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奴隷王とご主人様  作者: ぐっすり
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第11話ー全容ー

 レムナス国を出立してから3日後、リディアはエトワール国の王都レイスを訪れていた。1日、2日この街で情報収集にあたるつもりだ。まずは宿泊先であるソフィア教会エトワール支部を訪れる。ソフィア大陸の教会は全てソフィア教皇国の管理下に置かれているため、隠密に行動することができる。こちらでももちろんリテシア教皇発行の大陸通行証を提示する。教会の神父もこの通行証を見るのは初めてであったが、どのような物かは知っていた。そしてリテシア教皇が直接発行していること確認すると、リディアを丁重に教会に向かい入れ、教皇や王族が宿泊する専用の部屋に案内した。

「では、こちらへどうぞ。」

「急な来訪にご迷惑をおかけ致します。」

「いえ、こちらにいずれリディア様が訪れるかもしれないと先日リテシア様から伺っております。それにこの国は奴隷国家としてどの王族の方も中々ご来訪されません。久しぶりのおもてなしが出来てこちらも光栄ですわ。」

エトワール国では神父も女性が務めている。神父という字面からは想像もつかない程可憐で聡明そうな女性である。聡明そうと言ったのは彼女の言動や物腰から判断したためだ。ただ神父という教会の長にしてはいささか若い気がする。教会を訪れると大抵は男性のご老体が案内してくれるものだが、やはり特殊な国であることを実感せずにはいられなかった。そしてリテシアの事前の根回しにより、すんなりこちらを受け入れてくれた。さすが、リテシア教皇、各国を歴訪された際教会に立ち寄ってくれていたようである。

「神父のことは何とお呼びすれば宜しいかしら?」

「ケイトとお呼びくださいませ。リディア女王。」

「ではケイト、わたくしはしっかりとしたかたちでこの街を訪れたのは初めてです。この街について宜しければ色々とお話頂けないかしら。」

「はい、それは構いませんがどのような内容をお話すれば良いでしょう?」

「では、まずこの国の政治、経済状況をお聞かせください。」

そして、神父ケイトは包み隠さず自分の知りうる状況をリディアに説明した。彼女の話によると、アリシア女王の代になってから政治、経済の状況はかなり安定しているようである。政治に関しては相変わらず女尊男卑の方向性は変わっていないが、アリシア女王自ら優秀な女性については直接雇用しているようである。彼女のブレーン達はエトワール国の各都市に配置され、その街の安定のため尽力している。これも女王の評価体制がしっかりしているためであろう。目の届きにくい場所にも彼女の力がしっかりと反映されている。男性についての扱いは相変わらずであり、この街に入った時にも確認したが、どの男性も貧しい身なりをし、荷物の運搬や家の建設などの力仕事、動物や魚の肉を捌く仕事、清掃などの忌み嫌われる仕事を中心に精を出していた。彼らの識字率は低く、頭脳労働のほとんどは女性がこなしていると聞く。そして一番驚いたのは奴隷を専門に扱う商店の存在である。そこでは男性を特性別に販売していた。力に優れるもの、知に優れるもの、精に優れるもの、取り分け端正な顔の男性は高値で取引されている。このような男性の人気が高い理由としては、子種としての価値があるとされているからである。種馬としての子孫繁栄はもちろん、男性をペットの様に扱い、他の女性に見せびらかすという下世話な者も少なくない。一部の者はそのような男性を若い時から育て上げ自分好みに育成するものもいるようである。そういった一部の男性は文字の書き方や一般教養を与えられていた。この様な現状を知れば我が国リソフィアに亡命を希望する男性が出て来ても不思議ではないとリディアは思った。そして経済状況の話になると面白いことが聞けた。ここ1ヶ月の間に小麦の値段が安定したという。ケイトの話ではエルディア帝国との貿易が開始されてからのことらしい。それまでは小麦の生産過多により大分値段を下げており、国が買い取ることも少なくなかったという。それが貿易解禁によりエルディア国の鉱物資源であるー月の石ーを輸入するかわりに小麦を輸出可能となった。そのお陰で小麦業者も今まで以上に利益を得ることができる。また今まで資源不足で悩んでいた武具屋や鍛冶屋などが息を吹き返したと聞く。また家具や調度品などにもこの月の石が利用され意外な商いが流行始めたようである。このような状態のため税金も滞り無く徴収出来ており、経済も順調に伸びているようである。また変わったこととすれば商業のためであれば、例外的にエルディア帝国の女性を受け入れていると聞く。このことは非常に画期的であり、両国において文化交流が進む切っ掛けになっているようである。

