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大変お待たせ致しました!

「ねぇ、お母さん! スイレンもお姉ちゃん達と一緒にお外で遊びたいよ~」

 頭上に猫のような耳を生やしてい、白銀の髪に蒼い瞳の幼子が髪を揺らして、お母さんにせがむ。

「ダメよ、スイレン! 外は危ないんだからね!」

 子供と同じ髪と耳を生やし、翡翠色の瞳の女性が自身の子供を嗜める。

「アタシ何処も悪くないもん! 何でお家から出ちゃいけないの?」

 自分だけが外で遊べないのがよほど不満だったんだろう……頬を熟れた林檎のように赤く膨らませ、お母さんを問いただす。

「お願い、スイレン! 聞き分けて頂戴……」

 そう言って、スイレンと呼ばれた子を抱きしめ、瞳にうっすらと涙を浮かべ声を震わせて訴える。

「お母さん、泣いてるの?」

 スイレンは、自分が泣いた時に母親がそうしてくれたように優しく髪を撫でる。

「ごめんね……ごめんね……」

 ただ、そう繰り返すだけの母親。外で遊びたい……だけど、母親を悲しませてまで遊びに行きたい訳ではない。

「お母さん、もういいよ。 お外で遊びたいけど、お母さんと一緒にお家で遊ぶから」

 抱きしめられたままだったので、母親がどのような顔をしているのか分からないけど……

 母親を泣かせてまで外で遊びたくは無い、そんな心優しい子供だった。


 その場所は、とても寒い地域の人里離れた、山奥に存在する亜人達のみが暮らす里、通称『北域(ほくいき)の里』……

 当時は、知らなかったがその里には古い言い伝えが存在していた。曰く、



――――蒼い瞳は災いを(もたら)す。故に万が一、蒼い瞳の子が生まれたら山の神の下に人身御供として、その身を捧げよ。さすれば、我が里は永遠の繁栄が約束されるであろう――――



