私、婚約破棄された悪役令嬢! なぜか悪役令嬢を集めたデスゲームに参加することになったんだけど!?
「セリア・フィネル! お前との婚約を破棄する!」
卒業パーティで、殿下がそう言い出した時、私は『やっぱりね……』と思っていた。
私も馬鹿じゃない。
婚約者の興味が、私から離れていたことくらいわかる。
今だって、あまりにもわかりやすい構図だ。
キリッとした顔で、私を指さしているのは私の婚約者。
そして、そんな彼のそばには、男爵令嬢(ピンク髪、ぶりっこ)がぶら下がっている。
「……理由をお聞かせくださいませ。殿下」
「ふん、お前が散々、彼女に嫌がらせをしていたことは判明しているのだぞ! 自分より立場が弱いものをいじめる女など、私の婚約者にふさわしくない!」
殿下は勝ち誇った顔で、そう告げる。
私は大きなため息をつきたい衝動を堪えた。
まったく……この人の目には何が見えているのだろう?
彼の主張に反論するべく、口を開いた。
――瞬間。
――暗転。
………………えっ?
景色が一瞬にして、切り替わった。
私は気が付いたら、知らない部屋の中にいた。
ちょっと……どこ、ここ?
私の他にも、ドレス姿の女性が何人もいる。皆、困った顔で辺りを見渡していた。
そばにいた女性と目が合う。彼女は困ったように、口元を扇で覆った。
「その……あなたは?」
「セリアと申します」
「私はアンジェリカよ。これはいったい何事なの……?」
私たちは目を合わせて、お互いに眉をひそめる。どうやらこの状況を理解できていないのは、アンジェリカも同じようだ。
すると、他の令嬢たちが次々に喚き出した。
「ここは!?」
「どこですの!」
「わたし、今、婚約破棄の会場にいたはずなのに!?」
「私は冤罪をかけられて、処刑されそうになっていたはずなのに!!」
その時だった。
壁一面が光り出す。
そこに人影が映し出された。
その姿に、皆は息を呑む。
素顔がわからない。
その人は不気味な仮面をかぶっていたからだ。
『ようこそお集まりくださいました、悪役令嬢の皆様』
普通の人間の声とは異なる……不気味な声が響いた。
『今から皆様には、ハッピーエンドの権利をめざして、とあるゲームをしていただくことになります』
「ハッピーエンドの権利……!?」
「いったいなんですの、それは!」
何……?
何が起きているの、これは。
隣を見ると、アンジェリカは真剣な顔付きで、仮面の人物を見つめている。だから、私も口をつぐんで、今は彼の話に耳を傾けることにした。
『お集まりいただいた悪役令嬢は全部で10名。素敵なハッピーエンドの権利を得られる者は、ゲームの勝者のみ。そのハッピーエンドとは――理想の配偶者を得られるというものです。たとえば、隣国のハイスペ超美形王子とか』
「出たわね! いつでもポッと出でやって来る、隣国の王子……!」
「でも、ハイスペ権力持ち男にはやっぱり敵わないわ! 素敵!!」
そんなざわめきの声が上がる。
そんな中、
「待って、そんなの、褒美にはならないわ!」
1人の令嬢が騒ぎ出した。
「だって、私、溺愛なんていらないもの!」
「あれは……! “溺愛なんていらないタイプ”の悪役令嬢だわ!」
アンジェリカがハッとして、私にささやく。
何なの、そのタイプは……? 意味がわからない。
次に、別の令嬢が叫び出した。
「バカバカしい! 何なの、この状況! 付き合っていられないわ」
彼女はそう言って、扉へと向かう。
この部屋に窓はない。出入り口は1つだけ設置されていた。彼女はそこへと真っすぐ突き進む。
「こんなところにはいられない! 私はもう、大変な暮らしにも展開にもうんざりしているの! 三食昼寝付きでゴロゴロさせてくれるお城に、早く戻らなくては!」
「あれは……! “人生に疲れて、のんびりできる生活を求めているタイプ”の悪役令嬢!」
アンジェリカがまたもや、ささやいた。
……悪役令嬢ってもしかして、タイプ分けができるの……?
その“のんびりしたいタイプ”の悪役令嬢さんが、扉に触れようとした……その時。
ピピピピッ……!
警告音のようなものが鳴る。
そして、彼女の持っている扇が、赤く点滅した――!
『おっと、それ以上は進まないことをオススメいたします。皆様がお持ちの悪役令嬢マストアイテム……“扇”には、とある仕掛けをさせていただきました。この部屋から出ようとすると、即座に爆破いたします』
「どういうこと! この扇……手から外せないわ!!」
そこで私も気付いた。
私……いつの間にか、扇を手にしている。
それもなぜか、手から離すことができない……!
