表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

4 武器入手

 濃い霧が晴れていくように、視界がはっきりしてくる。

 広く、高い天井で、バイト先近くの駅に間違いない。

 どうやら無事に転移したみたいだ。


『転移完了。装備強制解除。システムアシスト《絶対防御》発動――3分間全ての攻撃を無効化します』


 攻撃を無効化?

 そうか、駅での待ち伏せ対策ってことか。

 そこまで考えていなかった。システムに救われたな。

 転移バーコードは、一度使用されると再使用時間が発生する。近藤に俺の行き先は知られていないし、すぐには転移できないから、もう大丈夫だ。

 ただ、別の駅から誰かがここに転移してくる可能性はある。

 なんにしても、長居はしないほうがいいな。



 駅を出た俺は、バイト先であるレンタルビデオ店を目指して歩き出した。

 この周辺は先程とは違って、都会的な雰囲気になっている。

 駅の近くには大型のショッピングビルが建ち並び、普段であればどの時間帯も賑わっているはずだけど、今は閑散としている。



 バイト先の店がある、繁華街のメインストリート入り口まで来た。

 石畳で整備された道の両脇に、店が並んでいる。でも、ほとんどの店はシャッターが下りていた。おそらく夜中の時点の街並みなんだろう。


 ここまで来れば、バイト先は近い。しかも店の前にバーコードがあるようだ。

 地図上のマークだけでは分からないけど、駅と同じように台座でもあるのだろうか。マークは店の中ではなく外だ。外にバーコードが付いているような物は置いてなかったと思うけど……まあ行ってみれば分かる。


 駅からここまで来る間に、地図で周辺をチェックして気付いたのだが、他のプレイヤーもやはり警戒しているのか、それぞれ人型マークから遠ざかるように行動しているようだった。実際にニ回プレイヤーと接近したが、警告が出るとすぐに俺から離れて行った。


 それと、重なり合うようにしてあった二つのマークが、一つに減ったことがあった。

 これはきっと、マークが消えた方が殺されたことを意味するのではないだろうか。

 ……とにかく、近藤のような好戦的なプレイヤーもいるから、注意は必要だ。


 作戦としては、マークを追ってプレイヤーに近づく。70メートル以内に入れば詳細表示で名前が判明するので、伊野さんじゃなければすぐに離れる。これでいく。

 できるだけ、余計な接触は避けたい。



 店の前まで来たけど、台座は見当たらないな。

 周囲を見回しても、観葉植物や店の看板、返却ボックスと……あれ?

 なんだ?

 返却ボックスをよく見ると、投函口の下の部分がぼんやりと赤く光っている。

 近づいてみると、それはバーコードであることが分かった。

 これか。こんな所に。

 赤い光はたしか……攻撃アイテムだ。


 プレイガイドによると、


・赤いバーコード…攻撃アイテム

・青いバーコード…支援アイテム

・緑のバーコード…能力アイテム

・黄色のバーコード…生還ポイント


 となっている。

 他にもバーコードの種類があるみたいだけど、その詳細は明かされていない。

 俺のキャラクタータイプは能力型だから、攻撃アイテムも一つ装備できるな。


 さっそくカメラに切り替え、バーコードを画面の枠内に収める。


『読み取りに成功しました。アイテムを生成、具現化します』


 アナウンスが表示され、まず目の前の空間に、半透明の爪楊枝のような物が現れた。そして、徐々に色や形が形成されていく。


「ん?」


 そうして出現したのは、爪楊枝くらいの小さな薙刀なぎなたのようだった。

 全長わずか5センチ程で、まるで土産物のキーホルダーみたいだ。

 ミニチュアサイズのそれは、ふわふわと宙に浮いている。指先でつまんでみてもほとんど重みを感じない。


 これが、俺の武器……?

 目を近づけよく見てみると、作り自体は精巧に出来ているようだった。

 1、2センチ程の刀身は切先で反り返っていて、ちゃんと刃も付いているようだ。黒い柄の部分には、丸くて白い模様がいくつも描かれていた。つばの下に付いている赤い房がかわいらしい。

 でもこれじゃあ武器ならないな。

 そう思いながら横目でスマホ画面を見た俺は、思わず吹き出しそうになった。


 【大入道…Bランク】


 大入道って!

 この小さい薙刀が大入道って、それはないでしょう。名前負けもいいとこだ。

 大入道を摘みながらアイテム詳細を開いてみた。


『振り返って見るたびに大きくなる妖怪――大入道から名を取ったとされる薙刀。その名に相応しく、一振りごとに大きくなる』


 お? 一振りごとに大きくなる?

 試しに、摘み持っていた大入道を振ってみる。

 すると、爪楊枝のくらいの長さからチョークくらいの長さまで伸びた。重みはほとんど変化ないが、太さはわずかに増している。

 おお、すごい!


 そうして何度か振って、片手で持てるくらいの大きさまで伸ばした。

 とりあえず、これで止めておこう。

 薙刀としてはまだ小さいけど、これから大きくなることを考えると、こんなもんだろう。

 このくらいまで大きくして分かったけど、柄の部分の白い模様は雲だった。


 でも、武器を手に入れたのはいいけど、いざとなった場合は本当にこれで戦うことになるんだな。

 俺に、できるのか?

