Ⅵ
約一ヶ月ぶりとなる更新でございますm(_ _)m
毎度の決まり文句となってきました(汗)大変、長らくお待たせいたしました。今週は、どうとうの更新ウィークと自分で決めたのにまだ、一話しか書き上げていないという……が、頑張ります。
火月と水月の台詞を聞きながらの降下というか、飛び降りをしたのは別に自棄になったワケではない。現実問題として、最速最短で麒麟殿に向かわないと間に合わないであろう事を経験則から判断したまでの事である。勿論、何もしないで落ち続ければ命を落とす事になる。
落下の速度を落とすために、随所に設けられている夜間の際階段を照らすランプに火を入れるための段差を利用して、ほぼ垂直に降りていく。一階の地面があっという間に迫ってくる。階表示と迫り来る地面とを交互に見やり速度を調節に入る。
三階から二階の中間の段差の所で、先ほどまではただ、速度調節をしていた動きを変える。
狙いを定めて、目的の段差に足を乗せ全身を使って衝撃を吸収するように屈伸し、段差を踏み抜かん! といわんばかりに踏み切り、思いっきり跳躍をし空中で回転をしながら人が居ない場所を見定めて一階の地面に着地をするさい、全身を使って衝撃を吸収する様にした為ほとんど音と衝撃がない着地になったのだが、格好が、片足を大きく開き片手を地面に着くという……決めポーズかよ! と突っ込みを入れたくなるモノになったのは、仕方ない。
すぐに、姿勢を起こしてちらりと上を見やると青白光が見えた。
アレは……確か水月の魔術の光だと思い出したとほぼ同時に、アタシが先ほど飛び降りた位置くらいの場所から現在、踏みしめている地面までを氷の傾斜が物凄い速さで出来上がっていく。
この短時間でこれほどの氷の造形を作るとは、大したモンだと関心して見蕩れてしまったが、そんな場合じゃないと思いなおして急いで麒麟殿に向かおうと踵を返す。
それにしても……
「あの傾斜どうするのかなぁ」
と、一人ごっちりながら走っていると背後から生ぬるい風が吹いてきた。
首だけを動かし、背後を確認すると紅い炎が微かに見て取れた。あの炎は……火月の魔術か! なるほど、水月が傾斜を作って滑り降りて残った傾斜を火月が炎で蒸発させると……いいコンビだねぇ。あの短時間でアレだけの氷の造形を作る水月然り、その傾斜をあっという間に蒸発させる火月も然り、麒麟様の式神は優秀である。
内心でごちりながら、速度を緩めることなく人の波を縫うようにして時計塔から外に出て、先を急いでいると背後から水月の叫び声が聞こえて来た。
「ふぇ~ん、また主様に怒られるぅ~」
「この場合しかたないと思う。ほら、スイレン様を見失うから行くよ」
間髪いれずの火月の突っ込み? が入りアタシの後を追ってきた。
「わわっ! もうあんなに離れてるぅ~」
「走りながら喋らない! どうせ、舌噛む事になるんだから」
火月の忠告も虚しく、次に発せられた水月の台詞の途中でソレは起きた。
「むぅ~、火月ぅ! 水月を子ども扱いいくな……いたひぃ~」
「言った傍から」
台詞の後に溜め息をしたのが、アタシにも聞こえるんじゃないかと思うくらい、その光景が目に浮かぶ。
水月と火月の漫才に付き合っている場合ではないと思考を切り替え、麒麟殿への道のりを全力で駆け抜ける。
行政部が集中している為か、人々の流れは建物の傍に比較的集中し道幅も十分に広いのは有難い。と、内心でごちりながら疾走していくアタシの姿を見た人達が通り過ぎた後に後ろを振り返っているようだけど、構っていられない。どうしても、避けられない人のみを間を縫うように接触を避けて最短距離を突っ走る。行政区画から住宅区画に入った所で、道幅が狭くなり人が四人ほど横に並べば道幅いっぱいといった感じになる。
麒麟殿は、この住宅区画を抜けた先にある一際大きな屋敷である。住宅の造りは、レンガを積み重ねたような建物に対して、麒麟殿は木造の古い建物である。
麒麟殿だけ、造りが異なるのは麒麟様の趣味思考が大きく関わっている。本人曰く、『レンガ造りの家も素敵だけど、木造の方が温かみがあって好き』だとか、いつだったか言っていた。
木造の建物は色々メンテナンスをしなければいけないんで、結構大変なのだが……ソコは、全島の統括としての権力を行使しているのか誰も文句の一つも洩らさずメンテナンスが行われる年はよく働いてくれている。
住宅区画を疾走していると、家の前で遊んでる子供やら何かの家事に追われる主婦といった人々がまばらにいて、その間を縫うように走り抜けると……非難の視線をありがたくも頂戴するだろうなぁと予測し、辺りを見回して丁度良い段差を見つけ直線的な移動から上への移動に切り替える。
