Ⅶ
大変ながらくお待たせいたしました(毎回この挨拶になってきた
本来なら年の瀬最後の更新になるはずだった、お話なのですが新年明けて今になったしまいました。
障子戸を閉じられている状態から片方を右へと動かし、部屋の中の様子を窺うと前回訪れた時の上座ではなく、部屋のほぼ中央の位置に麒麟様が一人で座っている。少し離れた所にある問題のお香が焚かれている置物を見ると、元の長さの大よそ四分の一くらいの長さを残している事を確認していると、麒麟様と視線が合った。
「いつまで、そうしているのですか? 早く中に入りなさい」
優雅な動作で扇子を開き、口元に宛がい部屋の中に入るように促される。口元が隠されていて見えないが、絶対面白がっていて笑っているであろうと予測できるだけに、このまま無かった事にして障子戸を閉めて帰りたいと内心で思ってしまうのは、この後の精神的苦痛が容易に想像できるからである。と内心でごちっていると、今度は一度だけ名前を呼ばれる。
「スイレン」
渋々という表情を隠さず、仕方なく部屋の中に足を踏み入れると、予想通りの言葉がかけられた。
「あぁ、戸は閉めてかまわないわ」
麒麟様に見えないように背を向けて、嘆息して戸を閉めその場に座ろうとすると動きを止められた。
「スイレン、何故その様な離れた所に座るのですか? こちらにいらっしゃいな」
ちらりと麒麟様を見やると、真顔の麒麟様が手招きしている。
内心で、うへー、面倒くさっ! と、ごちってから麒麟様が自らの手で指し示した隣ではなく、麒麟様から少し離れた対面に腰を下ろす。未だに、口元に宛がわれている扇子ごしにクスクスと楽しげな笑い声を上げる麒麟様……どうやら、ご機嫌は良いようである。そりゃ~、重畳。と内心で思っていると、本格的に笑いのツボに入った麒麟様が口元にあった扇子を閉じて声を上げて笑いだした。
「ぷっ! あははははは。はぁ~、スイレンちゃんってば面白いんだから! ふっはははは」
何がそんなにツボだったのか不明だが、やや暫く一人で笑い続ける麒麟様。笑いが収まるまで、二分ほどかかった。
どうにか笑いが収まった麒麟様の口調が畏まったモノから親しい者と話す時の口調に変わり口を開く。
「はぁ~……久しぶりにこんなに笑ったわ! もう、スイレンちゃんは照れ屋さんなんだから!」
誰が、照れ屋だ! と内心で毒づき本題を切り出す。
「で、アタシに揃えて貰いたい品の候補とか要望は?」
一刻も早くこの場を去りたい! と内心で思っているアタシの心情を読み取っているであろう麒麟様は当然、本題には触れてこない。変わりに、とんでもない事を言ってくる。
「酷いわ、スイレンちゃん。カスミちゃんに始まり、水月や火月とは、あんなに楽しそうにしてたのに私にだけ、そんな仕打ち……あんまりだわ」
そんな台詞とともに、片手を目元に持って行き少し俯いて泣いている素振りを見せる。まぁ、確実に嘘泣きなワケだが……尚も続ける。
「シクシク……そうよね。どうせ、私はスイレンちゃんに嫌われてるんだもんね……。仕方ないわよねぇ。シクシク」
仮にも、全島の長を務めている者がシクシクとか言わないで下さい! とこの場で言えるだけの度胸はアタシには無い。そんなことを言おうモノなら更なるボケにつき合わされ、ろくな事にならないと経験で知っているアタシが出来る事は……
「いやぁ、別に嫌っては居ないですよ」
アタシの台詞に俯けていた顔をこちらに向け、疑わしそうに尋ねてくる。
「本当に? 私の事嫌いじゃないの?」
アタシの顔を下から上目遣いで、目尻にうっすら涙を滲ませながら確認をしてくる。カスミの時にも思ったけど、コレは反則だと思う。カスミも麒麟様も整った綺麗な顔をしているので破壊力が半端じゃない!
