始まりの街【ファスティア】 3
配信のコメントは【】です。
レジーナ・ヴェスピナエは羽音で人間の声を再現して、私に問いかける
「魔の子よ、魔の子。汝が征くは修羅の道か、それとも知恵ある者が征く、叡智の道か。」
圧倒的な威圧感に押され、口が動かない。だけど、自然に私の口からするりと言葉を紡ぐ
「――私は夜の道を進む者、暗き者さえ見通せぬ、闇の荒野を歩く者」
そう答えるとレジーナは体で喜びを表し、更には私にスキルをくれた
「果ての子、闇の子、夜の愛子。お前に音色を授けましょう。その音が高く響くよう、果てなき荒野で迷わぬよう。音色を高く響かせなさい。」
『スキル『音響魔術』を習得しました。スキル『荒野の音色』を習得しました。』
「大地の女王の音色に相応しき音楽を奏でましょう」
「楽しみにしていますよ。夜の愛子」
そう言い残しレジーナは去っていった。
視界から消えたのを確認すると、一気に力が抜けて地面にへたり込む。
私が座り込んだ途端、周りのプレイヤーが集まり、私をもみくちゃにした。
その喧騒の中で、誰かが剣を抜き私に質問していた一人のプレイヤーに襲いかかった。
剣を抜いた男が斬りかかり、プレイヤーが鮮血を噴き出す。
あまりの出来事に、誰もが驚く中、私は切りかかった男に接近し、首元に噛み付く。
口に広がる鉄の味に私は、喜びを隠せず大声で笑う。
「あははははははははははははははっっっっっっっ!!!!!」
その時は夜で、吸血鬼が最も力を得る時間であった事から後に【血に濡れた月】と呼ばれるようになった。
「なっ!?何なんだお前は!!?」
その問いかけに私は答える。
「私は魔族の一人、エルゼ。見ての通り吸血鬼よ。じゃあ、いただきます」
「やっやめ―――」
私は男が助けを求める前に首を噛み千切った。ブチッと音がして、男の体がポリゴン状になり、消えていった。
『スキル『吸血』が発動、吸血対象の能力を一つ模倣します。スキル『回避』を模倣しました。』
「ごちそうさま。」
私もそう言い残し、街に戻った後にログアウトした。
数日後、私は錬金術のテストをしていた。
「―――あぁ!!また失敗だ!!」
現在はアイテム【中級回復薬】を制作していた。
作り方は【薬草】に【回復キノコ】を錬金術で融合させて、ろ過する。私はその中の融合で失敗している。
作れたのは15回中5回成功して、失敗したものは【回復薬】になる。
「だめだ、気分変えよう」
そう思い私は配信ボタンを押した。
誰かが来る事を願って。
【初見です】
【こんにちは】
―――2時間後―――
「そ、想定外なレベルで人が集まったね」
【そりゃあ、魔族と聞いたら来るしか無い】
【だな】
【ですねー】
【あとかわいい】
【それな】
褒められて調子に乗った私は、草原に行き狩りをすることにした。
必要な量の回復薬は集まったからね!
「グルルルル!」
「お、早速出てきたね」
私の前に現れたのは、白色の狼だった。
「あれって、ワイルドウルフ?」
私は聞いていたワイルドウルフの姿と違うのでコメントに質問する。
【何あれ?】
【わかんね】
【知らん】
【ユニークモンスターとか?】
【そうだとしたら、運が良すぎやしないか?ユニモンってランダムエンカウントだろ?】
全員が知らないようなので、鑑定を発動する
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鑑定結果
ボスモンスター
称号 《銀の狩人》
名 シルヴァ・ハントル
HP 5500/5500
MP 1200/1200
力 350
敏捷 500
防御 300
信仰 0
運 30
SP 0
種族 白銀狼
種族スキル 『銀の牙』
スキル『加速』『憤怒の反骨』『回避』
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「ボスモンスター!?」
私が驚きの声を上げる
【ボス!?】
【逃げて!!】
【でも戦いは見たい!】
「デスペナルティも無いしこのゲーム、戦ってみるよ!」
そう言いながら、私は【野獣の刀】を取り出し、シルヴァに斬りかかる。
だけどシルヴァはそれを見切り、余裕で回避をする。
「ヴァウっ!!」
今度はシルヴァがお返しとばかりに、爪で連撃をしてくる。そこから私は防戦一方となった。
爪を受け流し、体当たりを弾き、隙が見えたら斬りつける。
「こんっ!なのっ!序盤のっ!ボスじゃっ!だめでしょっ!!」
【何であれを受け流したり、弾いたりできるの?】
【プレイヤースキルってわけよ】
【なるほど】
「ああ!もう!使いたくなかったのに!種族スキル『魅了』!!」
その時、私の目が紅く輝き、シルヴァと目が合う。その瞬間、シルヴァが腹を見せて仰向けに寝ていた。
『個体名シルヴァ・ハントルのテイムに成功しました。』
危なかった、私は息を切らしながらそう思った。『魅了』は自分のHPの三分の一を消費して、確率でテイム、もしくは【状態異常:魅了】にする。
【え、テイムした!?】
「うん、そう。でも疲れたから、ログアウトするね。バイバイ」
そう言って私はログアウトした