第三継承権保持者の使い道
さて、私とアンニカさんは森の中の道を歩いていき、襲撃されている場所が見えるところまで来ました。
襲撃されてるというかなんというか、もう戦闘は終わっています。
今からならず者たちはお楽しみタイムに移行しようとしている所でした。
ならず者たちに襲われたときあの黒い結界の中に入り損ねた侍女達
【そういえばアンニカさんの探し物はどっちの陣営の人が持ってるんですか?】
「えーっとですね、二個あったんですが、
一つは反応が消えたのでそれはあの黒い結界の中じゃないかなー、と。
それともう一つはあの盗賊さんたちの方からです。」
盗賊に「さん」をつけるあたりがアンニカさんらしいなーと思いながらも考える。
とりあえず先頭になりそうだからシャドー系は影転移で避難させて、っと。
盗賊たちからは奪えばいいけど、王族から奪うのはちょっとなあ。
魔物のせいにしてもいいけど嘘発見器みたいな魔法もあるからあんまり悪いことできないんだよね。
力量の関係で私とアンニカさんははじけるから知らないうちにかけられる事はないけど、
裁判とかになったら面倒くさいし。
護衛料としていただくしかないのでしょうか?
いえ、アンニカさんの探し物が入っている物によっては高価なものかもしれません。
その場合は魔物に襲わせて強奪した方が面倒がないのですが。
そんな考え事をしていたからでしょうか。私はその攻撃を見逃してしまったのです。
「っ」
声は出せぬこの身ですが呼気ぐらいはもれます。
お腹の辺りが熱いです。
手をお腹に持って行ってみるとぬるっとした生暖かいものが。
「ちょ、ちょっと、だいじょうぶですかっ!!ああ、もう、なんであんな攻撃に気づけなかったんだろう。
いや、その前に治療が先で、えーっと《かの者を癒せ、ヒール》。えっ、全然効いてない。なんでっ?
あー、もう、うっとおしい。こんな時に攻撃仕掛けるなっ。《聖別せよ、聖別せよ、ここは聖域である。
理を捻じ曲げ、理を以てここを聖域とする》。よしっ、これで邪魔者は消したし、私の力も上がる。《わ が名 を持って命ずる、治癒せよ》えっ、嘘。これが効かないなんておかしいよっ。だって四肢失っ てても治せるのに。この矢が原因かっ。えーっと、抜くときは傷口をきつく縛ってからだったっけ。縛る
もの、縛るもの、あー、もう念糸でいいや。これできつく縛って、抜くんだけど、これ抜いて大丈夫
なのかな。これでさらにひどくなったらどうしよう。あー、もうっ。もっと勉強しとけばよかった」
アンニカさんがすごく慌ててる。
なんか私の体が光ったと思ったら、ここら辺一帯が光り輝いて盗賊たちが消滅したり、
今度はさらに私の体が強く光ったり、念糸でぐるぐるにされたり。
さっきから何度も念糸で文字を書いてるんだけど全然気づいてくれないし。
だからもう少しはこのままでいいかなー、って。
これだけ心配されるのは嬉しいし。
というかぐるぐる巻きにされてるから体がどこも動かせないし。
思えばあの盗賊たち刺客なんだからお楽しみタイムも見せかけだけに決まってるよねー。
ほんっと油断した。
あの程度の攻撃ならいかようにも対処できたのに。
この世界で弓矢は不遇である。
何しろほんとの上位者になると矢より早く動くこともできるんだから不遇なこともお分かりいただけよう。
だから基本的に弓矢は中級のどちらかと言うと初級よりの者たちが使うか、
毒を塗って暗殺者とかが使うとかそういう感じだ。
ファンタジー物質や、力が地球より強いことにより、地球での矢よりは断然速いのだがまあ、その程度。
一部の上位者が魔術の発動起点を定める触媒として使ったりするけど、それは例外として。
さっきの矢は毒が塗ってあるだけで矢自体は普通の速度だったし、
気を張ってさえいればレベル補正された私の身体能力だったら避けるのは余裕だったりする。
「あー、もう、しょうがない。
《人が人である理由なし。モノがモノである理由なし。その境は薄く、もろい。
聖者も邪人の境も薄く、元来、穢れと聖気の別もなし。
理無き理により・・、むぐっ」
っと、アンニカさんが明らかにやばそうな雰囲気の詠唱を始めたのでさすがに止めます。
どうやってかというと念糸をを大量に出して無理やり口をふさぐだけです。
詠唱は止まったんですけどアンニカさんは止まりません。
私が出した念糸を無理やりちぎって、えっ?
