怪奇事変 エレベーター
すみません!遅れてしまい誠に申し訳ありませんでした!
第二十六怪 エレベーター
エレベーター…至って普通の機械製品であり、便利性の優れた代物である。
ただし、このエレベーターは何時からか、ある“噂”が流れるようになった。
特段理由するのに困った事などはない、ただ誰しも一度は聞いたことがあるだろう。
例えば―ー異世界に行く方法などとか…そんな怪奇的な話が出始め、その噂は瞬く間に広がって行った。
「エレベーターにあるボタンをある手順で押すと、異世界に行けるんだってよ」
「5階で若い女性が乗ってきたら成功だってさ」
「でもマンションとか、結構高さが必要だったりするらしいぜ?」
色々だ、そんな噂はとある掲示板から見受けられ自然と消えて行くーーはずだった。
そう、人とは好奇心旺盛な生き物だ。
今ではSNSなどの活用や動画配信などであえて都市伝説や曰く付きの場所を撮影しに行くなどと言った者もいる。
古くなり、あとは埃をかぶるだけの話題は何時しか綺麗に埃を拭われ、新品の様に扱われた。
それは怪奇だけに限った話ではない。
時代の流行――その流行りが音楽・小説・話題と様々なモノが息を吹き替える様に蘇るのだ。
どの瞬間かは分からない…この話も、埋もれた廃棄捨て場から拾われ息を吹き返す可能性だって…あり得る。
1人の利用者がエレベーターのボタンを押す。
フードを被っており顔の様子はモニター越しでは伺えないようになっている。
やがてエレベーターが到着すると、乗り込みボタンを押して階上を目指す。
モニターはエレベーター内部も映し出されている。
ただ…奇妙なことに、この乗ってきた人物は最初に押したボタンの他に、もう一度階上を目指す別のボタンを押していたのだ。
「……」
初めは見間違い、或いは間違いだと考えていたが、到着した階上についてもその人物がエレベーターから降りることはなかった。
そして一番最初に押したであろう階上に着くと、またその人物は降りるようなことはしなかった。
やがてボタンをもう一度押し、今度は階下に向かう様子だけが映し出されていた。
そのモニターを見ていた監視員は「またか」とだけつぶやき、食べていた夜食を置いて、モニター室から出ていき、到着するであろう階下に先に向かう。
このマンションでは最近になってからこのような悪戯が多いのだ。
特に人物は様々で、皆口を揃えてこう言うのだ…怪談話や都市伝説が本当かどうかを確かめにきた…と。
「バカバカしい」
夜間の警備員は怒りながら地上に着くエレベーターの扉の前に到着し、人物を待つ。
さてどうやって説教してやろうか?大袈裟に警察と言ったワードを口にするのも良いかもしれないと、待っていたが――エレベーターが到着すると、中には誰も乗っていなかった。
「え?」
急いで無線を使ってもう一人の同僚に状況を求めると、無線から帰ってきたのは普通の対応だった。
「乗ってますね」
「はあ?誰も居ないぞ!」
「いえ、乗ってます、目の前に」
「いや、居ないって!!何処にも!!」
「いやいや、本当に監視カメラにはちゃんと映ってますよ!フードを被った人物が出られないみたいで困ってるみたいだから、ちょっとどいてあげて下さい」
「何を馬鹿なことを…誰も居ないのにわざわざ場所を開ける必要なんて――」
「ああ!?」
「ど、どうした!?」
急な叫び声に身構えてしまうも、次に聞いた言葉で更に困惑する。
「ずっとそこどかないから、腕の間を潜って出て行っちゃいましたよ」
「……はぁ?」
後ろを向くも気配すら感じない。
そもそも誰かが素通りした気配や感触すら感じなかったのに、何をさっきから言っているのだっと憤りすら感じる。
「おい、さっきからいい加減な事ばかり言いやがって!」
「そっちらこそ!さっきから良くわからない事ばかり言ってて!もしかして、驚かせようとでもしてます?」
「はぁ?そんなことする訳ねーだろう、馬鹿!」
そんな2人のやり取りを1人の人物は静かに見ていた。
それは先ほど監視室から見ていた人物である、フードを被った人物だった。
ポケットに手を突っ込んで何食わぬ顔で夜の街を徘徊する。
特段な理由はないが、この方が誰にも“認識”されずに済むからだ。
「……都市伝説も怪談も、馬鹿にしちゃいけない」
フードの人物は誰にも聞こえない声でそう語りながら夜の街へと消えて行った。
翌日になると、若い小数人のメンバーが悪戯目的でエレベーターに乗り込んできたのが分かる。
何故ならばもう数時間もこのエレベーターを利用しているからだ。
