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奴隷王とご主人様  作者: ぐっすり
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第13話ー誤解ー

 アリシアは久しぶりにワクワクしていた。これはセシルに出会った時とはまったく別の感情である。彼女は即位以来過酷な采配を一人で考え、振るってきた。そしていつの間にか自身の考えを越えるアドバイスを出来るものが周りにいなくなっていたのだ。もちろん宰相であるエリスはいつも隣に寄り添ってくれていたが、彼女は道しるべでしかない。自分の考えが正しければ肯定的だし、違えば否定的な意見を述べる。しかし彼女から新たな考えを発信することは無かった。そのためセシルがエルディア帝国進軍に際しての対応で、自分と全く違う意見を述べたことは新鮮であった。そして今回は何の相談もしていないリディアが自分の考えの一端をあの場で述べたのだ。彼女となら初めて価値観を共有出来るかもしれないそう考え、アリシアは彼女と話すことを楽しみに急ぎ自室へと向かった。

 リディアがアリシア女王の部屋で待つこと10分程度、エリスは紅茶とお菓子を用意していた。そして扉がノックされアリシア女王が現れた。それを察してかエリスは二人に会釈して部屋を出て行った。

「さて、ここなら二人きりだ。どんな話でも遠慮なく出来よう。察するに他の者に聞かれたくない話も含まれているのであろう。」アリシアのこの言葉はリディアのことを気遣って発せられていた。

「では、さっそく。単刀直入に申します。魔手将軍にお目通り願えないでしょうか?」

「ほう、ほうほう。そうか、そういうことか。」アリシアはしたり顔でリディアの表情を観察していた。リディアはあまりにも凝視されたため、顔が赤らんだ。

「で?」

「で?とは?」

「リディアよ、その話どこで耳にした?」

最初のきっかけはエリザ女王、そしてエトワール国内務省のレイア。しかしこのことを話せば彼女達に迷惑のかかる可能性がある。これは絶対に漏らせないことだ。

「とある女性からとだけ。」

「ふむ、その口ぶりから察するに私の身内からかのう。多分、祝宴の参加者の誰かであろう。妾も別にその者に何か罰を与えるつもりは無いので安心せい。しかしそう考えれば情報源はもう一人と言ったところか。この国に入る切っ掛けを与えたものがいるかもしれんな。」

リディアはアリシア女王の洞察力に感心していた。たったあれだけの言葉で複数の情報源があると見抜いたのだ。そして内容もほぼ間違いない。

「ご想像にお任せ致します。」

「まあ、良い。しかしいずれ揉まれにくるものが出てくると思ったが、こんなに早く情報が漏れるとは。もう少し箝口令を厳しくせねば。それにまさか女王自らお忍びとは、リディア女王も相当な好き者じゃな。」

アリシアはからかうようにしてリディアに声をかけた。その瞬間リディアの白く透き通る肌は凄い速さで赤み帯びていった。その瞬間ようやくアリシア女王のしたり顔を理解した。ーどうやら彼女はわたくしが魔手将軍の噂を聞きつけリソフィア国からわざわざ胸を揉まれにきたと勘違いしているのですわ。ーと。何と恐ろしいことであろうか、まさかこのような誤解を受けるなどとリディアは想像もしていなかった。そんなことを考えながらも話は進んで行く。

「あ、あのう。そうではないのです。ただ魔手将軍にお会いしたいのです。」

「ふむふむ。分かるぞ。あの者の噂を聞いていてもたってもいられなくなったのであろう。しかし、魔手とは誇張ではない。まさに魔王の手、悪魔の手である。一度触れられれば二度と戻ることは叶わぬぞ。ましてやリディアはリソフィアという離れた国に住む身。体の我慢が聞くかどうか。」

「其方、どの程度魔手将軍について知っている?」

「はい、名誉奴隷から将軍にまで出世したエトワール国唯一の男性と聞いております。」

「まあ、噂程度でそこまで調べたのならたいした者だ。余程ご執心と見えるな。しかし、リディアよ、申し訳ないが、セシルはやらん。ここだけの話、妾はあの者との結婚を考えておる。胸揉みだけであれば考えなくもないが。キ、キスは無論駄目だぞ。あれはわたしだけの特権なんだから。ほ、本当に駄目なんだから。」

