Ⅲ
大変、お待たせいたしましたm(_ _)m
昨日の夜更かしがたたって、遅めの起床である。
パチッと目を開けると、心地よい睡眠欲が襲い掛かってきて二度寝に誘おうとしてくる……
その誘いにのまれないように、体を起こし一つ大きく伸びをする。
「ふあぁ~、ねむっ」
一人ごちりながら、寝床から出ようとした時に違和感を覚えた。
明らかに自分ではない人物の寝姿を目の端に捉え、眠い目をこすりながら確認をする。
「なんでカスミがアタシの寝床で寝てるのよ!」
一気に目が覚め、上掛け布団を跳ね除けながら声を張り上げて全力の突っ込みを入れるも、カスミは尚も眠り続ける。
気持ちよさそうに、規則正しい寝息をたたている。だが、かすかに口元が笑みを浮かべているのを見逃さなかった。
カスミの鼻を指で摘まみ、どうなるか暫し様子をみる。
数秒後……
「ぶはっ! ハァハァ……ちょ、ちょっと! スイレン! もうちょっとまともな起こし方があるでしょう!」
呼吸を止めていた為、肩で息をしながらカスミが吠える。
普段は、やられっぱなしなので仕返しに、嫌味たっぷりに返す。
「へぇ~、例えばどんな風に?」
息を整えたカスミが、不適な笑みを浮かべて返答を返す。
「それは……もちろん、ワタシの唇に接吻するとか?」
言い終わりと同時に、右手の人差し指を自分の唇に当てて小首を傾げる。
はぁ? カスミの唇に接吻するとか? ありえないし!
「何、寝ぼけたこと言っての? いいからさっさと起きなよ!」
未だに敷布団に寝続けるカスミを促す。だが、一向に起き上がろうとしない。
あー、イライラしてきた! 何とかして、カスミを起き上がらせる方法は無いモノか……アレコレ思案しだしたアタシに、カスミが敷布団の上でゴロゴロしながら言ってくる。
「だ~か~ら~、スイレンの接吻が無いと起きたくな~い♥」
むぅ……カスミがこのモードになると、厄介な事この上ない! 要求を呑まない限りは、梃子でも動かないのである。
だからと言って、接吻はしたくない! もう絶対! したら……色々なしくずしになりそうなんだもん!
ソレを避ける事を大前提に考えよう。うん!
「スイレ~ン♥ は・や・く!」
尚もゴロゴロを続けているカスミが、接吻を要求してくる。
絶対しない! しないんだからね!
「い・や・だ!」
一言一言に感情を籠めて、カスミの要求に対して、拒絶の意志を告げる。
すると、カスミがむくれて、駄々っ子のように手足をバタつかせる。
「いや! いや! スイレンとチューしたい! したいったら、したいの~!」
うざっ! この阿呆な子をどうにかしないといけないの? 面倒くさい!
もう、カスミは放って置いて、さっさと朝ご飯食べに行こうと、寝巻きを脱ぎ、着替えだしたアタシに擦り寄ってくる阿呆な子が一人。
「ねぇ、スイレ~ン♪ 早くチューしようよ~」
全力で無視! 黙々と着替えることで、拒否の姿勢を訴える。
そんなアタシの態度が面白くなかったカスミは……アタシに、にじり寄るってくる。
「ふ~ん、そうやって無視しちゃんだ~。 ふふふ♪ えいっ!」
不適な笑顔をしたカスミが、アタシ腰の辺りに抱きつく。
言い知れないこそばゆい感覚に襲われ、変な声が漏れる。
「ふっきゅ、ちょ……か、カスミぃ~」
カスミを両手を使って振りほどこうとするが、こそばゆくて上手く力が入らない。
「えへへ~、ココが弱いんだよねぇ~♥」
そう言って、脇腹を両手で挟みモミモミと揉んだり、擽って来た。
本格的な擽り攻撃に遭い、笑い転げるしかなくなった。
「あはははは……い、いやめ……」
着替えの途中だったため、結構きわどい感じの身なりで、笑い転げるはめになった。
これでもし、誰かが入ってきたら大変面倒くさいことになりかねないので、何とかカスミに擽りをやめさせようと試みる。
「か、カスミ……あははは……ちょ……ま、まってぇ~。 ふっはははは」
笑いすぎて上手く言葉が喋れない。そんな状態のアタシがおもしろいのか、一向に擽りをやめようとしないカスミである。
「ココ? ココがいいの~?」
などと言ってきて、笑い転げたアタシの上に馬乗りになってさらなる擽り攻撃をしようとした。まさにその時……
「スイレン様、お目覚めですか? 緊急の案件があるので失礼します」
寝室の外側から声を掛けられ、何か言う前に障子が開けられる。
声をかけた女中が中の様子を見て、ピタッ!と動きを止めて、二人を凝視してくる。
「あ~……ち、違うから!」
アタシが、何故この状況になっているのかを説明しようとしたのだが、自力でフリーズから抜け出した女中は、電光石火のスピードでその場で礼をした。
