1.護送
三つの人影が収容所の廊下に伸びる。
中央の者の身体は大きく、両脇を固める者より頭二つほど高い。しかし彼はそれに傲ることなく、遠から聞こえる海カモメの鳴き声に耳を傾けながら歩いていた。
彼は人ではない。
額から二本の角を生やした存在――鬼なのである。
金色の総髪頭。厳めしい顔をより恐ろしく見せる、外に飛び出す四本の鬼歯。
血のように真っ赤な肌のいたる所に、隆々とした筋肉が浮かぶ。手首にかけられている頑丈な枷も、その気になれば力づくで外せそうなほど、屈強で逞しい身体である。
鬼の左右を固める者もまた、人ではない。片方は犬の頭、もう片方は猿の頭をしている。
廊下の果て・出口の扉が見えた頃、赤鬼はゆっくりと顔を持ち上げた。
「次の檻は何年だ?」
犬も猿は応じないまま、型にはまった動作で扉を開く。鬼も特に気にかけない。
割れた扉から明るい光が差し込み、鬼は少し顔をしかめた。
『潰すぞオラァッ!』
『さっさと兄貴を解放しろゴルァッ!』
外界からの侵入を阻む鈍色の金網には、数え切れないほどの鬼が殺到していた。
扉から姿を現した鬼を見るや、罵声や猛る声は止み、
「兄貴ィ……ッ!!」
「お、お元気そうで、ぐすっ、なにより、です……ッ!!」
みな歓喜に打ち震え始め、おいおいと憚らず泣く鬼の姿もあった。
それを見た赤鬼は、懐かしい顔ぶれだ、と思わず喜びを零した。
「お前らッ、もうしばらくの辛抱だぞ!」
おおお、と鬼たちは湧き上がり、金網を叩き、砂利をどんどんを踏み鳴らす。
建物の傍には一台のヘリある。パイロットはハトだ。鬼を一車に載すためか、大きく開かれた丸い目には、緊張の色が浮かんでいる。
犬と猿に導かれ始めた、まさにその時――
「な、何だ!?」
突然、赤鬼の足下が紫色に光り始めたのである。
赤鬼は犬と猿を窺ったが、彼らも何が起こっているか分かっていない。慌てている間に、足下の光はどんどんと昇り、ついには目を開けているのも困難なほど眩く光る。
鬼の巨躯は紫光に呑み込まれ、やがてついに、見えなくなってしまっていた。