涙は女の武器だとか最終兵器だかって聞いたことがあるけど、こんなの見せられたら誰だって悪い気分にはならないだろう。
アタシは身を乗り出して、右手を麒麟様の目尻に持って行き、涙を親指で拭き払いながら麒麟様としっかり目を合わせて口を開く。
目尻に薄っすら溜まった涙を親指で払いながら、本心をありのまま口にする。
「嫌いじゃないですよ。少し苦手な部分はありますけどね」
実際、好きか嫌いかで聞かれれば、好きだと答えるだろう。実際この二択を迫られた時、アタシが嫌いと答える人物なんって今の所居ない。幼少の頃、里の掟で崖から落とされた事には、他にもやりようはあるだろうにと思わなくもないけど、その事自体に関して妬み嫉みといった感情が自分の中で沸いた事が無い。
寧ろ、アタシの存在を隠していた家族がなんらかの罰を受けていないか……ソレが心配である。と内心で思考しつつ麒麟様の涙を吹き払い終えたので、姿勢を戻そうとしたのだが麒麟様に右手を捉まれて動きを制された。
「ちょ……ちょっと! 麒麟様!?」
アタシの戸惑い気味の口調と態度に、すっかり泣き止んだ麒麟様が面白くない事があった子供のように頬を膨らませ、拗ねた口調で言ってくる。
「スイレンちゃんってば、直ぐに手を離しちゃい・や! それに、『麒麟様』じゃなくて、カグラよ」
言い終りに、ウィンクをしてきて、おまけにアタシの右手を片手で動きを制しもう片方の手で撫で回してくるのである。にしても、全島の統治者様である麒麟様を名前で、しかも呼び捨てで呼べとは、コレは如何に? と疑問が浮かんだので、ご本人様に聞いてみる。
「何故に全島の最高責任者で統治者様を名前で呼ばなければ、いけないのですか? 通常、各島々の統治者達も原則として称号で呼ぶ事が通例ですよね? 何故今になって、そのような事を言うのですか? 後、いい加減右手を解放してくださいよ!」
敢えて畏まった口調で、麒麟様に疑問に思った事を聞いてみた。最後に本音を添えたのは、いい加減腕が疲れてきたという肉体的苦痛による所が大きいのだが、果たして素直に解放してくれるかなぁと思いながら麒麟様からの返答を待っていると、顔の半分ほどが髪で隠れているので此方から見える片目だけをパチパチと音がしそうなくらいの瞬きをして、小首を傾げながら返答が返ってきた。
「何、急に畏まっているのよ。えー、だって! カスミちゃんや火月や水月達はみんな名前呼ばれてるのに、ワタシだけ仲間はずれは嫌だわ! それに……スイレンちゃんの手の触り心地が良くて放したくなーい」
えーっと、理由はアタシがカスミや麒麟様の式神達を名前で呼んでいるから自分もそう呼べ! とそういう事らしい。いやいや、全然意味が分かりませんってば! そして、いい加減腕がだるいから右手を解放してほしいんだけどなぁ……と内心で盛大にごちり、麒麟様に返答を返す。
「話の流れ的にそうした方がいいかなぁと思ったまでですよ。いやいや、意味がわかりませんよ! カスミとは立場的に同列だし、式神達もそうでしょう? 麒麟様は、この諸島の最高権力者なんだから立場的にどうしたって、称号で呼ぶしかないと思うんですけどね。と言いますか、いい加減腕が疲れてきたので右手を解放して下さいよ~」
アタシの返答を聞いた麒麟様が、再び頬を膨らませて言い返してくる。
「い・や! まだ放してあげないもん! え~!! スイレンちゃんだって幹部じゃない! ワタシは親しい人とは立場とかの垣根を越えた関係を築きたいだもん」
澄ましていれば大人な色香を纏った妖艶な美人なのに……勿体ない。仕草が子供ぽいから立場を忘れてついつい可愛いと思ってしまうじゃないか! と内心で思いつつ顔に出ないように気を遣う。
