表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫とハロワと法則世界  作者: なよ竹
偶像の雷鬼
31/39

覚悟と戦力

 この村はもう駄目だ。我々は女子供も含めて滅びるだろう。なにが悪かったのか? 単なる思想の違いだけでここまでされなくてはいけなかったのか? 

 いま外のほうで男の叫び声が聞こえた。夫のだろうか。

 私は無力だ。ここまで村の規模を大きくしても、最後にはやつらの手から守れなかったのだから。

 長引く日照りによる飢饉は私たちを苦しめた。戦争のせいだ。しかし、私たちだけでは力が足りない。だから儀式で山に祈祷を捧げることしか出来ない。結果的に、ある商人一行三十二名を犠牲にしたらやつらが現れた。弱者は踏みにじられる。

 それでも、我々の思想は潰えない。何年何十年経とうが、この先もきっと。

 私たちは異常だ。それは否定しない。それでも、私の腕の中で眠る幼子だけ~~~

 おっと、家が揺れた。もう時間もない。

 この子だけは、我々のような輪廻の時を生きないでほしい。そうなれば変わらない。変えられない。

 これを見ている方。我々はすがりつくだけの愚者だ。これから我々があなたの前に立とうと、それは怨念のようなものなので心を痛めなくてもいい。

 ただ一つ。きっと、これからの我々はこの子を歪めてしまう。償いをあなたに押し付けることを許してほしい。

 どうかーーーーーーーー






 もとから品質の良くない紙のせいか、すすけてぼろぼろになった日記の表紙をティオはそっとなでる。蝋燭ろうそくが積み重なった過去の遺産を照らしていた。

 

「そっか。全部......」


 水晶色の目を伏せたティオに隠し通路からファルナの声が届いた。


「至急。ティオ、外に」

 

 ティオは隠し部屋を一瞥すると、日記やいくつかの本を手に取って外に出る。

 窓に目を向ければ相変わらず外は雨模様。室内の光を反射するせいでよく見えない。

 それでも、いる。

 いくつもの人影が雨の中をうごめき、ぞろぞろと黒い壁が出来ている。

 

「強襲。盗賊が攻めてきた?」

「......違うよきっと」


 笑みを強張らせながらティオは窓の向こう側を見つめた。


「やっぱり今思えばおかしいよね。この村に来たときから何も変わってないなんて。怯えてるだけじゃ、なにも変わらないのに」


 壊れた柵がそこにあるはずだ。イリーナの死体があった広葉樹も。そして荒らされたまま放逐されている畑も。


「それなのに......子供は外にいた・・・・・・・


 子供は遊んでいたのだ。いつ再びの襲撃があるかも分からない場所で元気よく。

 影がだんだんと大きくなっていった。近づいてきているのだろう。


「イリーナさんは強いよ。ローガンだって夕食のときにあれは死ぬと思ったとか言ってたし。でも、どれだけ強くても」


 油断していればなにもできない。ティオがファルナにいたずらで耳に息を吹きかけられたときもある。信頼を置いていたからだ。大丈夫だと心の底から思っていたからだ。


「それに、村を襲ったのは盗賊なんかじゃなかった。西には魔獣の森があるし東にはテナンド山脈。人が来ずらい場所で一つの村のためにそこまではしない」

「質問。それなら敵は?」


 ティオはゆっくりと息を吐き、徐々に視界に入って来た『答え』を言う。


「村だよ。村全部が最初から生き物の胃袋みたいにあったの」


 嗤っていた。ティオの偽りの笑顔に笑い返すように彼らは嗤っていたのだ。

 ずぶ濡れで髪を額に張り付けながら男も女も老人も子供も。家の中から漏れる弱い光が幽鬼のように彼らの顔を雨の中で浮かび上がらせていた。

 粗末な服を着てくわを持つ老人はティオに井戸の場所を教えてくれた。隣の少年が誤って蹴ったボールをティオは投げ返してやったときもある。うしろの老婆も、さらにうしろの男も見覚えがあった。

 顔見知りの彼らが目に敵意をたぎらせて、家の中の少女二人を見据えている。

 

