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姫とハロワと法則世界  作者: なよ竹
偶像の雷鬼
35/39

間話 一族と大小

 テナンド山脈の坂道を月光のもとで歩くのは、長くも短くもない銀髪を揺らす美人、なくなった村にいたはずのレアだ。いつになく上機嫌に鼻歌を唄い、それは寂しく誰もいない山道に響いていく。


「クフフフ、忘れられてるかと思ったよ。それにしても愚弟が来る前に、挨拶をしておいてよかったよかった」

 

 思い出すのは身分を偽っていた王女のこと。

 見ず知らずな自分に対しても食料を分け与えてくれた美姫のこと。

 当初はあまり期待していなかったが、ラキという少女の存在以上にティオは面白い。

 

「でも見えてきたかな? 数奇な理由が」


 先の仕事の話をレアがバイト感覚で受けていなければ、自分たちは『昇華』の予兆が表立つまで気づいていなかっただろう。


「国のほうも気づくやつは気づくよね。中央国カルシアスは確実だし、放っておくことはしないか......。となれば、ボクらも動くしかない、と。最初から予定通りだし別にいいけどさ」


 もう布石は打ってある。

 村へとレアが訪れたのも、噂の第三王女がどういった人物かを知るための興味本位のものだ。さらに結果は上々。ローガンには終始怪しまれていた、というよりも確実にクロとしてマークされていたが、予想に反して必要以上の接触はなかった。彼らに顔を覚えてもらっただけでも十分だ。

 総本山である首都スケイアには二人の仲間を先に行かせている。今頃はのんびり観光でもしているだろう。あとは時が来るまで待てばいい。


「歴史の一大事件になるか、それとも単なる個人の問題として終わるか。王女ちゃんも若いのに難儀だねぇ」


 二十歳と少ししか歳をくっていない彼女・・は口の端を吊り上げながら言った。

 山頂にもそろそろたどり着く。わざわざ歩いて行かなくてもよかったが考える時間がほしかったので、月が傾いていくまでゆっくりと登っていた。

 

「でも、どうしようか。我らがリーダーさんが知ったら、ティオちゃんを殺すしかないのかな?」


 物騒な言葉は決して冗談ではない。ご飯の恩もあるし久々に見た愚弟がいるとなれば躊躇うだけで、ゴーサインが出たら痛みも感じさせないで消そう。レアの頭ではそう結論付けていた。 

 気が進まないのは確かだ。

 首を振って別のことをレアは考える。

 角ありの鬼の少女、ラキのことだ。場合によってはこちらで保護・・しなければならない。少女は知らないだろうが、あの特異法則は『昇華』の際に確実に暴走してしまう。今までは偶然、時計型の法具にほとんどの行使力マナをつぎ込んでいたから起こらなかっただけで、それを放出できずに溜め続ければ爆発する。

 一か月間の絶え間ない雷を都市中に降らせるか、それとも行き場のないエネルギーを破壊として撒き散らすか。人の心を得たとしても彼女はまだバケモノのままである。

 

「多少強引な手段でも構わないって言われててもなぁ」


 レアは各国の動きも掴んでいた。

 南国レガーナ西国ケルフェのサポートを取り、一時的な非公式同盟をしている。高ランクの傭兵を募り、現在も移動中。代表者は議長秘書のネリアという女性で、彼女自身も力と知を備えた厄介な人物。

 東国アズマは様子見を決め込んでいる。やってくるメンバーの中にはなぜか、将軍の懐刀であるはずの三頭領の存在もあった。

 中央国カルシアスは十三使徒を呼び戻している。首都スケイアには会議の日三人もの戦略級がいることになり、否応なく各国の緊張をあおっていた。原因が自分たちであることを理解していたレアは仕方ないことだと思う。そうしないとレアたちには対抗できないと中央国カルシアスは理解している。

