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転生幼女 信長の下克上!   作者: 寛喜堂秀介


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四十四 検非違使

 承安2年秋、頼朝の元に、都よりの使者が現れた。

 昇進の内意を伝えるものだった。



 ――正五位下・左衛門権佐さえもんごんのすけ検非違使佐けびいしのすけ



「ほう? ずいぶんと官職が張り付いたものだ。はったりが利いてよいではないか」



 話を聞きつけた政子がやってきて、「よしよし」とうなずいた。


 平たく言えば、都の警察機構の実務担当ナンバー2である。

 数年前まで流人だった武家風情がなれるものではないが、そこは八条院の後ろ盾や後白河院の後押しの結果だろうか。


 頼朝は笑わない。

 浮かない顔の頼朝に、政子は眉をひそめた。

 頼朝は、今回の昇進を喜んでいない。なら、なにか理由があるはずだ。



「……まさか伊豆守を剥がされたわけではあるまいな?」


「いえ、知行国主になりましたので、伊豆守は実質留任です」


「ならば、教えよ。なんの問題があるのだ」



 重ねて問う政子に、頼朝は怪訝な表情をつくる。



「伊豆掌握、産業振興……私たちにとって、伊豆は今、大事な時です。そんな時に京に戻らねばならないのです。問題があるに決まっているでしょう?」


「? なんで都に居らねばならぬのだ?」



 政子は不思議そうに小首をかしげる。



「? 左衛門佐に検非違使ですよ? 在京するのは当たり前……」



 頼朝は言いかけて、なにかに気がついたのだろう。あわてて言葉を止めた。



「わしの――」


「政子殿、言わなくていいですっ! あなたの時代のコワい逸話はもういいですっ! 職責ほっぽらかすような無法が横行してるような末法の世せいきまつの話は聞きたくないですっ!」



 頼朝が必死に耳をふさぐ。

 その様子が面白いので、政子は悪戯心をくすぐられ、悪い笑みを浮かべた。



「わしの時代ではな、帝が譲位したくとも金が足りず――」


「わー! わー! わー!」


「というか検非違使が役職放棄とか、わしの時代を待たずともお主の弟(義経)が――」


「わー! わー! わー!」


「……なにやっとるんですか、二人とも」



 もみ合っていると、あきれたような声が投げかけられた。

 頼朝の従者、藤九郎だ。



「子作りならぁ大歓迎ですが、人払いくらいかけてくださいよ」


「残念ですが、そんな色気のあることはやっておりません。というか出来ません。幼すぎて」


「はっはっは。どういうわけか、月のものもまだ来ぬわ」



 藤九郎の皮肉にも、二人は悪びれない。



「小娘ぇ、おまえはもちっと焦れ」



 特大のため息を落とす藤九郎だが、政子はどこ吹く風である。



「そういえば、藤九郎」



 と、頼朝が思いだしたように手を打つ。



「――頼んでおりました、都行きの支度はどうですか?」


「へい。そのあたりは万事順調に――と、しまった。頼朝様、そこの小娘おくがたの準備もですかい?」



 確認を怠った自分の頭を叩きながら、藤九郎が尋ねる。

 頼朝は首を横に振った。



「いえ、政子殿には私の代理として伊豆を任せます」


「……本気ですかい? 伊豆が荒れますぜ?」


「といって、私達がいま行っていることを理解し、実行できる人間など、政子殿の他には居ません」



 藤九郎の懸念は当然だ。


 政子は衝突を恐れない。

 頼朝の調停能力を欠けば、大きな衝突を起こしかねない。


 といって、かわりが居ない。

 務まりそうな人間といえば、藤九郎か北条宗時くらいか。しかしこちらにも問題がある。



「藤九郎は出自、宗時殿は年齢が問題です。いずれも反感の種となりましょう。それならば政子殿の補佐に徹してもらう方が、問題が少ない」


「ま、待ってぇください」



 あわてた様子で、藤九郎が頼朝の言葉に待ったをかける。



「――頼朝様は都へは誰を連れていくおつもりですか? 言っちゃあなんだが、他の従者どもなんざぁ気の利かねえやつらばっかりですぜ?」


「まあ、多少の不便は我慢いたしましょう。しかし、相談役は欲しいところです……政子殿、宗時殿をお借りしても?」


「そりゃあまずい! 宗時殿は北条家の要じゃぁねえですか! それならこの藤九郎を都に――」



 藤九郎の必死の主張を無視して、政子は「よいぞ」とうなずいた。



「兄者の伊豆での業務は、弟の義時に引き継がせておこう」



 義時の地獄行脚が確定した瞬間である。



「――それから、ついでだ。八条院ははうえに官位を強請ねだっておいてくれぬか? 北条家に箔をつけておきたい」


「まあ、いつまでも北条時政ダーティ印象イメージでは、伊豆の掌握にもさし障りますしね……頃合いを見てお願いしておきましょう。たぶん通ります」



 北条時政が聞けば感動にむせび泣きそうな事が、さらっと言ってさらっと通った。


 夫婦が話すかたわらで、問題児の保護者役に内定した藤九郎が、ああ、と天を仰ぎ嘆いた。







「しかし、今回の昇進……」



 藤九郎が退いてから、頼朝はつぶやく。



「ふむ?」


「私たちの妨害になっていることを思えば、平家方――清盛の打った手とみていいでしょう」


「で、あろうな」



 頼朝の説明に、政子は同意した。



「私を伊豆から切り離す。それも角が立たぬよう、昇進させて……穏便ながら、いい手です」


「で、あろうか?」



 政子が、今度は疑わしげに首を傾ける。



「……ふむ。政子殿は、違うと?」


「うむ。わしは清盛と碁を打った」


「なにをやってるんですか。ていうかなんで出来たんですかそんなこと」


八条院ははうえ強請ねだった」


「なんてことを」



 頼朝が頭を抱える。

 ちなみに政子が、八条院の猶子になる前の出来事である。



「ともあれだ、頼朝よ。清盛の攻めはかように温くはない。気をつけよ。他に狙いがあるはずなのだ。悪意の刃がそのまま跳ねかえってくるような、辛辣な狙いが」



 身を案じ、忠告してくれているのだと気づいて。

 頼朝はじとりと湿った微笑を浮かべた。



「ありがとうございます。政子殿。ですが、心配無用です」


「ふむ?」


「こと陰謀の類であれば、私は清盛にも負けるつもりはありませんから」



 懐から取り出した恨み雑記帳ノートをお守りのように撫でながら、頼朝は口の端をつり上げた。







 藤原成親「ウェルカム!」←左衛門督・検非違使別当(頼朝の上司)



藤原成親……後白河院の側近。平治の乱で源義朝と共闘。嘉応の強訴の元凶。見えている地雷。

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