「納得。なるほど、狂ってる」

「そうだね。狂ってる。このままいったらまたと同じになるなんて気づいてないんだからさ」

「疑問。前......?」


 それに答えようとして、開かないように鍵をかけた入り口の扉が叩かれたのに口をつぐむ。


「お嬢さんがた、村長の家でいったい何をしているのですか?」


 しっかりとした男の声だ。穏やかでだまされそうになるが、いくらかの焦燥がそこに織り交じっていた。それを無視してティオは自分の推測を話す。


「ここの村って中央国カルシアスの国教とは別のやつなんだ。モチーフになるのがカラスで、いけにえになる人を鳥葬してやるのが儀式でね。邪教として教団からは目の敵にされてるの」

 

 そして、一度教団によってこの村は壊滅させられた。おそらく村の規模を考えると十三使徒も一人くらい混じって、最後に村全体を消し去ったはずだ。戦略級の十三使徒ならば都市でもない場所を荒野にするのは簡単だったろう。

 彼らはそれで終わったと思った。

 しかし予想だにしないものがこの村には存在した。

 ティオはここには不釣り合いな時計を振り返る。

 カチッカチッカチッ。この時にもなって相変わらず時を刻んでいる。それが存在理由だから。そうしないと消えてしまうから。なにもかも。

 扉越しの衝撃が室内を揺らした。無理やりにでも押しとおるつもりなのだろう。もはや隠すこともせずに断続的に扉が揺さぶられる。


「ファルナ!」

「了解。舌を噛まないよう注意」


 ファルナがティオを抱きかかえて窓を割って外に出るのと同時に、村人が家の中になだれ込んできた。

 瞬く間に豪雨がティオたちを濡らしていく。とても冷たくて、村人の殺気が入りまじったように重ぐるしかった。

 腰にひっかけたポーチからティオは三個の玉を取り出し雨に濡らせる。一瞬で多量の水分を含んだそれらを割れた窓を通して投げ入れた。一拍置き、窓から煙が爆発したように噴き出した。それほどの量が三個の玉から発生したのだ。

 ティオが自分で作った防衛道具。殺傷能力はないがシグも性能は認めるほどで、よく街に出る際も携帯している。

 今は時間稼ぎにしかならない。家に入らなかった村人もゆっくりとティオたちを包囲してくる。

 遠くで聞き覚えのある銃声が轟いた。ローガンのほうでも襲撃があったのだろう。

 村全てが敵ならば、その数は五百前後だろうか。どこに逃げても追手は振りきれない。

 だから、ティオは静かに待つファルナの仏頂面を見つめた。雨が激しく頬を打ち、唸り声のような風がそばを通り過ぎる。


「私がキミのあるじだから、汚れ仕事は全部私が引き受けないといけない。そう思ってる。でも暴力をどうにかする力は持っていないの。だから......キミは自分の意志で選択して」

 

 ファルナならば王女を置いていけば逃げられるだろう。とても確実で安心安全の選択肢。

 だから侍女は頷いて、優しくティオの濡れた頬をぬぐう。すぐに頬は湿ったがそこに温かさをたしかにティオは感じた。


「笑止。私の意志を、覚悟を甘く見ないでもらいたい」


 いつもの棒読みのように平坦な口調。そこに含まれた怒りはティオと自分に向けられたものだ。

 この時、彼女たちに残された逃げ道が埋まった。仮に走り出しても人の波に飲みこまれて消し飛ばされるのが目に見えているため些細なことだが。

 

「......懇願。何も見ないでほしい。なにも聞かないでほしい。貴女はそれだけで人の価値を変えないけど、まだ怖いので」

「気にしなくてもいいよ。あの人たちは、もう抜け殻だから」

「不能。理解できない。けれど......」


 ここにいるのが相方ではなく自分で良かったとファルナは思った。汚れ役はティオでもなくネイシェンでもない。

 いま何が起こっているかなど言われたままに行動するファルナには分からなかった。影から人形のようだとささやかれ、実際その通りなのだから滑稽だ。今まで意志もなく流されたまま、なんとなく生きてきた。

 そんな彼女が目につけたのがティオだった。

 侍女として自立しようとしたネイシェンに付いていくように、ファルナも武礼侍女となり王城で働き始めたころ。言われたことを無難にこなしつつ、ネイシェンに引っ張られるように過ごしていた。そんな時、はじめてティオと出会った。

