2品目 〜私、中途半端なんです〜
街の中心部に位置する冒険者ギルドでの登録を終えた俺はどこへ行くともなしにまずは町の方をぶらぶらしていた。
異世界最初の俺の目標はスライム3体の討伐、ギルドのお姉さんに教えてもらったがスライムと言うのはあまりにぷにょぷにょで物理攻撃が効きづらい、しかし魔法攻撃ならいとも簡単に倒すことができるらしい。
「んなこと言われても俺魔法使えるわけないしなー…」
当たり前だけど漫画みたいに異世界きて早々ピンチになりそこで俺の力が覚醒__!なんて都合のいいことは考えない、よって俺はまず街をぶらぶらして仲間を探すことから始めたわけだ。
「と、言っても俺にはそこまでのトークスキルやコミュ能力はないぞ…どこぞの番長でもあるまいし…」
そういえばこの街を歩いてさらにわかったことが幾つかある。1つ目はこの街にはエルフと呼ばれる種族がいること、特徴としては耳が軽く尖っていて高い魔力を操ることができる、そんなところか、あとは人間にほぼ近い容姿を持っている。
2つ目はこの世界にもやっぱり魔王という存在はいるらしいとのこと、魔王ではなく"覇王ディスターヴ"と言うんだとかなんだとか。
もちろんその"覇王ディスターヴ"にも部下はいるらしく7つの大罪の名前から取られた邪神がいるんだとか、本で読んだだけだから知らんけど。
と、まぁ俺がさっきそこらの本屋さんで見つけた情報、おっちゃんにめっちゃ睨まれたから一目散に逃げたけどね!!
ところでさっきから何故か視線を感じる…もしかして俺モテ期到来?いやそんなわけないか、てかそもそも俺この街には不法侵入したも同然だし、もしかしてマークされてたのかな…だったら嫌だなぁ…俺平原行ってスライムと対峙する前にムショで警察官と対峙することになるよ?
さて…どうしようか、相手は多分後ろの電柱の影にいる、わけを話せば許してくれないかな…?
「あ、あの__」
「あ、ああぁ、あのっ!!」
俺が振り向いて声をかけようとすると同時に向こうからも声をかけられる、ただ…姿は見せてくれないようだけどもね…
「えと、あの…あなたさっき…ギルドに来て、冒険者登録、してた方ですよね…?」
そんな風に向こうは顔も見せずに俺に怯えているかのように途切れ途切れで質問をしてくる。
「まぁそうだけど何か用?もしかして俺がこの街に不__」
「で!ですよね!ただスライムと言うと魔法使いじゃないと倒すのは困難ですので…大丈夫かなと思って…あうぅ…」
俺の言葉はいとも容易く遮られてしまった、割と大事な話だったけどまぁいいか。てかこの子コミュ力あるのかねえのかわかんねえ子だな…
「ですから私も…その…初めてでして…冒険するの…よろしければご一緒にと…あの…」
キターッ!パーティのお願いキターッ!俺がなんもしなくても向こうから来てくれたぜやったあぁっ!ラッキー!
