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護る者たちの島  作者: 本郷 不羇雄
総司令部の「予備」
9/10

中央官衙の予備士官

昭和18年、例年同様、日比谷公園の桜が、いつくか花をつけていた。

海上護衛総隊司令部付、三井大尉は、いつものとおり、あえて日比谷公園を横切って司令部庁舎へ入っていった。

衛兵に敬礼し、門をくぐる。そして、司令部庁舎の中に入ると、「幕僚事務室」という札のかかった一室の前に立った。廊下に並んだ帽子掛けに軍帽をかける。短剣も同様である。室内に入り、入口に近い自分の席に着いた。机の上の新聞記事に目を落とす。

「南太平洋方面戦線の新作戦確立 ガダルカナル島より陸海軍転進」

1面トップに大きく記載されたゴジック体を見る。戦争だから仕方ないとはいえ、いろいろ考える。


三井大尉は、兵学校出身の海軍将校ではない。大学出の予備士官である。

海軍は、昭和初年より、航空予備学生制度による海軍将校採用策をとっていた。航空兵力の拡充とそれに伴う航空隊士官の不足のためである。さらに、海軍は、防備部隊も士官が不足することに気づいた。陸戦も同様である。そこで、海軍は、昭和11年より航空隊の他、陸戦、通信、防備についても予備学生制度を発足させた。

三井大尉は、その第二世代にあたると言える。

ごく初期の頃、つまり第一世代は、おおむね1年の教育期間を終えると応召は解除され、有事の際に召集されることになっていた。だが、昭和14年の支那事変、更に(誰もが信じられないほど急速に悪化した)日米、日英関係の緊張により、海軍予備学生は年々倍々と採用数が増加した。かつては「優秀かつ本人が希望する者」が引き続き海軍に奉職することが建前だった。が、第二世代は、教育期間終了後は即日応召され軍務に就くことになった。

 三井大尉は、昭和12年の豆満江流域の中朝(もっとも、朝は既に大戦争(第一次世界大戦)後、日本の完全な支配下にあったので、日中といえる。)でのいざこざを受け、近いうちに何かあることを予見した。大きな時代の波に飲み込まれる、それならより有利な地位、要するに予備でもなんでも「士官」になっておくには如かず、と考えた。ということで、防備予備学生に応募した(軍、というか好き好んで窮屈な世界に飛び込むこと、また親族に陸士出の陸軍将校もいたので、周りには歓迎されなかったが。)。

 大学生の間で、海軍予備学生は、何と言っても「航空」が人気だった。が、彼は、そこは一考し、要するに危険性の低さを考えて「防備」を選んだ。

そんな彼にとって、海護総隊司令部付、という配置は非常に意外だった。そんなところに、予備学生出の士官が配属されるとは思わなかったからである。


 記事を見ながら思う。

 これで、豪州を戦争から脱落させる道はなくなった。この戦争は、まだ続く。問題はいつまで続くか。というか、続けられるか。


 三井大尉は、彼の立場で考えうることをやっていた。

 大尉昇進直後、「海護総隊司令部付」という辞令をもらったとき、率直に言って「嫌なところに行く」と思った。できれば、対潜学校の方に回してほしい、思った。

 おそらく、書類の整理が主な仕事になる。情報に触れることはあっても、それを活用する機会なんてない。何なら、もっと若手の予備士官に任せてもよい。それより、新しい対潜戦術や兵器の開発に貢献したかったし、それができるのは対潜学校の方がまだしも、と思っていた。三井大尉は、海軍とは違うアプローチでの対潜戦術と対潜兵器の活用を考えていた。


 ところが、実際に来て、全く、良い意味で予想外れであった。

 まず、所帯、つまり司令部の規模が小さかった。

 なにより、井上長官以下の考え方である。井上長官は、軍人というより学者、という評が当てはまる人だった。長官自身から指示をされる、というわけではない。しかし、彼が海軍、特に艦隊などで感じた「人の話を聞かない、四角四面で戦下手」ということとは遠い、一言で言えばリベラルな雰囲気だった。

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