住宅のちょっとした段差を利用して屋根の上に上がり、下に落ちないように気を配りつつ出来るだけ音を殺して屋根の上を走る。
麒麟殿が目の前に迫ってくる。あいかわらず、どでかい屋敷だなぁ。と、内心でごちりふっと気になったので背後をチラリと見やると、水月と火月の姿は見えない。
どうやら、完全におきざりにしてきたらしい。まぁ、着いて来れなかったから置いていく。とは言ったけど……まさか、見失うほどの差ができるとはねぇ……ちょっと、以外だなぁ。と、思考している内に麒麟殿が間近に迫っていたので、地面を眺め人と適当な段差がある場所を確認してから、段差目掛けて飛び降りる。先ほどと違い、高さがあまり高くないので、ほとんど速度を落とす事なく地面にたどり着き麒麟殿の門扉まで急ぐ。
門扉からやや、離れた場所に行き当たったので、今度は門扉までの横移動である。にしても、屋敷もでかければ塀も長い。見渡す限り塀が走っている。
何度か訪れているが、毎回驚かされる。やっと、門扉にたどり着き門番に来訪を告げようとした時背後の方が騒がしいことに気付き振り返ると、全力疾走していてすごい顔をした水月に対して、普段と変わらない表情ながらも、うっすらと汗を掻いている火月がアタシに遅れて門扉に着いた。
肩で息をしている水月が呼吸を整えているのに対して、火月は着くなりアタシに向き直り一礼をしてくる。
「スイレン様、お待たせ致しました」
表情にこそ出ていないが、肩で息をしていたり汗が浮かぶほど急がせて悪かったと思いつつ、式神でも疲れるんだ! という素直な感想がでかかり、その言葉を飲み込んでから労いの言葉をかける。
「いや、たいして待っていないよ。疲れさせて悪かったね」
アタシの言葉に火月が返答するよりも早く、水月からの非難の声が上がる。
「ホントですよぉ~! スイレン様、速すぎですぅ~。もう少し、私達に気をつかってくれても……もがっ!」
水月のアタシへの非難は、火月の手によって水月の口を手で塞ぐ事により阻止された。
「スイレン様、水月が失礼な発言をしたこと、お詫び申し上げます」
尚も、もがもがと何か講義を訴えている水月を尻目に律儀すぎる謝罪を述べる火月の無表情と、水月の表情や動作がアタシの笑いのツボをムズムズと刺激してくるがどうにか堪える。
「いや、気にしていないから! それよりも、麒麟様の所までの案内をお願いできるかな?」
わざわざ、門番に声を掛けなくても自分達の主の住まいなのだから、火月と水月に頼んでも変わりはないだろうと思って気軽に尋ねてみたのだが、火月の返答は予想していたモノと違っていた。
「すいません、先に主様の所に行かねばならないので案内はちょっと……」
火月が遠慮がちに返答を返している最中に、やっと火月の手から離脱した水月が火月の声に被せるように喋ってきた。
「うー! 火月ぅ~、ちょっとは加減するのですよぉ~! それに、スイレン様も酷いのですよぉ~! 火月ばっか贔屓いくないですぅ~!」
水月が騒がしいせいで、火月が何と言ったのか途中までしか聞き取れなかった。
「あ~……悪い、火月。途中までしか聞き取れなかったわ」
利き手で頭をかしかしと掻きながら、火月に素直に事態を伝えた後、水月を見やりまだ怒り顔なのを確認して、水月の頭を撫でる。
「別に、アタシは火月を贔屓しいるつもりないからね! 水月はもうちょい、落ち着こうねぇ~」
優しく頭を撫でていると、水月の顔が怒りから笑顔に変わりくすぐったそうにする。
「うぅ~、スイレン様ぁ。くすぐったいのですよぉ~」
嬉しそうにしている水月から火月に視線を動かしたのだが、ソコに火月は居らずアレ? と思っていたらアタシすぐ傍の死角になる位置に火月が立っていた。
「水月ばっかりずるい!」
ボソッと、火月が呟いたのだが表情はけして、羨ましがるというモノではなく、いつもの無表情なのである。そんな態度だからこそ逆に可愛いと思ってしまう。
「ったく!」
一人ごちり、水月の頭を撫でる動きを継続させつつ火月の頭にも手を載せて同じように撫でてやる。
「す、スイレン様!」
珍しく、照れくさいという感情が僅かながら感じらる火月の反応が可愛い♪と、内心で思いつつ二人の頭をしばし撫でる。何か、大事な事を忘れているような……まぁ、いいか! 二人の特に水月のこんな幸せそうな顔を見られたんだから。と、内心ごっちっていると徐に火月がアタシの手から離れた。
「? どうしたの?」
何か、撫で方に拙いところでもあっただろうか?
思考していると、すっかり失念していた事実を火月が教えてくれた。
「そろそろ、主様の所に行かないとお香が炊き終わってしまいますよ?」
あっ! すっかり忘れてた!
