目覚め
「おはよう」
そう言って私の髪を撫でる人懐っこい笑顔が目の前にある。
私達はベッドの上、一枚のタオルケットに包まれていた。
「おはよ、大ちゃん」
「あれ、昨日は"大輔"って呼んでくれたのに」
ねぇ、昨日みたいに呼んでよ
なんて言って一層眩しくなる笑顔を見ないように起き上がる。
床には二人の衣服がぐちゃりと脱ぎ捨てられていた。
「大ちゃん今日用事あるんでしょ?さっさと服着て」
「んんー」
名残惜しそうに枕に埋まる彼は可愛い犬のようで。
でも、その首に首輪をつけるつもりなど私には無いんだ。
だるいなぁ、身体が重いよ。
「ほら、コーヒー淹れてあげるから」
「マジで?やったねー」
もそもそと起き上がってとびっきりの欠伸。
横目に見てれば視線に気づいて、お得意のスマイル。
やってらんない。
無造作に脱ぎ捨てられたシャツを着て、
大ちゃんのためのコーヒーを淹れにキッチンへ。
ありがとー大好きだよー、とか背中に投げつけられる言葉。
「(大好きだよ)」
コーヒーを淹れて部屋に戻るとちゃんと着替えた大ちゃんが笑ってた。
「何時に出るの?」
「んー、これ飲んだら行く」
「そう」
AM 9:11
「大ちゃん」
「ん?」
「呼んだだけ」
「そか」
AM 9:15
「大ちゃん」
「ん」
「飲んだ?」
「うん。もう行くわ」
ありがと、と人懐っこい笑顔を向けて立ち上がる。
その笑顔が私にはとても眩しくて、恐ろしいものだと彼は知ってるのかな。
玄関へと迷い無く進む彼を追いかけた。
するりと靴を履いて、大ちゃんはまた笑う。
「そんじゃ、いってきます」
がちゃりとドアノブが回り、ドアが開かれる。
やけに眩しく感じる光が大ちゃんを照らして、
あの眩しい笑顔が眩しい光に吸い込まれていく。
「大ちゃん」
「何?」
「・・・おはよう」
ふ、と驚いた大ちゃんだったけど、すぐに人懐っこい笑みを浮かべて
今度こそ大ちゃんは「いってきます」をした。
大ちゃんを見送った私が部屋へ戻れば
さっき大ちゃんが飲み干した筈のコーヒーは湯気を立てていた。
AM 9:23
ありがとうございました。