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第12章 救助

・乱れ飛ぶ無電

 

 第六真盛丸船長は、直ちに無線アンテナの修理を命じた。

 風はだいぶ治まってはいたものの、まだ風速20m程の風が吹き荒れ、船を叩きつける高波の振動と、波飛沫によって足元が滑りやすく、しかも暗闇で危険な作業だった。


 すると、海の方の右舷から、数人の遭難者が流れてきた。

 船員達は直ちに救難準備にかかるが、そこで壮絶なものを目撃してしまった。

 高波に押された遭難者達が右舷に勢いよく叩きつけられたのだ。

「おーい!ロープを掴め!」と叫んで、ライトを当てると、さっきまでアップアップしていた人々が、目を白くして力なく波任せに浮かんでいた。

「まずいぞ!右舷は危険だ!左舷はどうだ!」

 船員達が左舷を見ると、丁度座礁した第六真盛丸が防波堤となって、左舷に流された遭難者が自力で海岸に這い上がっているのを見た。

「何とか、左舷に誘導しろ!」

 サーチライトを左舷に向け、船員達が遭難達を叫んで誘導を試みた。

「おーい!こっちに行けェ!」

「そっちは危ないぞお!」

 しかし、波に呑まれて右舷の方へ消えていく遭難者が次から次に見える。

 

 波任せに漂流を続けていた田辺氏は抱いていた板を離してしまい、溺れて目が覚めた。

 必死にもがいて掴まるものを探す。

 すると、何か触れたので必死に掴ると旅行用トランクだった。

 ふと見ると、さっきの救難船が近くにいた。

 眩しい光のなか、黒い船のシルエットが浮かび、白い船の構造物が見えた。

 何か船員達が叫んでいるようだった。

 サーチライトが光る方へ泳いでみたが、波に弄ばれ、うまくいかない。

 また力尽きて漂っていると、足に何かが触れて揺れが止まった。

 海岸の浅瀬だった。

 背中にサーチライトを浴びながら、残された力いっぱいに立ち上がり、砂浜へ走った。

 打ち上げられたボートによしかかり、生還したことを噛みしめる。

「た、助かったぁ…。」

 しかし、後ろに「ドドーン」と力強い波の音を聞いた途端、自然に足が動く。

「う、うぅ、し、死ぬ、殺される!」

 田辺氏は再びボートを乗り越え、陸地に向かって這っていく。

 しかし、残骸と砂に足を取られてつまずき、ここで立ち上がる気力を失った。


 23時11分。

 海上保安庁第一管区・函館海上保安部所属の、れぶん型450t巡視船「おくしり」(PM10)をSOSを送信した洞爺丸に、機関停止により漂流中と連絡してきた十勝丸に対し、同型巡視船「りしり」(PM12)を救難に向かわせるよう指示を行った。

 しかし、「りしり」もまた七重浜近くで荒波と暴風に揉まれており、自身を守るだけで精一杯で、「おくしり」が唯一港内停泊中で無事だったが、大型船が難航する位の海で、495総トンの船がすんなり行ける訳はなく、非常に難航しながらの出動となった。

 そして、先に救援に向かっていた連絡船用タグボート4隻も、あまりの荒波に引き返してきた。


 なかなか誰も救助に向かえない中、また1隻が音信不通となった。

 函館港防波堤外へ避難していた日高丸であった。  


 23時32分海上保安部受信。

 ・日高丸

「SOS de JQLY(日高丸の無線局名)函館防波堤灯台よりW(西)9ケーブル(約1665m)の位置にて、そう…」


 モールスが途中で消えた。

 無電を受けた海上保安部の無線手は、「JQLY、SOS発信後無電中断!」

と上官に報告しながら、打電するが、返事は二度と帰って来なかった。

 

 23時33分打電

 ・JNI(海保)

「JQLY、PSE( please の略)」 

 

 空しく送受信記録に、「NO ANS(応答なし」と記入せざるを得なかった。

 

 後日、生存者の証言で、SOS発信前に船は操作不能に陥っており、総員退船の指示が出て船を放棄せざるを得ない状態だった。浸水は船首を海面に没する位まで達し、この数分後の23時40分頃、60度に傾いて搭載貨車が一気に倒れ、その勢いで転覆・轟沈した。

 乗客なし、乗員56名死亡・生存20名。

 

 23時36分国鉄函館海岸局受信。

 ・十勝丸

「浸水だいぶ治まりアンカー(錨)に異常無き限り安全の模様、付近に沈船漂流中。S(南)15~20m(風速の事)未だ衰えず、うねり(波)SW(南西)7(m)動揺右20度。全員意気軒昂。」

 ・函館海岸局

「頑張ってください。」

 

 この時、十勝丸が見た「沈船」とは時間的に第11青函丸と思われる。

 だが、この無電を打った後、十勝丸も行方不明になってしまった。


 23時44分。海保受信。

 ・第六真盛丸

「SOS de JKJC(第六真盛丸)20時37分七重浜海岸に座礁した、なお今の所、転覆の状況なき模様、watch頼む。なお…。」

 

 今度は中断では無かった。海保の無電がまた突風で吹き上がる塩で壊れてしまった。

 かろうじて受信は出来ていたが、聞き取りにくく、送信が出来なかった。


 第六真盛丸の無線室に、アンテナを修理した船員が集まり、見守っていた。

「どないや!通じたかいな!」

「…帰ってこない。」

「阿呆な!海保さん寝てるんかいな!」

「いやいや、違う。多分、あっちもアンテナが塩でやられてるんでしょ。返答くるまで打ってやりますよ。」


 23時46分。海保受信。

・第六真盛丸

「JNI de JKJC SOS QRK?(そちら感度どうか?)」

 23時49分。海保受信。

「SOS de JKJC。本船、七重浜付近において…なお、本船付近、漂流者多数流れてつつあり、至急救助頼む。」

 

 だが、第六真盛丸の無電室に一向に返答はなく、電信音だけが響き渡っていた。

「また、もしかして、うちらのアンテナがあかんのちゃうか。」

「いや、計器は動作しています。大丈夫な筈です。」

 船員達が黙って手に汗を握り、打電を見守り続けた。

 




 





 






  

 



 

  


 

  


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