最初は早めに注意喚起を施そうと思ったが、このマンションを利用している者だと誤解してしまえばこちらに苦情が来てしまうため、慎重に行動していた。
だがモニター越しで何やらボタン操作を何度か繰り返しやっているのを見て、此処で確信を掴めた。
「全く、エレベーターを何だと思ってやがる」
「最近になってからまた若者の間で再燃しましたからね、都市伝説とか怪談話とか」
「なんだ、それは」
「テレビでやってたんですよ、ほら、夏だしテレビの特集でそう言うの組むじゃないですか?」
「チッ!余計なことしやがって」
「でもな~んでウチなんでしょうね?」
「どこでも良かったんだろ、コイツ等にとってはココが近かっただけの話だろ、注意喚起してくる」
「ほどほどに~」
だがこの監視員の言うことはもっともなことであった。
マンションなど探せば幾らでもある…テレビで特集され。感化されたとは言えども普通は“曰く付き”の場所を選んでいくはずだ。
だがこのマンションにはそう言った例が、ない。
「あ…」
モニターを見ていると、早速注意をされている若者がいた。
だが気になったのは、その横を素通りして通って行ったフードを被った人物。
この人物は前日に見かけた人物と同じ服装だ。
「アップにして…やっぱ押してる」
無線で伝えた方が良いか悩んだが、急にエレベーターが階上を目指して上がったことに、若者も同僚も驚いていた様子だった。
「(やっぱ昨日言ってたこって嘘じゃなかったのか…)」
だとすれば今見せられる光景はなんと説明すればよいのだろうか?
人には視認できない何かがモニター越しでは見えることができ、階上を目指しているだけの光景。
またボタンを押して、停止するが降りもせずに、またボタンを押す。
「(何がしたいんだ、コイツは…)」
そんな光景を見るとようやくフードの人物はある階層でエレベーターから降りた。
降りた階層は4階、此処に住んで居る住人だろうか?
だがそれでもやって良いことと悪いことの境ぐらいは理解しているはずだ。
「ふぅ~、ったく、ようやく帰りやがった」
疲れた様子でモニター室に入ってきた同僚に今しがた起きた事を伝えると、やはり「知らん」と短い言葉だけが伝えられる。
念のために録画していた動画を見せるとフードの人物はしっかりと映っており、エレベーター内部での行動も鮮明に映し出されていた。
「なんだ、此処の住人か?」
「夜遅くに外出して、夜遅くに帰宅…て言っても、わざわざ4階が自分の家ならなんで10階のボタンを押して、降りずにまた降下する必要があるんでしょうかね?」
「さぁな、コイツも若い連中と同じ都市伝説とかに感化されてやったんじゃねーのか?」
「……行ってみます?」
「あ?いや、別に普通に自分の家に戻ったなら追いかけていく程のことでも……」
「じゃ次に同じことがあったら行って見ませんか?なんでわざわざこんな事をするのかって」
「おい、遊びじゃねーんだぞ」
「いや、分かってますよ!あくまで注意喚起の一環としてですよ!」
「そもそも、そんな良くわかんねー考えのやつ何か警察に突き出せば良いだけの話なんだけどな」
「そりゃ…まぁそうなんてしょうけど」
とは言えマンションの関係者ならそうはいかないだろう。
他人に迷惑をかけているかどうか?その苦情が来ているかどうかは…ゼロ件なのだから。
結局、次の日に同じ行為を見かけたら念のため注意喚起程度で済ませることで合意した。
上にも特段文句を言われる筋合いはないはずだ。
だが何故か…監視員は胸騒ぎがした、唐突に。
何故そうなったのかは…分からない、ただ何となくーー“関わってはいけない”っと感じてしまったのだ。
そして次の日、例のフードを被った人物が登場したのをモニターで見た。
「それじゃ頼んだぞ」
「あ、俺が行く流れッスか……」
正直、昨日の予想が当たっていないと良いのだが…と思い、一階のフロアに赴き、エレベーターのボタンを押す。
しばらく待っていると、そこにはあのフードを被った人物が顔を隠すような形で現れた。
扉が開き中に入ると、横にあったボタンで4階を押そうとしたところで――
「……何階に行きますか」
そう短く言われた。
初めは辛うじて聞こえる声だったこともあって、全く聞き取れないという程ではなかったが、何を言われてるのか分からなかった。
「えっと…」
「……何階、行きますか?」
再度フードの人物から言われ「それじゃ4階」と伝えると、4階のボタンを押してそのままエレベーターは運行を再開した。
フロアの中で特に言葉はなく、お互い無言になるが――突如、誰も居ない3階のフロアでエレベーターが止まった。