 はっきり言って、


「これはすごい面倒」


 レアは肩を落とす。

 襲撃事件の時よりも警備は厳しいだろう。

 さらに護衛達はどの国も実力者ぞろい。下手に手を出そうものなら、手首ごと切り落とされかねない。

 出来れば穏便に、驚くほど何事もなく解決できればいいのに。


「クフフフ、まあその確率もゼロじゃないんだ。日和ひよりそうな日常も好きだけど、それが映えるのはスリルが別にあるからだよね!」


 基本、レアはポジティブシンキングだ。

 最後は力でなんとかなる人生を歩んで来たために、挫折の本当の意味も理解できていないほどである。

 しかし、面白みの増しそうなこれからに思いを馳せていたレアは、すぐに冷めた表情を視線の先の人物に送る。


「ボクはいま凄く気分がいいんだよ。無駄なこともしないで消えてくれるのなら見逃してあげるけど?」

「............」

「あれ? もしかして聞こえてない? もしもーし」

「............」

「あッ、向こうに巨乳美人が」

「ハッ!? ど、どこだ! いや、ここはどこだ!?」

 

 立ったまま器用にも寝ていたその男は慌てて周囲を見渡した。

 冷やかな表情で見ているレアに気付くと、何事もなかったかのように静かな佇まいに戻る。


「なんで君が来てるのかわからないけど、帰ってもいいかい?」

「否定しよう。それは不可能だと」


 テナンド山脈の山頂は特殊な形状をしている。

 なぜか円状に平たくできているのだ。そのためレアのたどり着いたそこも直径が三百メートルほどもあった。西国ケルフェ中央国カルシアスを隔てるほどの距離を、このような山々が連なっている。

 国境をまたぐ山の上で、このとき危険人物二人が遭遇した。

 

「なんの用? って訊くのもやぼったいよね」

「肯定しよう。すでに言伝は預かっている」


 レアが上りきるのを待っていたのは黒色の着流しを羽織る、きつねを模した仮面をかぶった男だ。仮面の奥からはくぐもっていながらも精悍な声がよく通る。

 大陸戦争中での生き残りであり、東国屈指の法則者ラウズホルダーであった男。 

 人は彼を“葉隠れ”と呼んだ。


「まず、貴様は我々から離反するのかという問いだ」

「クフフフ、これはまた変なことを訊くもんだね。ボクは一秒たりとも君らの仲間になったつもりなんかないよ? 君とボクは違うし、小遣い稼ぎをしたかっただけだ」

「なぜ王女を捕えなかった。双頭オルトロスがいたとはいえ、常に張り付く侍女を無力化し、奴が駆けつけてくるまでに終わらせられただろう」

「それはどうかな? 君らのほうだってボクが忠実に行動するなんて、はなから思ってないだろう?」

「......肯定する」


 葉隠れはゴキリと首を鳴らしてレアを真正面から見据えた。


「この件に関しては不問にするそうだ。そのほうが都合がよくなったらしいからな」

「あれ、いいのかい? てっきり制裁目的だと思ってたけど」

「前半は肯定、後半は否定だ。しばらく我々は王女を狙わないことにしたらしい。なぜかは寝てたんで知らんがな」

「へえ......?」

「なんでも、交流たいむとやらを彼女らに設けるらしい。意味も知らん」


 レアは考えるそぶりを見せる。しかしそれも一瞬で消え、葉隠れに言った。


「じゃあボクにもう用はないんじゃないのかな?」

「肯定しよう」


 頷く葉隠れ。しかし、レアの前から体をどかすことはなかった。

 それは彼女にとって障害とはならないが一応訊いておく。


「なのになんで君は立ち塞がるの? ボクってたしかに女だけど、君の好きな巨乳じゃないよ」

「否定しよう。貴様ーーさらしを巻いているな? なんとけしからん。神聖なる胸をわざと押し潰して封じ込めるなど、まったくもって悪の所業よ!」

「いやぁ、このほうが女の子たちとも仲良くできるし」

「否定しよう。我は断じて認めんぞ! 女子おなごはもっと開放的であるべきなのだ!」


 クールに言い放ってはいるが、内容は胸に関することばかりだ。

 もともとの性格がこれならばレアが以前に会った時のほうがマシに思える。

 その時の葉隠れは獣を絵に描いたような精神が壊れているときだったが。

 

