8品目 〜これが「ふらいどてきん」か!〜
さて__俺とレベッカは魔導師マーリンという老が…ごほん、ジイさんに煮込みハンバーグを振舞ってから1時間、帰りに今日の夕飯の食材を買い出しに来ていた。
「いやぁしっかし上手くいったな、最初はどうなるかと思ったけど」
「そういえばあの方は実はなかなかの美食家でして味にはうるさい方だったのですよ?」
なぜそんな大切なことを俺に最初に言わなかった!!まぁ今更言ってもしょうがないと思うのであえてノータッチで行こう、それよりも、だ。
「そういえばレベッカって呼び捨てにし始めちゃったけど平気?あまり馴れ馴れしすぎちゃったかな…」
「そ!そんなことはないですよ!う、嬉しいですっ!」
「そう?まぁ…これからもよろしくな、レベッカ」
「はい!」
いい最終回だった…いやこれからが始まりなわけなんだけどさ。それにしても日が暮れるのが随分と早いなぁ、今5時くらいじゃないの?
取り敢えず暗くなってきちまったし飯の買い物終わったらさっさと帰ろうかね、要件も済んだわけだしな。
さてこの商店街のような街道がこの街の一番の市場らしいのだとか。
側に川が通っていたりお洒落な可愛らしい小物雑貨屋さんなんかもある、それに少し広い場所に着くと露店で野菜や肉、香辛料を売っているお店を見かける。なかなかに賑わっている様子。
「ふーむ、香辛料はいろいろと揃っていて向こうには酒屋、いろいろ揃ってるんだな思ってた以上だわこれ」
「きょ、今日の晩御飯は何にしますかっ!」
俺とレベッカ出会って早1日、まだ3度しか飯作ってないのにこの期待のされようよ、いやぁ人徳にめぐまれているのかしら。それにしてもまさかこれから俺が毎回飯作ることになるのかしら?
まぁ居候させてもらってる身だから良いけどね。
しっかし料理屋開くとなるといろいろなものが必要になるな…あのジイさんから資金の援助はもらえるけどねぇ、どうしようか、醤油に味噌…あれがあるとないとで作れる料理の幅が違いすぎるんだよなぁ。
と、レベッカのことも軽く忘れて物思いにふけっているとふと目の前に見覚えのある人間がいる、てかたった2.3時間ほど前に出くわしたマーリンのジイさんだった、買い物?
「おやぁ!さっきの坊主じゃないかい!なんでそんなところにいるんじゃ!」
「あれっ!?マーリン様!?なぜここに!?」
「いやぁギルドがあの後誰が残りのハンバーグを食べるかで殺し合いになりそうになってな、ちと黙らせてやったら暫く出禁食らっちまったわい!」
アホかあんたーっ!あんだけみんなで仲良く食べろよっつったのに!アホかっ!
「えぇ…」
ほらみろ!めちゃくちゃ良い子のレベッカですら引いてるじゃねえか!
「てなわけでよぉ、今日は晩飯何食うかと思ってな!ま、この街じゃお前さん以上にうまい飯作れそうなやつなんぞいないじゃろうがなぁ!」
ふぅむ一度飯食わせたのにこの信頼っぷりというか評価のされよう、少し身構えるぞ。
「んじゃ俺の…違う、レベッカの家で飯作るんすけど食っていきます?」
ここは絶対間違ってはいけないところ、あくまで俺はレベッカの家の居候、いつかは家を出て行かなきゃならんのかな、少し寂しいな…そう考えると。
「ほう!また食わせてもらって良いのか!」
「おー良いっすよ、良いよな?レベッカ」
「えぇ!全然構いませんよ!」
んし、決まりだな…さてとなると何にしようかね…あ、そういやこの人魔導師じゃん、忘れてたわあまりにも酒飲んでるもんだしな。
「なぁ…ジイさんよ」
「そのジイさんというのはひょっとしてわしのことか若造」
「…マーリンさん」
「ま、冗談じゃよ!ワシはそこらのクソババアと違って歳を取ることに恐れを抱いてはおらんからの、歳をとるといろんなことがわかるようになってくる!毎日が学習じゃよ」
まぁその割には「最近の若い者は…」とかいかにも最近のクソジジババが良いそうなセリフを初対面の俺に言い放ってきましたけどねアンタ!