「(え?押してなかったよな、しかも点灯も点かなかった)」
奇妙な現象、扉が開くと夏場なのに冷気のような肌寒さを感じてしまう。
フードの男はなぜか「ひらく」ボタンを押したままにし、しばらくしてから「とじる」ボタンを押した。
「あ、あの…なんで誰も居ないのに?」
「……」
フードの人物は何も語らず、直ぐに4階に辿り着いてしまった。
扉が開くと同時にフードの人物は「ひらく」のボタンを押して、どうやら監視員が降りるのを待っているらしい。
「……降りないんですか?」
「え?あ、いや、すまない、4階じゃなく、一旦最上階を確認…て無線で」
と嘘をつき、フードの人物は「とじる」ボタンを押してそのままエレベーターは再度活動を開始した。
道中同じように、別の階層に止ることもあったが、フードの人物は至って何事もないどこから、当たり前のように動作を繰り返している。
ただ、階層に止り、フードの人物がそれを行う度に、エレベーター内の温度は低くなっているように感じた。
何故夏場なのにこんなに冷えるのか?冷房が完備されてはいるものの、此処まで冷気が当たるほど強く調整した覚えはない。
「(もしかして、モニター室を離れて悪戯でもしてるのか?)」
エレベーターの内部構造の設定などはモニター室からではできない仕様になっている。
別室である操作パネルで操作しない限りは操作不可能だし、そこに立ち入りためには無線で上の許可が必要になる。
もし許可されるならば、外気の温度との兼ね合いでの操作となるが、夏場とは言え体感で言えば18度ぐらいの冷気が当たっている感覚だ。
いや、下手したらそれ以上の温度かもしれない…。
そうこうしている内に、最上階に辿り着くと、生々しい風が吹き込んでくる。
10階までしかないマンション、何故だがいつもより…不気味さを帯びている。
「…また、降りないんですか?」
「え?」
フードの人物はこちらを見て訪ねていた。
確かに続け様に降りないのは様子がおかしいと思われるかもしれないと、降りようとするも、思い切って例の話を議題にしようと考えた。
それは前日、それ以降からも悪戯にきた連中、若い者の話。
もしかしたら印象を悪くさせてしまうかもしれないが、このまま降りるよりマシだろうと思った。
「(あれ?なんで俺、今降りるよりマシって……)」
だがその思考よりも今は説明の方が先だ。
「いや、最近若い子が悪戯でエレベーターの階層を操作したりして迷惑をかけているんだ」
「……」
フードの人物は黙って話を聞いていた。
背格好からしてその悪戯していた若い集団と同じぐらいだと思われるが、気を悪くしただろうか?
「それで巡回頻度が強くなってね、エレベーターの中に入って監視するのも仕事の役目の1つになってしまったんだ」
「……そうでしたか」
短く返すと、「とじる」ボタンを押し、その階層で止まったままの状態にした。
「えっと?」
「いえ、さっきから肌寒そうでしたから、閉じた方が良いかと」
「ああ、うん、まぁそう…だね」
するとエレベーターはなぜか急に動き出した。
ボタンを見ると何も押されてないし、点灯すらしてない。
つまり誰も押してないのに勝手に動き出したのだ。
「監視さん、私のこと、疑ってますよね」
「え?」
急な告白に心臓が跳ね上がる。
疑っている…それは確かにそうだ、だがその一言が室内の空気を変化させた。
「す、すみませんね、別に貴方がやってるとかじゃないんですけど、これも仕事なものでしてーー」
「……そうですね、監視も大変な仕事なんですね」
「ええ、全く」
膠着した空気が解ける様に場の雰囲気も明るいものへと変わっていく。
だが次の瞬間、監視員は背筋が凍った。
ーー地下、最下層ですーー
開けられた扉の先は暗い、闇のような場所に出たのだった。
「こ、此処は……」
「最下層、地下ですよ」
「…そんな、このマンションに地下の構造なんて――」
「降りますか?」
「降りる訳ないでしょ!早く、1階に!」
「……監視員さん、ずっと私を監視していましたよね?」
「え?」
またしても急な告白に背筋が凍るが、フードからじゃ見えない“目線”が監視員を見抜いていた。
「昨日も、その前も…私の行動をエレベーターの中にある監視モニターで監視していたんじゃないんですか?」
「……そりゃ、監視…だからね」
「だから、私がその悪戯をしている人物…だと?」
そこでタガが外れたように監視員は口に出した。
「そりゃそうだよ!そうさ、監視してたさ!君は毎回ボタンを押して降りる訳でもない階層に行って、しばらくしたら外に出るか4階のフロア帰宅してしまうんだから!」