「それで、本当の理由は?」

「なに、貴様にも分かっているだろう。我の他に呼び戻されたものたちのことも、もはや無視をすることなど出来まい。......が、その節、協力的なものも少ないわけだ。我はそこに含まれず、命令をこなした今、あとは自由に動いてもよい」


 細かい振動がレアの足元へと伝わる。重ぐるしい鳴動が空気を震わせていく。


「ボクに勝てるって?」

「肯定しよう。負けを意識して戦うなどありえん......が、目的は生憎それではない」


 葉隠れから放出される行使力マナの勢いに衰えはない。それは、心に陰りがないことの証だ。

 

「この身になったのは僥倖ぎょうこう。我の最後の仕事だ。悪いが付き合え」


 巨乳好きなだけの男である以前に、この男は武士なのだろう。

 他国の人間からは理解できない仁義だとか恩義だとか、そういったものを重んずる風習が東国にはある。

 それは彼が一度死んでいても・・・・・・変わらない。

 

「我は葉隠れ。とうの昔に名は棄てた」


 静まり返った水面を思い起こす声だ。

 それに反し、景色の変化は著しい。

 レアが重力に従って落ちた。一瞬で葉隠れが作った穴の中へと彼女は消え、大口を開けていた地面が彼女を飲み込む。

 

 寵土球ボラ・ミステリオサ

 

 地面の中では粒子状となった土が嵐のように渦巻く。わずかな滞空時間を得ているレアを中心に球状となる。

 粘液のように広がった粒子は瞬く間に硬質化し、刃の群、あるいは針のむしろと化して女を覆いつくさんとする。レアを貫いた無数の刃が内部で疾走した。

 そこで仕留めたと確信などしない。

 この程度で勝てる相手なら、以前の遭遇ではなんの苦も無く殺せた。

 彼の思った通りにレアが地面を突き破って空中へ飛んでいく。

 地面から樹齢百年以上の木を彷彿させる、一本の巨大な柱が天に向かって飛び出した。岩を超圧縮したそれは器用に曲がり、レアを叩き潰さんと彼女の足元を突き抜ける。


「怖いねえ」


 レアは空中で浮きながらその光景を見ていた。葉隠れの姿はいつの間にか消えている。

 柱は一本に限らずその数を十にまで増やしていた。しかし変化はそれだけに留まらない。

 山からそれはせりあがる。

 もはや山が身を起こしたように暴風を生みながら新しい形を取った。

 巨人だ。

 

 外向干渉法則『大地の怒りアースクエイク


 山巨人ティターン

 

 山を吸収していきながらそれはどんどん質量を増大させていく。

 胴体は一キロメートル、上半身だけの姿でも高さがその倍はある。

 実にシンプルな、圧倒的質量で敵を排除する法則だ。

 

「クフフフ、前よりは楽しめそうだけどね。でも、手っ取り早く終わらせようか」


 葉隠れもわかっているはずだ。

 これだけのことをしても、三日月の笑みを浮かべるレアには勝てないと。しかし彼女に動いてもらうことに意味があるのだ。

 彼は背を向けない。巨人の腹部から絶え間ない岩の槍を放ち、腕で叩き潰さんとし、頭部から噴き出す粒子状の土でさらなる奥義を使おうとする。

 都市を壊滅させるなら、これだけで十分だ。

 しかし一個人でしかないレアを殺すには、不十分であった。

 

 空亡アビス


 あまりにも静かにそれは起こる。

 静かすぎて一瞬で、行使したレアだけが理解できる。 

 巨人が消えた。

 数えるのもバカらしい質量の物体が消え失せ、それを補完するために空気が荒れ狂う。山脈が更なる巨大な怪物に食べられたように、ぽっかりと大部分が開いて向こう側が見える。

 葉隠れが弱かったのではない。

 ただその力が理不尽だっただけだ。

 一族序列三位“虚空エンプティ”レア・ウォーガル。それが彼女であり、あと二人、それ以上の怪物がいることを示す。


「こんなものかな」


 フッと笑って、レアは自分の成果をなにもない空中から見下ろす。

 巨人のいたはずの場所はなくなった。つまり山脈の一キロメートル以上に渡って更地に変わったということだ。

 葉隠れが自分の意志で行なった世界への警告としては、なかなか様になっている。

 

