話し合い
everlasting
永久に続く,不朽の,永遠の.
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「問おう、汝は我の敵なりや?」
しわがれた恐ろしい老婆の声で私に聞いてくる。
というかこの人さっきから口調が全然定まってないな。
出てきたのはまさに魔女といった風体をした人だった。
だけど老婆みたいに背が低かったりしなかった。猫背だったりしなかった。
うつむいているので顔が目深にかぶっている三角帽のつばに隠れてよく見えないけど、
背筋がピンと張って姿勢の良い、大人の女性だった。胸もあったし。
もし、服の上からでもはっきりとわかる胸がなかったら
男性だと間違われかねないぐらい露出が少ない服装だ。
唯一出てるのは顔だけだし、そこもさっき言った通り隠れてるから。
・・・・・・・・・パッドではないことを祈ろう。女装とかいやだし。
「とっとおう、汝はわれの敵なりや?」
同じセリフだけど、私がじっと見てたからかちょっとおどおどしてる。
人が苦手なのかな?それとも視線かな?どっちかわからないけどちょっと楽しい。
このまま考え事しながら見てよう。
最初この人は私に立ち去れと警告したけど、そのあとなぜかすぐに攻撃した。
それはなんでなんだろう?
この人の破壊衝動が、っていう事はないよね。うん、さすがにない。
破壊衝動を抑えられない人って相当危ない。しかも相手の私は人だし。ああ、この場合殺人衝動か。
まあ、どっちにしろないと考えていい。
じゃあ、この庵の防衛機構が、とか?
それもたぶんないかな。
防衛機構ならもうちょっと早く発動するか、庵にもっと近づいてからっていうのが普通だし。
あんな中途半端なところで発動するなんて訳わかんなすぎる。
うーん、分かんない。
ずっと見られてる魔女みたいな人がおろおろとしだすぐらい考えてみたけどわかんない。
ここに来てからのことを整理しようか。
聖別された空間に違和感を感じて、
シャドーアサシンの物と思われる魔石を拾って、
目の前のおろおろしてる人に警告されて、
それで私が意思疎通を図ろうとして《念糸》で文字を書こうとしたら、
攻撃されたと。
うーん・・・・・・・・あっ、あー、なんで攻撃されたのか分かった。
《念糸》っていうのは私のはスキルで手に入れた技術だから少し違うけど、
〈念糸〉っていうのは本来捕縛用だったり、戦闘中とかに魔方陣を簡単に書くための技術なんだよ。
だからこのおろおろさんは私が〈念糸〉を使ったと思ったから、
おろおろさんを捕縛に来た、または殺しに来たとでも思ったんだろうねえ。
という事で私の意思疎通の手段である《念糸》が使えない。
じゃあ、どうやって意思疎通しよう、って悩むほどじゃないか。
地面に文字を書けばいいし。
私はそこら辺に落ちていた手ごろな木の枝を拾って地面に文字をかいていく。
急に動き出した私をおろおろさんがずっと見ているのが分かる。
【敵対の意思はありません】
これだけ書くのも少し時間がかかる。やっぱり念糸が使いたい。
「あっ、は、っはい。すみません、急に攻撃したりして。」
おろおろさん、老婆の声に魔法で変えたまんましゃべってる。
まあ、いいか。
【私は声を出すことができません。だから普段念糸で意思疎通しています。先ほどは脅かしてしまって
すみません。いちいち地面に文字を書くのは大変なので念糸を使っていいですか?】
「はあ、そうなんですか、あっ、いえ、脅かされたというより私が勝手にびっくりしただけで、
本当にすみません。あっ、念糸どうぞ。」
長文になるともっとめんどくさい。おろおろさんが許可を出してくれてよかった。
それと同時に聖別の度合いが落ちた。
これで《念糸》を使うことができるだろう。
けど本当におろおろさんの反応が面白い。
文を読んでいって、そのたびに反応してくれるし、さらに、恐ろしい老婆の声で、
しかもしきりに恐縮してるっていう、うん、なんかからかいがいがありそう。
まあ、からかっては話が進まないから今はからかわないけど。
【わたしは近くの村に滞在しています。その時にこの森に違和感を感じて調査しにやってきました。
おそらくここに張ってある結界に違和感を感じたんでしょう。
以上が私がここに来た理由です。
それから神殿の人かと聞かれましたが、どういう事でしょう?】
「ちょっ調査ですか。私何も悪いことしてませんよ。」
後半は読まずに前半だけに反応したようだ。
【調査としましたが、危険なモノだったら危ないという確認と、興味を持ったというだけです。
私はあなたが危険でないと判断したので特に気にしないでいいですよ。
それで、神殿というのは?】
「ほっ、そうですか。ありがとうございます。
神殿っていうのはエヴァレスト神殿の事です。エヴァレスト教の。
世界で二番目にでかい宗教だって神父さんが言ってましたよ。
私そこの巫女っていう扱いになってるんですよ。だからそこから連絡が来たのかと思って。」
巫女?なんで巫女がこんなところに。というかエヴァレスト神殿?聞いたことあるような、ないような。
でも世界で二番目にでかいって言ってたし、うーん・・・・・・・・。
あっ、思い出した。
確か、私がダンジョンの外に出るちょっと前だったかな。
今から五十年ぐらい前に不祥事を起こして、その不祥事が影響で潰れたという内容の本を町にいるホムンクルスが読んだんだった。
それでシンクロで知識を共有した私の頭の中にあったんだ。
地方には残ってるかもしれないけど、大都市には残ってないだろう。
少なくともこの頃、私はエヴァレスト神殿なんて言うのは魔物の目を通して見たことはない。
って、この人何歳なの?もしかして今までの声って地声?
