街が見えるんだ
街が見えるんだ
小高い丘から見下ろせば
街が見えるんだ
ぼくの住んでる街
君の住んでる家
おばあちゃんの駄菓子屋
新しくできた薬局
街が見えるんだ
全部全部見える
たくさんの家々
数えきれない瓦
ひとつひとつの家に
かけた人の人生
見えなくたって見えるんだ
そこには確かにあるものだ
壁の色や門の形
扉の握りも犬小屋も
街が見えるんだ
その街をかたちづくる
ひとびとが織り上げた時間に
街が見えるんだ
きらきらしてるんだ
涙が出てくるんだ
気の遠くなる努力と
たいへんな時間をかけて
作り上げたものが
ここにそこに
出来上がって隣り合って
街ができるんだ
街に見えるんだ
ぼくはそこに住んで
君もそこにいるんだ
街が見えるんだ
時々不意に
当たり前のことが当たり前とは
思えなくなるんだ
街が見えるんだ
街に見えるんだ
ぼくもきみも みんなが
街に見えるんだ
山が見えるんだ
電車に乗っていると
山が見えるんだ
県境の山々
やまは緑色で
芽吹いた木々の青が
目に痛いほどあざやか
山の緑色は
山の木の葉の色で
その無数の木の葉が
山を緑に覆うから
ぼくは山を
緑色だと思ってる
何本の木と幾つの草と
どれだけの土があったから
山は緑になれた
一本の木にかけた時間と
一本の草がつけた枝葉と
一粒の土が支えた年が
いったいどれだけあったから
ぼくが眺めてられるんだろう
計り知れない膨大な
流れる時間の一瞬を
ただ通り過ぎるちっぽけな
ぼくは緑を眺める
山が見えるんだ
何故か無性に
山を思うんだ
きっとそこでは鳥が鳴いてて
虫は跳ねるし魚も泳ぎ
猿や鹿らが住んでいて
それら全部を覆ってて尚
ぼくには山が葉っぱ色
山に見えるんだ
当たり前のことが当たり前には
思えなくなるんだ
山が見えるんだ
山に見えるんだ
木々も虫も鳥も みんなが
山に見えるんだ