「荒れるよ、世界が。動くよ、だれもが」


 大きく笑みを張り付けたレアは眼下を一瞥し、その場から消え失せた。

 


 ----------



 シーレス教の総本山にして、宗教国家カルシアスの中心。それが水上都市スケイアである。

 中央にそびえ立つ巨大な白亜の塔から、蜘蛛の巣上にいくつもの幅の広い水路が張り巡らされており、そこに街並が並んでいた。

 湖の上に立つこの都市の主な交通手段は、馬車ではなく小さな船だ。避暑地としても好条件で、水路を静かに行き来する小舟はとても趣があった。さらに西国ケルフェの『夏の涼玉』とは別の祭りも行われる。この時期は外部からの人間も多くこの都市に滞在していた。

 しかし深夜ともなれば自然と人足は途絶え、都市が風の吹かない水面と同じように静まり返る。


「ゲホッゲホッ......うぅ、自由にならぬ体が憎ゴフッ」


 都市沿岸部にあるベンチの上で、街灯の光のもとに一人の男が苦しげに咳をしていた。 

 骨の上に皮を張り付けただけのような体で、落ちくぼんだ眼窩がんかからは似つかわしくないギラギラした眼光を宿らせている。首の後ろで束ねられた髪は異様に白く、遠くから見ればベッドの上どころか墓の下で眠っていたほうがいい、重病人の老人のようだ。

 だれも彼が二十そこそこの若さだとは分かるまい。


「しかし......良い景色だ......ゴホッ」


 周囲では深い霧が立ち込めている。この都市では珍しくないことだ。

 彼の見る先では霧の中に湖が広がり、背後の街灯からの淡い光がいっそ幻想的に仕立てあげている。

 しかし男が言った何気ないセリフでさえ、あと十秒後には死んでしまいそうな死亡フラグを立てそうだった。


「どうしたのどうしたの? ゼオったら、こんなところにいたら風邪ひいちゃうよ」

「......ネモか」


 重病人風の男、ゼオが呟いた瞬間、彼の周囲に無数の人の気配が唐突に湧き出る。

 奇妙なのは声が一つだけということだ。霧のせいなのか、あらゆるところから同じ声が同時に響く。

 無邪気に過ぎる声の主である少女、ネモは霧の中でからころ笑う。

 声だけがイタズラ好きな妖精のように行き交っていく。


 --レアがそろそろこっちに来るって。

 --テナンド山脈がごっそり消えたみたい。

 --我々はどうでもいいよそんなの。早くシグに会いたいよ。

 --それはきみだけじゃない。我々みんなもおんなじさ。

 --でも、彼って意外とワーカーホリックだからね。

 --それに付いてる王女は可愛いよ。取られちゃうよ。

 --世知辛いこと言わないでよ。テンション下がる。

 --我々のこと覚えてるよね?

 --もちろん。シグは優しいから。

 

「ゴホホッ......おしゃべりの前に報告を、頼む......そろそろ体に毒だ」


 --ごめんねごめんね、我々ったらついうっかり。

 --とりあえずね、東国アズマはあと三日で来るかな。

 --あっちも襲撃があったみたいだよ。

 --でも頭領たちに撃退されたんじゃなかったっけ?

 --王女は次の都市で十三使徒と合流するよ。

 --護衛を少なくさせたのは自分たちなのに、本末転倒じゃないそれ?

 --もちろん監視が目的だと思うけど、自分たちの手で消すためではないみたい。

 ーー我々、もう帰って寝ていい?

 --だからテンション下がるからそういうこと黙ってて......フワァ。

 --言ってる傍からこれだよ......。


 ここへ辿り着くまでに、どの国の陣営もそこらのクリーチャーや野盗に殺される心配はないだろう。


「......ああ、そういえば、南国の義勇軍はどうした?」


 --あそこはね、二位と五位が向かったよ。

 --ご愁傷様。皆殺し皆殺し。

 --あれは身の程を知らなかったせいだよ。

 --運がなかっただけでしょ?

