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第4章  不安よぎる出航

 17時40分。

 港内で漂流していた大型貨物船アーネスト号が止まり、風も落ち着いた。

 港内にて青森行き30便を行う為、天候落ち着き次第、有川桟橋に接岸しようと待機していた第十二青函丸は、港内で漂流していたアーネスト号の船尾が錨の上に来てしまい、その場から動けなくなっていた。

 第十二青函丸のブリッジから、アーネスト号の大きなお尻が至近距離に居座るのが見える。

 第十二青函丸は、逃げたくても逃げれず、恐怖を感じていた。


 空が段々黒い雲に覆われ始め。不気味な静かさに包まれる。

 洞爺丸は一応天気予報を確認したが、天気予報も近藤船長の考えと一致する。

「よし、予定通りだ。」


 18時。

 洞爺丸は「出航スタンバイ」の汽笛を2度鳴らす。

 3等客室は、第11青函丸の米兵に場所を譲った乗客や、本来乗る予定では無かった後の列車から乗った乗客も乗り合わせ、混み合い蒸していた。

 本来ならもう青森の筈が、4時間近く船に閉じ込められて、ストレスが溜まり、ボーイに食ってかかる乗客も出てきた。

 中には見切りを付けて乗務員タラップからコッソリ出て行った者も居たという。


挿絵(By みてみん)

当時の乗り込み口タラップ(船の科学館)


 18時20分。

 洞爺丸出航前に貸車専用連絡船・石狩丸が第2桟橋に着岸しようとした。

 しかし、通常3隻のタグボートで接岸しようとしたが、風が強くなり着岸出来ない。

 やむなく函館桟橋の5隻全てのタグボートで強引に桟橋に押し付けた。

 石炭焚エンジンをフルパワーにしても徐々にしか動かない。

 タグボートは船尾を沈ませ、フルパワーで回るスクリューに巻かれた水飛沫が飛ぶ。

 煙突から黒煙がバンバン吹き出し、先端のクッションの古タイヤが完全に潰れ、押される石狩丸の外板がミシミシ言っている。


 5隻のタグボートで押し付けて、ようやく接岸出来る位の暴風の中、本当に洞爺丸は無事航海出来るのか?


 近藤船長は、予測では台風は今は過ぎて、もう100km先の長万部付近にあるから、今は只の余韻。吹き返しって奴だ。

 防波堤を出て函館湾に出る頃には落ち着くから問題ない。と考えてたという。


 そして、もし読みが外れてたら?

 簡単だ。

 本来「沖泊」を指示されていた。

 だったら危険と思えば遠慮無く沖留めする。

 沖泊なら乗客も勝手に降りないから、乗客名簿も狂わない。

 しかも、アーネスト号も止まった。

 沖泊なら誰も危険じゃない。

 乗客だって嵐の中の函館に当てもなく放り出されるより、揺れるが設備の充実した洞爺丸の中で待ってたほうがいいに決まってる。


18時35分。

出航の銅鑼が客室甲板に鳴り響く。

 田辺氏は、3等大部屋に寝転がりながら呟いた。

「何だ、銅鑼は二回目だろ。ずいぶん気前がいいな。」

 そう言って友人達と笑った。

 

 近藤船長が、桟橋接岸を難儀しながら、ようやく接岸した石狩丸を確認し、号令をかけた。

”Let's go Shuarline!“(ロープ外せ!)

 桟橋と船を繋ぐロープ「もやい綱」所謂、係留綱が外された。

 ブリッジ(船橋)に慌ただしくクルーの声が響く。

“a bow all clear sir!”(船首異常なし)

“stern all clear sir!”(船尾異常なし)


 石狩丸の接岸が終わったタグボート2隻が、洞爺丸の出航サポートに回った。

 現存する連絡船は出航は自力で出来たが、洞爺丸型はまだ岸壁から離れる際に補助が必要だった。

“lets go tugboat!”

 岸壁から船首をタグボートが引き出し、後ろでもう1隻のタグボートが、押して洞爺丸を右に回頭させる。


 自力航行可能の位置に移動すると、タグボートが離れ、洞爺丸はようやく単独で動ける。


挿絵(By みてみん)


長声ちょうせい一発!」

 ブリッジの汽笛レバーが引かれた。

「ボーッ!」

 と、青函連絡船独特の太い汽笛が港内に響いた。 

“srow ahead board!”(左舷エンジン微速前進!)

 テレグラフを操作する音がガチャガチャンとブリッジに響く。

 テレグラフとはコンピューター制御が無い当時、ブリッジからエンジン室に操作指示を出すものである。

 3等航海士が、了解の確認をした。

“srow ahead board sir!”

 船長が続けざまに指示する。

“hard starboard!”(面舵一杯!)

 函館では桟橋に左から接岸しているので、右に離れる。

 面舵は「右」取舵は「左」である。

 航路入口に船首が向いた。

“harf ahead two engine!”(両舷エンジン、半速前進!)


 機関室の隣のボイラー室では、火夫達が上半身裸で釜に石炭をくべ続ける。

 当時は、まだ客船は蒸気タービンが主流だった。ディーゼルエンジンは、振動と音に難があり、振動が少ない蒸気タービンの方が客船向きだと考えられていたのと、北海道は石炭が豊富だった為もある。


 4本のオレンジ色の煙突から連絡船名物だった黒煙をバンバン吐いて、洞爺丸は出航した。


 その黒煙を強風にたなびかせながら…

 

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