それにしても、麒麟様がそんな風に思っていたとは少々意外である。
長めの溜め息を一つしてから、麒麟様に返答を返す。
「勘弁してくださいよ~。腕だけ伸ばすこの姿勢かなりしんどいんですから! 好きで幹部になったワケじゃないですよ。いつの間にか、周りに担ぎ上げられて気がついたら側近になってただけの話ですよ。ふ~ん、垣根を越えた……ね」
幹部というか側近になる過程を思い出し、溜め息が漏れる。ふくみを持たせた部分が気になったのか、麒麟様が抗議の視線を向けてくる。
「何よ? 何か言いたげね……言いなさい」
あ~、マズった! と内心でごちるが表情に出ないように気をつけるが、返答が棒読みになってしまった。
「な、何の事ですか? アタシにはわかりかねますね」
内心では冷や汗がダラダラと流れているが、平静を装う。だが、麒麟様は尚も続けて聞いてくる。
「ふふふ、スイレンちゃん。素直に喋った方が身の為よ?」
表情は物凄くいい笑顔なんだけど、どうしようもないほど黒いモノが滲み出ている……そんな笑顔を向けられたら退路が無いのは明白なのだが、悪あがきを試みる。
「素直になるもならないも……別に隠し事なんって無いですよ? 敢えて言うのであれば、そろそろ右手を解放していただけると嬉しいんですけどね」
内心では冷や汗がダラダラと流れているが、顔色や声に出ないように気を配る。アタシの発言を受けて麒麟様の髪に隠れていない方の目がすーっと細められ、素早い動作でアタシの背後に回ろうとするのを察知してどうにか回避を試みようとしたが、右腕を封じられているのでなす術もなく背後を麒麟様に取られ抱きながら麒麟様が言ってくる。
「ふーん、そういう態度とっちゃうの? とっちゃうんだ~……ふふふ、えい!」
抵抗できないように、両腕をがっちりと極められ指先が脇腹の辺りに触れるか触れないかのギリギリの所で上下に動いたりこちょこちょと指先がせわしなく動かしたりしてくる。
「ひゃう! ちょ、ちょっと!! ソレまじ勘弁してくだ……にゃう! っあははは」
くすぐったくて身をよじりながら、何とか逃れようと動くアタシの動きをいとも簡単にいなしながら尚もくすぐりを続けながら、アタシの耳の直ぐ傍で囁きかけてくる。
「うーん? 勘弁してほしいのかな? だったら、素直に含みを持たせた所を言いなさい! そうすれば楽になれるわよ~」
言い終りに、ふぅーっと耳に息を吹きかけてくる。ソレが堪らなくこそばゆく、頬の辺りで鳥肌が立ち変な声が更に洩れる。
「ふっきゅ!」
変な声が洩れたのが堪らなく恥ずかしくて頬を紅く染めていると、麒麟様が尚も耳元で囁きかけてくる。
「ふふふ、可愛い声出しちゃって! ソレに、頬が真っ赤じゃない。スイレンちゃん可愛い」
などと囁き、脇腹の辺りの手の動きを一向に止めようとしない所か、徐々にエスカレートさせて際どい部分にまで手が伸び始めてきた。いやいや、これ以上はマジで洒落じゃすまないじゃない!と内心でごちる事で気合を入れなおし、麒麟様の悪戯に抵抗をする。
「あははは! き、麒麟さま! こ、これ以上は洒落じゃ済みませんからお戯れもいい加減に……っふははは」
くすぐり攻撃をしかけてきている手の動きがどうにも、くすぐったくて笑いながらであったが麒麟様に講義をするアタシに麒麟様が手の動きを若干緩めて溜め息混じりに返答を返してきた。
「はぁ……洒落? 戯れ? ふふふ、止めて欲しかったら素直に言い淀んだ内容を言えば解放してあげるわよ~」
どうしても言い淀んだ内容を知りたいらしい。ここまでの事をしてまで聞かなければいけないような内容でもないと思うんだけどなぁ。と内心でごちり、ソコで思考するだけの余力が生まれている事に気がついた。先ほどまではそんな余裕は一切無かったのだが……何時の間にか余裕が生まれている事実に驚いた。
