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第2話 逃走

第2話 逃走


 あいつらの仲間は、いつ来るだろうか。

 月明かりは雲に隠れ、道は暗い。松明やランタンなど明かりなしには、歩くのは難しいだろう。

 少年にとって、逃げるのには、好都合だった。

「ねえ」

 不意に少女が、少年に呼びかける。

「ちょっと。手。痛いんだけど」

 どうやら、逃げるのに必死になり過ぎて、力を入れ過ぎたようだった。

「あっ、ゴ...ゴメン」

 少年は、慌てて手を放す。

 見ると、掴んでいたところが、赤みを帯びている。かなり力を入れて握っていたらしい。

「で、私に何の用なの?」

 手をさすりつつ、疑うような眼差しを突き付けてくる。少年は慌てて言った。

「何の用って....君が、危ない目に遭ってたから、つい...」

「危ない目? わたしが?冗談でしょ」

 驚きを秘めた少女の声に、少年が逆に面食らってしまった。

「本当に、あなた、わたしを助けようとしたの?」

「.....いちおう」

「危険を冒してまで、他人を助けようなんて……、変わった人ね、あなた」

「.....」

 反応に困る台詞を連発されて、少年が絶句していると、複数の甲高い靴音に、ハッと我に返った。

「いたぞ! こっちだ!」

 あの軍人だ。食堂にいた連中を含め、松明やランタンの数を見ると、さらに数が増えているではないか。

 無能な軍人だと思ったけど、どうやら、こういう点は有能なようだ。

「話は後だ、逃げるよ!」

 少年は、再び強引に少女の二の腕を引っ張ると、手近な路地に駆け込んだ。

 暗い夜道。

 狭く入り組んだ路地は、逃げるのにはよいが、それは道を熟知しての話だ。この状況では、明らかに兵士の方に分があるはずだった。

 だが...少年は、ランタンや松明なしに夜道を走る。まるで昼間の道のように。

 兵士たちが持っている明かりを手がかりに、兵士たちを避けていく。


 もう、どこをどう走ったかわからない。追っ手の姿が見えなくってからしばらく経ってから、ようやく一息ついた。

「どうやら、上手く撒けたみたいだな」

「そうみたいね。ねぇ、ふたつ、聞いていい」

「えっ、何?」

「あなたの名前は?」

「名前を聞くときは、自分から名乗るもんだろ」

「意外と細かいのね。私の名前は、エリス・ミューラー。あなたは」

 本名を言うべきか、迷った。しかし、相手も本名を名乗っているようなので、ここは本名を言うことにした。

「アレク・クライス」

「ふ~ん、特徴のない名前ね」

「で、二番目の質問は?」

「君なんで、明かりなしで走れるの」

「...特技だ。盗賊と同じだよ」

「特技。特技ねぇ...」

 そう言うと、エリスは、しばらく考え込んだ。

「それより、この後どうするの。泊まる場所あるの?」

「...ない」

 酒場の二階に泊まる予定だったが、もう、戻れないだろう。

「ないなら、私が泊まっている宿に来なさい。お金も食事も、タダだから」

 お金も食事も、タダか...そう言えば、爺ちゃんがタダと女ほど怖いものはないと言っていたけど...背に腹は変えられない。

 結局、アレクは、他に泊まるところもないので、少女の宿に泊まることにした。


   ◆   ◆   ◆   ◆


 エリスの後をついて行くと、十字架が屋根に付いた石作りの巨大な建物の前に着いた。

「宿って...ここって、教会じゃないか」

「そうよ。ここに泊まっているの。遠慮しないで入って」とエリスは裏門から中へ入っていく。

 エリスは、修道女なのか?

 そんな気配は...全然ない。当初感じた気配は、酒に酔っての幻覚に違いないとアレクは思った。

 それに、巡礼の旅人が教会に泊まるのは珍しくない。

 きっとそれに違いない。

 アレクは、黙ってエリスの後を付いていった。


 しかし、その考えは、間違っていたようだ。

 すれちがう修道女たちが、アレクのことを調べるように見る一方で、エリスには会釈している。どういう地位にいるか知らないが、どうやらエリスは、それなりの地位にある人物のようだ。