「で、何か用かいの?」
「話は簡単だ、俺に魔法についていろいろと教えてくれ、頼むジイさん」
「ワシから魔法教わるのか?冒険者やめたんじゃろ
」
「や、別に使おうとかじゃなくてこの世界には魔道具っつーのがあるらしいじゃん?だから、さ、アンタにいろいろ聞きたいことがあるんだよ」
「ほう」
「ま、マーリン様から魔法についてのご教示ですかっ!?」
「おう、さすがに厳しいかね?」
「良いぞ」
「だよなぁ、さすがに飯奢るだけじゃ…は?」
「じゃあから!良いぞと言っておるのじゃ!」
よっし!ダメ元で言ってみるもんだな!
これで電気についてやミキサー、コンロや電子レンジの問題はどうにかなるんじゃないか!?
「で、ならばワシは飯を期待して良いのじゃな?」
「おう!大いにしてもらって結構!頰っぺた落っことす位うまいの食わせてやんよ!」
「な!?わ!ワシの頬を削り取って殺す気かっ!?」
何でこの世界の住人にはこのギャグというかおきまりのセリフが通じねえんだよっ!俺の右手はどこぞのスタンドみたいに空間削り取ったりしねえよ!!!
そういえばこの世界には揚げ物のメニューが見当たらない、先ほどギルドで調理している最中に置いてあったレシピを勝手に見たのだがああいう飲み屋と食堂を兼ねた場所によくある唐揚げやコロッケ、トンカツが全く見当たらなかった、しかも味は塩とコショウで炒めるなりっていう簡単でシンプルな味付け、ふぅむ…
「なぁジイさん、鶏肉食べられる?」
「ん?鶏肉は牛と違って硬くないからの、食えるぞ?」
硬くなければ肉なら何でも良いのねこのジイさん、まぁ何でも良いけどさ、とりあえずこれで今日の作る夕飯は決定したわけだ、うん。
「と、言うわけでだジイさんレベッカの家について茶をすするのは良い、ここまではわかる、さてここで質問だ、アンタ俺に講義するのと飯どっちが先が良いよ?」
「もちろん飯に決まっておろう」
「とか言って飯食ったら眠いとか言って寝たら引っ叩き起こすからな」
「なら寝るときには結界を張って誰も部屋に入れないようにしておくかのう…」
ふざけんな!何であんたまでレベッカの家に泊まる事になっているんだよ!
まぁいい、とりあえず飯を作ろう。
「今回作るのはフライドチキンです!」
「おぉ!ふらいどてきん!よくわからんが美味いんじゃろうな!」
「きっとそうです!タカシさんの作るご飯はいつだって美味しいですから!」
「ん、まぁそんなに期待されても困るけどなー、さてレベッカ、何かいらない…と言うか使わない鍋ってある?もしかしたらフライパンダメになるし」
「フライパンがダメになるのですか…?ま、ままぁでしたらこの鍋で…失敗する恐れのある料理なのですか?」
そんなことを俺に尋ねながら倉庫に行って手頃な大きさの鍋を一つ持ってきてもらった、さて、ジイさん曰く、ふらいどてきん!…もといフライドチキンを作りますか!
さてまずはこの市場で買った鶏肉を使うぞ、当たり前か、うん。
鶏肉を食べやすい大きさに切り、次にボウルに牛乳を1カップ、卵をひとーつ!そしてあればニンニクのチューブを混ぜておく、今回は当たり前だけどチューブのニンニクなんてあるわけないのでおろしであとでおろしておくかニンニク。
「タカシさんっ!何か手伝うことはありますかっ!」
「んー…あ、そこに目の細かいおろしあるじゃん?あれでニンニクをひとかけらほど削っといてもらっていい?そしたらあの牛乳入ったボウルに混ぜといて」
「はいっ!」
別のボウルに薄力粉…1カップ、オールスパイス…この世界にあるのか…を小さじ1弱、そしてコンソメも入れてやるあとは塩を大さじ半分くらい。
「な、なぁワシも何か手伝う…?」
「ごめんなんもねーわ、レベッカもそのニンニク終わったらやることほぼないしそうだな、適当にサラダでも作っといてくんね?」
「はいっ!」
レベッカちゃんまじいい子、それに比べてあのジイさんは…いやまぁ本当にやることがないんだからしょうがないんだけどもね、掃除でもしてもらうべきだったかな、まぁいいかあれでも客人だし。
この牛乳、卵、ニンニクの入った液に鶏肉を浸す、だいたい15〜20分くらいかな、それまで何してようか、次は俺がやることなくなったよ!!