「お、お取り込み中に申し訳ありませんでした! 用件の方は後ほど朝食をすませられてから。と、いうことで失礼します」
それだけ、言うと障子を閉め足早に立ち去っていた。
「カ・ス・ミ!」
未だにアタシに馬乗りになっているカスミに凄むと、カスミは乾いた笑いを洩らした。
「あははは……す、凄いタイミングだったね」
まったく、コレで変な噂が立つと思うと……げんなりしながら、未だに馬乗りのカスミを睨み付ける。
「いいから、早くソコからどきなよ!」
馬乗りになってアタシの上に居るカスミに声をかけたのだが、避ける素振りをみせない所か……自分の顔をアタシの顔に近づけてくる。
嫌な予感がしたので、腹筋と手足に力を入れてブリッチをしてカスミを上から振り落とす。
「わわっ! ちょ……スイレン~。 ふぎゅ」
無理やり振り落とされたカスミは、顔面から布団に落下したようだ。激突の瞬間、妙な声を上げて悶えている。
「ひ、酷いわ! スイレンの意地悪」
うるうると瞳を濡らして訴えてくる。
そんなカスミをスルーして、途中だった着替えを手早くすませ、寝室を後にしようとしたアタシをカスミが呼び止める。
「また、無視して~! 酷いよ! スイレン」
言いながら、自身の着替えを始める。
振り返り、カスミを正面に捕らえて返答を返す。
「酷くないよ! カスミがさっさと起きていれば、あんな事態にならなかったのに……はぁ~」
やれやれと、肩をすくめていると手早く着替え中のカスミが返答してくる。
「スイレンが接吻してくれれば、すぐに起きたわよ!」
むぅ~……と頬を膨らませてまるでフクのようである。
あ、そのむくれ顔ちょっと可愛いかも……などと不覚にも思ってしまった。
「阿呆な事言ってないで、さっさとしなよ」
半分以上あきれ気味に、着替え中のカスミを急かしたのだが……着替えながらも返答を返してくる。
「阿呆じゃないもん! スイレンとイチャイチャしたいんだもん」
……イチャイチャねぇ~。ほぼ毎日しているような気もするのだが、今その辺のことを問いただした所で、カスミの思うツボなので、やめておくことにする。
それにしても、今日のは度が過ぎるというか、いつものカスミらしくないんだよねぇ……
「あのさ~、カスミ」
なんとなく思い当たる事もあるので……カスミなら知っていそうだし、聞くだけ聞いてみる。
「なぁに? スイレン」
帯を締めながら、ちゃんと人の話にも返答を返してくるのだから律儀である。
「もしかして、さっきの女中さんがココに来た理由知ってたりする?」
なんとなく引っかかっていたことをカスミに尋ねてみたのだが、案の定それまで淀みなく動いていたカスミの手の動きがわずかに鈍った。
本人にはその自覚がないようだが、カスミは自分の知っている事を聞かれたら、それまで淀みなく動いていたり、喋っていたりする時にほんの僅かであるがギクシャクする事がままあるのである。
少し不機嫌な声色でカスミが返答を返してきた。
「ええ、知っているわよ」
やっぱりか! そして、その物事はカスミにとって、面白くない事態なわけだなぁ。
必要なまでの可愛がりから察するに……
「もしかして、麒麟様関係?」
と、アタシがカスミに問うと、あからさまに不機嫌の度合いが上がった。
あ~……やっぱりか! あれ? でも、カスミは麒麟様をそんなに毛嫌いしていたっけかなぁ……と、思案していたら、着替えを終えたカスミが擦り寄ってきた。
カスミの頭を右手で押さえ、ギリギリの所でスキンシップを回避した。
「もぅ~、スイレンってば! そんなに嫌がらなくてもいいじゃない!」
その後は過度に寄って来る事はなく、適度な距離感で食堂に向かう道すがら、先ほどの続きを教えてくれる。
「スイレンの読み通り、さっきの女中さんは、麒麟様関係だと思うよ? 今年は、島の食物だけじゃなくて、大陸の食物も祭りで出したい! って、調理部門と参加者達から大多数の意見が集まったんだとか……で、物流を管理しているウチに声がかかったみたいよ」
はぁ~ん、ソレはまた面倒なことになったものだねぇ……うん? ってことは……
「その食材をアタシが調達して来い! ってことなの?」
今更ながら、その結論にたどり着いた。
うわっ! 面倒くさい。あー、それでさっきからカスミがいつにもましてスキンシップ過多なのか! と、納得した。
ソレはわかったけど……この質問には答えてくれないかもなぁと、思いつつもカスミに聞いてみる。
「ねぇ……カスミは麒麟様の事どう思ってるの?」
その質問にキョトンとした顔をして目をパチパチと数回瞬きしてから返答が返る。
「麒麟様? そうねぇ……一言で言えば、【同志】かしらね」
