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転生幼女 信長の下克上!   作者: 寛喜堂秀介


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十二 北条宗時

 山々から降りた靄を晴らすように、日が昇る。

 夜明けとともに、北条屋敷もにわかに活気だつ。

 ばらばらと出てきた家人に、身なりの良い少年が一人、混じっている。

 年のころは十一、二か。辺境の田舎に似合わない、利発そうな少年だ。


 名を、北条宗時。

 伊豆国の豪族、北条時政の長男である。



「うむ。いい朝だな」



 つぶやいて、少年は女や家人たちに声をかけていく。

 しばらくして、大人に混じって年少の子供たちがやってきた。



「あにうえ、おはようございます」


「あーちゃん、あーちゃん」


「だぁ」



 下の妹の保子やすこ。優しげな面差しの童女だ。

 それに、連れているのは一歳の義時よしときと、赤ん坊の時子ときこだ。ほかにも一族の子供たちがばらばらとやってくる。


 だが、一番存在感のある子供が居ない。

 宗時は分別くさくため息をつくと、一番しっかりしている保子に尋ねる。



「政子はどうした」


「あさからおりませんでしたわ」



 返ってきたのはそんな言葉だった。



「あの問題児……まあ、いつものことだ。朝食の支度が出来るころには帰ってくるだろう」



 子供たちに朝の支度をさせながら、宗時はもう一度、ため息をついた。







 くりやから吐き出される炊煙が落ちつき、家人たちものきなみ朝の支度を終えたころ、ふとじしの男が寝床から這い出してきた。

 宗時の父、時政だ。



「おーう、宗時よ、相変わらず早いのう!」


「……父上が遅いのです」



 がははっ、と笑いながらやってくる父に、宗時は眉をひそめた。


 ルーズなわけではない。

 この男、家長たるもの悠然としていなくてはいけない、という妙な信念を持っているのだ。

 本当はもっと早く起きて居るというのに、わざと寝すごしたふりをするあたり、妙に小物っぽさを感じるのだが。



「感心じゃ感心じゃ。北条本家の長子たる者、そうでなくてはいかん!」



 時政はそう言って宗時の方を叩くが、時政の家は北条家の本家ではない。

 宮仕えしている本家の人間が京に居る間に所領をちょろまかして本家面しているだけだ。

 当節よくある話だが、さして問題化させていないあたり、時政の(悪辣な)手腕のほどがうかがえる。



「ふむ? 政子はどうしておる!?」


「外に出ているようです。じきに帰ってくるでしょう」



 親子でそんな会話をしていると、ふいに外が騒がしくなる。



「チョリーッス! 時政のおやっさん!」


「宗時のあにさんも、はよっス!」



 近所の武士ごろつきたちだ。

 れっきとした武士なのだが、どこをどう間違ったのか、上の妹である政子の家来に収まってしまっている。


 そして、彼らを伴って帰ってきたのが。



「父よ! 兄上よ! みなも起きたか! 今日も励むのだ!」



 直垂ひたたれくくばかまと、まるで男のような装いの上に、見事な小袖こそでを着流しており、腰からは袋をいくつも吊り下げた異様な風体。

 父を十倍くらい尊大にして、一万倍くらいの王気オーラを纏わせた、まだ十歳にもならない少女こそが、問題の北条家長女、北条政子である。



「政子ぉ! 家長はわしじゃぞっ!」


「デアルカ! だが家長でないものが皆を励まして悪い道理があるか!」



 咎める時政。跳ねのける妹。

 時政に位負けしてないどころか、はるか格上の貫録だ。



「さあ、朝餉あさめしぞ! 食べて一日励むがよい!」


「だから政子ぉ! わしの言葉を奪うでないっ!」



 そんな親子のやりとりを見ながら、宗時はため息をつく。


 昔から、政子は変な妹だった。

 三つも年上の宗時よりはるかに聡明で、しかも様々な知識を持っていた。

 それだけではない。度胸もある。ケンカの指揮も手慣れたものだ。武士をあごで使う貫目かんめまで備えている。



 ――まるで生まれつき人として完成されたような。



 と思うが、この妹、妙なところで抜けている。

 一般常識がごっそりと欠けていたり、ふとした時に話す内容に空想の様なものが混じるのだ。おかげで会話がかみ合わないことも多い。



「そこが愛嬌になっとって、ちょうどいいのかもしれねえでよ」



 祖父の代からの奉公人は言う。



「――おっそろしいほど出来るおひい様だが、それだけじゃあおっかねえだけだ。人はついてこん。ああいう抜けたところがあるせいで、わしらもお助けせねば、と思ってしまうでよ」



 家人の評価は、素行の破天荒さに反して、良い。

 だが、一族の、それも同世代の評価となると変わってくる。



「鬼じゃ、鬼じゃよあの童。なんでわしが漢字など習わねばならんのじゃ」


「今日も明日も事務処理で武芸を磨く間がない! 武士がこんなことでどうするのだ!」


「宗時! たのむからあれを止めてくれっ!」



 こんなものだ。

 どうも都の大貴族などがやっている、家内組織を北条家でも構築しようという試みらしい。


 それにしては、分不相応に組織が大きいのが気にかかるのだが。

 まあ、時政も重宝がって政子に子供たちの教育を任せているのだから、抜け目がない。



「ほう? 面白いことを話しておるのう……」


「ぎゃあ、出たーっ!」


「わしをお化けかなにかのように言うなっ! というかこの程度で根をあげるな! 武芸をやる間がないのはお主が愚鈍だからよ! というか左伝さでんの一節覚えるのに一月もかけるな本当に泣くぞっ!」



 ほんとうに、妹は自分たちをどこに持っていきたいのか。

 宗時はため息をつく。


 ああ、今日も今日とて気苦労が絶えない。



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