ダンジョン 母親
書き足しではなく元から予定していたものです。入れ忘れてました。
「・・・・・・っていう感じで森でのあの子とってもかわいかったよ。」
お母さんに森でのあの子がどれだけ可愛かったかを自慢中。
あの子の前でこうやってどれだけかわいいか語ったらあの子はどんな反応するかな?
どこか人との付き合い方が分からないネコを連想させるあの子。
照れるかな?それとも表面上は平静を保つかな?耳だけ赤くなったり・・・・・・
そんな想像(妄想)をしてると実行したくなってくる。
だけどそんな私の幸せな妄想(想像)を邪魔する不届きものが。
「はいはい、あの子がかわいいのは十分わかったから。
それで?私に何か聞きたいことがあるんだろ。」
「・・・・・・なんで分かったの?」
どうやって切り出そうかタイミングを計ってたのに。
「そりゃ、だてにあんたの母親を十九年してないよ。」
母強し、っていう事か。まあ、それはいいや。
私は真剣な顔をしてお母さんに切り出す。
「ねえ、お母さん。」
「どうしたんだい、そんな真剣な顔をして。」
「聞きたいことがあるの。」
私は意を決して言う。
「母親の気持ちってどんな感じ?」
それを聞いたお母さんはなぜか額に手を当てて上を向いた。
「ちょっ、その反応はなに?予想してなかったんだけど。」
そんな娘の反応を無視して母は語りだす。
「いいかい、私が話せるのは、あくまで私の感想だし、
自分で生んで育てるという意味での母親の感想だからね。そこは勘違いしたらだめだよ。」
厳しい顔をして言う。
この時期にこんな質問をしてくることからあの子を意識しての発言というのは明白だ。
「う、うんわかった。」
頷く娘を見て少し考えてから話し始める。
「子供っていのはね、母親にとって面倒なもんだよ。」
「へっ?」
予想していた答えと違って驚く。もっとこう宝物だとか、そういう綺麗な感じのことを思っていたのだ。
「赤ちゃんの時はすぐに泣くし、
少し育ったと思ったらちょろちょろといつの間にかいなくなったりするし、
また育ったら今度はいう事を聞かなくなるしで、もう大変。
しかもあんたの場合、体がそんなに強くないのにお転婆だったから大変さが倍増、
もうほんとにめんどくさいったらありゃしなかったよ。」
「へ、へーそうなんだ。」
目をそらしながら相槌を打つ。
自分がお転婆だったという自覚はあるようだ。
しかも体が強くなかったから、無茶して次の日風邪をひいたりという事もよくあった。
「まあ、けどね、母親っていうのも悪いもんじゃないよ。
だから私の感想としてはめんどくさいけど、嫌いじゃないっていう感じだね。」
「そう・・・・・・・・うん、参考になったよ。ありがとう。」
シャーリーの顔が何かを決心したように輝く。
しかし妨害が。
「まあ、あの子はあんたと違っておとなしいからね。手はそうかからんだろうね。
けどね、あの子は訳ありだよ。」
「うん、そんなことは分かってるよ。」
「いいや、分かってないね。あの子が事情を話せるようになるまで待てとは言わないよ。
人には絶対言いたくないことだってあるしね。それがたとえ家族でも。
だけどね、せめてあの子が私たちに安心して身を任せられるようになるまで待ちな。」
安心して身を任せられるようになるまで、とお預けをくらったシャーリーはふてくされた顔で聞く。
「それっていつまでなのさ?今でも一緒に寝たりしてるよ。大丈夫じゃない?」
「はあ、分かってないねえ。あの子は確かにあんたに甘えてるけど、それだけじゃないか。
距離的に言えばエサをもらった野良猫がすり寄ってくるみたいなもんだよ。
満腹になれば去っていくし、エサがあっても気まぐれで寄ってこないこともある、
私から見たあの子はそんな印象だね。」
どこか人との付き合い方が分からないネコを連想させるあの子、
と考えた娘と同じくたとえに猫を出した母親。
やはり親子の思考は似るものなのだろうか?
そんなことをシャーリーが考えるわけもなく、母親に反論する。
「エサって何なのさ?あの子はご飯がもらえるからってすり寄ってくるような子じゃないよ。
もっとちゃんとしてるよっ。」
「別に食べ物の事じゃないさ。どうもね、あの子は人との触れ合いに飢えてるみたいだったからね。
あんたと触れ合えるのがエサってことさ。
ある程度満足したら去って行っちまうんじゃないかってね。」
「そんなことっ」
反論しようとした娘を遮って言葉を続ける。
「それに、別にそうじゃなくてもあの子がここに留まる気なのかはわからないからね。
あの子の可能性を狭めるようなことはしたくないだろ?」
「うう、そうだけど、そうなんだけど・・・・・・・・・・・。
そっそうだ。小さい子が一人旅するなんて危険だよ。
だから、せめてあの子が多少嫌がっても大きくなるまでは引き止めても。」
正直母親はここまであの子に執着しているとは想像していなかった。
しかし、よく考えてみれば意外でもなかった。
シャーリーは昔から気を許した相手には、とことん執着する。
昔旅の行商人に気を許した時は、商売をし終わって去っていくときにはたいそう泣いたものだ。
その情は理解するが、母親として娘の間違っていることには訂正しなければならない。
「あの子はあんたより強いよ。」
「へっ、お母さん、何その冗談。全く面白くないよ。
それに私はまじめな話をしてるの。冗談なんか言わないで。」
「まじめな話だよ。」
母親の顔に冗談の気色が全くないことから、本当だと分かった。
「ほんとに?」
それでも信じがたい。
彼女は自分の魔法に結構自信を持っていた。
昔は冒険者にあこがれていた時期もあったが、体の弱さから冒険者にはなれなかった。
しかし、単純な魔法の腕ならたいていの冒険者に勝っている自信があった。
その彼女より強いというのだ。にわかに信じがたい。
「ああ、私が昔冒険者やってたのは知ってるだろう?
