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コメディ短編

私、婚約破棄された悪役令嬢! なぜか悪役令嬢を集めたデスゲームに参加することになったんだけど!?

掲載日:2024/03/02

 



「セリア・フィネル! お前との婚約を破棄する!」




 卒業パーティで、殿下がそう言い出した時、私は『やっぱりね……』と思っていた。

 私も馬鹿じゃない。

 婚約者の興味が、私から離れていたことくらいわかる。


 今だって、あまりにもわかりやすい構図だ。


 キリッとした顔で、私を指さしているのは私の婚約者。

 そして、そんな彼のそばには、男爵令嬢(ピンク髪、ぶりっこ)がぶら下がっている。


「……理由をお聞かせくださいませ。殿下」

「ふん、お前が散々、彼女に嫌がらせをしていたことは判明しているのだぞ! 自分より立場が弱いものをいじめる女など、私の婚約者にふさわしくない!」


 殿下は勝ち誇った顔で、そう告げる。


 私は大きなため息をつきたい衝動を堪えた。

 まったく……この人の目には何が見えているのだろう?


 彼の主張に反論するべく、口を開いた。







 ――瞬間。






 ――暗転。








 ………………えっ?



 景色が一瞬にして、切り替わった。

 私は気が付いたら、知らない部屋の中にいた。


 ちょっと……どこ、ここ?


 私の他にも、ドレス姿の女性が何人もいる。皆、困った顔で辺りを見渡していた。

 そばにいた女性と目が合う。彼女は困ったように、口元を扇で覆った。


「その……あなたは?」

「セリアと申します」

「私はアンジェリカよ。これはいったい何事なの……?」


 私たちは目を合わせて、お互いに眉をひそめる。どうやらこの状況を理解できていないのは、アンジェリカも同じようだ。

 すると、他の令嬢たちが次々に喚き出した。


「ここは!?」

「どこですの!」

「わたし、今、婚約破棄の会場にいたはずなのに!?」

「私は冤罪をかけられて、処刑されそうになっていたはずなのに!!」


 その時だった。


 壁一面が光り出す。

 そこに人影が映し出された。

 その姿に、皆は息を呑む。


 素顔がわからない。

 その人は不気味な仮面をかぶっていたからだ。


『ようこそお集まりくださいました、悪役令嬢の皆様』


 普通の人間の声とは異なる……不気味な声が響いた。


『今から皆様には、ハッピーエンドの権利をめざして、とあるゲームをしていただくことになります』


「ハッピーエンドの権利……!?」

「いったいなんですの、それは!」


 何……?

 何が起きているの、これは。


 隣を見ると、アンジェリカは真剣な顔付きで、仮面の人物を見つめている。だから、私も口をつぐんで、今は彼の話に耳を傾けることにした。


『お集まりいただいた悪役令嬢は全部で10名。素敵なハッピーエンドの権利を得られる者は、ゲームの勝者のみ。そのハッピーエンドとは――理想の配偶者を得られるというものです。たとえば、隣国のハイスペ超美形王子とか』


「出たわね! いつでもポッと出でやって来る、隣国の王子……!」

「でも、ハイスペ権力持ち男にはやっぱり敵わないわ! 素敵!!」


 そんなざわめきの声が上がる。

 そんな中、


「待って、そんなの、褒美にはならないわ!」


 1人の令嬢が騒ぎ出した。


「だって、私、溺愛なんていらないもの!」

「あれは……! “溺愛なんていらないタイプ”の悪役令嬢だわ!」


 アンジェリカがハッとして、私にささやく。


 何なの、そのタイプは……? 意味がわからない。

 次に、別の令嬢が叫び出した。


「バカバカしい! 何なの、この状況! 付き合っていられないわ」


 彼女はそう言って、扉へと向かう。

 この部屋に窓はない。出入り口は1つだけ設置されていた。彼女はそこへと真っすぐ突き進む。


「こんなところにはいられない! 私はもう、大変な暮らしにも展開にもうんざりしているの! 三食昼寝付きでゴロゴロさせてくれるお城に、早く戻らなくては!」

「あれは……! “人生に疲れて、のんびりできる生活を求めているタイプ”の悪役令嬢!」


 アンジェリカがまたもや、ささやいた。

 ……悪役令嬢ってもしかして、タイプ分けができるの……?


 その“のんびりしたいタイプ”の悪役令嬢さんが、扉に触れようとした……その時。


 ピピピピッ……!


 警告音のようなものが鳴る。

 そして、彼女の持っている扇が、赤く点滅した――!


