表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

鏡餅を食べて悪霊にとりつかれた 〖2023元旦 縦読み挨拶〗

作者: 路明(ロア)
掲載日:2023/01/01

明らかに原因は鏡餅だと思う。

ケトルで沸かした日本茶を器に注ぎ、俺は一気に飲んだ。

まだはっきりと確証はないが、餅には悪霊が憑いていた。

しましまのセーターを捲り腹部を露にする。

手形ようなものと、意味不明の点々、そして目のようなもの。

おそろしい程はっきりとそれらが腹に描かれていた。

面倒臭がって、去年の鏡餅を使い回した。

でもって、鏡開きも待たずに食べた。

とにかく禁忌を重ねてしまったのだ。

うかつだったとは思うが、こんなことが起こるとは。

護符とか買って来るべきだろうか。元日の神社にあるのか。

座椅子から立ち上がる。

いまから行けば、近くの神社なら明るいうちに着ける。

マキシコートを部屋着のセーターの上に羽織る。

すがるような思いで俺は神社に向かった。




幸運の御守りなど眼中に無い。欲しいのは悪霊払いの御札だ。

多くの人が神社にいた。

きつい寒風が吹き始める時間帯だが、社務所は混んでいる。

新潟出身だが寒いのも雪も苦手だ。

春以降でなければ、無駄な外出はしたくない。

ヲタクの友達はこんな季節でもイベントで並ぶそうだが。

迎春と書かれている縁起物を眺める。

絵馬なんてものも、そういやあるんだなと思った。

ラコステの上着を着た男性に「前詰めて」と押される。

レプリカでもこの際いいから、強力な御札あってくれ。

たのむ、と俺は列の間を詰めながら祈った。

ここに無かったら、あとは近くに神社はない。

となりの列が引けて、巫女さんが俺と目を合わせた。

土地訛りで「こちらどうぞ」と言われる。




御札を俺は目で探した。無い……ような。

慶賀とか慶祝とか書いてある縁起物を巫女さんが手にする。

微笑して「これですか」と尋ねてきた。

申し訳ないが違う。俺が欲しいのは除霊の御札だ。

しかたない。俺は思い切って除霊の御札はないか尋ねた。

上目遣いについなる。何となく場違いで恥ずかしくて。

迎春の縁起物を買う人々の中で浮いているが、俺は必死だ。

まわり中の御守りの棚を見回し、巫女さんが探してくれる。

すこししてから、何か思いついたのか俺に笑顔を向けた。




皆に聞こえないようにか、巫女さんは声を潜めた。

様子はどんな感じですか、そう聞いてくる。

ノイローゼになりそうです。怖くて、と俺は顔を歪ませた。

ごもっともですがもう少し具体的にと巫女さんが言う。

健康に問題は無いのに、変なのが出てと俺は腹を見せた。

康永だか康安だかのからのおまじないだそうですが。

とある神社でやっていたそうですと巫女さんが前置きする。

五分五分ですがやってみましょう。そう言われた。

多くの飾りの中から、巫女さんが鯛の縁起物を持って来る。

幸い値段は払える範囲だ。

お願いします。助けてください、そう俺は力なく言った。

俺の腹に巫女さんが縁起物を掲げ、柏手を打つ。

祈りの言葉を捧げてくれた。

理不尽な怪奇現象に怯えていた俺は泣いた。

いいです、服をもう一度捲ってください。やがてそう言われる。

鯛と、腹に浮かんだ手形、点々、目のようなもの。

しょうもないオチだが……ひょっとしてと思う。

まじめに言うのも阿呆らしくなるが「めでたい」だろうか。

すっと力が抜ける。俺はその場に座り込んだ。




令名高い神社の巫女さんだけある。凄え。

和鏡で腹を映してくれる。奇妙なものは消えていた。

五臓六腑にほんわかした安堵が広がる。

年神様の一種ですね。巫女さんが言う。

元の姿に揃ったことで解放されたんですね。そう続けた。

日常に戻れる。俺は縁起物の代金を払い社務所を後にした。




路沿いに少し残った水気の多い雪を踏み帰途に就く。

明かりがいくつかの家の窓に灯っていた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