 手に持った大入道を見ると、剥き出しの刀身がギラリと不気味に光った。模擬刀なんかじゃない。本物の刃だ。


「……」


 今は考えないでおこう。

 とにかく、伊野さん探しとバーコード集めだ。

 地図メニューを開き、周辺を確認する。

 少し先の路地を行ったところに、誰かいるな。手前にはバーコードもある。

 行ってみよう。

 俺は大入道を解除して、人気ひとけのない繁華街を歩き出した。




 路地に入ると、お店などはほとんどなく、周りは民家や駐車場といった様子だ。

 この辺りにバーコードがあるはずだけど、どこかな。

 画面と見比べながら、アスファルトの道を歩く。


 自分のいる場所と、画面のマークがほぼ重なる位置まで来た。

 電柱、自販機、民家の門やポスト……バーコードがありそうなのは、このどこかだ。

 それらを中心に周囲を探ってみたけど、何も見つからなかった。


 あとは……民家の敷地内か。

 どうせ誰もいないし、ちょっと探すだけだ。入ってしまおう。


 鉄製の門を開け、敷地内に入った。

 右側の駐車場には車と、自転車、左側は背の低い木が並んでいる。

 正面の玄関に向かって進むと、木が途切れて、小さい庭が見えた。

 犬小屋がある。

 小屋の脇の杭から鎖が伸びていて、その先に付いている首輪は小屋の中にある。犬はいない。

 と、小屋の入り口の上の部分。そこが光っていることに気付いた。


「あった。あれだ」


 〈ラッキー〉と書かれたネームプレートの上にバーコードがあった。

 黄色いバーコード。生還ポイントだ!

 あと十分ほどで九時になる。アプリを起動してからすでに一時間以上経過しているので、俺の生還ポイントは-2になっている。これが-100になったらアウトだ。

 画面をカメラに切り替えて、バーコードを読み取る。


『読み取りに成功しました。生還ポイント+34GET! -2→+32になりました』


 +34か。少ないな。

 この数値は固定なのか? いや、ランダムかもしれない。

 何にしても、どんどん探さなきゃ。

 そうだ、この先に誰かいたな。

 地図メニューで人型マークを確認する。

 そのマークは建物の中にあり、動いていない。

 まだ寝てるのか?

 起きたら驚くだろうな……。




 民家の敷地を出て、マークのある建物に近づいてみたけど、伊野さんではなかった。

 俺はまた、地図メニューを使って周辺を探し始めた。

 車や電車などの喧騒はなく、真夜中のように静かだ。ただ、時々遠くの方から怒号や悲鳴のような声が聞こえてくる。


 バイト先の店から離れたほうがバーコードは多いみたいだけど、伊野さんがいるかもしれないし、なるべくこの辺を離れたくない。

 そんなことを考えながら歩いていた。

 5メートルほど先に十字路が見える。

 すると、十字路の右の方から悲鳴が聞こえてきた。ほぼ同時にスマホが警報を発する。


『プレイヤーが接近しています』


 俺は手早く画面を操作し、砂の風車を具現化した。次いで地図を見ると、一人のプレイヤーが、かなりの速さで近づいてきていた。バタバタと足音も聞こえてくる。


「た、助けてくれー!」


 今度ははっきり聞こえた。声からして、若くはない男の声だ。

 足音に混じって、カサカサと何か乾いた音も聞こえてくる。


 走ってきてるな。誰かに追われているのか?

 ビルの陰になっていて様子は伺えない。

 プレイヤー詳細を開く。


 Name:辻倉祥子

 Type:能力


 女?

 でも聞こえたのは、男の悲鳴だ。

 追われているようだが、マークは一つだけで追手は確認できない。

 どうする。

 辻倉はまだ30メートルくらい先だ。


「アハハハハハハハハハハッ!」


 今度は甲高い笑い声のようなものが聞こえた。

 何が起きてる。

 一瞬だけ覗いて、見てみよう。

 そう思い、ビルの角に身を寄せ、顔だけ出した。

 その途端、目の前に、必死の形相をしたおじさんが現れた。


「あああああ!」

「うわあっ」


 おじさんが叫びながらこちらの道に入ってきた。出会い頭にぶつかりそうになり、慌てて顔を引っ込める。

 向こうも驚いたようで、足をもつれさせ転んでしまった。その拍子に、地面にすっぽんが転がった。トイレ掃除に使う、すっぽんだ。おじさんのアイテムだろうか。

 尻をつきながら、こちらを怯えた目で見ている。


 年齢は五十歳くらいだろう。怯えてはいるが、眼鏡を掛けていてどこか上品な顔立ちをしていた。藁で作られたベストのような物を羽織り、少し動くたびにカサカサと音がする。

 突然の出来事に、俺もおじさんも見合ったまま言葉が出なかった。


 この人が辻倉か?

 横目で画面を確認する。

 辻倉のマークはまだ十字路を曲った先にある。

 このおじさん、何なんだ?

 なんでマークが出ないんだ?


 すると、辻倉と思われる女の声と足音が聞こえてきた。


「ああぁ、来たぁ……」


 おじさんはさらに怯え、震えた声を出した。

 この人の正体も分からないけど、辻倉もそうとう危険な奴らしい。


 辻倉はもうすぐそこまで来ている。

 一気に緊張が高まった。

【ルール】

・生還ポイントが-100になると死亡

・70メートル以内にプレイヤーが近づくと警報を発する


【プレイヤーデータ】

Name:久綱悠太

Type:能力


装備:[能力]砂の風車…息を吹きかけると砂混じりの風が発生する

  :[能力]なし

  :[攻撃]大入道…一振りごとに大きくなる

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