「マジで?ほんとに?いいの?初めての相手が俺なんかでいいの!?」
「ひゃあぁっ!?ご!誤解招く言い方はよしてください!…で、ですからその、私と一緒に…パーティを…」
「あ、あぁすまんすまん、幾分興奮しちゃってね…ところで君の名前と顔を知りたいんだ、そろそろ…影から出てきてもらってもいいかな…?」
「あ!そ!そうですよね!はい!えと…恥ずかしいですが…」
そう言って影から出てきた女の子は…一言で表すと可憐な少女だった…林檎のように艶やかで赤い髪、少し長い先の丸まった可愛らしい耳、透き通るガラスのような翠色の目、身長は150くらい、胸は…あっ…何はともあれ、めちゃくちゃ可愛い子であった。
「お、おぉ…」
「あ、うぅ…恥ずかしいのであまりジロジロ見ないで…ください…」
「ご!ごめん…ところで名前は?…や、人に聞くときは俺からだな、俺の名前はタカシ、これから多分冒険者になる…と思う、よろしくな!」
「は!はい!私は…レベッカと言います…よろしく…です…」
このほんの少しの間のご対面でもだいぶ恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてうつむいてもじもじと答える、可愛いなぁ…
「と!とにかく、行きませんか?」
「そう…だな!うん!行こうか!」
**********
門番のおっちゃんたちはまだ寝ていました、仕事しろ。
とにかく俺は支給された武器も用意して平原にやってきた、俺の真横には少しどこか落ち着かない様子のレベッカちゃん、どうしたのかな。
「いけるいける…私はいける…大丈夫…」
「どうしたの?」
「ひゃあっ!い!いえ!なんでもないです!」
「そう?あ、そういえばレベッカちゃん少しだけ耳長いけどもしかしてエルフなの?」
「え、えと、私はエルフでもなければ人間でもないんです…」
「それは別の種族ってこと?俺あんまりまだわからないからなぁ、フェアリーとかそういう?」
「あ、いえ、そうではなくて中途半端なんです、私お父さんがエルフで母が人間の…ハーフエルフなんです」
「はぁっ!?マジで?ハーフエルフって…マジで!?」
「あ!あの!ごめんなさい!今まで隠していて!」
「え?いや別に凄いじゃん!つまり珍しいってことだろ?それにハーフエルフって言うくらいだから人間のくせに魔法バンバン打てるんでしょ?こりゃもう百人力っしょ!」
「あ!あの、私はそんなのじゃなくて…」
レベッカちゃんが何か言っていたようだがあまりにも声が小さく聞き取れなかった、レベッカちゃんの小さい声には慣れたつもりだったけどしょうがない、目の前にスライムがおあつらえ向きに1.2…4匹現れたからな。
「きたぞ!」
「ですから私は…えっ!?は!はい!」
どうやらこの世界のスライムは某RPGゲームなんかとは違いあの少し憎たらしくも愛らしいニヤついた顔はしていない、どちらかと言うと顔がない、ぶよぶよした物体がうねうねと体を変化させこちらを威嚇しているように見える。気持ち悪いなオイ!
「レベッカちゃん!俺はこの剣でひきつけるからその間になんか凄い魔法やっちゃってくだせえ!」
「は!はい…!」
「頼んだぞ!…うぉ…うわあぁぁぁ!!!」
俺がまず雄叫びとはおよそ言えない奇声をあげながら剣一本で勇猛果敢に横一閃に薙ぎはらう!
けれどももちろんわかってはいたがスライムにはあまり効いてないようだ、いや正確に言うと効くには効いているのだがそのまますぐに分裂し自己再生してしまうのだ。
俺の後ろではレベッカちゃんが呪文詠唱をしている、俺にはさっぱりわからない、けれど今の俺にできることはレベッカちゃんが呪文詠唱を終えるまでの時間稼ぎ!
スライムが真上にうにょんと伸びてそのあと俺に向かってその伸びた体を触手のように自在に操り鞭を振るうように俺へ攻撃を仕掛けてくる!
「あっぶね!」
スライムの猛攻は止まらない、けれども俺は1つ1つ追いついて避けて躱し、時にはこの剣で先っぽをぶった切る。
「すみません!遅くなりました!いけます!」
「おぉ!よし頼む!」
「スパークッ!」
レベッカちゃんが呪文を唱えると突き出された手のひらから電流が流れ、スライムに襲いかかる!
「おぉ!」
電流はスライムの体を痙攣させ、体を硬直させる、効いているのか!?
「あ…」
「え?あ…ってなに?これで足止めして強いのぶっ放すんだよね…え?」
「…すみません私やっぱりまだ最弱魔法しか打てないんです…」
…するってーとなに?今のが精一杯…?
「私、魔力量だけは並みのエルフよりも多いらしいのですが…人間の血を受け継いだせいで魔力を練るのがド下手でして…いけると思ったのですが…あうぅ…」
「おいおいおい!てことはスライム足止めして終わり!?」
「す!すみません!」
レベッカちゃんはすごく申し訳なさそうに俺に頭を下げてくる、いや…マジかよ…そういえば戦闘入る前に何か言ってたな…アレ伏線だったかぁ…
「わ!わかった!その話は後でだ!まずは逃げるぞ!」
「は!はいぃ!」
この世界に来て早半日、いきなりハーフエルフの可愛い子と仲間になれたかと思ったらいきなりの大混乱!どうするんだよこれえぇ!