6品目 〜最近の若い者には根性が足りん〜
「俺、冒険者諦めるわ、料理屋開こう、な?レベッカ」
「…え?」
「…!はい!」
「え、えとあの…それはつまり…?冒険者を…諦めるということでしょうか…?」
「えぇまぁはい、その言葉通りに」
なに?そのこいつ正気か?見たいなまるで珍しいもの見る目つき?やめて頂戴?
「ぼ、冒険者辞めてしまわれるんですか!?」
「おー、なんだいお前ら冒険者諦めちまうのかい?」
そんな俺たちの辞める辞めないという騒ぎを聞きつけてギルドのテーブルに座ってた顔を赤くさせ、酔っ払ったヒゲの長い爺さんが絡んでくる、なんなんだこの人。
「…誰?」
「だ、誰!?タカシさん!この方は魔導師マーリン様ですよ!?ご存知ないのですか!?」
「…ごめん知らないわ、なに?すごい方なの?」
「す、凄いも何もこの国のSS級の魔術師の方ですよ…」
SS級って何?そもそもこの国に冒険者としてランク付けとかがあること自体聞いてないよ?普通これ受付嬢さんから俺に言うことじゃねえの?職務怠慢?まぁ辞めるから別にいいけど。
「…あ、私もしかして冒険者ランクのご説明してませんでしたね…まぁ辞めるからいいんでしょうけど!」
おいこの人なんかもう酷くね!?俺のこと大嫌いなの!?俺への対応が最初からマイナスに振り切ってる気がするぜ!
「…まぁ一応させていただくと下からE.D.C.B.A.S.SS.SSSの順で冒険者はランク分けされているんです、もちろんランクが上がるほど受けられる依頼などの難易度も上がります」
「んで、儂はSSってことじゃ。ふむしかし儂も割と名を馳せる魔導師になれたと思ってたんじゃがなぁ…まぁいい坊主、儂がマーリンじゃ、よろしくな」
仕事しろよ爺さん、絶対あんたこんなところで酒飲んでちゃまずいだろ…まぁどうでもいい。
「んで…まぁ辞めますね、俺には才能ないってわかったんで」
「ふむ最近の若い奴は根性がないとはよく言ったもんじゃなぁ…」
いやぁ腰曲げて白く長い髭、頭は太陽のように光り輝いている爺さんに根性について説教されるとは…てか俺の人生なんだから別にいいだろこのやろう、ぶん殴るぞ。
「そう言って次は俺には料理の才能なんてないから辞めるわ、とでも言い出すのじゃろう?最近の若い者には根性が足りん」
むかっ…こいつマジでぶん殴ってやろうか?何様なの?マーリン様なの?なんか今の声に出したら凄く似てそうだな、言わないけど、ここは我慢…
「あ!あの!お言葉ですがタカシさんはそんな方じゃないです!とってもお料理上手なんですよ!唐辛子を使ったパスタにまよねいずと言う魔法の調味料に…!」
「まよねいずと言うものがどういうものかは知らんがどうせそんな若造が作る料理がうまいはずがない」
「あ、あのー………」
だんだん不穏な空気になっていくレベッカとマーリンさんを横目に俺は受付嬢さんと向き合う、なに?
「け、結局一応聞きたいのですが冒険者登録は抹消でよろしいですか…?」
「?抹消しないと何かあったりするんですか?」
「一応抹消されないと時々緊急警報などで冒険者全員集合といった召集がかかりますとタカシさんも例に漏れず集まることになる…とかと言っただけですかね」
「あ、じゃあ消しちゃっていいですよ」
「けど消すともう二度と登録できません」
ふむ…まぁ確かに辞める辞めない!とか言ってる人間をもう一度面倒見るほどギルドは寛大じゃないってことかね、まぁ別にどうでもいいけど。
「あ、いいっすよ」
「軽っ…ま、まぁいいですけど…では登録抹消させていただきますね…」
「ふむ!ならそこまで言うなら儂にも何か作ってもらうとするかのう!不味かった時覚えておれぃ!」
………は?
