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第15話:真の敵、ダンジョンの深淵へ

空に穿たれた巨大な亀裂から降り立ったのは、かつてカイが「父」と呼び、背中を追い続けた男――継星一心つぎほし・いっしんだった。  だが、その姿はもはや人のものではない。全身を脈動する黒い魔力回路が走り、その瞳は深い虚無に染まっている。


「……親父。死んだと聞かされていたが、そんな無様な姿で生きていたのか」


「カイよ。私は手に入れたのだ。古武術の完成には、脆弱な肉体という器では足りなかった。魔力という無限のエネルギーと、不滅の肉体。これこそが、継星流が数百年かけて求めてきた答えだ」


 一心がゆっくりと構える。  その構え一つで、周囲の建物がひび割れ、空気が悲鳴を上げる。世界ランク1位のエルナですら、その威圧感に膝をつきそうになっていた。


「……器を大きくしても、中身が腐ってちゃ意味がない。それを教えてやるよ」


 カイは、ゆっくりと、本当にゆっくりと一歩を踏み出した。    ドォォォォン!!!


 一心が動いた。  魔力による超加速と、継星流の『縮地』が合わさった神速。  一撃一撃が戦術核並みの破壊力を持ち、空を裂き、大地を爆ぜさせる。


 対するカイは、魔力を持たない。  だが、彼は「見えて」いた。  父の放つ強大すぎる魔力が、逆に肉体の細かな震えを殺し、技の精度を鈍らせていることを。


「『継星流・合気――天命てんめい』」


 カイは一心の放つ拳を、受け止めず、弾かず、ただ「触れて流した」。  父の強大な魔力が、そのまま父自身の姿勢を崩す重荷へと変わる。


「ぐっ……何だと!? 私の出力に、ただの肉体が対応できるはずが――」


「親父。あんたが捨てた『脆弱な肉体』にはな、魔力にはない『命の拍子』があるんだよ」


 カイの身体が、これまでにないほど深く沈み込んだ。  足の裏から大地のエネルギーを、空気の振動を、そして死んだはずの父の悲しき魂の震えを、すべて拳に集約させる。


「継星流・最終奥義――『星穿・ほしうがち・きわみ』」


 放たれたのは、光り輝くような正拳突き。  魔力ではない。それは、人類が数千年の歴史の中で磨き上げてきた「技術」という名の結晶。


 バキィィィィィィィン!!!


 一心の胸に拳が触れた瞬間、彼を覆っていた禍々しい黒い魔力の鎧が、ガラス細工のように粉々に砕け散った。  衝撃は一心の身体を通り抜け、背後に開いていた「深淵の門」ごと、空を真っ二つに切り裂いた。


「……見事だ、カイ」


 一心の瞳から黒い色が消え、元の穏やかな、しかし厳しい師父の目が戻る。   「技が……魔力を、超えたか……」


「……ああ。俺の勝ちだ、親父」


 一心の身体が光の粒子となって消えていく。組織に操られていた魂が、ようやく解放されたのだ。  空の亀裂が閉じ、戦場に静かな朝日が差し込んだ。


 ――数ヶ月後。


 継星道場の前には、長蛇の列ができていた。  世界中から集まった弟子希望者。そして、その先頭で元気に道場を掃除しているのは、今や「古武術魔法」の開祖として世界を席巻しているエルナだった。


「ほら、そこ! 重心が浮いてますよ! 師匠に怒られたいんですか!?」


 かつての聖女は、すっかり「鬼の筆頭門下生」として板についている。


「お兄ちゃん、お茶入れたよー」  サヤの声が響く。


 カイは縁側に座り、騒がしい弟子たちを眺めながら、一本の竹の棒を磨いていた。  魔力がなくても、ステータスがなくても。  一歩ずつ、正しく地を踏み、拳を練り上げる。  その積み重ねこそが、何よりも強いことを彼は知っている。


「……さて。今日も、稽古を始めるか」


 カイが立ち上がり、空を仰ぐ。  時代遅れと呼ばれた古武術が、新時代の「最強」として語り継がれる物語は、ここからまた新しく始まっていくのだ。

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