『おっと、それ以上は進まないことをオススメいたします。皆様がお持ちの悪役令嬢マストアイテム……“扇”には、とある仕掛けをさせていただきました。この部屋から出ようとすると、即座に爆破いたします』


「どういうこと! この扇……手から外せないわ!!」


 そこで私も気付いた。

 私……いつの間にか、扇を手にしている。

 それもなぜか、手から離すことができない……!


 扉に近付いた令嬢は、顔をしかめて、そっと扉から離れた。

 すると、扇の警告音と光はやむ。


 辺りは一気にシーンとなった。

 皆、緊張感を帯びた顔で、仮面男を見つめる。


『それでは、ルール説明に戻りましょう。このゲームに勝利した悪役令嬢には、誰もが満足して、満点評価をいれたくなるような素敵なハッピーエンドを得ることができます。しかし、逆にこのゲームに敗れた悪役令嬢には――賛否両論の嵐が巻き起こる、バッドエンド、もしくはメリバエンドへと突き進んでいただきます』


 彼が何を言っているのかよくわからないけど、口を挟む勇気もないので、私は黙っていた。


『具体的には……国外追放エンド、処刑エンド。そして、序盤は散々冷遇してきたくせに、突然あなたに惚れて、ちやほやしてくるメインヒーロー(?)との復縁からの結婚、これ本当に幸せなのか!?エンドが待ち受けております』


「いや……! 最後のだけは絶対いやよ! もやもやが止まらない!!」


 アンジェリカが絶望の顔で叫んだ。


 ……?? よく意味が……?


 その時だった。


「……そう。また始まってしまったのね」


 そんな静かな声がかかった。


 壁に寄りかかって、腕を組んでいる令嬢がいる。彼女だけ雰囲気が異なっていた。何かを悟ったような……歴戦の戦士のような、風格のある令嬢だったのだ。

 アンジェリカが彼女に問いかける。


「あなたは……!? まさか、このゲームのこと、何か知ってるの?」

「ええ……。私、“人生をループしてるタイプ”の悪役令嬢ですので……」

「このゲームもループで参加してるのね!?」


 また新たなタイプの人が現れた。

 アンジェリカは真剣な表情で彼女に問いかける。


「どうしたら、このゲームから逃げられるの!? 教えて!」

「逃れる方法なんて、ないの。私たちにできることはただ1つ……ゲームのルールには絶対に従うということよ。あと、悪役令嬢たるもの、すぐに浮気に走るような馬鹿男はグーパンで撃退する度胸を身につけておきましょうね」

「さすが“ループタイプ”の悪役令嬢の言葉ね! 重みがちがうわ!!」


 確かに殿下のことは、1発か2発、ぶん殴ってやればよかった……! 本当に言葉の重みがちがうわ! “ループタイプ”の悪役令嬢!!


『さて……それでは、肝心のゲームルールについて、説明させてもらいましょう』


 仮面男の言葉に、皆はごくりと息を呑む。

 厳かな雰囲気が漂う中、彼は告げた。


『皆様の中に、本当は悪役令嬢ではないのに、悪役令嬢を騙る偽物がいます』


「「「!!?」」」


 皆の視線が途端に、据わったものに変わる。そして、疑心の目を周囲へと向けた。

 アンジェリカがハッとして、告げる。


「これは……悪役令嬢人狼ゲームよ!」

「何なの、それ」

「『とりあえず、悪役令嬢ってつけておけば安泰だろう!』っていう思考で、そのタグを付けられてしまう……それは悲しき咎なのよ……。そう……この中にも、いるのね。悪役令嬢の、偽物が!」


『皆様には偽物を探していただきます。そして、偽物だと思う1人に投票してもらいます。投票で1位になった悪役令嬢は追放されます。無事に偽物を追放することができれば、あなたたちの勝利です。逆に投票者が3名以下になった場合、偽物側の勝利となります』


「なるほど、そういうことね……」


 アンジェリカは何かを悟ったように呟いている。

 ……私には何もわからない……!!


『それでは、悪役令嬢の皆さま。さっそくゲームを始めましょうか。次の投票までの制限時間は10分。さあ、素敵なハッピーエンドを目指して……! ドアマットな状況でも、あがき苦しみましょう!』