「むぅ……ワタシの攻撃になれてきたっていうの? 恐ろしい子」
などと言って、大げさに驚きの反応をする麒麟様。
その直後、麒麟様の体から全ての力が抜けた様に突然倒れた。
「き、麒麟様!!」
突然の出来事に考えるよりも先にアタシの体が動き、麒麟様の体と床の間に自身の身を滑り込ませ全身で麒麟様の体を受け止める。
アタシの前でこうして倒れるのは、初めてのことでないにしても何の舞いぶれもなく突然起こる事態に中々思考が追いついてこない。
医療担当兼技術開発担当の玄武様の診断によれば、突発性の睡眠障害ということらしいのだが……ソレが起こる原因は不明との事である。一番の薬は気にしすぎないことと適度にストレスを発散させる事は勿論、適度な運動もいいとの事だが、はっきり言って手の施しようがないだけだとアタシは思っている。
それに、この状態での睡眠時にはもう一人の方が顔を出すのである。などと、思考していると麒麟様の目がパチッと音がするんじゃないかと思うくらいの勢いで見開かれる。
アタシの体から自身の体を離し、大きくのびをしながらぽつりと呟く。
「う~ん、久しぶりに表にでられた……うん? あぁ、スイレンじゃない! ご無沙汰」
肌の産毛がゾワッと逆立ち、空気がピリピリと肌を刺す。麒麟様が普段抑えている魔力を抑えようともせず、寧ろ相対した相手を威嚇するかのような魔力に対抗するようにアタシは意識を集中しながら返答を返す。
「お久しぶりですね。予知の君」
アタシの返答を聞いた予知の君が多少魔力を弱めて、微妙な表情を作り言葉を紡ぐ。
「うーん、その呼び名だと多少誤解があるのだけれでど……まぁ、いいわ」
誤解? それはどういう事なのか詳しく知りたい! と思う気持ちも勿論あるが、予知の君が言葉を濁すと言う事は現時点でまだ知らなくて良い事なんだと、よい方向に捉える。
こうして、麒麟様の別人格とも言える予知の君と言葉を交わすのは実に久しぶりのことである。大抵、麒麟様が一人でいるときに現れるので滅多に言葉を交わす者が居ないのだが、アタシと二人で居るときには五割ほどの確率で姿を見せるのである。
「いつも思うけど、もうちょっとタイミングを見計らって表に出てきたらどうなんですか?」
普段から疑問に思っていたことを素直にぶつけると、苦笑いを浮かべた予知の君が意外な回答を返してきた。
「私だってそうしたいんだけどね。普段はカグラの精神力に抑えられて、ちょっとした隙に出てくるしかないのよねぇ」
精神力……つまりは魔力ってことだよね? なるほど、アタシと一緒の時に姿を見せる確率が高いのはそういう理由からなのか。
アタシへの悪戯に夢中になりすぎて、魔力が乱れた隙をついて表にでてくるワケだ。なるほど、と思考していると予知の君がまたしても思わぬ事を言ってきた。
「スイレンのお目当てのモノはもうまもなく、この部屋に運ばれてくるわよ」
はぁ? お目当てのモノ? なんだっけ?
と、間抜け顔で問い返そうとして、思考することにより何故自分がこの場に来ているのかを思い出す。ってか、お茶を濁されるワケだ……リストが出来ていないとは言えないからアタシをからかって弄っていたに過ぎないに違いない!という思考に至ったのを見透かしたかの様に予知の君が更に爆弾を投下してくる。
「まぁ、主に衣服や布とそれに食料といった所だけどね。ちなみに、この時間に書類が出来上がるように仕組んだのはカグラだからよ」
なぬ! お使いの内容よりも後半の方で驚いた。
つまりは、この時間までは引っ張るつもりで居たということか! いや、寧ろ……ここまで緻密に事がすんなり進むだろうか?