どうやら俺が受付嬢さんと会話してるうちにいつのまにか話が進んでいた模様、正直進んで欲しくなかったけど。
「えぇいいです!タカシさんのお料理がどれだけ美味しいか思い知らせてあげます!酔いを覚まして待ってることですね!」
「ふん!若造の作る飯くらい酔っ払ってても不味いってわかるわい!これだから最近の若い者は!」
ちょ…ちょいちょいちょい?ちょいと待ちレベッカさんよ?なに俺がこの人に飯作ってやらなあかんの?
「ストーップストーップストーップ…おかしくない?なんで俺がこの人に飯作らなきゃいかんの?」
「ふん!せいぜい儂を満足させてみることじゃな!」
…最近の老人によくありがちなセリフを垂れながらテーブルにどかっとついてまた酒を飲み始める、だからあんた仕事とかないのかよ…強いんじゃないの…?
「…なぁレベッカ?」
「いくらなんでも許せません!タカシさん!あの人をあっと言わせるような美味しいのお願いします!」
「なぁレベッカ?待とう?落ち着こう?」
「なんですか!タカシさんはあんなこと言われて悔しくないんですか!?」
「いや別に、言われる前からイラついてたけど」
これは事実、いやだってこれ言うなれば俺の人生の選択よ?マーリンだかマリーンズだか知らねえけどなにケチつけてくれてるの?…おっと後者は野球チームだったかな。
「…なぁこういう展開ってのはな?大抵俺が喧嘩を買うもんだ、なのになんでお前が買っちゃったんだ…?俺余計なことに首突っ込んだんだよ?」
「………あっ………」
「俺ねぇ、料理屋開くのはモンスターに襲われたくないからなの、なのになんでモンスターよりもめんどそうな爺さんの相手しなきゃならんの?」
「…あうう………本当にすみません…」
「…ま、いいけどさぁ、ところで爺さん!あんた食べれないものはあるか!?」
「お前ら若者のような軟弱者と違って硬くなければたいていのものは平気じゃわい!まぁ硬いのはさすがに歳じゃから仕方ない…老いには逆らえんさ…」
あのやろう軟骨でも出してやろうか…あんなのやれ今時の若い奴はって文句垂れる爺婆と一緒じゃねえか…あれが魔導師だぁ?俺には老害にしか見えんね!…はぁ、面倒だなぁ………
「えと、…私にも手伝えることがあれば…」
「…じゃああの爺さんの好みわかんない?」
「お肉ですね、時々見かけるのですがしょっちゅうお肉を食べてますよ、歯が弱ってらっしゃるのかとても苦戦して食べてますが…」
…ふうん肉ねぇ、肉かぁ………
「…はぁ、まさかここで料理する気ですか?」
呆れた顔で俺たちに話しかけてくるお姉さん、ねえねえほんとに俺のこと嫌いでしょ?ねぇ?なんかもう目線がゴミを見る目と一緒になってきたよ?
「…ダメですかね?」
「なら私にも食べさせなさい、正直さっきのやり取りであなたの料理の腕前を知りたくなったわ、冒険者諦めてね料理屋開くだなんて聞いたことないわよ…」
「はいよ、ま、美味すぎてほっぺた落っことしちまわねえようにしてくださいねー」
「な!?ま、まさかあなた料理に毒を入れて私やマーリンさんの頬を溶かしてじっくりいたぶって殺すつもり!?」
「んなわけないでしょ!言葉の綾ってやつですよ!はぁ」
………なんかえらく面倒なことになったなぁ、柔らかくて老人でも食べられそうなものねぇ………
あ、そういえばお姉さんに名前聞くの忘れてた、教えてくれなそうだけどね!
「そういえば受付のお姉さーん?名前なんていうんですか?」
「えぇ?あぁ……私ですか?私はライラって言うんです、まぁあなたはもうこのギルドに来ることはほぼ無いでしょうけどね!」
うわぁなんか怒ってるよあの人、きっとカルシウムが足りないんだよ、きっとそう。
まぁこれでお姉さんの名前が知れたしいいだろう、なら俺があの老害クソジジイに飯作ってやるとしますか…!