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転生幼女 信長の下克上!   作者: 寛喜堂秀介


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四十八 されど政変は起こる


 鹿ヶ谷の陰謀は止められた。

 院と平家の関係は決定的な破局に至らぬまま、年を越す。


 明けて治承2年の末、運命はまた、大きく動く。

 高倉天皇と中宮徳子との間に、男子誕生。後の安徳あんとく天皇である。


 後白河院と平家をふたたび強く結びつけると思われたこの赤子の誕生は、皮肉にも逆の結果をもたらすことになる。







 治承3年7月。摂津国福原、雪見御所。

 その一角で、屋敷の主――清盛とその嫡男、平重盛は、神妙な面持ちで向かい合っていた。



「では、重盛。キミはこう言うんだね? 帝は後白河院とその近臣に苦い思いを抱いておられる。ゆえに親政を望んでおられる、と」


「はっ」



 清盛の問いに、重盛がうなずく。



「困ったね」


「はい」


「重盛。いま君は、手拍子でうなずいたようだけれど、ボクがなにを困ったのか、わかっているかい?」



 清盛は苦笑を浮かべながら、軽く咎めた。

 重盛が深く考えずにうなずいたように見えたから、だったが、しかし、重盛は静かにうなずいて言う。



「俺を嫡流から外すべきか否か、そのことで、父上パパがご思案なさっていると拝察いたします」


「おどろいた。正解だよ」



 軽い驚きとともに、清盛は膝を打った。



「母后となられる我が娘、徳子と宗盛むねもりは同母兄弟だ。堂上平氏どうじょうへいしとの兼ね合いもある。平家が今後百年の安泰を望むならば、嫡流は宗盛とするのがいい。高倉帝が院政を志されているのならよけいに、それが急がれる……でも、おどろいたね。キミがそこまで察しがいいとは」


「義妹が皇子みこを生んだ以上、そして昨今の事情から、早晩その話がある、と、覚悟しておりましたので」



 一時的な処置として、徳子を嫡男、重盛の猶子としたが、やはり歪な処置である。

 形だけを見るのなら、重盛ちゃくなんの位置に宗盛を据え直すほうが、よほど収まりがいい。


 あくまで、形だけを見るのなら、だが。



「ふむ。しかし、ずいぶんとあきらめがいい」


「いま俺が宗盛と対立すれば、平家を二つに割ることになる。いや、天を二つに割る事態になるかもしれない。それこそが、父上が憂慮されていることでしょう」


「ふむ。ファミリーを第一に。そう言ったのはボクだけど……それでキミの家人が納得するかい?」



 清盛の憂慮はそこにあった。

 しかし、重盛の目に迷いはない。

 まっすぐに清盛を見て、それから頭を下げた。



「そこは、父上にお力添えいただきたく。我が家と、家人どもが身の立つように、ご配慮を」


「……なるほど、キミの望みはそこか。たしかに、それはボクが生きている間しか出来ないことだ。であれば、今が身を引く一番いい時期だと納得できる。重盛。よくぞ思案し、結論を出し――そしてボクを頼ってくれた。あとはパパに任せなさい。大丈夫、キミとキミの与党を、粗略に扱うものではないよ」



 清盛は鷹揚にうなずいた。

 己の身より平家ファミリーを。惣領にふさわしい決断を下した愛しい息子に、自然、尊敬の念が湧く。



「――父上パパ、そこで、お願いが」



 と、そこで、重盛が膝を進めてきた。



「なんだい、重盛?」


「帝のお望みを叶えるとなれば、政変は避けられないでしょう。その折、我が義兄、大納言・藤原成親、それと右近衛権中将うこんえのごんのちゅうじょう・源頼朝には格別の配慮をいただきたく」


「ふむ。成親卿はわかるとして、源頼朝?」



 思わぬ名を聞いて、清盛は眉を上げた。



「親しくつき合っております。八条院のお気に入りなれば、あえて手を出す必要もないかと」


「さて……」



 清盛は額に指を置き、思案する。



「頼朝という男を、ボクは知っている。源義朝の嫡子で八条院の猶子の婿。伊豆国主として辣腕をふるい、南坂東の武士団を傘下に収めた。また都においては後白河院の寵愛厚く、院の意に応えて比叡山の僧兵を壊滅させた、後白河院の武威の象徴だ。平家にとっては煙たい存在と言っていい」


「ですが、同時に信心深く、さきの天台座主・明雲様への待遇も厚いものでありました。恩人である池禅尼いけのぜんに様への供養も、いまだ欠かしておりません。なにより、父上パパ。平家百年の計を説き、俺に嫡流を退くよう進言したのは、なにを隠そう彼なのです」


「……ほう。なるほどね」



 清盛は脳内で棋譜を並べる。

 頼朝の狙いを探るが、読めない。


 清盛は眉をひそめた。

 平家の赴く先。避け得ぬ帝の意思。

 それを睨みながら清盛が打ちだした最善手と、頼朝の進言はほとんどおなじだ。



 ――ならば、頼朝は善意で助言しているのか?



 ありえない、と、清盛は断ずる。


 清盛は見た。北条政子を。

 北条の修羅姫と恐れられ、規格外の気格を有し、関東に武名を轟かせ、また比叡山に天魔の化身と恐れられる女将軍。その幼きころの姿を。



 ――あの魔王のごとき娘の婿が、ただの善人であるはずがない。



「……重盛」


「はっ」


「たとえどんな理由があろうと、頼朝がその手勢を京に呼び寄せようとした瞬間、頼朝を拘禁する。それを約束できるかい?」



 不気味な頼朝と、その武威の根源である北条政子の分離。

 清盛が考えたのはそれだった。



「承知いたしました」


「頼朝の周りに見張りを絶やさないよう。これも、心しなさい」


「はっ」


「では、政変の準備に取り掛かろうか。院との関係はもう少し続くのが理想だったが、帝が望まれるなら仕方ない。増長が過ぎる近臣どもを掃き出して、一家ファミリーの居心地を良くしてやらねばね」







 治承3年(1179)11月。

 福原を発った清盛は、数千騎の大軍を引き連れて上洛、西八条第に入る。

 この武力を背景に、朝廷の主要閣僚および院近臣を解官、あるいは配流、処刑。同時に反平家が主流となっていた延暦寺の頭を、親平家の明雲にすげ替える。抵抗の姿勢を見せた後白河院を幽閉し、院制を強制的に停止させた。


 これにより、平家が政権を掌握。閣僚を親平家で刷新。知行国もあらためられ、実に30に及ぶ国が、平家の知行国となる。

 一連の処置は平宗盛の名で行われ、平家の惣領が重盛から宗盛に移ったことが明確になった。


 藤原成親は一時解官、のち復帰。

 源頼朝は院の意を受ける前に、重盛の手によって事前に拘禁される。しかし、これものちに放免。


 翌年2月には高倉天皇が譲位。高倉院政が開始される。

 時に治承4年。この年の5月に起こる以仁王もちひとおうの乱が、源平合戦開幕の合図となる。


あけましておめでとうございます!

本年もよろしくお願いいたします!

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