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転生幼女 信長の下克上!   作者: 寛喜堂秀介


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八 坂東をゆく

「さて、出発とまいろうぞ!」



 政子が声をあげる。

 家人数名と、源頼朝、その従者藤九郎とうくろうを連れての旅だ。

 名目が父をしのんで、ということで、まずは故地、鎌倉へと向かった。


 坂東の現状を見る旅、その最初に目に入ったのは。



「テメエ……オレのご先祖さんの領地……なに“勝手寄進パチッ”てんだ……」


「ざっけんなコラ! てめえこそコラ!? オレの管理地シマァ“押領ぬす”んどいてコラ! どの面下げて“口上もんく”垂れてんだコラ!?」



 ごく普通の、なんの変哲もない、坂東の日常風景だった。



「平和な光景ですね」


「普通ならぁもう首が何個か転がってますからなあ。義朝よしとも様死後の相模さがみ国も、すこしは落ちついてぇ来ましたか」


「コラ待てい!」



 のんびりと話し合う頼朝主従に、政子は全力でツッコむ。



「どうしました、政子殿」


「あやつらはなんだ!」


「あやつら、とは……ああ、侍同士の所領争いですよ」


「侍? あ奴らがか? 雑兵か野盗の類ではないのか!?」


「また戯言を。たしかに文字も読めぬ無学な連中ですが、れっきとした侍です……伊豆国でも時おり見る風景でしょう?」


「……野盗の類とばかり思っておった……悪いことをしたやもしれぬ」


「ちょっと待ってなにをしたんです!?」



 物騒なことを口にした政子に、今度は頼朝が突っ込む。



「うむ! ぶっ倒して下僕にした!」


「あなたのほうがよっぽど物騒です! なにやってるんですか!」



 大前提として、この時代のほうが物騒ではあるのだが……やはり魔王は魔王だった。







 源義朝の足跡を求めて、頼朝一行は相模国を歩く。



「三月某日、山内首藤経俊やまうちすどうつねとしに嫌味を言われた。絶対に許さない」


「同じく三月某日大庭景親おおばかげちかに冷たくされた。死ぬまで覚えていようと思います、まる」


「三月某日、大庭景義おおばかげよしに温かい言葉をかけられた。この恩はぜったいに返します」


「四月某日、三浦のおじいちゃんに優しくされた。すっごくうれしかったです」


「……おい、いちいち恨み雑記帳ノートとやらに書きつけるのは止めよ。気持ちが悪いわ」



 さすがにうんざりして、政子が抗議すると。



「四月某日、政子殿に気持ちが悪いと罵られた。これはこれでアリだという気がしてきました……」


「おいなにゆえよろこんでおりゅのだ本気マジで止めぬかっ!!」



 とまあ、そんなやりとりはさておき。

 出会った武士連中が総じてガラが悪かったのもさておき。



「頼朝よ、旧の家臣たちの対応を見るに……お主じつは人望ないであろう」


「無茶を言わないでください。父が死んで、私は流人の身。もう彼らの所領を守ってやれる武力も政治力もないんですよ。そんな私に優しくしてくれる人間なんて、情で繋がった少数だけです」


「でも怨むのだな」


「死ぬまで忘れません」



 粘着質すぎる貴公子である。


 政子はため息をつきながら、考える。

 坂東のほんの一角を拝んだだけだが、この時代の武士というものが見えてきた。



「誰しも、まずは土地が大事か」


「なによりも、です。先祖が拓いた、先祖が所領としていた、先祖が手にした――土地を守る。そのためにこそ、彼らの武力は存在しているのです」



「だが」と、頼朝は言葉をつけ加える。



「おそらく、風向きが変わり始めている」


「ふむ?」


平清盛たいらのきよもり。武力をもつ公家であるあの方が、今以上に政治に影響力を持つようになれば……武士たちは中央に従わざるを得なくなります。貴族に、寺社に、清盛に逆らう者は、反逆者として土地を奪い、殺す。そのような事態ことになるかもしれない……我が家の所領が奪われたようにね」


「なるほど、そこがつけ目か」



 政子は鋭く察した。

 見つけ出した隙に、魔王オーラ全開でほくそ笑む。



「言葉が不穏すぎますよ、政子殿」



 頼朝が冷静に突っ込んだ。

 もとより、絵空事の話。仮定に仮定を重ねたものでしかない。

 魑魅魍魎ちみもうりょう渦巻く中央政界が、これからどう動くのか、さすがの頼朝でも読み切れるものではない。


 政子は知っている・・・・・



 ――が、反乱の機運が熟すには、まだまだ時がかかる。待とうぞ。今はまだ、な。



 不敵に笑いながら、政子は頼朝に顔を向ける。



「さて、三浦にも会って、次はどこだ?」


「三浦半島の東、走水はしりみずに向かい、船で房総に渡ります……そこに、坂東屈指の大勢力の主が居ます」



 海を彼方に見ながら、頼朝は言う。



新皇平将門しんのうたいらのまさかどを尊崇するかの地に盤踞ばんきょする……房総三ヶ国にまたがる大反乱を起こした平忠常たいらのただつねの子孫」



 海の向こうに、いわおのごとき巨山がある。

 その名を。



「――上総広常かずさひろつね




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