 そんな、何の根拠もない伝承が信じ、敬われていた里……

 何がきっかけだったのか、例の如く姉は外に遊び行って家にお母さんとスイレンしか居ないある日、スイレンが蒼い瞳であることが里中に知れ渡った。


 家に大勢の大人が押しかけ、忌避の目でスイレンを見下ろす……

 その目が嫌で嫌で、母親の影で怯えていた……

 大柄の巨体……さながら入道雲のようなゴツゴツした筋肉で覆われていて、体中に無数の傷がある男が母親を見下ろし、大勢の大人達の代表らしき人物が母親を問い詰めている。

「シズクさん、アンタ一体どういうつもりだ? まさか、掟を知らないわけじゃあるまい?」

 その巨体の男の周りに居る人達の粘っこく、まるで汚いモノを見る目がとにかく、嫌で嫌で堪らない。

 怯えきっているアタシを背に隠して、毅然とした態度で返答をした。

「勿論、知っていますよ? グレスさん。 でも、そんな不確かな掟には従いたくありません!」

 凛とした声で言い放つ。大勢の大人達にまったく屈しない、その在りように頼もしさを覚えた。

「ふん! シズクさんがどう言うおうが、その子は人身御供にする」

 言うが否や、力任せに母親を押しのけ、アタシを捕まえる。

「あっ! ちょっと……す、スイレン! 」

 母親の声が飛ぶ。巨体の男に捕まったアタシは必死に抵抗する。

「い、痛い! は、放せ! このっ!」

 巨体の男は鬱陶しいというようにアタシの両手を片手で押さえつけ大きな袋に放り込んだ。

「むぐっ! だ、出せ~! 出せ~!!」

 袋の中でジタバタと暴れるが、出る事は出来ない。

「よし! 行こう」

 グレスと呼ばれた巨体の男が、スイレンの入った袋を持ち上げ乱雑に体の正面から背後に向かって振り上げ肩に担ぎ上げ踵を返す。

 押しのけられた、母親が必死の形相で我が子を取り返さんとグレスに襲い掛かろうとした。が……周りの人達に押さえつけられた。

「シズクさん、どうか分かってくれ!」

「嫌よ! 返して……返してよ~! ワタシの子供を返してよ!!」

 悲痛な叫び声も虚しく、ただグレスが家から出て行くのを見ている事しか出来なかった。

 その一部始終の中にあっても、袋の中で暴れ続けるスイレン。

「出せー!! お母さん! お母さん!」

 そんな様子のスイレンの態度に苛立ちを覚えたグレスからの怒声が飛ぶ。

五月蠅(うるさ)いぞ、餓鬼(がき)が!」

 スイレンを黙らせようと、袋をブンブン振り回し、地面に叩きつける。

「かはっ!」

 突如として訪れた痛みに意識が飛ぶ。


 …………


 体に刺すような冷気を感じて目が覚める。どれくらい意識が飛んでいたのか……

 両の目が暗闇に慣れてきて、まだあの袋の中にいることがわかった。

 外に出ようともがくが先ほどのように手足が動かない。

 自分の体を見やると頑丈そうなロープで縛り上げられ、口には布が宛がわれていた。凛として冷たい空気と先ほど打ち付けた傷の痛みで頭は冴え冴えとしている。

ハァハァ、ザシュ! ハァハァ、ザシュ!という息遣いと足音のみが聞こえる。

 やがて足音が途切れ、息遣いのみが聞こえる。

 そして、聞いた事がない言語による歌が聞こえてきた。意味はわからない……だけど、男達のテノールが山に木霊するその旋律は心地よかった。

 やがて、歌が終り再び声が聞こえた。

「山神よ! これより、貴方様に我が同胞の魂を捧げる! 変わりに我が里が永遠に栄えますように」

 その言葉を最後に一瞬の浮遊感が訪れた後、何処まで続くかも分からない落下が始まった。

 何処までも落ちる……

 手足は動かない、どうしたって助かるワケがない。

「あぁ……死ぬ前にお外で遊びたかったなぁ……」

 一人ごちる。死はすぐそこまで来ていると思われた。だが……


 バウッ!と、いう鳴き声が聞こえたかと思った次の瞬間、凄まじい轟音が響き渡った。

 ズズゥ~~~ン!!その音が鳴り止んでから気付いたことは、あの何処までも続く落下の感覚が無いことだった。

 不思議に思っていると、袋を破る音が聞こえる。

 ビ、ビリィーー!!袋が破かれて、目にした光景に息を呑んだ。

 そこに居たのは人でも亜人でもなかった……

 

 ホワイトファング……伝説の大型野獣で、ここ『北域の里』の近郊に古から生息する絶滅危惧種に指定される野獣で、縄張り意識が強く群れではなく単独行動をとる。姿は、里の家とさほど変わらない大きさに、体毛は雪の様に白いそして、尾が二本あるのが特徴でオオカミに近い姿をしている。その特徴から一般的には「古代の王者」アタシの里では「白い悪魔」と呼ばれる野獣、ホワイトファング! 当然、肉食獣で小型なものならウサギから獰猛で有名なホワイトベアですら一瞬で食らう、まさにこの地域での食物連鎖の絶対的王者!

 そのホワイトファングを目の辺りにして、あぁ、アタシはこの子のご飯になるんだなぁ……と漠然と思った。

 身じろぎ一つしないで、じぃーっと……ホワイトファングと相対していると、ホワイトファングの陰から、小柄な野獣が姿を現した。どうやら、その小型の野獣はホワイトファングの子供らしい……

 ますます、逃げ道が無くなったなぁ……と思考していると、子供のホワイトファングがアタシにゆっくりと近づいてきた。いよいよ、食べられちゃうのか……あんまり痛くないといいなぁ。

 後で思い返してみても、何故あの時、恐怖が先にこなかったのか……不思議である。

 ホワイトファングとの距離が縮まる……もう、手を伸ばせば触れる事のできる位置にまで来ていた。

 覚悟を決め、最後はこの『白い悪魔』に食べられるとしても、目だけは閉じまいと頑なに自分自身に言い聞かせる。

 すると、ホワイトファングはアタシの顔に自身の顔を摺り寄せ、ペロペロと目尻を舐めだした。

 突然の出来事に固まっていると……

 気付いた時には、親のホワイトファングはいつしか目の前から姿を消していた。

 それを確認して子供のホワイトファングを見るとアタシの体にスリスリと気持ちのいい毛並みをすり寄せてくる。

 ひとしきり、撫で回された後にホワイトファングはアタシの手足の自由を奪っていたロープを噛み千切ってくれた。

 自由になった手で口に宛がわれていた布を外し、新鮮な空気をたっぷりと吸い込む。

「うーん……君、どうしてアタシを食べなかったの?」

 一つ伸びをしてからホワイトファングに尋ねるが、答えは返ってこなかった。

「あぁ、そっか! ホワイトファングは人語を喋らない野獣だってお母さんが言ってたっけ……」

 うーん、困ったなぁ……ロープを噛み千切ってからはまたアタシに擦り寄ってくる。毛並みが心地よくて手で触れてみる……凄く、やわらかくて、暖かくまるでお母さんに抱きしめられた感じに似ていると思った。