いや、そんな簡単にちぎれれうようなものじゃないんですけどいとも簡単にちぎって、
そこでようやく私の様子が普通だという事に気が付いたようです。
「あの、ダイジョブなんですか?」
あっ、口調が元に戻ってる。
さっきまで結構荒っぽかったのに。まあ、それだけ焦ってたんだね。
【大丈夫ですよ】
ダンジョンマスターの体が矢を受けたぐらいで壊れるはずがない。
その矢にたとえ下位竜クラスなら時間はかかるけど殺すことができるような毒が塗ってあっても。
大丈夫だっていう証拠を見せるため、矢を念糸でぐるぐるにまいて体から引っこ抜く。
「ちょ、ちょっと何してるんですかー!?」
【大丈夫ですよ】
矢じりの形が少し特殊だったからかなり出血したけど問題ない。さすが対人用の矢ですね。
普通の人だったら少し危ないぐらいの出血量です。
たぶんそういう系の毒も塗ってあったんでしょう。血の硬化を防ぐといった感じのやつが。
まあ、大丈夫です。
直れー、直れー、と念じていると直りますし。
うん、もうほぼ直りましたし。
ただ、あの第三継承権持ちのお王女に見られてますし、
一応形式的にアンニカさんが直したように見せなければいけません。
【もうほぼ直りました。あともう一回派手目に治癒系の魔法をかけてください。
見物人もいますし。】
王女からは見えない様にアンニカさんの体の陰になっている場所で念糸で文章を書きました。
アンニカさんも見物人がいたことを思い出したらしく、
少しまぶしいくらいの光を出して治癒系の魔法をかけてくれました。
さて、これで私が無傷でもおかしくないですね。
とはいえ、服に穴が開いてしまったので後で着替えないといけません。
次の服はちゃんと高性能なのを着ることにしましょう。やはり適当に選んではいけませんね。
ああ、それにアンニカさんに魔法の使い方も教えなければいけません。
解毒系の魔法を使い忘れるなんておっちょこちょいなんだから。
【それで、アンニカさんの探し物はどこですか?】
「あっ、そうでしたね。それが目的でしたね。えーっと、あれと、あの女の人の首飾りですね。」
アンニカさんが指さしたのは宙にふよふよ漂う光と、王女がつけている首飾りでした。
おかしい光はとりあえず置いといて、
パシッ、と叩いてアンニカさんの指を叩き落とします。
「えっ、なっなんですか。あっ・・・・・・・・。
ご、ごめんなさい、役立たずで。巫女だっていうのに満足に治癒もできなくて。」
なんかすごい勘違いをしだして、しゅんとかわいらしく落ち込んだので慌てて訂正します。
【違います。アンニカさんが外にいた時代がどうだったかはわからないですけど、
貴人に向かって指さすと侮辱罪とかで罰せられることもありますから】
「えっ、そうなんですか。怖い世の中になったものですね。
私が巫女をやってた頃は私が指さすとすごく喜ばれたものでしたのに。」
誤解が解けたようで一安心です。
そう思いながらも、アンニカさんがしゅんと落ち込んだかわいらしい姿を
もうちょっと見たかったなあ、と思う私はおかしいのでしょうか?
年上(外見年齢)の女性にかわいらしいと言う時点でどうかと言われるかもしれませんね。
まあ、もしおかしいと言われても私はダンジョンマスターという時点で異端なので気にしませんが。
というかアンニカさんの巫女時代が結構謎に包まれてますね。
あれ、というかなんでアンニカさんの巫女時代の事を私は知らないのでしょうか。
エヴァレスト神殿は当時大きな話題になったはずです。
そしてエヴァレスト神殿が衰退、ほぼ消滅することになったのは五十年ほど前。
その時代はすでに私が作ったホムンクルスたちが完璧に人の中に紛れ暮らしていたはず。
だというのに私はエヴァレスト神殿の事を本でそういうことが起こったとしか知らない。
これは絶対におかしい。
このダンジョンマスターの高性能な脳はそれこそ何万といった数の魔物と感覚をシンクロさせ、
それが何百年と続いてもそのすべての物事を記憶して置くことができる。
だというのに私はエヴァレスト神殿の事を全然知らない。
なぜ?
「そ、それでですね、この次はどうしたらいいんでしょうか?
私が盗賊さんたちを消してしまったのですけど。」
はっ、と現実に引き戻された。
そうですね。取りあえず考えるのはいつでもできるので今は現状の対処をしましょうか。
【とりあえず王女の方に行って話してみましょうか】
顔を見られてしまったので悪いことをするなら消すしかないですし、
正規の手段で首飾りを手に入れようとするなら交渉するしかありません。
いや、別に顔を見られたからどうという事はありませんね。
影の中にシャドー系を潜ませておいて折を見て奪えばいいだけですし。
そうですね交渉が決裂したらそうしましょう。夜寝てるときとかに知らぬ間に消えている感じで。
【アンニカさんが交渉してみましょうか】
「えっ、わ、わたしがですか?わたし、知ってのとおり」
【人見知りですね。でも直そうと努力しないとですよ】
「うー、わ、分りました。」
【でしたら私の陰から出ましょうね。交渉人がそれだとなめられますよ】
「・・・・」
しぶしぶといった感じでアンニカさんは私の後ろから前に出ます。
交渉が決裂してもどうにかなるとわかったので王女にはアンニカさんの練習台になってもらいます。
王女と言っても相手は政治にはあまり興味はなく、どちらかというと研究畑の人なので大丈夫でしょう。
それに、王女本人はともかく、生き残っていた護衛の人たちはアンニカさんの聖別を見てるので。
あれは恐ろしいです。なんといっても盗賊たちが跡形もなく消滅したのですから。
それを踏まえて交渉してくれれば何とかなる確率は四割ぐらいあると思います。
アンニカさんの「初めての交渉」はどうなるんでしょうね。
歩きながらアンニカさんに諸情報を伝えながら思う。
きっと大丈夫かハラハラしながら見る事になるんだろうなー、と。




