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人生ナナメよみ  作者: N(えぬ)
9/10

彼女は「わたしもそうなんです」と眉間にしわを寄せて言った

遠く過ぎ去った昔のこと。わたしがまだ青年だったころに尿路結石を患って病院通いをしました。

通っていたのは、わたしが住んでいる地域では大きめの総合病院の泌尿器科。


わたし仕事の半休をとって午前中に病院へ行っていたのです。

待合室にはビニールレザーの長椅子が数列あり、わたしはそのひとつに座っていました。

平日の昼間でしたから混んでいるわけでは無く、空いた椅子のどこかにみんな適当に座っている感じで待っていたのです。


病院の待合室というのは、待ち時間が長い割にすることも無くぼんやりしていることが多いものです。そうせざるを得ないという感じでしょうか。存在感を消して無意味に壁の、ある一点を見つめて、耳だけそばだてて「○○さん」とか呼ばれるのを待ち続けているのです。


ですがその日は違いました。隣に誰かが座ったのですが、わたしは特に気に止めずにいました。普通はそのまま、隣の人の事など知らずに終わるわけですが、しばらくしたときに、

「あのぉ。どんな症状で来たんですか?」と、小さな声で話しかけられたのです。虚を突かれて隣を見ると、わたしと変わらないか少し年上か?という感じの若い女性でした。髪のまとめ方や化粧の具合、服装の整え方からみて、いかにもOLという感じの女性です。

「あ~、脇腹が痛くて近所の内科に行ったら、『石だな』と言われてここに……」

律儀にわたしは答えましたが、彼女の方もわたしの答えを真剣そうに聞いて、自分の症状を話すのです。それでわたしも「そうですね。血尿が~」などと互いの症状を確かめ合い。

「どんな検査をするんでしょう?」

などと聞かれて、わたしは自分の話をしました。彼女は、それらについて眉間にしわを寄せ、とにかく不安そうな顔でしばらくやりとりをしました。


ま~、ひとしきり、どこがどんな風に痛かったとかそんな話をした後はそれ以上、会話が弾むこともなく、検査だとか診察室に呼ばれて別れ、『石が取り持つ縁』とは行かずそれきり彼女と顔を合わせることはありませんでした。


病院とはいえ見ず知らずの女性と互いの『オシッコ』について話し合ったのは、人生でそれがただ1度の経験になっています。

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