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11日もかかってしまった(泣

もうちょい、スピード上げねば!

 まぁ、二人にはああ答えたけど実際は、たまには体を動かさないと鈍るからという理由が大半を占めているんだけど、ソレを素直に言おうものなら無駄に絡んでくるであろう事は、予測が付いていたので早々に離脱するに限る。

 そういえば、南島(なんとう)に行くのは結構久しぶりな気がするなぁと思いながら、道ではなく住宅の屋根の上を音が響かないように走り抜けていく。別に急いでいるわけじゃないけど、道を走ると人とぶつかる可能性があるからなぁ。その点、屋根の上ならそうそう人も居ない事だしぶつかる事に気をつける必要もないから楽でいい。

 前にも触れたが、南島は、北島(ほくとう)で開発された技術を使って、実際の製作、加工、製造、調理などを行う部署が集中している島なので、物流と外の情報の統括部署にいるアタシの身の上上、全ての部署に顔が利くのでこの手のお使いは結構日常茶飯事ではあるんだけど、麒麟様が、わざわざ訪れる順番まで指定してきたということは何かしらの理由があるはずなのだが……まぁ、行けばわかることだと思考を振り払い全力で各島々を結ぶ橋までの移動を開始する。

 麒麟殿から真っ直ぐ南の方に向かえば、南島に通じている長い橋が見えてくる。南島に存在する部署柄、職人が多く済む南島に通じる橋だけあって細工が細かく、他の島に通じる橋よりも見るからに造形が凝っていて美しいのが特徴でもある。

「思っていたより道が混んでるなぁ」

 一人ごちり、そのまま道を走り抜けようかと考えるが、ここまで来たら人が多い所に降りてスピードを殺す方が面倒くさいなぁと思い、何か使えるものはないかと視線を走らせ一つの考えに思い当たる。

 うーん、コレをやるとまた余計な注目を浴びそうだけど、出来るだけ走る速度は落としたくないし……まぁ、色々言われることには目を瞑るか。

 建物の終わりから橋までの距離は結構離れているが、一度も地面に足を付けることなく街灯や花壇と道を仕切る煉瓦の段差を利用して橋の手すりに飛び移りその上を疾走して行く。

「きゃっ!」

 橋の上を行く通行人が驚いて悲鳴を上げるが、謝ろうと視線を向けると距離がかなり遠くなっているので諦める。

 そのまま手すりの上を走っていると塩の匂いがより強くなり、左右に視線を向けると微かに別な島を結ぶ橋が微かに見て取れる。橋の下に目を向ければ、巣潜り漁を行う舟がまばらに点在し、その間を縫うように各島から出ている定期船が行きかう。

 その中にブルーアイランドの伝統のバディ舟を漕いでいる船頭の中に見知った二人が漕いでいる舟を見つけ乗客の有無を確認した所、丁度良くお客が疎らなようなので舟との距離を目測で計りながら飛び移るタイミングを窺っていると、舟と舟の間を縫って進むため一時的に遠ざかり飛び移るのは諦めて橋を走りきるしかないかなぁと半ば諦めかけたのだが、遠ざかっていた舟が再び橋に接近してきた。

 もうちょっと、あと少し橋に近づけば巣潜り漁をして無人の舟を足がかりにしてバディ舟に飛び移れるのに……その少しが中々やってこないので、やきもきする。

 微妙に走る速度を調整しながら、辛抱強くその時を待っているとまさに頃合いの距離に接近する動きを見せる舟の動きを予測して、迷いなく無人舟に一度飛び移りバディ舟に飛び移ろうと踏み切ろうとした時に予想外にもバディ舟が遠ざかり始めた。

「チッ!」

 思わず舌打ちを打ち、思いっきり踏み切りバディ舟の方向に飛ぶが、届くか届かないか微妙な距離感のため、船頭の二人に届けとばかりに思いっきり叫ぶ。

「アリア! ソフィ! うまいこと頼むわ!」

 やはり微妙に舟に届いて居ないが空中で身を縮めて勢いを殺すべく回転をはじめた頃、名前を呼ばれた二人が、声がした方を振り仰いだ。

「え? す、スイレン」

「うん? え、ちょっと! いきなり言われても」

 前者のアリアと後者のソフィとも流石の腕前で舟を操り、アタシが着地する地点に舟を漕ぎ入れ衝撃で舟が暴れないように身構える。だが、空中で勢いを殺した為そこまで派手な衝撃を舟に与えることなく着地に成功すると、二人から非難の声が上がる。

