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第16話(第2部・第1話):世界の理の外側へ

「――師匠。これを見てください。……いえ、見てもらうことすらできないのかもしれませんが」


 爽やかな朝日が差し込む継星道場。  朝の「雑巾がけ(もとい重心移動の極意修行)」を終えたエルナが、震える手で自身のステータス画面を空間に投影した。  そこには、第1部での覚醒を経て、さらに異常な進化を遂げた彼女の数値が並んでいる。


「……私のスキル欄、見てください。『聖女』の称号が消えて、『継星流門下生』に書き換わっています。そして……」


 エルナが画面の最下部を指さす。  そこには、本来存在するはずのない不気味なノイズと、赤い文字が点滅していた。


【警告:世界のシステムに不適合な技術体系を検出】 【対象個体:エルナ・ヴァン・ルードリッヒを「エラー」と再定義します】


「……エラー?」  カイは、サヤが焼いた目玉焼きを口に運びながら、面倒そうにその画面を眺めた。


「はい。今朝、ギルドの公式測定器に触れた瞬間、アラートが鳴り響いたんです。私が師匠から教わった『脱力』や『浸透』の技術……。それがシステム側からすれば、『魔法でもスキルでもない、解析不能な不正コード』と見なされているみたいなんです」


「ハッ、失礼な話だな。こっちは先祖代々、汗水垂らして練り上げてきた技術だぞ。不正なんて言われる筋合いはない」


「問題はそれだけじゃないんです。ギルドの理事長が泣きながら電話してきました。……世界中に現れている『ダンジョンの門』の挙動が、一斉に変化した、と」


 カイが箸を止める。  テレビをつけると、緊急ニュースが流れていた。   『――現在、世界各地のS級ダンジョンが突如として黒く変色! 内部から「システム監視者」を名乗る未知の怪物が現れ、既存の探索者たちを一方的に蹂躙しています! 彼らの要求はただ一つ……「エラーの源、継星カイを差し出せ」とのことです!』


 画面には、ニューヨークのタイムズスクエアに降り立った、巨大な銀色の巨人が映し出されていた。  その巨人は、現地のトップ探索者たちが放つ最高位魔法を、まるでハエを払うかのように無造作に弾き飛ばしている。


「……お兄ちゃん。これ、お兄ちゃんのせいなの?」  サヤが不安そうにカイの裾を掴む。


「……俺はただ、道場を守って、飯を食って、稽古をしてるだけだ。それを世界がエラーだと言うなら、勝手に言ってろ」


 カイは立ち上がり、いつものボロボロのジャージに袖を通した。


「エルナ。行くぞ」


「はい! どこへ行かれるのですか?」


「決まってるだろ。文句があるなら直接言いに来いって、その銀色のデカブツに教えに行くんだ。……あと、そいつを倒せば、道場の門の修理代くらいはギルドからせしめられるだろ」


「……ふふっ。相変わらずですね、師匠」


 エルナは嬉しそうに微笑み、杖を構える。  彼女の歩みもまた、もはや魔力によるものではない。大地と調和し、一歩ごとに空間の歪みを修正していくような、古武術の歩法。


 二人が道場の外へ出た瞬間。  上空から、眩いばかりの光の柱が降り注いだ。


「――発見。エラー対象、継星カイ。および、感染個体エルナ」


 光の中から現れたのは、三体の中型の銀色巨人。  『システムの執行者エグゼキューター』。  彼らは現代の武器や魔法が一切通用しないとされる、宇宙の理屈で作られた存在だ。


「エラーの排除を開始する。この領域一帯の物理法則を停止――」


 巨人の一人が手をかざした瞬間、周囲の重力が消失し、瓦礫が宙に浮き始めた。  一般人ならパニックに陥る超常現象。  だが、カイは重力がなくなった空間で、あえて「空気を踏んだ」。


「物理法則の停止? ……笑わせるな」


 カイの姿が、一瞬で巨人の眼前に移動する。  重力がないなら、空気の抵抗を利用すればいい。  質量がないなら、自身の意識(意志)を質量に変えればいい。


「継星流・対神奥義――『虚空こくう』」


 カイの拳が、巨人の銀色の胸板に触れた。    ドォォォォォン!!!


 重力が消失しているはずの世界で、その巨人は「絶対的な重み」に押し潰されるように、地面へと叩きつけられた。  アスファルトが巨大なクレーター状に陥没し、物理法則を無視したはずの巨人の体が、物理的に粉砕されていく。


「……ありえない。重力制御下で、なぜ質量攻撃が成立する……?」  巨人の電子的な音声が激しくノイズを発する。


「あんたらが管理してるのは、せいぜい表面上の『ルール』だろ。継星流が相手にしてるのは、もっと深い根源の『真理』なんだよ」


 カイは残りの二体を見据え、静かに拳を握り直した。


「エラーだか何だか知らないが……うちの道場の敷地内で、勝手にルールを変えるな。ここは俺の場所だ」


 世界を管理する「神のシステム」と、一人の「古武術家」。  人類の歴史が始まって以来、最大の反逆がここから幕を開ける。

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