プロローグ 2
「ふう......」
それにしてもあついなぁ。これでは暑いというより熱いだ。
近年問題視されている地球温暖化と言われるやつか。まったく人間という生き物は悪魔か。って俺もか。
今度から少しずつ気をつけていこう。少しずつ。
そんなちんけな目標を掲げているうちに、巨大な建物が目に飛び込んでくる。
「これが聖マリアナ学園か」
聖マリアナ学園――名前から想像出来るように私立高校で、通うことが出来るのは政治家の子供や資産家の後継ぎなど、いわゆる大金持ちで、因果など一生お世話になることのない異端な存在である。
そんな考えを巡らせている間にも、一台の黒ベンツが校門とおぼしき巨大な門を通過していった。
ん!?
ハッキリとは見えなかったがあれは......。
人形の髪の如く上品で艶のある黒長髪。同じく澄んだ漆黒色の瞳。
車に乗っているので全身を見ることは出来ないが、あの容姿端麗な顔はおそらく早乙女千里。彼女はもうお金持ちどころの話しではない。
父親は、近未来兵器開発の最大手であるエヴァーラスティング社社長で、防衛省ともつながりがある。
その一人娘である早乙女千里は、その可憐な容姿からテレビでもしょっちゅう見かけることがある。
「まぁ俺には関係ないがな」
そう俺には関係がない。
黒いベンツはそのまま校門から100メートル以上はあろうかという通路を走り去って行く。
「それにしてもでかいなぁ」
要人関係者が多数在学しているだけあって、そのセキュリティは半端なものではない。
まず校門以外はコンクリートでできた高い塀で囲まれており、その閉塞感をカモフラージュするためか木もびっしりと直立している。
さらに校門には監視カメラとSP顔負けの門番。学校に入るのにいちいちIDカードやら指紋認証まであるんだっけ。
そもそも因果がなぜここまで聖マリアナ学園について詳しいかというと、小学校時代を軍学校で過ごしたり、父が軍関係者だったりという理由で、よくこの学校の監視任務を与えられたことがあったのだ。
何を子供が、と言われる事があるが、因果はその類稀なる運動能力、戦術、学習能力から数多の特殊任務を成功させて来ている。
そんな中でとくに重要任務とされてきた聖マリアナ学園監視任務では、御曹子に化けて学園内を巡回したものだ。
そんな事もあり、学園内を見ることが山ほどあった訳だが、いまだにその位置関係を全把握出来たわけではない。
外見だけ見れば、まず校門から中央ホールへと続く通路の横には林、というより森がある。そして中央ホールに着くと次に待ち構えているのは、巨大な神殿を思わせる中央玄関。
そのほかにも広大な敷地には数多くの建造物が存在し、その多くが国宝並みの価値を誇っている。
っと、そんな思考を繰り広げて行く内に、俺が今日から通う普通の男子校永和高校が近づいてくる。
実に平和だ。名前まで平和さを醸し出している。
これは好スタートがきれそうだぞ。
そして、早くも舵を誤ってしまったことに気づかずに。