「ちょっと、スイレン! 毎度毎度、いきなり飛び乗ってこないでよ!」

「そうよ! こっちだってお客さん乗せてるんだから、毎度毎度やられたら困るんだからね!」

 そんなに頻繁にやってるかなぁ? ちゃんと船着場から乗る事だってあるのに、毎度毎度飛び乗ってっていう言い回しはどうかなぁと思いかけたのが顔に出たのか更に言い募ってくる。

「あー! その顔は、たまには船着場からも乗ってるよって顔ね! でも、そういう時って大抵途中で飛び降りって橋に飛び移って走り去るじゃない!」

「飛び降り回数と飛び乗り回数の合計が今回のを入れて、五百回超えだよ? 普通に乗った回数は片手で数えられるだけってどうなの?」

 むぅ、まさか数えていたのは意外である。別にしたくてしてるわけじゃないんだけどなぁ。ただ、その場所で降りた方が近道だからしているだけであって、効率良く動く為に行っている事なんだけど途中乗船や下船が多いのも確かだし、反論できないのが辛いわ。と内心でごちり素直に謝る。

「ごめん、ごめん。謝るから勘弁してよ!」

 両手を合わせて拝みつつ、おじぎをしながら言うと、二人共やれやれという様に溜め息を同時につく。ちらりと様子を窺うように視線を向けると二人の呆れ顔がそこにはあった。

「はぁ、どうせたいして悪いとも思ってないんでしょ?」

「だよねぇ、悪いと思ってたらそう何回も同じ様な事をするはずがないしねぇ」

 ネチネチと攻め立ててくるアリアとソフィの言動をどうやって、掻い潜ろうかと考え始めた頃、疎らに乗っている乗客の中の一人が快活な笑い声を上げた。

「アハハハハ、もうその辺にしときなよ! 二人共」

 その声がした方を見ると、アタシが西島で贔屓にしている食堂のおばちゃんだった。その声に同調するように他のお客からも、二人を(なだ)める言葉が次々と掛けられる様子を驚き顔で眺めていると、食堂のおばちゃんがいつの間にか背後に居て、思い切り背中を平手打ちしてくる。

 バチィン! と何とも痛そうな音がするが、痛みはほとんど感じられなかった。

「にしても、相変わらずお転婆(てんば)だねぇ~。ちょっとは、御淑(おしと)やかに出来ないかねぇ」

 やれやれと言いながら、頭を振りつつ両手を広げ肩を上下させるおばちゃんを軽く睨みつつ言い返す。

「別に、いいじゃない! それに、御淑やかに過ごすなんって御免こうむるよ! アタシはアタシらしく生きていくんだ!」

 威勢よく担架を切るアタシに対して、食堂のおばちゃんと乗り合わせた乗客達だけではなくアリアとソフィまでもが加わり、一箇所に集まってヒソヒソと内緒話を始める。

 亜人であるアタシの耳に届かないように、抑えられているが単語のようなモノが漏れ聞こえてくるが、何を言っているのかは判断が出来ない。

 何だか、嫌な予感がする。このまま此処に居続けたら、自身の身が危険にさらされるような……離脱を試みるべく周りを見渡してみるが、現在の位置から飛び移れそうな舟がない事を確認して次に橋までの距離を目測しようと橋の方を見ると、かなり離れているので飛び移るのは無理だと諦める。こうなったら、泳ぐかと考えるが、目的の南島まではまだ結構離れているこの場所から、服を着たまま泳ぐのは流石に無理だと思い何か、手はないかと考え込むアタシの耳が集団で話し合いをしている会話を拾い出す。