「……」
「そりゃ悪戯で他の若い子達もきたけど、君此処のマンションの住人でしょ?なのにこんな事して、何が目的なのさ!」
「目的?それはーー案内ですけど」
「案内?フン!誰も居ないじゃないか!君は悪戯にそのボタンを押して遊んでいるだけなんじゃないか!?」
「……そうか、見えないからか」
何か小声で言うなり、エレベーターの扉は閉まる。
あの暗い場所が何だったのかは不明だが、ほどなくして1階に辿り着いた。
「監視員さん、1階ですよ」
「……君は、何なんだ?」
「だから私は案内人ですよ、もう数年は此処やってる」
「その、案内って言うのは何なんだ?」
「降りないんですか?」
「質問に答えてくれ!」
興奮気味に叫ぶ。
フードの…恐らく男は静かにため息をつきながら答えた。
「言葉の通りこのマンションの案内をしているだけですよ、道に迷った人、困ってる人、帰れない人の」
「な、何を言って」
「このままじゃ監視員さんが迷い人になりそうだから、此処で降りた方が良いですよ」
「……君は、どうするんだ」
「続けますよ、案内。定時まではやらないと、テレビ番組のホラー特集の様に、本当に異世界に行かれても困るし」
「そんなものが…存在すると、本気で思っているのか?」
フードの男は少し嘲笑的な乾いた笑いをして答えた。
「思ってますよ、だから此処に私が居る、そうじゃなきゃ此処にいるマンションの住人全員が――」
——彼岸の向こう側に行ってしまうから——
最後に聞いた言葉の意図は不明だったが、彼の言葉がそうさせたのか、監視員は大人しく1階で降りた。
モニター室に戻ると同僚が何かを話ていたが、内容は全く覚えていなかった。
ただこのマンションは思っていた普通とはかけ離れた場所にあるのだと痛感した。
本来はあるはずもない構造、地下があり、その奥は底の見えない暗闇と化していて…何か得体の知れないモノが居たような気さえした。
翌日になって体調不良で休みを取り、マンションの近くまで来たが、平穏なものだった。
住人は普通に暮らしているし、何も問題はない、そう見える。
だが彼の言った言葉の意味が本当なら、このマンションに住む住人は全て危険に晒されていると言う解釈になる。
「あら、監視員さん」
「奥さん、こんにちは」
この方はこのマンションの周辺に住んで居る方で、友人がマンションに住んで居るとかで良く挨拶することがある。
噂好きの人でなんでも知ってる物知りやみたいな感じのイメージが定着してしまった。
「今日は仕事は?」
「少し、休みを取りたく思いまして…」
「あらそうなの…でも無理もないわね」
「え?」
そう言う意味で言った言葉なのか聞こうとすると、おばさんマンションを見上げて語りだした。
「此処は昔事故物件だった場所だからね、元々マンションが建つ前の話だけど」
「え?」
そんな事初耳だ、聞いた事すらない。
「随分昔の話だからね、当時此処に住んでた一軒家で集団自殺があったらしくてね、地下室で見つかったんだって」
「ッ!?」
そんな、それじゃあの地下は本当に――
「しばらくして国庫に帰属してね、国が売却情報を開示して個人で所有した後に、マンションが建ったって訳、一軒家なのに土地だけは広かったからね~」
「……今の、その、オーナーは?」
「生きて居るよ、ただ最初は集団自殺の噂がまだ残ってたばかりだから中々入居者が決まらなくてね、しかも、あそこのエレベーターって“噂付き”だったから」
「噂?」
「なんでも決まった時刻にエレベーターが勝手に作動して、目的地とは関係ない場所に辿り着くとか、頭がおかしくなっちまった連中もいたとかで当初は大騒ぎだっただから」
「……それって、地下…ですか?」
「あらまぁ~、知ってたの?なんでも地下なんてないのに、地下に連れて行かれて、ひたすら暗い闇を見せられたーとか…気味が悪いよ」
「……」
「でも最近は何も起きないけど、今は昔の噂を持ちネタにしようとしてる子供達が悪戯してるって監視員さんの同僚も…あら、顔色悪いよ?大丈夫かい?」
「え、ええ…別に、なん、とも……」
——彼岸の向こう側に行ってしまうから——
つまりは“あの世”のことを示している。
あの案内人と称している男は、この世にいる者をこの世にとどめるために進んで案内人になったってことだろうか?
混乱するもあの時の感覚は忘れようにも忘れられない。
あの案内人も、地下も全てが…異質に見えた。
第二十六怪 黄泉のエレベーター
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