扉に近付いた令嬢は、顔をしかめて、そっと扉から離れた。
すると、扇の警告音と光はやむ。
辺りは一気にシーンとなった。
皆、緊張感を帯びた顔で、仮面男を見つめる。
『それでは、ルール説明に戻りましょう。このゲームに勝利した悪役令嬢には、誰もが満足して、満点評価をいれたくなるような素敵なハッピーエンドを得ることができます。しかし、逆にこのゲームに敗れた悪役令嬢には――賛否両論の嵐が巻き起こる、バッドエンド、もしくはメリバエンドへと突き進んでいただきます』
彼が何を言っているのかよくわからないけど、口を挟む勇気もないので、私は黙っていた。
『具体的には……国外追放エンド、処刑エンド。そして、序盤は散々冷遇してきたくせに、突然あなたに惚れて、ちやほやしてくるメインヒーロー(?)との復縁からの結婚、これ本当に幸せなのか!?エンドが待ち受けております』
「いや……! 最後のだけは絶対いやよ! もやもやが止まらない!!」
アンジェリカが絶望の顔で叫んだ。
……?? よく意味が……?
その時だった。
「……そう。また始まってしまったのね」
そんな静かな声がかかった。
壁に寄りかかって、腕を組んでいる令嬢がいる。彼女だけ雰囲気が異なっていた。何かを悟ったような……歴戦の戦士のような、風格のある令嬢だったのだ。
アンジェリカが彼女に問いかける。
「あなたは……!? まさか、このゲームのこと、何か知ってるの?」
「ええ……。私、“人生をループしてるタイプ”の悪役令嬢ですので……」
「このゲームもループで参加してるのね!?」
また新たなタイプの人が現れた。
アンジェリカは真剣な表情で彼女に問いかける。
「どうしたら、このゲームから逃げられるの!? 教えて!」
「逃れる方法なんて、ないの。私たちにできることはただ1つ……ゲームのルールには絶対に従うということよ。あと、悪役令嬢たるもの、すぐに浮気に走るような馬鹿男はグーパンで撃退する度胸を身につけておきましょうね」
「さすが“ループタイプ”の悪役令嬢の言葉ね! 重みがちがうわ!!」
確かに殿下のことは、1発か2発、ぶん殴ってやればよかった……! 本当に言葉の重みがちがうわ! “ループタイプ”の悪役令嬢!!
『さて……それでは、肝心のゲームルールについて、説明させてもらいましょう』
仮面男の言葉に、皆はごくりと息を呑む。
厳かな雰囲気が漂う中、彼は告げた。
『皆様の中に、本当は悪役令嬢ではないのに、悪役令嬢を騙る偽物がいます』
「「「!!?」」」
皆の視線が途端に、据わったものに変わる。そして、疑心の目を周囲へと向けた。
アンジェリカがハッとして、告げる。
「これは……悪役令嬢人狼ゲームよ!」
「何なの、それ」
「『とりあえず、悪役令嬢ってつけておけば安泰だろう!』っていう思考で、そのタグを付けられてしまう……それは悲しき咎なのよ……。そう……この中にも、いるのね。悪役令嬢の、偽物が!」
『皆様には偽物を探していただきます。そして、偽物だと思う1人に投票してもらいます。投票で1位になった悪役令嬢は追放されます。無事に偽物を追放することができれば、あなたたちの勝利です。逆に投票者が3名以下になった場合、偽物側の勝利となります』
「なるほど、そういうことね……」
アンジェリカは何かを悟ったように呟いている。
……私には何もわからない……!!