 今と同じような格好をして城を抜け出そうとしていた。たまたまそれをファルナが見つけると、ティオはばつが悪そうに笑った。


「えっと、どうする? キミは止めるのかな?」

「命令。特に言われていない。王女様はどうしたいのでしょうか」

「さあ? キミが選んでいいよ。私を捕まえたら評価が上がるかもしれないけど」


 逃げるそぶりもみせず笑顔のままのティオをまじまじと見つめた。ファルナが選択肢を提示されたのは初めてだったからだ。結局見逃すことにしたのだが、その後も王女はファルナに選択させるように接している。

 ティオは意志というものをいつの間にかファルナに与えていた。

 だから人形は自分の意志で立ち上がる。主を守るという選択肢を選び、その身を盾にするために。

 

「感謝。それだけを」


 うずくまり言われた通り目を閉じて耳をふさぐ王女には聞こえていない。だからこそ言ったのだから。内に秘める言葉を伝えなくとも、そばにいられるのなら。

 バケツをひっくり返したような雨のなか、ゆっくりと包囲が縮まってきている。手に持つのは農具だけでなく剣や弓、神官の護身道具の円輪チャクラムまであった。

 ファルナはスカートの裾をひるがえし、水に濡れてなめかましい白い両太ももにあるホルダーから二本の棒を取り出す。腕を交差した時、それは孔雀くじゃくの羽のように広がっていた。

 鉄扇。それが彼女の法具ウェポンだ。

 このような戦いで最も力を発揮するのは飛び道具を扱うシグでもローガンでもない。

 ファルナである。

 ふっ、と......彼女の右に持つ扇が横に振られる。その先端からの延長線上にある地面に弧を描いていく。村人たちがその線の前で立ち止まった。


「警告。その先から足を踏み入れないよう。それでも止まらなそうだから再警告。私は意志ゆえにこの場を動かない一侍女。さあ、--来られませ、私がまったく知らない意志を持って。その理由がもし私よりも弱ければ、貴方達の意志ごと消し飛ばしてみせる」


 地に描かれる弧は、かかとのターンとともに円となる。

 同時に、一人の剣を持った村人がその領域に踏み入った。切り裂けた。地に落ちた。その行程が一瞬で起こる。それこそが舞のはじまりだ。

 次々に彼女は扇を振るう。


「不要。我が主が傷つくことも、悲しむことも望まない。でも感情の希薄な私ではなぐさめも出来ないから実力行使だけ。求めるのはーーーー」


 一息。


「本当の笑顔を」


 告げるなり、領域内に踏み入った不届き者を切り裂く。扇からは何も発生しない。ファルナはティオを中心とするようにその場で扇を振り、体を回転させ、そして宙返る。まさしく舞そのものであり、その舞の最中に振られる斬線が五十メートル先にいる侵入者さえも切り捨てていく。

 

 外向干渉法則『風輪罪ゲヘナフォール

 

 刀風旻華ダンシングブレイド


 唸り声を上げる豪雨。吹きすさぶ風。数多あまたの足音。それらを舞に同化させ、引き込み、そして操る。そうして限界領域である半径五十メートル全域を、ファルナを絶対君主とした要塞にも殺戮場にも変貌させる。

 みずからの意思を発露させる人形の舞は続く。






 ローガンは冷静に目の前の武器を見る。


「いやあ、参ったね。付き合ったこともない女の恨みなんて買ったことねえからな」


 右手に持つ銃の銃身でカザハの右手に付けた爪の法具ウェポンを防いでいた。小刻みに震えて力の拮抗を示している。目に突き刺さってもおかしくないほどの距離でありながら、ローガンはまばたき一つしない。