急にアリシアの口調が変わり、リディアは驚いた。どんな時でも気丈である女王が乙女に戻った瞬間である。アリシア女王もまた歳相応の女性なのだと改めて彼女は思った。

「こ、コホン。ともあれセシルに今日会うことは叶わぬ。」

「ど、どういうことでしょう?」

リディアはここまでの話の流れでてっきりすぐにセシルに会えると思っていた。しかし彼女の言葉は違った。ーやはりアリシア女王はそのセシルという男性に惚れており、誰にも渡したくないのでは。ーそんな考えがリディアの頭の中を過った。しかし、その考えも次のアリシアの発言によりすぐに見直すことになる。

「セシルは今、エルディア帝国に外交で赴いておる。明日には帰国の予定であるが、胸を揉まれた者は皆彼の帰りを待ちわびておる。何やら向こうのファリス皇帝にも随分気に入られているようだからな、別の外交をしていなければ良いが。」

「は、はあ。」

アリシア女王の冗談とも取れぬ冗談を聞く限り、まだセシルという男性に会える可能性はあるようである。

それにしてもエルディア帝国はつい最近まで崩壊寸前と聞いていたのに今やエトワール国の正式なパートナーとなっているようである。この変わりよう、やはりセシルという男性が関係しているのであろうか。

「ちょっと待っておれ。お主がそのつもりと分かっていればエリスも同席させていたのだが。」

アリシアはその場に置いてある呼び鈴でエリスを部屋に呼び寄せた。呼び鈴の音でエリスはすぐにその場に現れた。

「陛下、いったいどのようなご用件でしょう?」

「ふむ、エリスよ。セシルの胸揉みの順番はしっかり調整できているのであろうな?」

「はい、滞り無く。スケジュールは厳しく管理しております。陛下の2時間、ティファニア様、パーシバル様、私の各15分。他の希望者には事前に胸揉み券を購入頂いております。1枚1分で販売しており、既に600分ぶんを完売しております。」

「では空いているセシルの自由時間にリディアの30分を追加せよ。最初から1時間では心が壊れかねないからのう。」

その言葉を聞いたエリスの表情は曇っていた。

「そんな、そのような仕打ちあまりにも。」

エリスのそれまでの穏やかな表情は一変しリディアを恨めしそうに睨んでいた。

「わ、分かった。ではお主の時間も15分から30分にしたらどうじゃ。これで文句は無かろう。」

「はい、文句はございません。そのように調整させて頂きます。」

「では下がって良いぞエリス。」

そう言われたエリスはスケジュールに改めて記した今回の戦果を満足そうに見つめながら部屋を後にした。

リディアはアリシア女王とエリスのやり取りを半ば呆然と眺めていた。いや、介入する余地を与えてくれなかったのである。しかも彼女は通常の謁見を希望しているにも関わらず、なぜか胸揉み30分という不名誉なスケジュール管理をされてしまった。しかし、これも彼に会うためである。リディアは甘んじてこの現実を受け入れることにした。

「先程も申した通り、30分はかなり刺激が強すぎる。無理だと思ったらその場で申すが良い。大体の者がその場で果ててしまうのだ。そんなに恥ずかしがる様なことではないぞ。時間は妾の前に入れさせた。もし時間を余らせたら妾が有効に活用いたそう。」

 しばらくアリシア女王と語らった後、特別な客室に通された。夕食までの間は少しでもセシルについての情報を集めるため城内を散策する。会う女性は皆取り憑かれたように魔手将軍という言葉を口にしており、明日の胸揉み券の話題で盛り上がっていた。中には自力で10分ぶん購入した強者もいるらしい。リディアはアリシア女王との夕食を終え、部屋に戻りようやく一息ついた。アリシア女王は話してみれば聡明で面白い女性であった。あのような誤解がなければもっと政治などの話に花を咲かせられただろう。そして明日は王候補であるセシルに会うことが出来る。ー「決して胸揉みが目的ではないのよ、リディア。」ーと彼女は自分自身に言い聞かせながら眠りにつくのであった。

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