モノは試しに、予知の君にカマをかけてみる。
「何処まで予知していたのさ?」
アタシの質問に答える代わりに、扇子を開き口元に唇を覆うようにして楽しそうにクスクスと笑う。
その仕草があまりにもカグラと酷似していて、この時だけカグラが表に出てきているんじゃないかと疑いたくなる。
笑いを収めた予知の君が返答を返してきた。
「ふふふ、流石ね! 何処まで……ね。この後書類がこの部屋に来るまでよ」
悪びれる様子もなく、完結にそう言われて【この後】がいつなのか考えていると人近づいてくる気配を感じる。
「来たようね」
ぽつりとそんな呟きを洩らす、予知の君が何処か寂しそうな表情を見せる。
何故そんな表情をするのか……聞こうとして、口を開こうとしたまさにその時障子戸の向こう側から声が掛けられる。
「麒麟様、頼まれていた書類が出来ましたのでお持ちしました」
つい、声に反応してしまって障子戸の方を見やると微かな声が耳に届いた。
「それじゃ、またね! スイレン」
その微かな声でを捉え、振り返るとまたしてもカグラの体がなんの抵抗力も発揮されずに床に向かって倒れるという光景に慌てて体を支えようとしたのだが、つまずいて床に盛大に体を打ち付ける事になった。
「っ~~~!! 大丈夫ですか?」
と、アタシは自分の体の上に覆いかぶさる様な体勢の麒麟様に話しかけた。
その人物はアタシの上から避け様ともせずに、居座っている。
「な、何事ですか? 麒麟様? スイレン様?」
障子戸の所で控えている、女中から声を掛けられて流石にこの状況は拙かろうと何でもない事を伝えようと口を開こうとし時に、今だにアタシの上に陣取っている麒麟様がアタシの口を自身の手で塞いだ。
理不尽な行動に本格的に講義し様とした、まさにその時……
「お二人とも大丈夫ですか? あ、開けますよ?」
障子戸を開けた女中とバッチリ目が合ってしまった。
麒麟様がアタシの上に乗ったままで、女中に声を掛ける。
「何か様なのかしら?」
にっこり微笑む麒麟様の笑顔の裏に黒い気配を敏感に察知した女中は、すぐに謝罪の言葉と用件を済ませて部屋を後にしようとした。
「お、お取り込み中の所すいません! こちらが頼まれていた書類です。こちらに、おいて置きますので目を通してください。では、失礼します」
さっさと踵を返し、部屋を後にしようとした女中を引き止める。
「待ちなさい!こっちにいらっしゃいな」
背景にゴゴゴゴ!!!! とつきそうな怒りの気配を漂わせる麒麟様。
ゆっくりした動作でアタシの上から女中の方にゆっくりした動作で向かう。自由になった我身を起こして、女中が持ってきた書類に手を掛けると、背中に目が付いているんじゃないかと思うくらいのナイスタイミングで麒麟様に声を掛けられる。
「スイレンちゃん、買ってきてほしいものはその書類に書いてあるからね!次はホムラちゃんの所に行って買ってきてほしいもの聞いてきてねぇ~。ワタシはそれまでにこの子とたっぷり話しをしておくから」
心の底から、部屋に入ってきた女中に感謝しつつ麒麟様に言われた通りに朱雀様の所に向かうべく部屋を後にする。
「あ! す、スイレン様、助けて……」
必死に助けを求めてくる女中に、笑顔と親指だけを立てるポーズを添えて一言残す。
「健闘を祈る!」
その台詞を聞いて、顔面蒼白になる女中……
「そ、そんなぁ~」
「ふふふ、さて! 覚悟はいいわよね?」
麒麟様の黒い台詞を最後に障子戸をキチンと閉めて、麒麟殿を後にした。
いつもより、ちょいと長めになっておりました。
本年もよろしくお付き合いください。




