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奴隷王とご主人様  作者: ぐっすり
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第10話ー情報ー

 エトワール国でー魔手将軍ーが誕生して2週間が経過したその時、リソフィア国リディア女王はリテシア教皇の命により、神託にある王探しに奔走していた。最初の頃は王宮にて王に関わる情報、つまり男性王族の生き残りについて情報を集めていたが上手く行かず、そのまま各国を周る旅に出ていた。そして最初に訪れたレムナス国で面白い噂を耳にしていたのだ。レムナス国はエトワール国の北に、リソフィア国からは北西に位置する海と隣接した海洋国家である。この国はソフィア大陸で最も博識で年齢の高い女王エリザが治めている。年齢が高いと言ってもまだ25歳であり、見た目にはまだ20そこそこに見える美しい女性である。長くこのレムナス国を治めていることもあり、彼女自身他の女王より周辺諸国の事情に詳しく、ここに集る情報も馬鹿に出来ない。リディアがここを一番最初に訪れた理由もこのことに尽きる。リディアはリテシアから貰った大陸通行証を利用しこの国にお忍びで入った。そのためリディアはソフィア教皇国のシスターの衣装を身にまとっている。そして城門に着くと同時に衛兵にリソフィア国からお忍びで来訪した旨伝えた。暫くするとリディアはエリザのいる謁見の間に通された。リディアは彼女のことを姉のように慕っている。彼女の国は海洋国として経済的にも潤っており、善政が敷かれていると他国でも評判である。そんな彼女にリディアは尊敬の念を抱いていた。

「これは珍しい。ソフィア教皇国のシスターが私に何の御用かしら?」

エリザはリディアをからかうように微笑みながら質問した。

「お久しぶりです。エリザお姉様。お分かりの癖に意地が悪い。リディアでございます。」

「ふふ、冗談ですよ。お久しぶりですリディア。それともう立派な一国の主であるあなたがお姉様と呼ぶのはどうかと思うわ。」

「駄目でしょうか?」

「いいえ、とても嬉しく思いますよ。でも二人で接する時は互いに国を代表する女王という立場を忘れてはいけないわ。」

そこにはにこやかに二人の会話を見守るリディアの従者とエリザの側近が控えていた。

「失礼致しました、エリザ女王。」

「ここでは、畏まってしまうわね。ではリディア女王、宜しければわたくしの部屋でお話しましょうか?」

「はい、女王が宜しければ。」

 エリザ女王の部屋は前にも行ったことがある。この都市が海に面していることもあり部屋にあるテラスからは青く澄んだ海が望める。そのテラスに通されるとエリザは紅茶を用意してくれた。潮風がリディアの美しい黒髪を撫でる。そして二人とも紅茶に口を付けると漸く話し始めた。

「そのような格好でここを訪れたということは何か内密な用件かしら。」

「はい。お姉様も既にご存知のことと思いますが、神託に関わることで独自に動いております。」

「なるほど。先日こちらにリテシア教皇が訪問された時に言っていた協力者とはリディアのことだったのね。」

「はい。多分そうだと思います。実は神託にあった王の行方を探しております。リソフィア国内は粗方確認したので、他国を訪れている次第です。」

「そういうことね。つまり何か男性王族に関わる情報を私が持っていないかということね。」

「その通りでございます。もし何かご存知のことがあれば教えて頂けないでしょうか?」

「実は私も内密に調査はしておりました。リソフィア同様この国の男性王族の生き残りについて調べましたが、それらしい人物の発見には至りませんでした。もう既に血が途絶えている家がいくつかありましたが、近年遠縁にも男子誕生の報告は受けておりません。もし誕生を偽っていたとしてもそのような嘘はすぐに分かるでしょう。また他国からもそのような噂が入ってきてはいませんし。わたくし自身も気にはかけているのですが。」

