここに……?」
「深音ちゃんから連絡があったの。行方不明になった子供を探すのに人手が足りないから手伝って欲しいって」
「深音が?」
すでにアイツの方で手を回してたか。つーかお前ら知り合いだったのかよ。
「直接会ったことは無いんだけどね。それよりも! 私はどうすればいい?」
「はぁ!? 深音から何も聞いてねーのか?」
「んーと、私が教えてもらったのは子供が居なくなって、探すのに人手がほしいから近くに居たら来て欲しいっていう緊急連絡だけだよ。後の細かい話は直くんに聞けって」
「あんにゃろう……」
全部俺に丸投げかよ。まあ、いい。人数が増えただけでも大助かりだからな。
「そうだな……もう居なくなって結構時間が経ってるし、早いとこ見つけてやらないといけないんだが」
「それじゃ急いで探さないといけないよね!? じゃあ私はこっち行くから直くんはあっちを探してみて! 見つけたらスマホに連絡するから!」
「あっ、おい! 咲!」
俺の呼ぶ声も聞かず咲の奴は「ビューン!」とあっという間に今やって来た方向に向かって走って行ってしまった。
まあ探してくれるのはいいんだが。
「あいつ、正くんを知ってんのか?」
写真もすでに深音から貰ってるならいいんだが。
んな事を思いながら咲を見送ってたが、行きと同じ勢いでUターンして戻ってきた。
「ゴメン、直くん! 誰を探さないといけないんだっけ!?」
……やっぱり戦力になるのか不安だ。
お読み頂きありがとうございました。
お気に入り登録やポイント評価頂けましたら幸甚です。