暇なのでジイさんから少し早く魔法について教わる…でもなく掃除してた、あとはメモ帳に今後のやることリスト、どうやらこの世界には紙とペンはあるみたい、文字もこの世界独自のものがあるのだとか。
まぁそんなこと知ったことかと言うように俺のメモ帳はバリバリの日本語だけどな!これならレシピ盗まれないやったね!
取り敢えずいつのまにか15分経っていた、さてやりますかね…次にさっきの浸した肉を粉のボウルに入れて適当にまぶしていく、少し粉が余りそうなのでまた肉を液に5分程度浸してやる、本当は2度づけしてさらに15分ほど浸したかったけどね…
これ以上時間かけて待たせたらジイさん腹空かして死にそうな顔するので諦めよう、まぁこれでも十分すぎるほど美味いはずだ。
取り敢えずまた肉に粉をまぶしたら鍋にたっぷりと油を注いで160°Cくらいにあっためてやる、まぁ俺達人じゃないからさすがにブラの跳ねる音で何度とかはわからんけどな、まぁ感覚で。
160°Cで5分以上揚げてやる、ジュワアァ!と肉を油の中に投入するたびに心地よい音が響く。
「な!なんじゃ今の音は!?」
「んー?肉あげてる音だよ!気にしなくていいぞー」
「揚げる…?とはいったい…きゃあ!?油の中に肉を浸すのですか!?」
「んんんちょっと違うぞぉ」
「油で…焼くとも煮るとも違いますね、これは…?」
そうか、やっぱりこの世界には「揚げる」なんて調理法ないよなぁ、まぁ俺が異世界人ならわざわざ肉や魚、野菜を油に浸して高温で焼いたらどうなるかとか考えねえもの。そう考えると当然の反応。
「ん、まぁ楽しみにしてろって、もう直ぐで出来上がりだ」
そう言ってレベッカに食事の支度をさせて俺は油の温度をさらに上げて200°C程度にする、それからさっきあげたやつをサッと揚げてカラリとしあげる、これで完成、上手に揚げましたぁ!
「んじゃ、頂きましょうか、座りなジイさん」
「おう、すまないな!では頂くとするかのう!」
「大地に恵みをもたらすエルフの神よ、私にお恵みを与えて下さって感謝しています…いただきます!」
さてまずは俺から先にフライドチキンに手を伸ばす、…っ!?熱い…当たり前だったわこれ揚げたてだもの…
それからジイさんがチキンを手に取る、それからまずどのようなものか吟味するようにして少し眺める、それからまず一口目。
「ん…っまいっ!!なんしゃこりゃあ!これが鶏肉なのか!美味い!美味いぞっ!!!」
「く、口に含むと中から脂がじゅわぁっと…そして外はカラッと…とっても美味しいですぅ…」
そう言って幸せそうにチキンを両手で押さえて小さな口でもきゅもきゅと食べるレベッカ、可愛い。
「こ、これがふらいどてきんか…」
ジイさん、フライドチキン言えてないぞ。
取り敢えずサラダにフォークを伸ばす、するとあれ?この黄色いのもしかして…
「あ!そういえばサラダ作るときにタカシさんが使ったまよねいずを参考にして自分も作ってみたのです!いかがですか!?」
「ふむ…ん…」
正直驚いた、一度食してレシピを教えてみたらまんまマヨネーズを再現しやがった…この子も大概魔法はロクでもないけど料理は上手なのかもしれないな、今度いつかレベッカの飯を食わせてもらいたいものだ。
「ふむ、これでやはり確信した、お前さん王都に料理屋を開いてみろ、そしたら生涯遊んで暮らせるほど成功するぞ」
「いやぁ確かにその遊んで暮らせるほどの金は興味深いですけど俺は別にここの街で飯作りますよ」
レベッカがいるからね、あとあんたにも約束しちまったしな、本物のハンバーグを食べさせてやる…って、まぁそれにはデミグラスソースを作れるようにならなくては出しそのためには醤油が必要だ、まだ長い先の話になりそうだなぁ、さてと_
「さて_本題に入ろうか、ぜひ俺に電撃魔法、および魔力とか魔道具、そう言ったものについて教えてくれ…!」
ちょっと次回長くなるかも短くなるかもわからんので今回は一応ここらで切ります。
ではでは