「そうですか。元々ソフィア大陸の王族自体男子誕生の例はそう多くありませんし、エリザ姉様が既にお調べとあればこの国で発見することは難しそうですね。」

「ごめんなさい、リディア。がっかりさせてしまって。」

「いえ、事前にお調べ頂いていたお陰で随分時間が短縮出来ました。ご協力ありがとうございます。」

「可愛いリディアちゃんのためだもの。こんなのはお安い御用よ。」

「今日は泊まって行かれるのでしょう。面白いお話も一つあるし。宜しければお付き合いくださらない。」

「はい、私で宜しければ。お姉様が面白いという話に外れはございませんもの。」

「では、私が最近耳にした面白いお話を一つ。リディアちゃん、最近エトワール国に行かれたことは?」

「いえ、前回の顔合わせで伺ってからは一度もありませんわ。」

「そうよね。私もあの国は何となく行きづらくって。やっぱり奴隷国家っていうのは何とも馴染みづらいわ。アリシア女王本人は聡明で可愛いのだけれど。」

「そうですね。私もあの国の制度については未だに馴染めません。」

「でもね、リディアちゃん。実はそのエトワール国に男性の将軍が現れたっていう情報があるの。知ってた?」

「いえ、存知上げませんでした。」

リディアは声こそ冷静に応えていたが、内心は穏やかでなかった。エトワール国の中では男性イコール奴隷である。そして女王であるアリシア自身もそのことを公言している。そのため、エトワール国の主立った重要ポストは全て女性に占められているのである。このことはエトワール国の事情を少しでも知っている者であれば驚きを禁じ得ない状況である。

「信じられませんが、お姉様が言うのであれば確かな筋からの情報とお見受け致します。いったいどのような人物なのでしょうか?」

「先日のエトワール国とエルディア帝国で起きた戦争、サリア会戦についてリディアちゃんはご存知?」

「はい、話の上ではですが。何でもアリシア女王の活躍でほぼ無血で勝利し停戦合意したとか。今では貿易国として取引を始めたとも聞いています。」

「そう、よく勉強しているわね。その立役者がアリシア女王では無くその男性将軍だとしたらあなたはどう思うかしら?」

「え、まさか。アリシア女王は男性を特段充てにしていませんし、それに将軍という重要ポストに据えるなど通常では考えられません。」

「そうよね。私もそう思って内々で調べさせたのだけど、聞いて驚かないでね。」

リディアは今までの話だけでも驚きを禁じ得ないが、これから聞く内容が更に衝撃的なものである可能性を考え、息を飲んでエリザ女王の言葉を見守った。

「実はアリシア女王自身が彼に名誉奴隷という称号を与えて側に仕えさせたようなの。その後彼の能力を試すかのようにサリア会戦の指揮を執らせたらしいわ。その結果を受けて褒美として騎士の称号と将軍の地位を与えたというビックリなお話。」

淡々と話すエリザではあったが、自分で話していても可笑しい話らしく時折笑いを堪えているのが伺えた。

「では、あのアリシア女王にその男性が寵愛を受けているということでしょうか?俄に信じがたいですが。」

「まあ、わたくし自身の目で確かめた訳ではないからどのぐらいの信憑性があるか分からないけど、話としては面白いでしょう。実に興味をそそるわ。その殿方についてもね。」

リディアはあることに思い当たり、そのままエリザに質問した。

「その男性の出生については何かご存知ですか?」

エリザはにこっと微笑み、リディアの問いに答えた。

「さすがリディアちゃん。気づいたようね。でも残念ながらそこまでの情報は得られなかったわ。」

エリザは本当にがっかりした様子でリディアに応えた。

リディアは一つの仮定に思い当たっていた。リソフィアに伝わるレグナス伝承である。伝承ではある女王が後のレグナス王と知らずに一人の男性と恋に落ちている。エレメンタリオの力は互いを引き寄せるとも聞く。もしこの伝承と同じようなことがアリシア女王の身に起こっているならば、案外その男性が王である可能性も高い。

「どう、リディアちゃん。面白いお話だったでしょう。あとは真実かどうか確かめるにはエトワール国に行ってみるしかないわね。ただ、あのアリシア女王が素直に話してくれるかどうかだけど。」

リディアはエリザ女王に感謝していた。この情報は何よりも貴重である。そして実際にエトワール国に行けばその男性が王であるか確かめる術がリディアにはあった。

「エリザ姉様ありがとう。私エトワール国に行くことにするわ。その男性が王である可能性にかけてみます。」リディアの目はこの国を訪れた時の不安の目から期待の目に変わっていた。

「うんうん。今日はゆっくりして明日出発すると良いわ。もしその方が王であったなら、真っ先にどのような方か教えてちょうだいね。わたくしの旦那様にもなる方だから。これは今回の情報料です。」

エリザの顔はにこやかではあるが、本気でどのような男性か知りたいという要望を含む笑みを浮かべていた。リディアはこの笑顔に内心、このお姉様を敵にまわしてはいけないと心に誓うのであった。

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