#8
「じゃあジョジョ先輩宅ってば、大学じゃなく青戸さんちの近くってことですね!」
「待て待て。整理する。まず、ジョジョはもう忘れなさい」
「はい」と、山瀬が小さな声で返事する。
「赤城の家は大学の近くだ。俺の第二のアジトなので間違いない」
「えぇぇぇ?」と、青戸さんが小さな声で返事する。
ここはフォローしておくべきか。
「たぶん青戸さんが夜道、悪者に捕まらないようにと善意の嘘をついたのだろう」
そしたら山瀬が一言ボソリ。
「赤城先輩が一番の悪者候補だったりして」
ま、まあ、多分そうだな。下心的には間違いない。
「わぁ! 赤城先輩カッコいいですぅ。ジョジョなら2代目って感じぃ!」
ふぅん。
例えはよく分からないけど、青戸さんも赤城のこといい感じっぽいな……聞いてたら喜ぶだろうに。
「片道10分もかからないだろうからちょっと行ってくるよ。茶でもして待ってて」
「あたしも行きますぅ」と、青戸さん。
ずいぶん脈アリなんだな。
だとすると一人だけ残らせるってのもなんだよな……山瀬と目を合わせるとウインクしやがった。中味オヤジのくせにウインクなんて!
「判った。皆で行ってアイスでもゴチらせよう!」
駅前の広場から正門まで続く、なだらかな登り坂。
その中腹。
坂が微妙にきつくなっている、うちの大学での通称は「峠」と呼ばれているとこ、そのちょい上。
駅よりも大学が近いという、学校帰りには恰好の溜まり場だ。
「もうすぐ峠ですね。あ、峠って呼ばれているのは合ってますよね?」
「山瀬はほんと、学校関連の情報に疎いよな」
笑いながらうなずいてやる。
「と、峠は知っていました!」
「そうムキにならんでも。そうそう今日は涼しいからいいけど、夏はあんまり越えたくないんだよな」
「だからぁ家じゃなくってぇ、赤城先輩のおうちに泊まってるんですかぁ?」
「赤城に彼女が出来るまでは、かな……」
「彼女ですか……琢磨先輩は、彼女の家には泊まったりしないんですか?」
しかし、ことあるごとに探ろうとするな。鈍い俺ですら、山瀬が俺を強く意識しているのは感じている。
だけどさ。こんなときってどうしたらいいんだ?
酒や食べ物の趣味も合うし、気をつかわない仲良し。優美が居なかったら……正直、山瀬のことは嫌いじゃあないよ。だけど。
変に期待持たせるような対応はすべきじゃないだろ?
それに第一、告られたわけでもないのに変につっぱねるのもおかしくないか?
微妙に距離は置いて、めんどくさいことにはならないようにしてはいるんだけど。
「あるよ、泊まったこと」
「あるよ、ってレベルなんですか? しょっちゅうじゃなく?」
「ガキの頃だからな。望と3人で泊まったことがあるんだ」
「さ、3人でぇ!」
また、突拍子もないテンションのアニメ声が後ろから乱入。な、何を想像しているんだい、君は。
ああ。
赤城早く来いよ。そしてこの娘の相手をしてあげてくれ。
結局、青戸さんの相手をしながら、すぐに脇道に入ろうとする山瀬を呼び戻しつつなせいか、赤城の住むアパートに着くのに俺一人で歩く時の倍はかかった。
しかしこのアパート、見た目は新しい。赤城らしくない。広くないところは赤城らしいのだが、って俺の中の赤城のイメージってどんなだ。
あいつの部屋は一階の角。壁が人の家に隣接しているパーセンテージが低いから、騒いでも比較的、罪悪感が少ない。
「んー。鍵は閉まってるな」
「すれ違うって可能性、ありますか?」
「山瀬が道を間違えるたびに引っ張り戻していたからな。その可能性はあるな」
「す、すいません」
「いや、ジョークだ。だいたい遅刻してるんだ。携帯くらい使うだろ」
「赤城先輩ぃ、まだ夢の国にぃおねむかしら!」
「よし。ちょっと裏見てくるかな」
壁と塀との間の狭い通路に入り込んでゆく。自転車置き場になっていなければ、もう少し広いんだけどね。
ここからはアパートの裏のほうにつながっていて、赤城は時々窓を開けっぱなしで寝てたりするから鍵が閉まっていても突撃できたりする。
「裏って……お庭でもあるんですか?」
「共同のだけどね。線香花火くらいはできるよ」
庭側にまわる。
その時に感じたのは……妙に、涼しい?
なんだろう……あ、やっぱり窓がわずかに開いている。
冷房つけっぱなしなのか?
(続く)