「こちらも参りましたね。先の攻撃であなたを仕留めたはずですが、死角からの攻撃を防がれるとは。殺気ですか?」

「熱い視線になら気づいてたぜ」

「御冗談を」


 まったくフレンドリーな雰囲気でないのをローガンは理解しつつ、周囲の状況を探る。

 村人たちが手に手に武器を持ちローガンを包囲していた。雨の中結構なことだが、彼の関心は別にある。


「お嬢様がたの心配でしょうか?」

「いや? あっちにはオレよりも滅茶苦茶強い嬢ちゃんがいるからよ。あんたもそっちに行ったほうがいいんじゃないの?」

「それこそ冗談でしょう。女性に負担を増やさせるなんて紳士のすることではありませんね」

「それもそうだ」


 甲高い音を一つたて、二人は弾かれたように距離を取る。

 ローガンは銃口をカザハの右手に向ける。正確には長い付け爪に。


「それ、イリーナのだろ? どこで拾った」

「言わなくてもお判りでしょうに」

「いやぁ、あんたって美人だからさ。もし万が一の確率でたまたまそれ拾って出来心で使ったのなら、まだいいんだよ」


 短くなった煙草を吐き捨て、新しいものを口にくわえる。もはや周囲が見えていないのではないかと思えるほどの余裕で、煙草の先に火をつけることまでした。

 ゆっくりと煙とともに紫煙を吐き出し、やっとまともにカザハのほうを向いた。


「それでは、許せないからお前を殺すとでも?」

「いやいや、無理だろ。この人数相手ってどんだけいんのよ。おまえらヒマなの?」


 ローガンが呆れたように髪をかき上げながらぐるっと見回す。ざっと百以上で二百に届きそうだ。村の規模を考えるとファルナたちのほうに同じくらい向かっているのかもしれない。

 数は力だ。兵器級の法則ラウズがあってもなくならない事実でもある。


「ないわぁ、これ」

「ふふふ、それではイリーナさんも浮かばれないですね。ありもしない敵相手に見張りをしていた彼女と少しお話しさせていただきました。貴方のことをとても慕っておりましたよ? 報酬金を院に送ってくれたりしてたみたいじゃないですか」

「ああ、そんなこともあったな」

「貴方の傭兵時代の功績も語ってくれましたし、これもまたありもしない妄信に従って......神に祈っていたほうが比べ物にならないほど有意義だと言うのに。まったく、哀れですよ」


 言葉には軽蔑の響きが籠っていた。イリーナの追いすがろうとする努力の結果があっけなく潰えたのだから、無意味なものに思えて仕方ないのだろう。


「そう言うあんたはなんだよ。大人しく暗殺の真似事してればよかっただろ」

「生憎、我々にはあまり時間が残されておりませんので」


 左手をカザハが高くあげると人の波が動き始めた。ローガン一人を飲み込むために数の暴力が渦巻いていく。

 

「時間がない、ねぇ......」


 もう片方の銃も引き抜きローガンは構え、


「よっと」


 あらゆる方向から飛んできた矢を最低限体をひねることだけで避ける。

 違和感を先ほどから覚えていたカザハは尋ねた。


「もしかして、見えていますか?」

「ああ、視える視える。あんたらの醜悪そうな顔が雨の中でもはっきりとな。信仰される神様も可哀想だね」


 不快そうに目を細めたカザハが踏み込み爪を振るう。それを左の銃でいなし、カザハの左に持つ円輪チャクラムを右の銃で受け止める。鍔迫り合いが再び起こり、カザハはたしかに見た。

 鳶色から毒々しい紫色に変色しているローガンの両目を。


「それは......」

「別に目からビームとか撃てないから。魔眼とかでもねえから」


 内向干渉法則『骸視幻像パラサイト


 視ることに特化したそれだけの法具にして義眼。目の届く範囲ならば背後だろうが障害物があろうがすべてを視界に収める。どれほど速くとも目で追うことも可能にする。

 カザハが大きく飛びのいて人並みに紛れる。

 隙をついてローガンの背後に接近した剣を持つ若者と老人。彼らに目を向けることなく無造作に銃をそちらへ向けたローガンは銃爪ひきがねを引く。銃口から吐き出される圧縮した行使力マナの弾丸が狙い違わずに彼らの頭部に。そして接触した瞬間、


「グペッ!」

「ガッ!?」


 破裂した。頭部を失った二つの肉の塊が、泥水を跳ね上げながらローガンの両脇を滑る。


 事象干渉法則『魔弾の赦朱エニグマ


 集束と発散をつかさどる銃の法則。籠められた行使力マナを圧縮させたエネルギーに変換し、対象に当たった瞬間に放出させる。小型の爆弾を目視不能な速度で射出するのと同じことができる。