「とりあえず、名前がないと不便だよね……ねぇ、君、毛並みが見事な白色だからハクアでどうかな?」

と、ホワイトファングに尋ねると今度はバウッ!と一回鳴いた。

まるで、言葉が通じたみたいで嬉しくて口元に自然と笑みが漏れる。

「これからよろしくね、ハクア」







 う~ん、今思い返してみても何故助けたのかさっぱりである。

 いつの間にか、夕方から夜になり月が昇っていた。ここから見る星空は相変わらず絶景だなぁ……

 生まれ故郷も、星空は綺麗だったけど、家の中からしか見れなかったしね……

 相棒の毛並みを撫でながら、優雅に星空を眺めていたら……乱入者が現われた。

「あ~、こんな所に居た! もぅ~、探したじゃない。 スイレン!」

 と、乱入して来たのはカスミである。

「う~ん? 何かあったっけ!?」

 のんびりとした口調で聞き返すと、カスミが何かを察したのか怒りを少しばかり静める。

「べ、別に何も無いけど……誰にも何も言わずに出て行ったりしたら心配するじゃない!」

 あぁ、そう言えば誰にも言ってこなかったっけ……

「ゴメン、すっかり忘れてたわ」

 軽い気持ちで相棒の所に来たけど、皆に迷惑かけちゃったなぁ……

「むぅ~、たいして悪いと思ってない顔ね」

 カスミが頬を膨らませる。その顔を横目で見やり、苦笑を洩らす。

「いいや、本当に悪かったって思ってるよ?」

 アタシの台詞が聞こえているはずなのに、あえて聞こえていないような態度をとる。

「う~ん、ヨシ! じゃ、スイレン罰ゲームね♪」

 そう言うや否や、カスミがいきなり手を握ってきた。

「ひゃっ!ちょ、ちょっとカスミ!」

 罰ゲームの正体……

ソレはスキンシップという名のボディタッチである。アタシは自分から触るのは大丈夫なのだが、相手から触られるのが苦手なのである。だって……こそばゆいだもん!!

 アタシが必死に抵抗しているにも関わらず、やめようとしない。それどころか、どんどんエスカレートしてきた。

「ほら♪ スイレン逃げないの!」

 手から肩へと手が動かされる。その度に言い知れない、こそばゆい感覚に思わず声がでる。

「あっ……んっ……いやめぇ……ひっ……あっん」

 楽しそうに次々とあっちこちを触られた。



 数分間の拷問という名のスキンシップからやっと解放され、息を整える。



「ハァハァ……ちょっとやりすぎじゃない? カスミ!」

 涙目になりながらカスミに訴える。

「ふふふ♪ スイレンって、スキンシップした時の反応がとっても良いから、ついついやりすぎちゃうのよねぇ」

 などと、笑顔で言ってくる。

 確かに、誰にも言わないで出てきたのは悪かったけど、この仕打ちは明らかにやりすぎではないだろうか……

「ううぅ~、カスミの意地悪!」

 恨めしいという視線を送る。そんな態度もカスミには逆効果のようで、楽しそうに笑うのである。

「あはは~、もう! スイレンってば可愛い♪」

 コロコロと楽しげに笑う。ふいに笑いを収めて、真顔になる。

 カスミの髪が風に流され、カスミはそっと手で押さえる。そんな何気ない仕草がとても美しく見蕩れていると……

「さっき、何を考えてたの?」

 最初は質問の意味がわからなかったが、昔の事を思い出していたことだと思い当たる。

 別に隠すような事でもないので正直に答える。

「うーん? ハクアと出会った時の事を思い出してたの」

 アタシの答えを聞いたカスミが気遣わしげなに尋ねてくる。

「ハクアとの出会い。ねぇ…… そう言えば、聞いたことなかったわねぇ……どんな出会いだったのか教えてよ」

 最初は気遣わしげだったのに、今は好奇の方が勝っている様子のカスミ。正直あんまり話したくない。

「ええぇぇ!? 嫌だよ! 話していて、あんまり気分のいい話じゃないしね」

それに、面倒くさい。

 アタシの態度から、面倒くさいという雰囲気を察したのかカスミが詰め寄ってくる。

「ねぇ、スイレン。 今、面倒くさいって思ったでしょう!?」

 あぁ、見透かされてるなぁ……

 だって、面倒なモノは面倒なんだもん!

「え~、さぁ? どうだろうね」

 カスミの藍色の瞳が真っ直ぐアタシの目を射抜く。じーっと、見つめてこられて何故だかドキドキした。

 カスミの顔が肌に徐々に近づく……

 肌に息がかかるほどの距離まで近づいくるので、嫌な予感がしたので距離を取る。

「か、カスミ。 今、何しようとしたのよ?」

 とりあえず、安全な距離まで離れた所で尋ねると、カスミはパチパチと数回瞬きをした後に口元に笑みを浮かべて答えた。

「え? スイレンが答えてくれないから、答えやすいように接吻(きす)しようとしただけよ! いけない?」

 全く悪びれる様子を見せないで、半ば開き直りとも取れる台詞で返された。

 うん?答えていないから、接吻しようとした……

 意味が分からないし! ってかそもそも接吻しようとする理由がわからないし!

「いけない? っていうか……接吻することが何でアタシの気持ちを知ることになるのよ!」

 アタシの怒声交じりの突っ込みに、キョトンとした顔をして返答をする。

「え? だって、スイレンってばスキンシップが大の苦手じゃない? だから、苦手なことをされるくらいなら本当の事教えてくれると思って♪」

 言い終わった後に、凄く良い笑顔をでこちらを見る。

 あぁ……そうだった。 カスミもこういうヤツだったよ!


 クォ~ン!!


 ハクアが一鳴き……

 そんな、ハクアの様子にも気付かないで二人のイチャイチャ会話は夜遅くまで続いたのである。


う~ん……展開がorz

何かイチャイチャがワンパターンなような……気にしたらry


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