 エリスはアレクを広間へと連れてきた。

 広間には、二人の男女が居た。

 一人は、20代後半、精悍な顔つきでガッシリとした体格の男。側の壁に大剣をかけている休んでいるところを見ると、剣士だろう。

 もう一人は、エリスと同じぐらいの年頃で、すらりとした長身で赤毛の少女。この少女も、腰に帯刀しているところを見ると、男と同じ剣士なのかもしれない。

「誰、それ?」と赤毛の少女がエリスに尋ねた。

「アレク・クライス。冒険者よ。もう一人雇うことにしたの」

「ちょっ。ちょっと、待った。何の話しているんだ。宿のためについてきただけで、そんな話はしてないぞ」とアレク。

「あなた、明日、仕事あるの?」とエリス。

 アレクは、今日、街に着いたばかりで、明日から仕事を探すつもりだった。

「ない」

 何、はっきり答えているんだ。ここは、嘘を付いて「ある」と言ったほうが良かったのではないかと、アレクは思ったが、解き既に遅かった。

「どうせ、明日も、明後日もないんでしょ。なら良いじゃない。第一、この街で仕事を得るのは、もう無理だし。ここは城塞都市よ。どうやって街を出るの?」

 その通りだ。きっとも、門にも港にも、兵士がいるだろう。今から出るにしても、門は閉まっているし。下手に抜け出そうとすれば、兵士と喧嘩するよりも罪が重い。

「君はどうなんだい。僕と同じだろ」

「違うわ。私は、せいしょく者だもん」

 せいしょく者?

 聖職者?

 この娘が。巡礼者や商人じゃなくて、聖職者?

 確かに、聖職者に対しては、そうそう手出しは出せない。まして、酒場で、聖職者に絡んだとあれば、罰せられるのは、兵士の方だろう。第一、聖職者を叩くなんて、十字架を叩くのと同じだ。心理的なダメージも大きい。

 彼女の兵士に対する妙な自信が判ったような気がする。

 しかし、本当に、そうなのだろうか。

 胸元を良く見ると、十字架のペンダントがかけている。

 ペンダントなんては、ちょっと信心深い女性ならば誰でも身につけているが、彼女のペンダントは、小さいが特殊な形状ものだ。確か、それなりの高位の司祭でなくては、この形状のものは付けれないはずだが。

「何、胸元をじろじろ見てるのよ。やらしい」

「...違うよ。十字架のペンダント見てたんだよ。ほんと、ほんと」

 何も言わなかったが、エリスの目は完全に信じていない。

「そんなことより、何で、聖職者が夜、あんな酒場に居たんだ」

「神の啓示よ。あそこに行けば、あなたに会えるって」

「嘘よ。どうせ、名物の魚のスープでも、食べに行ったんでしょ」

 赤毛の少女が口を開いた。

「...」

 どうやら、図星だったようだ。

「なんで、人が一生懸命考えた嘘を、そう簡単に否定するのよ。もう」

「判ったよ。で、エリス。そいつも連れて行く気なのか?」

「そうよ」

「下手に連れて行くと足手まといになるだけだぞ。まぁ、盾にはなるかもしれないけどな」と大男が笑いながら言った。

「大丈夫。剣の腕は確かめていないから、イマイチかもしれないけど。彼、精霊使いの能力があるわ。きっと何か役に立つわよ」


『やっぱり、バレていたか』


 エリスの言うとおり、アレクは精霊使いだった。

 そのため、一般の人間が光を見るように、赤外線や紫外線で世界を見ることが出来る。

 そのため、明かりがなくも、暗闇の中で見ることがが出来たのだ。

「まじかよ。エルフ人の血が入っている様には見えないけど」と先程と異なりマジマジと見る。

 エルフ人とは、別名「森に住む人」と呼ばれ、精霊を信仰している異教徒だ。精霊使いも多い。

 そのため、一般の人は、精霊使い=エルフ人と考える傾向にある。

 そして、精霊使い=異教徒と考えるため、アレクは差別や偏見を避けるために、精霊使いであることを隠して生活していた。 

 しかし、この場で、嘘を付いてもしょうがないのでアレクは正直に話すことにした。

「僕はエルフ人じゃない。以前、村に居たハーフエルフの隠者に、いろいろと教えてもらったんだ」

「へぇ、エルフ人じゃなくても、精霊使いになれるんだ。初めて知った」

 赤毛の少女が始めて、まともに口を開いた。

「どう?何か役に立ちそうでしょ」

 二人の反応から見ると承諾したようだ。

「で、報酬はいくらなんだ」

 仕事である以上、報酬の話は必要だ。

「ただよ。街から出してもらえるだけでも、ありがたいと思いなさい」

「...」

 自分は、とんでもない性格の人と関係しているのでは、今さらながら強く公開したアレクだった。



昔、書いた没小説を加筆してみました。どうでしょう。

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