 こうして、私たちのハッピーエンドを賭けた、壮絶なデスゲームが始まってしまった。






「それでは皆さん、自己紹介から始めましょうか。どうして悪役令嬢となったのか、その理由も合わせてお願いします」


 アンジェリカの言葉で、1人ずつ自己紹介を始める。

 皆、冤罪をかけられていたり、婚約破棄されていたり、処刑されそうになっていたり……壮絶な人生を歩んでいた。



「それで私は、婚約者とは別れて、畑を耕すことにしたんです」

「“スローライフタイプ”の悪役令嬢のようね」

「私は王都から逃げ出して、魔導具を作ることに決めたのよ」

「“物作りタイプ”の悪役令嬢もいるわ!」



 本当にいろんなタイプの悪役令嬢がいた。

 でも、どれが偽物なのかなんて、わからない。


『それでは皆さま。投票のお時間です。偽物だと思う1名に、投票をお願いします』





 投票は粛々と進んでいった。

 1人……また1人と、悪役令嬢が追放されていく。


 そして、私たちはとうとう4人となってしまった。

 まだ偽物は見つからない。

 この投票が失敗に終わったら……負けが確定となる。


 すると、アンジェリカが私に耳打ちをした。


「聞いて。セリア。次は、あの”物作りタイプ”の彼女に投票しましょう」

「どうして?」

「彼女のストーリーを聞いた? 追放されて、でも、本当は有能な技術者だったから、隣国でその才能を認められて、幸せになる予定と言っていたわね。いい? あれは恋愛ジャンルじゃない! 本来はハイファンタジーのはずなの!」

「……なるほど」





 そして……最終投票も終わった。

 投票結果が開示される。


 その結果――。




 アンジェリカ 3票




 彼女に票が集まっていた。

 アンジェリカは愕然として、私を見た。


 そう……私も彼女に投票したのだ。


「どうして……私に投票したの? セリア……」


 私は静かな眼差しで、彼女を見つめた。


「だって、あなたでしょう? 偽物は」

「………………」


 アンジェリカは思いつめた表情で俯く。

 沈黙……。

 のちに、渇いた笑い声が漏れた。


「あーあ……うまく偽装できていると思っていたのに。どうしてバレちゃったのかなあ?」

「それは、あなたのあらすじよ。ずっと変だと思っていたの」


 アンジェリカは自己紹介の時に言っていた。

 婚約者に浮気されて、婚約破棄を告げられた。

 アンジェリカはそれを快諾。彼の浮気の証拠を見つけ出して、慰謝料を請求することを決めたのだという。


「だって、あなたのストーリーには、メインヒーローが存在しないわ! そんなのは、恋愛ジャンルとは呼べないじゃない……」

「ふふ、気付いてしまったのね。そう……私は本当は『ジャンル:ヒューマンドラマ』なのに、浸食を果たした悪役令嬢……。本来のジャンルとは異なる、偽物だったのよ。ふふ……あはははは……!」


 彼女は笑った。

 でも、その顔は切なそうに歪んでいる。

 空虚な笑い声が、辺りに響き渡った。





 こうして、ゲームは終わった。

 偽物が見つかったのだから。私たちの勝利だ。


 アンジェリカは殊勝な顔で、私に声をかけてくる。


「ねえ、セリア。私は本当は偽物だったけど……。婚約破棄されたのは本当なの。だから、あなたのつらさもわかるつもりよ。あなたは幸せになってね」

「アンジェリカ……」


『このゲームを無事に勝ち残った、悪役令嬢の皆さま。おめでとうございます。あなた方にはお約束通り、ハッピーエンドの権利を……』


「待ちなさい」


 私は仮面男の言葉を遮った。


「ゲームの勝利者には、ハッピーエンドの権利をくれるって言っていたわよね。それなら、私の望むハッピーエンドにしてもらうわ。とりあえず、隣国のハイスぺ王子はいらないから、消しておいて」

「セリア……!? どうして? まさかあなたも、“溺愛なんていらないタイプ”の悪役令嬢だったの?」

「いいえ。ちがうわ」


 アンジェリカは目をぱちくりさせている。

 私はほほ笑んで、彼女と顔を合わせた。


「ふふ……まだ気付いていないのね。ゲームの管理人は『この中に偽物がいる』って言ってたわね。それが何も、1人だけだとは告げていないわ」

「え……? まさか……!?」

「そう、私も悪役令嬢の偽物だったの」

「セリア……」


 私も本来のジャンルとはちがうけれど、『悪役令嬢』のタグを付けられていた。

 でも、そのおかげで、彼女とこうして出会えたのだから……。


「私に付けられたタグは、『GL』よ! アンジェリカ、私と一緒に来て。幸せになりましょう」

「…………っ!」


 アンジェリカは目を見張る。

 その瞳に涙がこみ上げて、頬が赤く染まった。


「ああ……セリア!」


 私の手を握りしめながら、彼女は泣き崩れる。







 そして、私たちは元の婚約破棄会場に戻った。

 それぞれの婚約者・馬鹿王子をグーパンで撃退。



「セリア! また会えたのね!」

「アンジェリカ……!」



 私たちは無事に再会を果たして、ハッピーエンドを迎えたのだ。

 めでたし、めでたし。




 終わり



読んでくださって、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] コメディジャンルに出てきた時点で全員偽物説w
[一言] 取り合えず王子にグーパンは納得W
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