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第13話:古武術VS人工スキル

地平線を埋め尽くしたのは、銀色の仮面を被った不気味な兵士たちの群れだった。  その数、およそ三千。  組織『深淵を覗く者』が送り出した、人工スキル搭載型の強化兵『ゴーグル・ソルジャー』の軍勢である。


「……お兄ちゃん、何あれ……多すぎるよ」  サヤの声が震える。道場の周囲は、逃げ遅れた一般市民と、あまりの数に戦意を喪失したギルドの防衛隊でパニックに陥っていた。


「一人がどれだけ強くても、この数……。物理的に手が足りないわ。師匠、私が広域殲滅魔法で焼き払いましょうか!?」  エルナが焦燥を浮かべ、杖に魔力を込める。だが、カイはその手を制した。


「やめておけ。あいつら、互いに魔力の波長を同期させてる。魔法を撃てば、三千人分の反射膜で倍になって返ってくるぞ」


「え……!? そんな、じゃあどうすれば……」


「継星流は元々、戦場での集団戦闘から生まれた武術だ。……多人数を相手にするのに、手なんて二本あれば十分なんだよ」


 カイは一歩、道場の門の外へ踏み出した。  三千の軍勢が、一斉に武器を構える。ある者は魔導剣を、ある者は重火器を。それらすべてが、ただ一人の男に向けられる。


「排除開始」  無機質な機械音声が重なり合い、空気を震わせた。  直後、数百の魔導弾と、数十人の突撃兵が同時にカイへと襲いかかる。


 だが、カイの姿が揺らめいた。


「――『継星流・乱戦法――千切せんぎり』」


 それは、舞いだった。  カイは円を描くように動く。最短距離で。  突進してきた一人の兵士の腕を掴み、その勢いを利用して隣の兵士へと叩きつける。放たれた魔導弾の軌道を見極め、わずかな掌の操作で弾道を逸らし、別の兵士の頭部を撃ち抜かせる。


 バキッ、ドカッ、ガシャァァン!!


 カイ自身はほとんど拳を振るっていない。  ただ、そこに「いる」だけ。  敵が繰り出す攻撃が、すべて味方同士を破壊する凶器へと変えられていく。


「な……信じられない……! まるで、敵全員が師匠の操り人形パペットになったみたい……!」  エルナは愕然とした。  これが古武術の集団戦法。敵の数が増えれば増えるほど、利用できる「力のベクトル」が増え、カイの強さは加速度的に増していくのだ。


「無駄だ。あんたらは『スキル』というマニュアルに縛られすぎている。動きが機械的すぎて、次の動作が手に取るように分かる」


 カイは兵士の肩を跳び箱のように蹴り、空中へと舞い上がった。   「『奥義・落星おちぼし』」


 着地と同時に、地面を通じて一気に衝撃を波及させる。  魔力ではない。純粋な振動の連鎖。    ドォォォォォン!!!


 カイを中心とした半径五十メートルの兵士たちが、まるでドミノ倒しのように一斉に吹き飛んだ。人工スキルの防御膜は、地面から伝わる物理的な「震え」には全く反応できなかった。


「……次、誰だ?」


 三千いたはずの軍勢が、わずか数分で半分以下にまで減っていた。  機械のように冷徹だった兵士たちの動きに、初めて「迷い」が生じる。


 その時。  軍勢の後方から、これまでの雑兵とは一線を画す、圧倒的な威圧感を持った男が現れた。  男は重厚な甲冑を纏い、背中には身の丈を超える巨大な斧を背負っている。


「……面白い。数による暴力すら、技術で受け流すか」


「あんたが親玉か?」


「私は『深淵を覗く者』の処刑執行人、バルト。継星カイ……貴様のその肉体、バラバラにして研究素材にさせてもらうぞ」


 バルトが大斧を振り上げた。  その斧には、この世界に数本しか存在しないと言われる『ステータス剥奪ステータス・ドレイン』の呪印が刻まれていた。  触れるだけで相手の能力値を吸い取る、現代探索者にとって最悪の武器。


 だが。  カイは、それを見て鼻で笑った。


「……剥奪? 0(ゼロ)から何を吸い取るつもりだ?」


「何……?」


「来いよ。あんたの言う『ステータス』の限界、俺の拳で教えてやる」


 二人の強者が対峙する。  世界の常識を司る「ステータス」と、それを真っ向から否定する「古武術」。  真の最強を決める決戦が、今、始まろうとしていた。

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