今でこそ引退して長いけど、相手が自分より強いかぐらいは分かるさ。
さすがにブランクでどれぐらい強いかまでは分からなくなってるけどね。」
「おかあさん・・・・・・・・・・・・・・冒険者やってたなんて初耳だよ。」
「おや、言ってなかったかい。Bランク一歩手前までは行ったんだけどねえ。
お酒に肝臓をやられちまって長く戦えなくなったから引退したんだよ。」
「B?ちょっ、まってお母さん。それってすごくない?」
Sランクは人外、Aランクは桁外れの才能がある者が気ちがいじみた努力で至り、
Bランクは才能のあるものが桁外れの努力をしたら至れる、
と書けばどれだけすごいのかお分かり頂けるだろうか?
もちろんBよりAの方がすごいのだがここで言ってるのはそういう事ではない。
身近にBに至ろうかというものがいた、という事がすごいのだ。
そしてその娘の驚きように母親はまんざらでもなさそうだ。
「まあ、引退して長い今でも、魔物が村を襲って来たら簡単に排除してあげるから安心するんだね。」
「おー、頼もしい。・・・・・っじゃなくて。お母さんよりもあの子が強いって本当?」
「いや、さっきから言ってるだろ。確実に私より強いよ。
あっ、けどどこかそういう経験は積んでなさそうな・・・・・・・
うん、勘違いかもしれない。」
・・・・・・・・娘はじと目である。先ほどのB一歩手前まで行ったという事への尊敬はここで消えた。
「いや、強いと思うんだけどねえ。だけどどこか動きが素人っぽいというかなんというか・・・・・
魔法使いだったら・・・・・・・でもそれでも最低限は・・・・・・・・
うん、やっぱりよくわからない。」
「はあ、それで、もし強かったとしてもだよ。悪い大人に騙されるかもしれないじゃない。」
「分かってるよ。だけど無理強いしてはいけないっていう事だし、
それと母親になることは違うっていう事だよ。
森で遊んでなんかあんたの心境に変化があったのかもしれないけど、あんたも大人なんだ。
ある程度物事についてわきまえるっていう事をしないと。」
「・・・・・・・・はーい。」
しぶしぶ、本当にしぶしぶといった感じで返事する。
その返事に文句をつけようとした母親だが、ふとあることを思い出す。
「そういえばあんた、あの子と森で遊んできたようだけど、仕事はどうしたんだい?」
「・・・・・・・・・・・・ちゃんと終わってるよ。」
心なしさっきの返事より沈黙がながい。
「あんた、まさかあの子に手伝ってもらったり・・・・・・・・
というか普段のあんたの魔道具を仕上げる速度からしたらほとんどあの子が」
「あーーーっ!、お母さん!報告しないといけないことがあるの!
森でまったく魔物に会わなかったのっ!何かの前兆かもしれないから調査したほうがいいかも!
それじゃあ、報告はしたからね!私は魔道具作りの練習するから!
練習中は話しかけないでね!危ないから!じゃあね!」
勢いに任せてすべてを話しきってから風のように去って行った。
実際〈ウインドブースター〉というつぶやきが聞こえたから風の補助を受けていた。
母親は勢いよくあけられていったドアを見ながら少し呆れる。
「はあ、あの子は・・・・・・」
そう思いながらも気になることが二つあった。
一つは森の事。
娘の話しぶりからそれなりの時間森にいたことは分かっている。
その中で魔物に出会わない、という事はあり得る。あり得るが可能性は低い。
無駄骨になるかもしれないが、要調査要綱だろう。
そしてもう一つ。
あの子の事だ。
これまた娘の話したことから想像すると、あの子はごく短時間で大量の魔道具を作ったことになる。
その知識は、技術は、どこから来たのか?
さらに彼女自身が感じた自分より強いという感想。そしてその割に動きが素人くさいという矛盾。
これから導き出される答え、いや予測は最初から強い高位の種族
例えばハイエルフなどのハイ系、天使、竜人(龍人)、そして悪魔
「まあ、ないか。私の勘も落ちたかねえ。」
そうだとしたらおかしいとこがいくつかあるし。
訳ありだと、無理強いするな、と娘には言ったがそれでも気になるものは気になる。
好奇心が旺盛なのはいいハンターの条件といわれることもあるくらいだ。
彼女は好奇心が旺盛だった。
しかし、娘に言った手前それはどうだと思い直した。
それに根拠はあくまで自分の勘しかないのだ。
それで疑うのは間違っている。
彼女は頭を一度振って思考を切り替えて、自分の仕事に戻って行った。