「なるほど、双頭オルトロスですか」


 村人だったはずの肉塊を冷静に観察しながらカザハは呟いた。死体は巨大な怪物に首を掻っ攫われたような姿に納得もできる。


「冷たくないか?」

「わたしたちは死を恐れていません。そんなものは我が神の信仰には必要ないものですので」


 声だけが傭兵と村長のやりとり。たしかに仲間が死んでも村人たちにはそれが目に映らないかのように動揺もなかった。気味の悪いゾンビを相手にしているような気分だ。

 突貫してきた八人の頭を次々と貫きつつ、ローガンはそう思った。

 五人は接近戦に持ち込む前に物言わぬ肉塊になっている。円輪を振りかぶった老婆を右の銃で殴り飛ばす。下から包丁をついてきた少年の口に強引に銃を入れ、銃爪ひきがねを躊躇いなく引く。少年の腹が破裂して胴体が二分するより前に背中に襲い掛かって来た男の頭を消し飛ばす。

 地面で泥まみれになっていた老婆にねぎらいの弾丸の雨をプレゼント。

 足場がなくなりそうなのでローガンは死体を蹴っ飛ばし、脳の破片をぷちぷち踏みながら場所を変えた。


「悪魔ですね」

「ただの駄犬だよ」

「逆に訊くとすれば、あなたはイリーナさんの仇が目の前にいながら冷静に見えますが」


 雨が赤い水たまりを洗い流していく。絶えることのない地面を蛇行する赤い筋に興味を示すものはこの場にはいなかった。


「復讐とか考えてます?」

「さあ、どうだろうな。イリーナは真相知ってもあんたらをかばいそうだし、あいつが望んでるはずもないってなぜか分かる」

「では、彼女のことはどう思って?」


 会話は途切れない。それは戦闘の激しさとは比例しないほどに穏やかだ。

 斧で突いてきた男の顔に銃口を押し付ける。

 イリーナとローガンは歳はそう五年も離れていないはずだったが、彼女の全身から若さがあふれ出ていた。それを眩しいと一日目の夕方に感じた。正義を信じる年齢であり、瞳だった。

 自分にもそんな時代があったと、過去に思いをはせてしまう。

 銃爪ひきがねを引いて肉塊を一つ増やす。

 

「見てるのが辛かったんだろうな......」

 

 どす黒い空を見上げながらローガンは腕を絶え間なく動かす。自分に飛んできた矢と円輪を撃ち落とし、余裕が出来れば村人の頭部を破裂させる。

 高ランカーの自尊心と、誇りと、自らの力に対する絶対的自信、それが若さという輝きの中に内包されている。

 苦さを伴う感想だ。

 そんなものはもう、ローガンには欠片もないのだ。

 でなければ、ナイフを手に持って駆けてきた少女を感慨もなく撃ち殺すはずがない。

 なにかが摩耗して虚無しかローガンには残らなかった。シグの誘いに乗ったのも、あの護衛者が自分と似た雰囲気だったことによる同族意識なのかもしれない。


「昔のオレも、あいつみたいな顔してたな。自分のやることが正義だと、そうすることで平和を作ってるってな」


 二十七個目の死体を量産しながらローガンは語り続ける。

 残ってるかも定かではない良心に小悪党に成り下がったローガンは押し潰されそうだ。


「そんな嘘っぱちの正義に踊らされてればどれだけ楽だったか......踊って、踊って、踊り狂っていられれば良かったんだがな」


 イリーナとの違いは、夢から覚めたか否かでしかない。

 小悪党が正義の使者に怯える感情と同じだった。けれども嫌ってはいない。羨望の情があの光は絶やしてはいけないと何度も言っていた。


「だからこれは復讐とかじゃない。オレは殺しておきたいから殺す。それだけだ」


 構えを変える。両腕を交差して腰を落とし、降り注ぐ雨を一身に受ける。

 紫の双眸で人の波の奥にいるカザハを槍のように射抜いた。


「けど防げよ? 楽に死なれちゃ楽しめねえしな」


 二つの銃口から発せられた轟音はさながら二頭の獣の咆哮。

 この周辺に集まった村人は百八十六名。その半数が息絶えたのはこの時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