「とまあ、こんな感じでここ数ヶ月でより一層経済は安定致しました。」

「奴隷制ということを除けば非常に上手く行っているようですね。」

若干刺のある言い方ではあるが、これはリディアの本心である。このような制度が根付いているこの国はやはり不健全であると言わざる得なかった。

「あとは何か御座いますでしょうか?」

「はい、あとはアリシア女王の人柄とここ最近の王宮についてお聞かせください。」

「はい、畏まりました。」

アリシア女王は非常に聡明であり、即位してから今まで国民からの指示も高いという。またサリア会戦の戦後処理でも女王の評価は更に高まったようである。街も定期的に視察し、その都度改善の指示を出している。女王としての資質はわたくし自身見習わなければならないとリディアは密かに思っていた。

「あ、そうですわ。先日王宮にて戦勝記念の祝宴が催されたようです。貴族の方からの情報ですけれど。なんでもある方に胸を触られてから体が気持ち良くなり、その後も胸の高まりが治まらないそうです。彼女は性的興奮が治まらないことを不安に思い懺悔のため、その祝宴の翌日こちらに参られました。」

「はあ、祝宴で胸を触るですか?要領を得ませんね。彼女はそれ以外について何かお話されて行きましたか?」

「いえ、それ以上は。でも独り言のようにーこれは話に聞く恋なのかしら、またあの方に触って頂きたい。ーというようなことを申しておりましたが、それ以上はーライバルが増えるのでお話できません。ーと仰っていました。」

リディアは話を聞いていてもまったく要領を得ないため、ケイトにその貴族を紹介してもらうことにした。明日ここで引き合わせてくれるという。王についての有力な情報は得られなかったが、概ねエトワール国の現状について把握出来たことは多いに収穫であった。

 翌日、昨日話に出てきた貴族が教会を訪れていた。ケイトが部屋まで案内し、リディアはその女性と対面した。

「ケイト、その二人きりでお話させて頂いて宜しいかしら?」

「はい、ではわたくしは席を外しますので、どうぞごゆっくりお話しください。」

彼女はそれ以上のことには触れず、お茶と菓子を用意した後部屋を後にした。

「初めまして、わたくしはリソフィア国女王リディアと申します。今日は宜しくお願い致します。」

貴族の女性は緊張した表情でこちらを見つめていた。ーどうやらケイトはわたくしの素性について彼女に話していないのかしら。良い神父だわ。ーとリディアは心に思った。

「は、初めまして。まさか女王様だと思わず、挨拶が遅れまして申し訳ございません。」

「いえ、急に呼び出したのはこちらの方です。お気になさらずに。」

「はい。わたくしは王宮の内務省に務める役人のレイアと申します。」

「レイア、今日は宜しくお願い致します。それでレイア早速ですが、今日わたくしと面会していることは他言無用でお願い出来るかしら。」

「は、はい。もちろんでございます。」

レイア自身も容姿に多少の自信があったが、リディアの美しさに目を奪われ気が動転していた。まだ幼さは残るものの、美しく長い黒髪。綺麗な赤い目をしている。まるで宝石のルビーのようだ。衣装も女王らしく気品に満ちあふれている。