アタシが忘れたままで居た方が、麒麟様の都合上いいはずなのに……火月は律儀にも教えてくれるワケだ。そんな思考をしていると、火月がまたもや予想外の事を口にした。
「撫でて頂いたお礼です」
うーん、なんとも返答に困る返しではあるが……助けてもらったワケだしね。
「火月、ありがとう! ほら! 水月いい加減アタシの脚から離れな!」
水月の頭を撫でていた手の動きから、脚から離れるように頭から額あたりに手を移動させ押しのけようとするも、水月が抵抗してくる。
「いやですぅ~! もっと撫で撫でして下さいぃ~」
必死に脚にしがみつく水月を無理やり引き剥がそうっと、やっきになっていると……無音で水月の背後に回りこんだ火月が水月の耳に息を吹きかけた。
「ひゃっ!」
脚にしがみつく力が弱くなったタイミングを逃さずに、水月を引き剥がす。
「うぅ~、耳はぁズルイのですよぉ~」
ブツブツと文句をいいつつ、水月は自身の耳を押さえて火月を睨む。
「火月ぅ~、何でぇ、スイレン様とのイチャイチャを邪魔するですか!」
水月の台詞を聞いた火月は溜め息を洩らし、水月に語りかける。
「水月、まさか主様からスイレン様宛ての伝言を忘れたワケじゃないよね?」
火月の台詞を受けて、水月は小首を傾げる。
あ~、コレは完全に忘れているな……アタシも天然な方だけど、水月は天然を軽く凌駕している。故に、裏では阿呆な子と呼ばれている。
「ほへ? 主様からの伝言……何でしたっけ?」
頭を抱えて、う~んと呻る水月が焦れたっくなったのか火月はすぐに正解を教えた。
「主様が、炊いているお香が炊き終わる前に、スイレン様をお連れするように言ってたじゃない」
火月の言葉に過剰な相槌で答える水月。
「あ~、うん! そういえば、言ってたですねぇ」
引き攣った笑顔を浮かべ、明らかに挙動不審である。絶対忘れていたに違いない!
本人にソレを言えば「忘れてたワケないじゃないですかぁ」と、でも言うに決まっているのでその手間を省く。
「と、いうワケでいくら呼ばれているからといって我がモン顔で中に入るのはちょと……ね。だから、麒麟様の部屋まで案内してくれると助かるんだけど……」
アタシの台詞を聞いた二人は顔を見合わせてから、こちらを向くと声を揃えて返答を返してきた。
「「ワタシ達は、先に戻りますので門番の方に来訪の旨を伝えて下さい」」
事務的に答え、二人はさっさと屋敷の中に消えていった。
「やれやれ、逃げ足は速いんだから」
一人ごちって、門番の一人に来訪を告げると一人が屋敷の方に向かいアタシはその場で待つように言われる。さほど、待つこともなく戻ってきた門番は一人の女中を連れてきていた。
「スイレン様ですね? どうぞ、主様の部屋へご案内いたします」
優雅などうさで促されて、門をくぐると建物もでかいが庭もでかい。まぁ、当たり前か『そういうモノ』と認識しておかないと気持ちが、追いつかない。
西島の住まいも大きい方だと思っていたけど、流石全島を統治するモノにはソレ相応の住まいが宛がわれるワケだ。と、内心でごちりながら先導して歩く女中に着いて行く。
「靴はこちらでお脱ぎください」
促されて、言われたとおりにする。ソレにしても、さっきから事務的な会話ばっかりで、暇を弄ぶので、商人の思考が働いてしまう。この装飾品は高値だとかこの絵はそうでもないけど、いい絵だとか金勘定ばっかりの思考に我ながらウンザリしてしまう。
木造の家だが、しっかりと手入れが行き届き床は長年使い込まれた特有の輝きを帯びているし、目に見える柱や天井も歴史を感じさせる。等と、思考していると一つの部屋の前で女中が静かに止まり、中に声を掛ける。
「主様、西島の白虎様の側近のスイレン様がいらっしゃいました」
すぐに部屋の中から返答が返る。
「ご苦労様、下がっていいわよ」
麒麟様からの労いの言葉を受けて、女中が答える。
「かしこまりました。何か御用があればお呼び下さい」
部屋の中に向かって、答えた後こちらを向きごゆっくりと言葉を掻けて元きた道筋を戻っていった。
そういえば、何であの女中は戸を開け様としなったんだろう? 今更ながらの疑問だったが聞く暇もなく立ち去られてしまった。
「何時まで、ソコに立っているのです? 早く中に入りなさいな」
障子戸の向こうから声をかけられてしまっては、もはや逃げ道はないか……
まぁ、屋敷の中に入った時点で覚悟を決めたんだしね。意を決して、障子戸を開ける。
投稿前に確認しているのでが……気になる誤字等ありましたら報告頂けると幸せます(助かります)




