第14話:聖女の覚醒と継星流の夜明け
「死ねぇ、時代遅れの遺物が!」
処刑執行人バルトが、巨大な黒斧を振り下ろす。その一撃は、周囲の魔力さえも吸収し、空間を歪ませるほどの質量を持っていた。『ステータス剥奪』の呪印が黒く脈動し、触れた者の生命力を根こそぎ奪い去ろうとする。
だが、カイはその斧の刃先に、指先を添えた。
「――っ!? 指先だけで、私の斧を受け止めたというのか!?」
「言っただろ。0からは何も奪えない。あんたの斧が吸い取ろうとしているのは『魔力の流れ』だ。筋肉の動きそのものを奪うことはできない」
カイは斧の側面に掌を滑らせ、その巨大な質量をそのままバルトの方へと「押し戻した」。 「『合気・重力』」
バルトは自分の斧の重さに振り回され、無様に体勢を崩す。 そこへ、カイが冷徹な一歩を踏み出した。
「エルナ。よく見ておけ。これが本当の『力の伝え方』だ」
カイの全身が、一瞬だけ黄金色に輝いたように見えた。いや、それは魔力ではない。全身の細胞、骨格、そして血流が完全に一つに統制されたときに放たれる、生命そのものの輝き。
ドォォォォォン!!
カイの正拳突きが、バルトの厚さ十センチを超える魔導甲冑を「紙」のように貫いた。 衝撃は裏側にまで突き抜け、背後のゴーグル・ソルジャー数十人を巻き込んで爆散させる。
「ガ、ハッ……馬鹿な……ステータス、上限、突破……だと……」
バルトが膝をつき、絶命する。 しかし、戦いはまだ終わっていない。残された千人以上の兵士たちが、最後の自爆特攻を仕掛けようと、体内の魔力炉を暴走させ始めた。
「まずい! 全員、自爆する気よ!」 防衛隊のメンバーが悲鳴を上げる。三千人分の自爆。それが起きれば、道場どころかこの街一帯が地図から消える。
「……師匠、私にやらせてください」
エルナが前に出た。 彼女の瞳には、先ほどまでの迷いも、恐怖もなかった。 カイの戦い。その「無駄のない理」をずっと見てきた彼女の中で、今、世界最強の魔力と古武術の型が結びつこうとしていた。
「いいのか? 魔法は使うなと言ったはずだぞ」
「いいえ、師匠。私は『魔法を使わない』のではありません。『魔法を継星流の型として放つ』のです」
エルナが、古武術の基本である「正眼の構え」をとる。 その杖はもはやただの武器ではない。彼女の背骨の延長線上にある、一本の芯となっていた。
「『継星流・極意・神聖版――浸透・極光』」
彼女が放ったのは、爆発的な攻撃魔法ではない。 針のように細く、鋭く練り上げられた聖光。 それが、兵士たちの「自爆しようとする魔力の渦」だけを、的確に、内部から貫いていく。 パシュ、パシュ、パシュ……。 次々と兵士たちの魔力炉が停止し、力が抜けていく。 爆発は起きない。ただ、すべての脅威が、エルナの放つ「静かな一撃」によって無力化されていった。
「……見事だ。脱力ができているな」
カイの言葉に、エルナが汗を拭いながら微笑む。 その光景は、現場にいた多くのカメラによって世界中にライブ配信されていた。 『聖女の覚醒』 『古武術と魔法の融合』 『現代探索者の夜明け』 SNSのトレンドは、もはやカイ一人のものではなくなっていた。 それは、失われたはずの「継星流」が、再び世界の中心へと躍り出た瞬間だった。
「お兄ちゃん、終わったの……?」 サヤが道場の陰から顔を出す。
「ああ、終わった。……さて、サヤ。門がめちゃくちゃになっちゃったから、直さないとな」
「もう、お兄ちゃんってば。こんな時にまで道場の心配?」
笑い合う兄妹。 だが、倒れたバルトの死体から、不気味な黒い霧が立ち昇り、空へと昇っていくのをカイは見逃さなかった。
空に開いた巨大な穴――『深淵の門』。 そこから、これまでとは比較にならないほど強大な、そして懐かしい「気配」が降りてくる。
「……やはり、生きていたか。親父」
カイの視線の先。 門から現れたのは、死んだはずのカイの父親――継星流先代当主にして、現在は組織『深淵を覗く者』の最高傑作として改造された男の姿だった。
「……カイ。我が愚かな息子よ。真の稽古を、始めよう」
空から降る、絶望的なまでの威圧感。 世界最高の親子喧嘩が、今、始まろうとしていた。




