第10話:ネットの反応:【悲報】世界1位の聖女様、山奥の道場に幽閉される?
継星カイがバイト(近所のコンビニの品出し)をしている間、ネット上では「世界がひっくり返る」ほどの騒ぎが起きていた。
■探索者総合掲示板:1568スレ目
1:名無しの探索者 【速報】S級パーティ『黄金の夜明け』、全滅。
2:名無しの探索者 は? あのレオポルドが? 相手は魔王級か何かか?
3:名無しの探索者 いや……ジャージ姿の男に「通り魔」されたらしい。 つーか、レオポルドの魔導剣(時価5億)が指先一つでボロ雑巾みたいにへし折られてたぞ。
4:名無しの探索者 動画見た。あの動き、何? 聖女エルナ様が雑巾がけしてて、敵が吹っ飛んだあとに「師匠! 今の脱力、合ってましたか!?」って尻尾振ってたぞ。 俺たちの知ってる聖女様はどこへ行ったんだ……。
12:名無しの探索者 その師匠の名前が判明したぞ。 『継星カイ』。古武術・継星流の現当主。 魔力適性測定の結果がリークされたけど……驚きの「0」だ。
13:名無しの探索者 は!? 0!? 0ってことは、ステータス補正が一切かからないただの一般人だぞ? 一般人がS級をワンパンして魔導武器を破壊するのかよ。どんなバグだよ。
25:名無しの探索者 【悲報】ギルド本部、ついに折れる。 本日付で継星カイに『特S級』の称号と、国家予算レベルの助成金を出すことを決定。 ついでに道場までの私道を「立ち入り禁止区域」に指定。取材陣が多すぎて業務妨害になってるらしい。
「……はぁ、帰りにくいな」
バイト帰りのカイは、道場の近くまで来て足を止めた。 見慣れたボロ道場の周囲には、黒塗りの車と、明らかにカタギではないオーラを放つSPたちが並んでいる。
「師匠! お帰りなさいませ!」
エルナが道着(サヤが買ってきた安いもの)を身に纏い、全力で駆け寄ってくる。 その後ろには、ギルドの最高責任者である理事長が、額の汗を拭いながら立っていた。
「継星カイ殿。あなたが今日、レオポルド君の剣を折った時の映像……あれは、人類の至宝です。ぜひ、我がギルドの公式教本に……」
「断る。あれは門外不出だ。それに、あんたらの言う『ステータス』の考え方じゃ、一生理解できない」
カイは冷たく言い放つと、理事長を無視して道場の中へ入った。 夕飯の準備を始めたサヤが、包丁を動かしながら笑う。
「お兄ちゃん、もう有名人だね。さっき、アメリカの探索者協会からも電話あったよ?」
「……無視していい。俺は道場を静かに守れればそれでいいんだ」
しかし、その「静寂」は、内側からではなく「外側」から壊されようとしていた。
その夜。 カイは道場の裏にある竹林で、一人、正拳突きを繰り返していた。 音もしない。風も揺れない。 ただ、拳が突き出された先の空間だけが、歪んだように一瞬だけ白む。
「……隠れて見てるなら、出てこい。殺気が漏れてるぞ」
カイが動きを止めずに言う。 闇の中から、スッと一人の影が現れた。
黒い忍装束のような服。顔は仮面で覆われている。 だが、その男が立っている「足運び」を見た瞬間、カイの動きが止まった。
「……その足捌き、どこで覚えた」
「……久しいな、継星の『落ちこぼれ』よ」
仮面の男が低く笑う。 男は腰の刀に手をかけた。その構えは、カイが毎日鏡で見ている「継星流」の型と、酷似していた。
「本家の当主が魔力0とは、嘆かわしい。我ら『裏・継星流』が、この腐った歴史に幕を引いてやろう」
「……裏、だと?」
次の瞬間、仮面の男が踏み込んだ。 カイの『無拍子』と同等の、あるいはそれを超える速度の抜刀術。
キィィィン!!
カイは手近にあった竹の棒を拾い、その一撃を受け流した。 竹がささくれ立ち、カイの頬をかすめる。
「(……魔力を使っている。だが、技の理屈は同じ。親父が言っていた『禁忌を犯した門下生』か)」
「どうした、本家当主。逃げるのが精一杯か?」
男の剣速が上がる。 これまでの敵とは違う。古武術の弱点も、隙も、すべて知り尽くしている相手だ。
道場の静かな夜は、因縁という名の血の雨によって塗り替えられようとしていた。