「ではレイア。先日王宮で祝宴が催されたと聞きましたが、そのことについて良ければお話頂けるかしら。」

「はい。ただ、皆話すとライバルが増えると申しておりますので、他言無用にして頂けますでしょうか?」

ライバル?リディアはこの言葉を疑問に思ったが、ここは彼女の話を大人しく聞くことにした。

「もちろんよ、ここでお話しすることは二人だけの秘密に致します。そのために神父にも席を外して頂きました。」

「畏まりました。ではお話し致します。」

なぜかレイアは顔を赤らめながら話し始めた。

 リディアはレイアの話が進むにつれて顔を赤らめ、興味津々になっていった。彼女から出てくる言葉の一つ一つが驚嘆に値するものであったからだ。祝宴自体は戦勝記念として行われたため、然程珍しいものではない。その場で戦争勝利の功労者である者が褒美を授与されることもまた自然の成り行きであった。ただし、その功労者が男性であればどうであろう。レイアから話に聞くーセシルーという男性その人である。彼は名誉奴隷という、一見不名誉ともとれる称号を賜ったと聞く。これは価値観の違いであり、リディアにとっては驚きであるがこれは史上まれに見ぬ栄誉であると彼女は言う。彼女の務める内務省の歴史に於いても過去に例がないほどに。今まで男性に名誉奴隷の称号が贈られたことは皆無なのである。そして彼の軍略により先の戦争においてほぼ無傷で勝利を治めたということである。その戦略、戦術ともに戦争前に女王に示し彼女はこれを受け入れ彼を総指揮官に任命。異論はあったものの彼以上に良い提案を出来るものが居なかったようである。そして彼の軍略通りことが進み、見事勝利。1週間後の祝宴で女王はまた異例の発表を行う。それが騎士、将軍の任命である。もちろん、周りの重臣や貴族、騎士達は反対し、あるゲームがアリシア女王から提案された。ここまででも驚きなのに、その場でティファニア大将軍とセシルとのレーティングが催されたのである。グランドクロスはソフィア大陸で知らないものがいない己の誇りをかけたゲームである。そしてこの大陸で常にレーティング上位に位置するティファニア大将軍との対決である。他の者が聞いても驚きは隠せないだろう。この国の奴隷については昨日も自分の目で確かめ神父ケイトからも話を聞いて大体理解している。エトワール国では識字率の高い男性であってもグランドクロスというゲームを理解するには非常に難しいであろうことも。そしてその誘いをティファニア大将軍が受け、そして多くの観客の前で破れた。この事実は驚嘆に値する。そのような男性が存在すること自体この国では事件である。その後の話はリディアも赤面せずにはいられない内容であった。アリシア女王はその場で褒美と称してティファニア大将軍の胸を揉ませている。しかも彼女の程のプライドの高い女性がこれを受け入れ、女性としての喜びを多くの者が見守る中感じてしまったのだ。これによりその場にいた女性達もその罰、否ご褒美を欲して彼を取り囲み自信の胸を揉ませたという何とも信じがたい状況が生まれたという。かくいうレイアもその時のことを思い出したのか足を内股にしもぞもぞしながら赤面している。最初はその輪に入れなかった者も宰相や将軍がおねだりしているのを見てその状況を受け入れてしまったようである。聞いていても恥ずかしくなるような話であるが、リディアも興奮して白い肌が全身赤み帯びていた。

「その後出席していた女性は自分への恩恵が減ることを恐れ、示し合わさずして彼の魔手について自然と箝口令が敷かれました。彼は今宮中でー魔手将軍ーと呼ばれております。」

「わ、分かりました。それであなたはここに相談に来たのですね。」

「はい。ですからこのことは内密にお願い致します。」

「ありがとう。とても勇気が必要なお話ですね。話してくれてありがとう。」

そうレイアに言葉を掛けると恥ずかしそうに彼女は部屋を後にした。

なんという破廉恥な話でしょう。レイアが去った後リディアはそんなことを思いながら自分の下着に目をやった。ーまあ、私も彼女と同じなのね。ーと自分の中に一縷の恥ずかしさを覚えた。

「これではっきりしました。やはりセシルという男性。気になる存在です、色々な意味で。名誉奴隷に魔手将軍。こんな二つ名聞いたことありません。明日早速エトワール城を訪れ確かめなければ」

そう考えながらリディアは濡れた下着を履き替えるのであった。

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