 --迷宮攻略に軍隊を向かわせようとするなんて、力に自信がないからだと我々は思う。

 --『傲慢プライド』の蒐集はもう確実だよ。横から掻っ攫うだけだし。

 --我々、もう寝てしまいそう......。

 --きみちょっと黙って。


 声は楽しそうに人の生き死にを語っていく。

 この現象もさることながら、一族序列七位“偽全者ドッペルゲンガー”ネモ・フォーレンスは異常性をむき出しにしていく。


 --でもさでもさ、あの王女さま本当にムカツクね。

 --いつもシグの隣にいるって羨ましい。

 --嫉妬だよ嫉妬。

 --もういっそここに来る前に殺しちゃう? 

 --いい案だけど無理だよ無理だよ。シグに見つかっちゃう。

 ーー気付かれないならいいでしょ。

 --王女をなくしたらシグはフリー。

 --隣にいるのは我々。

 --いいねいいね。それ訊いたら協力してもいいかも。というかしようよ。

 --シグが戻ってくる。もう寂しくなんてない。

 --邪魔なんだよ、あの子。

 --だから殺そう。

 --醜くむごたらしく血反吐を吐かせて。

 --恨むなら偶然を恨めばいいよ。シグと会ったっていうさ。

 --じゃあ、もう、やろう。

 

 霧が空気を湿らせている中、狂った熱気がだんだんと膨れ上がっていく。

 すぐにでも彼女は遠くにいるはずの王女を仕留めようと動くこともできるのをゼオは知っていた。

 

「ネモ」

 

 だから、止めるために名前だけを呼ぶ。

 のどをやられているのかざらついた声音には、有無を言わせぬ響きが込められていた。


「そんなことを、シグ君が喜ぶとでも思っているのか? ゲホッゲホッ......ゲホッ。もう君は忘れたのか? あの時のことを」


 ーーでもさでもさ。

 ーー少しくらい、いいじゃん。

  

「もう一度言う。また繰り返させるつもりか?」

  

 今度は圧力が加わった。 

 一族序列四位“静寂災厄ラスティカラミティ”ゼオ・ローの怒気も、ついでとばかりに含まれる。

 ネモは一族の中では特殊な戦い方をするが、さすがゼオが相手では分も悪いことは承知していた。力関係でも論でも勝ち目はない。

 急速に熱気は冷めていき、バツが悪そうな声が霧の奥から響いてきた。


 --ごめんねごめんね、そんなのわかってたよ。

 --我々はいくらでも代わりがいる。だけど『あの娘』の代わりでシグのとなりにいれない。

 --久しぶりに会えるから興奮しちゃった。

 --悲しい。

 --我々は止められなかったから。

 --シグを止められなかったから。

 --バラバラになっちゃった。

 

 しぼんでいく声には先ほどの快活さはなかった。


「分かったならいい。もう彼は破門された身だ。なにをしようが自由に決まっている」


 ゼオは目を閉じ、昔に思いを馳せる。 

 数秒にも満たないその行為が、ひどく長く感じられた。

 可能性の中にはシグと敵対するものまである。

 そうなれば自分はただの他人として排除するつもりだ。


「私情は挟むな。ゴホッゴホッ。なにゴホッ。......なに、大丈夫だ。いざとなったら(それがし)がやる。君は胸を痛めなくていい」


 無言のまま気配は次々と消えていく。

 殺せと言われれば躊躇いなく殺す彼女でも、かつての仲間を手に掛けるのは嫌なようだ。

 このまますべてをぶち壊せたら、ゼオにとってもどれほどいいだろう。

 今すぐにでも己の法則ラウズを発動させて、この都市を魔都に変えてしまいたい。

 たしかに力はある。何物にも負けぬ力が。

 彼ら一族の結束は、シグと一人の少女のおかげでもある。

 いまは亡き少女に心の中で謝りながら、ゼオは立ち上がると霧の中へと消えた。

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