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猫チップな俺 サイドストーリー:大学祭のミスコンでの倉田 美優との事件

作者: STY

大学祭のミスコンでの倉田 美優との事件


 2023年6月11日(日)14:00


 大学祭の大学構内の雑木林はお気に入りの場所で、研究室への近道としていつも利用している。今日も大学祭の来場者で混んだメインストリートを避けて雑木林の小道を歩いていた。この小道はちょっとした大学内の野外イベント用の舞台の裏を通るようになっている。裏からは高いコンクリート造りの壁で見えないが、舞台で何か大学祭のイベントを行なっているようで陽気な音楽が鳴り響き、人声がガヤガヤと賑やかだ。

 人混みは苦手なので誰もいない小道を足早に歩いていると、舞台の裏の高いところにある窓がいきなりガラッと開いて白い布のようなものが上から落ちてきた。とっさに右手で掴んだ、と思ったら短い階段の上にあるドアがバタンと開いて、誰かがが「もー、なにするの。」と言いながら飛び出してきた。階段を降りたところで、こっちに気が付いて一瞬固まったあと、ぱっとしゃがんで丸まった。オカダンゴ虫(学名:Armadillidium vulgare (意味は"よく見かけるちびアルマジロ〟))っぽいなーと、余計なことを考えた。頭に2本の触覚が、いや、お下げにした髪が左右に2本あるのでますますそれっぽい。

 丸まっているのでよく分からないが、肌の露出が多い。何故かブラとパンツだけだ。 いや、女性用はパンツじゃ無くて別の呼び名がなんかあったっけ。顔は一瞬だったが、見覚えがある。 朝、時々同じ電車で会っている。 今、手に持っている布、多分水着(?)はその娘のものらしい。


「えっと、えー、これ、きみの、かな?」と言うと、丸まったまま

「はい。」と答えた。

「じゃ、これ。」と差し出すと、少し顔を上げて、こっちを上目遣いで見て

「見ました?」と聞いた。頭が働いていないのでバカ正直に

「はい。」と答えると、また下を向いて丸まってしまい

「うー。」と唸っている。


 彼女の頭の上に水着を載せようか、しゃがみ込んでいる彼女の前の地面に置くべきか悩んでいると、また顔を少し上げて、

「水着。」という。ようやくここで、あ、この状況はマズイかもと気がついて、くるっと後ろを向いて後ろ手で水着を差し出した。

「あ、ごめん。どうぞ。」と彼女を見ないようにしながらリレー走のバトンタッチのように背後の彼女のほうに水着を軽く持って差し出した。彼女がしゃがんでいるところから、ほんの少し距離があった。すぐに受け取らないので、手が届かないのかなと思って少しバックしかけた。すると

「キャッ。」と言う声とともに、持っていた右手の水着が強く下に引ったくられた。

 もう、水着は渡したので直ぐに研究室に歩き出そうとしたら、

「助け。」というかすかな声がするので振り返ると、彼女は何故か丸まった姿勢のまま前にコケて頭を地面につけ動けずにいる。左手はまだ胸を隠したまま、右手を伸ばして水着を地面に付けない様に持ち上げている。どうやらしゃがんだまま手を伸ばしてどうにか水着を取ったはいいが、バランスを崩して前につんのめったらしい。

 仕方ないので彼女の後ろに回って腋の下に両手を入れてからぐいっと持ち上げ、すとんと立たせた。(思ったより重かった)ついでに彼女の頭に付いたクヌギの落ち葉を取った。

「じゃあ。」と言ってそそくさと歩き出した後ろから、

「あのっ、絶対、絶対優勝します。」と、彼女が声を掛けた。

 恐る恐るゆっくり振り返ると、彼女は両手で水着をぐっと握り締め、すっくと立っている。

「なんか、吹っ切れました。もう、恥ずかしがりません。だから、あの、応援してください。」

「あぁ。うん。」

「ミスコンも、自分を変えたくて出たんです。なので恥ずかしがってちゃダメダメです。」

「そう、だね。」でも下着姿で堂々とされても、なぁ、なんか違う気がすっけど、まぁいいか。

「それ、ください。」と、まだ手に持っていた、彼女の頭から取ったブナ科コナラ属のクヌギの落ち葉を見ている。近づいて

「どうぞ。」と渡すと、

「ありがとうございます。勇気をくれた記念にします。」と、受け取って、くるっと回って、はだしで階段を駆け上がって、枯葉と水着をパタパタ振った。そしてドアノブをどっちの手で開けるか悩んだあと、落ち葉を口に咥えてから、ドアを開けて舞台裏の部屋に入っていった。


 ポカンと口を開けて彼女が消えたドアをしばらく見ていた。


 応援してくださいってことはミスコンを見てけってことだよなぁ。でも今日はこれから、厄介な聴覚系のSN比改善のフィルターをいじってみて、もしそれで駄目なら値は張るがNF=1dBの素子に変えるか。

いっそのこと思い切って増幅の段数を減らそうか、いやいや、そいつは、今日のテスト結果が出てからにしてにしよう。

 方針が決まったのでテストの手順を考えながら足早に研究室に向かった。 もうそのときには彼女、つまり今年の大学祭のミスコン優勝者の倉田 美優だったわけだが、すっかり意識から消えていた。


 ミスコンを見ていた暇人の悪友、轟から後日談によると、倉田 美優は舞台に遅れて慌てて登場して、ケーブルにつまずいて転んで注目を集めた。そして初々しい清楚で可憐な容姿+明るくて幸せいっぱいの彼女は、轟をして、「美優ちゃん、でら可愛いがやー。」とにやけさせる魅力があったそうだ。出番待ちの間も会場の隅々まで何かを探すように見つめるのでで、轟を含めた男たちをドキドキさせたらしい。断トツ一位で優勝が決まった後のコメントでの発言でも一騒動あったそうだ。


「皆さん、ありがとうございます。今日は、愛と勇気とこの落ち葉をくれた、えっと。」でしばらく固まったあと、突然

「あー。」と絶叫し、フェーダーがおっつかずに音割れを発生して、会場の観客の耳をキンキンさせ、

「お名前を聞いてなかった、あ、応援するって言ってたからここにいるかも、あの、この落ち葉をくれた私の王子様、いたら手を上げてください。」

 この後の展開は想像付くと思うが、会場の男どものほとんどが手を上げたそうだ。無論、轟も。そのあと、例の雑木林の小道を含めた大学構内に奇妙な人探しのお知らせが掲示された。


「Wanted

落ち葉の王子様を探しています。

2023年6月11日(日)に大学祭の

ミスコン優勝者 倉田の頭から

落ち葉を取ってくれた方を探しています。

情報工学科1年倉田までお知らせください。

¥10,000

REWARD

特徴:やさしくて力持ち

容姿:不明、コンタクトを外していてよく見えなかった(泣)

身長:170cmぐらい

服装:青いネルシャツにカーキ色のチノパン

DEAD OR ALIVE」


 轟の怪しげな情報では、このポスターは倉田 美優と何かトラブルがあった今年のミスコン3位の浜須賀とかいう上級生が作ったらしい。まぁ、大学の学生課の許可なしの掲示だったので4~5日で掲示板などからは回収されたようだが。雑木林の小道の掲示は目立たないこともあってまだ残っている。これを目にしたとき、あのことかとピンと来たが、応援すると言ったのにぶっちした引け目もあり、連絡していない。

別に「DEAD OR ALIVE(生死を問わず)」にビビった訳ではない。

                                    ―おわり

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