5品目 〜俺…冒険者諦めるわ〜
さて、あの朝ごはんの後1時間で支度をして俺たちはギルドへ任務失敗の報告をするために一度街へ出た。街は多くの人々で賑わい、ところどころでエルフやゴブリンと言った存在も見かけた。
「ところで…レベッカちゃんはなんでおれの隣で寝てたの…?」
「あ!そ…それは…その…お風呂湧きましたよと起こすか寝室に運ぼうかいろいろ考えてたら私も疲れて眠くなってしまい…」
「…その割にはきっちり毛布被ってたけど?」
「お客さんをソファで寝かせて私がベッドで眠るのもなんだと思って隣に寝てしまいました…今思えばあの時の私は睡魔に襲われてどうかしてました…」
「あ、あぁうん…まぁ気にしなくてよかったんだよ?」
「いえまぁ…そう仰るのなら…次からはお言葉に甘えて自室で眠らせていただきます…」
「うん、それがいいよ、風邪ひいちゃうしね」
こうして歩いていると初めて会った時の柱の前まで着いた、そうだそうだ、この柱はなんなのか質問しようとしたんだった。
「そう言えばさ、この柱ってなんなの?見た感じこの世界には電気がなさそうだけどさ」
「電気…?まぁこの柱はあれですここがこの街の3番地だと言う目印とかになっているのです」
「へぇ、目印だったのかこれところで質問ばかりで悪いんだけどこの世界って醤油とか味噌って調味料はある?」
「しょーゆ…みそ…?あまり…いえ聞いたことのないものですね、もしかしてまよねいずのような美味しいものなのですか?」
ちょっと申し訳なさそうに俯いて上目遣いで質問してくるレベッカちゃん、ふんわりとしたボブカットの赤髪が太陽の光に照らされてものすごく綺麗。
「まぁね、あれがあるのとないのとでは料理を作る幅が全くもって変わってくるんだよ、二つとも基本的に大豆から作ったりするんだけどさ」
「だ!大豆って家畜の食料じゃないのですか!?そ!そんなものから美味なものが…?」
「へぇ、やっぱり家畜の餌とかにしか使われてないのか…そうだなぁ、大豆と言えば発酵…特殊な腐らせ方をして作る納豆って言う食べ物もあるくらいだよ?」
「ええぇっ!?腐らせた食べものを食すのですか!?はあぁ…奥が深いです…」
「余裕ができたらいつか作ってあげるよ、意外と簡単だった気がするしね」
まぁ今から醤油や味噌作り始めてもだいぶ時間をかけなければいけないからなぁ、時間が足りないよ…この世界に時間早める魔道具とかそういうの無いかな、主にタイムふろしき的な何か。
「ねぇ、この街と言わずこの世界に対象の時間の変化を進めたり戻したりする魔道具とかそういうものは無いの?」
「対象だけを進める…と言ったことはできませんが似たようなものでしたら…」
「マジで?その辺詳しく」
「確かこの街の地下のどこかに時間が進むのが恐ろしく早い部屋があるのだとか…」
「へぇ、それってどれくらい?」
「1ヶ月が半年…と言ったレベルですね、何故そんな時空間のねじ曲がった部屋が存在するのかは王都の人たちが調査を諦めてしまってますが…管理しているのは確かエルフの長老さんのお孫さんでしたかね…」
「なるほどなぁ、その部屋使わせてもらえないかなぁ…」
「使い道あるとは思えないのですが…どう使いたいのですか?」
「いやぁ味噌や醤油を作るのには3〜6ヶ月、味噌で長いのだと3年とか作るのに時間かかるからね、そんな部屋があるのなら都合がいいや」
「へぇ…とても長い時間をかけて作るものなのですねそのみそとしょーゆとやらは…」
なるほどなぁ、そんなおあつらえ向きに便利な場所があるならいろいろ熟成させたり時間かかるものをさっさと作れるのは本当に便利だな…その長老さんのお孫さんに言って使わせてもらえないかなぁ…
「さ!着きましたよタカシさん!入りましょう!」
なんて一人で考え事をしているといつのまにかギルドの前についていたようだ、レベッカちゃんの家から歩いて20分、以外と距離があったな…
「おや、昨日の…」
扉を開けた俺たちに一番最初に気がついたのは昨日も俺のことを受付してくれたお姉さん。黒い髪にやや褐色の肌、胸も大きくて素晴らしい体つきだと思う、そういや名前聞いてなかったな。
「どうしましたか?」
「いえ、任務失敗してしまいまして…」
「あらー…お怪我はありませんでしたか?」
この最初から討伐してこようが来なかろうがどうでもよかったかのような言い方、まぁ俺たち駆け出しだしな、気にすることじゃ無いだろう。
「いえ全く、ただ報告したほうがいいかな、と思いまして」
「これはこれはありがとうございますご報告、どうしますか?もう少しやさしめのものをご用意しますか?」
…どうしようか?やる?俺正直もうあんなめにはあいたく無いからなぁ…どうしようかと悩んで天井を眺めているとふとこちらを見つめる視線のようなものを感じる、隣にいたレベッカちゃんだ。
「………うーん………」
どうやらこの世界は俺みたいなやつには期待してないらしい、具体的に言うと神様から能力与えられたりとかリミッター解放と言ったその場限りの必殺技も無い…無理して冒険者をすることは無いというわけかな…まぁ俺がやらなくても誰かやってくれるだろ、多分。なら俺のやることは冒険者じゃない、もっと別のことがあると思うんだ…
いともたやすく出したこの結論に多分いつか不満を漏らすようなことになる日が来るかもしれない、けれどまぁ、無理だったら現実世界に帰れそうだから帰っちゃえばいいしな、決めた
「俺…冒険者諦めるわ、料理屋開こう、な?レベッカ」
「…え?」
「…!はい!」
いきなり何言ってるんだとほうけた顔をした受付嬢さんを横目に、今更俺はさっきレベッカちゃんのことを呼び捨てで呼んだことに気がついたけど…この嬉しそうな笑顔を見たらレベッカちゃんも気にしてないようだし…もっと仲良くなるための一歩を踏み出せたんじゃないかなって思う。