ドウシ? 同志かな? 何故、麒麟様のカスミが同志なのだろうか……
「同志……ねぇ~。なんでそうなるのか、アタシにはサッパリ解らないよ」
吐息を吐いて、何故その結論に至ったのか思案していると、アタシが答えにたどり着く前にカスミが答えを教えてくれる。
「それはねぇ~……【スイレンを愛でる同盟】を結んでいるからよ♪」
はぁ? 何、阿呆な同盟作ってますか! カスミと麒麟様が仲が悪いのかと思えば……
仲良しかよ! しかも、アタシを弄る方向で結束してるワケですね? ったく、嫌になるよ。
「そんな同盟なんて、なくなっちゃえばいいのに」
アタシの独り言にカスミが過剰に反応する。
「だ、ダメーーーー!! 絶対ダメよ! 数多くの同志達が路頭に迷ってもいいっていうの?」
数多くってそんなに居るのかよ! と、心の中のみで突っ込みを入れておく。
そうこう話しているうちに食堂にたどり着いていた。
さて、今日は何を食べようか……と、考えながら食事を選ぶ。
先ほどまでは、色々と喋っていたので気にもしなかったが、いつにもまして視線を感じる。きっと、あの女中が仲の良い女中仲間に話をしたのだろう……そこから情報は、尾ひれをつけて元気に泳いでる最中に本人達が登場したわけだから、そりゃ~視線も集まるか。と、無理やりに納得することにする。
本日のメニューは、焼き魚と厚焼き玉子とおひたしと漬物と煮物とスープとご飯。というメニューをほぼ無意識的に選択して空いている席に座る。
「いただきます」
と、両手の手のひらを合わせて、唱和してから選んだ食事に手をつけようとした時、珍しくカスミ以外の人物が声を掛けてきた。
「あ、あのぉ~スイレン様。 今、宜しいでしょうか?」
おっかなびっくりと、表現するのが正しい雰囲気を、かもし出している女中達の群れから一人をこちら側に押し出して、残りは様子を伺う……その有様に苦笑を洩らす。
そんなに威圧的なのだろうか? 全然、そんなことないんだけどなぁ……と、内心で思いつつ、話しかけて来た女中に出来るだけ、優しい声色と表情で返答を返す。
「そんなに、怯えなくても何もしないよ」
アタシのそんな態度にいくらか緊張の度合いを和らげた、女中の代表らしき人物が気を取り直して、一枚の紙を差し出しながら言葉を紡ぐ。
「こちらの紙をスイレン様に渡すように。 と言付かっておりますので、どうぞお収め下さい」
差し出されたその紙を受け取りながら礼を返す。
「そう、それはわざわざ、ありがとうね」
その言葉を聞いた女中の耳が真っ赤になっていたが、あえて気にしないことにした。
正直、そんなことよりもこの紙の内容の方がよほど気になる事なのである。
まだ、視線を感じて顔を上げると、先ほどの女中がまだその場に留まっていた。はて、まだ何かいいそびれたことでもあるのかな?何というか、もじもじしてる様子は、大変可愛らしいのだが……こっちも食事をしたいのである。
沈黙に溜まりかねて、女中に声を掛けようとした。その時、女中の方から再び声を掛けられた。
「あ、あの! あ、あの……ですね……」
あーとか、うーだとか言いながら、再びもじもじ……コレは、この女中が次の言葉を発するまで、おとなしくしていたほうが良さそうだなぁ……と、思っていると、一つ深呼吸をして予想外の事を言われた。
「その、わ、ワタシは、水神祭の舞手の投票は、スイレン様に一票入れさせて頂きますね!」
あー、今年はカスミとの投票で決めるんだった! と、思い出す。
「そう、ありがとうね」
どうにかソレだけを返した。うん、まったく予想外だよ! こんな所で投票宣言を受けるとは! 中々肝の据わった子だったようである。
「失礼します」
と、ペコッ! とおじぎをして仲間達の群れに戻ってキャーキャー騒いでいる。
舞手の候補じゃない人達は、なんともお気楽なものだなぁと、内心で思いつつ先ほど手渡された紙の内容を確認する。
「スイレンへ! もう、知ってると思うけど……今年は、大陸の食材を使った料理も出したいので、買出しの任を一任する。後、諸々買って来て欲しいモノがあるので、朝食を済ませ次第、速やかに中央島の麒麟の所に来るように。PS:一人で来ること! byブルーアイランド諸島最高責任者カグラ」
はぁ~……盛大に溜め息を一つ洩らしてから、食事に戻る。
お読み頂きありがとうございました。
リアル事情で更新が途絶えていたこと、深くお詫び申し上げます。
*作中に「フクのように……」とありますが、誤字ではありません!詳しくは「ふぐwiki」の名称を参照して下さい。マイナーな表現が好きな作者で、すいませんorz