『それでは、悪役令嬢の皆さま。さっそくゲームを始めましょうか。次の投票までの制限時間は10分。さあ、素敵なハッピーエンドを目指して……! ドアマットな状況でも、あがき苦しみましょう!』
こうして、私たちの命を賭けた、壮絶なデスゲームが始まってしまった。
「それでは皆さん、自己紹介から始めましょうか。どうして悪役令嬢となったのか、その理由も合わせてお願いします」
アンジェリカの言葉で、1人ずつ自己紹介を始める。
皆、冤罪をかけられていたり、婚約破棄されていたり、処刑されそうになっていたり……壮絶な人生を歩んでいた。
「それで私は、婚約者とは別れて、畑を耕すことにしたんです」
「“スローライフタイプ”の悪役令嬢のようね」
「私は王都から逃げ出して、魔導具を作ることに決めたのよ」
「“物作りタイプ”の悪役令嬢もいるわ!」
本当にいろんなタイプの悪役令嬢がいた。
でも、どれが偽物なのかなんて、わからない。
『それでは皆さま。投票のお時間です。偽物だと思う1名に、投票をお願いします』
投票は粛々と進んでいった。
1人……また1人と、悪役令嬢が追放されていく。
そして、私たちはとうとう4人となってしまった。
まだ偽物は見つからない。
この投票が失敗に終わったら……負けが確定となる。
すると、アンジェリカが私に耳打ちをした。
「聞いて。セリア。次は、あの”物作りタイプ”の彼女に投票しましょう」
「どうして?」
「彼女のストーリーを聞いた? 追放されて、でも、本当は有能な技術者だったから、隣国でその才能を認められて、幸せになる予定と言っていたわね。いい? あれは恋愛ジャンルじゃない! 本来はハイファンタジーのはずなの!」
「……なるほど」
そして……最終投票も終わった。
投票結果が開示される。
その結果――。
アンジェリカ 3票
彼女に票が集まっていた。
アンジェリカは愕然として、私を見た。
そう……私も彼女に投票したのだ。
「どうして……私に投票したの? セリア……」
私は静かな眼差しで、彼女を見つめた。
「だって、あなたでしょう? 偽物は」
「………………」
アンジェリカは思いつめた表情で俯く。
沈黙……。
のちに、渇いた笑い声が漏れた。
「あーあ……うまく偽装できていると思っていたのに。どうしてバレちゃったのかなあ?」
「それは、あなたのあらすじよ。ずっと変だと思っていたの」
アンジェリカは自己紹介の時に言っていた。
婚約者に浮気されて、婚約破棄を告げられた。
アンジェリカはそれを快諾。彼の浮気の証拠を見つけ出して、慰謝料を請求することを決めたのだという。
「だって、あなたのストーリーには、メインヒーローが存在しないわ! そんなのは、恋愛ジャンルとは呼べないじゃない……」
「ふふ、気付いてしまったのね。そう……私は本当は『ジャンル:ヒューマンドラマ』なのに、浸食を果たした悪役令嬢……。本来のジャンルとは異なる、偽物だったのよ。ふふ……あはははは……!」
彼女は笑った。
でも、その顔は切なそうに歪んでいる。
空虚な笑い声が、辺りに響き渡った。
こうして、ゲームは終わった。
偽物が見つかったのだから。私たちの勝利だ。
アンジェリカは殊勝な顔で、私に声をかけてくる。
「ねえ、セリア。私は本当は偽物だったけど……。婚約破棄されたのは本当なの。だから、あなたのつらさもわかるつもりよ。あなたは幸せになってね」
「アンジェリカ……」
『このゲームを無事に勝ち残った、悪役令嬢の皆さま。おめでとうございます。あなた方にはお約束通り、ハッピーエンドの権利を……』
「待ちなさい」
私は仮面男の言葉を遮った。
「ゲームの勝利者には、ハッピーエンドの権利をくれるって言っていたわよね。それなら、私の望むハッピーエンドにしてもらうわ。とりあえず、隣国のハイスぺ王子はいらないから、消しておいて」
「セリア……!? どうして? まさかあなたも、“溺愛なんていらないタイプ”の悪役令嬢だったの?」
「いいえ。ちがうわ」
アンジェリカは目をぱちくりさせている。
私はほほ笑んで、彼女と顔を合わせた。
「ふふ……まだ気付いていないのね。ゲームの管理人は『この中に偽物がいる』って言ってたわね。それが何も、1人だけだとは告げていないわ」
「え……? まさか……!?」
「そう、私も悪役令嬢の偽物だったの」
「セリア……」
私も本来のジャンルとはちがうけれど、『悪役令嬢』のタグを付けられていた。
でも、そのおかげで、彼女とこうして出会えたのだから……。
「私に付けられたタグは、『GL』よ! アンジェリカ、私と一緒に来て。幸せになりましょう」
「…………っ!」
アンジェリカは目を見張る。
その瞳に涙がこみ上げて、頬が赤く染まった。
「ああ……セリア!」
私の手を握りしめながら、彼女は泣き崩れる。
そして、私たちは元の婚約破棄会場に戻った。
それぞれの婚約者・馬鹿王子をグーパンで撃退。
「セリア! また会えたのね!」
「アンジェリカ……!」
私たちは無事に再会を果たして、ハッピーエンドを迎えたのだ。
めでたし、めでたし。
終わり
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