【今声って変えてます?】
「えっ、あ、すっすみません。魔法使ったままでした。今解除します。」
よかったー。魔法で変えてた。
「あ、あー、はい、ちゃんと魔法解けました。
ところでエヴァレスト神殿って今どうなってるか知ってますか?知ってたら教えてほしいんですが。
私、ちょっとここでのんびりしてたんで、外の様子がどうなってるのかわからないんです。」
おろおろさんの声はいい感じだった。
ポカポカとした陽だまりのようにどこか人を安心させるような声だった。
その声に憂いを混ぜるのは心苦しいが、嘘を言うのはよくない。
【わたしの知識では、エヴァレスト神殿は潰れています。
地方には残っている可能性はありますが、少なくとも大都市にはないと思います。】
「えぅ・・・・・・・・・?いや、そんなことないです。
だって、ちょっと前までは世界で二番目だったらしいですし。
そりゃあ、少しぐらいは衰退しちゃってるかもしれませんけど、ないってことはないですって。」
・・・・・・・・時間感覚がくるってる?
私もおろおろさんの事は変とは言えない。
ダンジョンの奥深くにいたから昼も夜もなかった。
暇だったから魔法を覚えたり、作ったり、手芸とかに手を出したけど、それでもそのうち飽きる。
だから結構な時間寝ていた気がする。
だから、私がこの世界にあると認識してから、今が何年目なのか全くわからない。
いや、もしかしたら何十年目かも。さすがに何百年っていう事は・・・・・・・ないって言えない。
まあ、私の事は置いといて、おろおろさんの時間間隔が狂ってるっていうのは確定だ。
だって不祥事でエヴァレスト神殿がつぶれたのって五十年前だもの。
それをちょっと前だなんて言ってるし。
【信じられないかもしれないけど事実です。順を追って説明しましょう。
まず、エヴァレスト神殿がほぼ潰れたのは不祥事を起こしたからです。】
「不祥事?」
【はい不祥事です。何かまでは知りませんが。そしてその不祥事が起こったのは五十年前です。
それ以降どのように衰退していったのかわかりませんが、
エウトニカ、 クーダ、パラドケス、などの大都市であると聞いたことはないです。】
私はここら辺の主要な都市の名前を出して説明した。
さすがに私が言ってることが嘘でもなんでもないとおろおろさんは理解したようだ。
「・・・・・・・・・・・本当に?」
何が、とかが抜けていたがおろおろさんがなにを聞いてるのかは分かった。
【はい、本当です。】
だからこちらも具体的なことは言わないでおいた。
余計に悲しくなってしまうだろうから。
「よしっ。」
余計に悲しく・・・・・・・
「これで戒律を守らないですむ。」
余計・・・・・
なんてことはなかったみたいだ。よく分からないけど喜んでる。
「あっ、けどエヴァレスト神殿がつぶれたっていうならあれはどうなったんだろう。
探すのが大変かも。うー、どうしよう。」
今度は落ち込みだした。情緒不安定である。
そのおろおろさんを見ていて思いついたことがある。
【少し聞きたいことがあるのですがいいですか?】
書いてみたけど、落ち込むのに忙しくてこっちを見てくれない。こういう時は不便だ。
仕方ないから魔女風のマントの端を引っ張る。
「あっ、はっはい、なんですか?忘れてなんかいませんよ。」
もう一度質問の許可から書くのはめんどくさいので一気に質問をする。
【探す当てはあるんですか?】
「いえ、ないです。けど近くにまで行けばだいたいどこにあるのかはわかると思うんですけど。」
これは好都合。
【探すまでの時間に期限とかはありますか?】
「いえ、特にないです。極論すれば最終的に私の手の中に戻ってくればどれだけ先でも構わないです。」
ますます好都合。
ここから先を伝えるには少し勇気がいる。
それにシャーリーンさんに悪いような気がする。
シャーリーンさんは本当に私のことを気にかけてくれてたから。
けどやっぱり心苦しい。相手を騙すっていうのは。
私はシャーリーさんに近づきすぎてしまった。
私は決心して空中に念糸を浮かべ、それを動かして文字を形作らせる。
【じゃあ、一所に旅をしませんか?】
「へっ?」




