第14章 長い夜
当時のタグボート(メモリアルシップ摩周丸)
0時40分、函館桟橋。
国鉄のタグボート4隻が、再度救助に出動した。
おいわけ丸、かつとし丸、第五、第六鐵榮丸は、二隻に別れて、十勝丸及び日高丸と、洞爺丸の救援に向かった。
450トン型巡視艇(函館市立図書館)
海上保安部の巡視船「りしり」は、洞爺丸の近くに居たが台風との戦いでエンジンは水没、無電も使えず、動いている巡視船は「おくしり」だけだった。
1時。
唯一、防波堤外に居た連絡船で無事が確認された第十二青函丸は、近くで行方不明になった十勝丸と日高丸に救援に向かおうと考えたが、まだ波が高く、その場で踏ん張ってるのが精一杯だった。
国鉄函館海岸局に焦りとイラつきがつのる。
1時40分頃。
洞爺丸を目指してようやく赤灯台付近に辿り着いた「おくしり」は、サーチライトに照らされる多数の遭難者を見つけた。
しかし、洞爺丸の十分の一の大きさの「おくしり」だけではとても救出が追いつかない。
「おくしり」は救難信号SOSを使って応援を呼んだ。
1時45分。
・おくしり
「sos、人が多数漂流中、救助たのむ、本船洞爺丸の救助に向かっている。」
国鉄函館海岸局が了解した。
「おくしり」は、遭難者が巻き込まれないように、スクリューを止めて投錨し、救助を行い始めた。
1時57分。
・おくしり
「SOS、赤灯台に多数流れてるから。上げた人は大分衰弱してる。」
・国鉄函館海岸局
「函館桟橋より、おいわけ丸、かつとし丸の二隻を洞爺丸現場に向かわせた。0時50分にやった。」
・おくしり
「ランチ二隻だけでは足りない。」
「おくしり」の甲板は修羅場となった。
遭難者は皆、十勝丸と日高丸の乗組員だった。
港内まで流されてきていた。
あまりの人数で、とりあえず生きて動ける者を優先して引き揚げているが、甲板に寝転がって二度と起きない者も多数いた。
甲板は、瞬く間に寒さで震える遭難者と遺体で溢れた。
「国鉄の応援まだかぁ!」
「おくしり」の遭難者発見により、残り3隻の、えさし丸、第八鐵榮丸、七重丸も相次いで出動した。
2時14分。
・おくしり
「大変な人ですから早くたのむ」
・国鉄函館海岸局
「Ok」
・おくしり
「本船は赤灯台の内側500m位です。」
「おくしり」の隊員達に焦りの色が隠せない。
何故なら海保にとって本音は、国鉄職員よりも洞爺丸の一般乗客の救出を優先したい。
だが、目の前にいる国鉄職員を放置する訳にもいかず、なかなか洞爺丸へ向かえなかったのだ。
一方、タグボート・おいわけ丸は、防波堤近くで3名を救助した。
その生存者達は十勝丸の乗務員で、これで十勝丸の沈没が確定した。
十勝丸は23時43分頃、搭載貸車が倒壊し、転覆した。
函館港西防波堤外253度1800m。
乗客なし、死者59名、生存者17名。
2時49分。
港内に停泊中だった第六青函丸の後部車両甲板から日高丸乗組員5名を救助した。
第六青函丸は生存者達の為、医師を船に呼ぶよう手配したが、タグボートを派遣し、函館桟橋に下ろした。
生存者達は、「気持ち悪いから揺らさないでくれ。」と言う。
長く激しく船に揺られ、さらに3時間近く波に揺られ、感覚が麻痺し、揺れていない地上が揺れて感じるのだ。
3時を回り、長らく連絡が無い第11青函丸と北見丸が行方不明だと気が付いた国鉄函館海岸局は、は、比較的被害が殆ど無い、第八青函丸に二隻が停泊していた筈の防波堤外に確認に向かわせた。
この時、波の高さは4m、風は20m位とまだ強いが、突風は無くなった。
無電で何度も北見丸、第十一青函丸を呼び出すが
無電記録には「no ans(返答なし)」しか記録されない。
本来、函館桟橋から見える筈の街灯は無く、灯台も光らない。
陸地に輝くのは、第六真盛丸のサーチライトと車のライトと緊急車両の赤色灯に懐中電池。
すると、海岸局の無電室の扉がいきなり開いて、全身びしょ濡れの船舶無線士が現れた。
ようやく生きて帰り、青白い顔に目は殺気立ち、凄みさえ覚える姿に部屋中が沈黙した。
「…十勝丸の無線士、佐藤です。十勝丸がSOSを発信出来なかった経緯を説明したく…。」
皆で彼を座らせ、毛布と着替えと温かいお茶を用意した。
彼はSOSを出そうとモールスに指を置いた際に貨車を固定するワイヤが切れる音が響き、無線長に脱出を促され、慌てて部屋から出た途端に転覆し、船から投げ出され、三時間近くも海を漂流し、タグボートに助けられた後、十勝丸の仲間の為に、何としても沈没の報告をしたいと、止めるタグボートの乗組員達の制止を振り切り、海岸局に報告に来たのだった。
報告した後、落ち着いたのか泣きくずれた。