「……本人は、ああ言っているけどいつだったか麒麟様やカグラ様に可愛い服着せられていたよねぇ」

「あぁ、あった! あった! 懐かしいなぁ」

「あの時のスイレン様は、本当に可愛らしかったよねぇ」

「大変お似合いだったのに本人は物凄く顔を真っ赤にして「み、見るなぁ!」って喚いていたっけ」

「本当、何であの格好でずっといないのかしら? 引く手数多(あまた)でしょうにねぇ~」

「前に、本人にチラっと水を差し向けてみたんだけどね、どうやらそうやってチヤホヤされるのが嫌みたいなのよねぇ」

「へ? 何ソレ! 何ともまぁ贅沢な悩みじゃない! ワタシなんか一体どれだけ努力してると思ってるのよ!」



 …………

 あぁ、みんな好き勝手言って! だって、普段と違う格好しているだけで男共の視線が集まるわ、同姓からは不穏な気配がするはで、居た堪れないんだよ! 何が、そんなに珍しいのか人の事をジロジロと見てくるし、仕舞いには男女の喧嘩のとばっちりは受けるわ、ろくな事が無いので女の子らしい服装は出来るだけ避けているうちに今の服装に落ち着いてたワケだが、それからは好奇の視線を集めることもないし、喧嘩のとばっちりもこないから平和な日々なんだけど、アタシの女性らしい服装を見たことがある者は口々に「もう一度あの姿が見たい」だの「何故、その様な格好ばっかり」などの影口が囁かれているのは、知ってはいたけど面と向かって言ってくるのはごく限られた人たちだけである。にしても、何故今その話題なのか?

「舞の衣装、今年はとても可愛らしい感じになってるらしいし、楽しみだねぇ」

「え? そうなんですか?」

 何か、今嫌な情報を耳にしたようだけど、聞かなかったコトにしよう! アタシが心の中で硬く誓いを立てていると、食堂のおばちゃんがおもむろに立ち上がり、みんなの視線を集める。

「いや、そうじゃなくて! スイレンちゃんの服装を女性らしいモノにしようって話しは何処に言ったのさ!」

 あぁ、その為の意見交換をしていたら話が脱線していったと。全てが聞こえていたワケじゃないから憶測になるがそういうことらしい。まったく大きなお世話である。

「別に、頼んでないし! ってか、絶対着ないし! 白虎になるのはアタシじゃなくてカスミだからね!」

 アタシが吼えると、一同がきょとんと驚いた顔をしてこちらを見てくる。

 え? アタシ何か変な事言ったかな? 内心でごちり一同の反応を待っていると、意外なモノを見るような視線を注がれ、何とも居心地が悪い。

「何言ってるんだか、ここに居るみんな、アンタに投票するんだよ!」

 え? 今、アタシに投票するって言ったのか?

 いやいや、アタシはそんなにみんなから慕われていないし! 寧ろ、カスミの方がみんなに慕われていて人気があるんじゃないの? と聞けずに口をパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す事しか出来ないのが、何とも妬ましい。

「なんだい? その自分は誰からも投票されるはずがないから、必然的にカスミちゃんが白虎になるって最初はなっから決まってる。とか思い込んでた顔だねぇ」

 いや、実際にそうじゃない! と言いたいが、あまりの衝撃にまだうまく言葉を返せないで居ると一度しか言わないよ! と前置きした食堂のおばちゃんが語りかけてくる。

「確かに、カスミちゃんはアタシらの目線に立って色々世話をしてくれる。それには凄く感謝もしてるけど、それ以上にアンタの目には止まり難い気配りや、人柄に惚れてるんだよ!」

 うんうん、と頷く一同を目にしても信じられない思いでいっぱいだった。だって、カスミは多くの人達に話しかけられているが、アタシは自分から話しかけないといけないし、それに、人にもよりけりなんだけど話しかけようとしたら、逃げていくし嫌われているんだと思って当然だと思うんだけど。そんなアタシを見透かしたかのようにさらに続けてくる。

「カスミちゃんは、あいう性格だから話しやすいみたいだけど、アンタは自分が思っている以上に美人なんだよ! 異性からはそりゃ、簡単には話しかけられないだろうし、それは、同性からしても同じなんだよ! アタシは、まぁ慣れたけど慣れて居ない子がアンタが至近距離に来たら照れるって!」

 はぁ? 照れる? 何で? だって同性でしょ?

 と思考してから、いくつか思い当たる事柄が思い出される。あぁ、確かに嫌われているっていうよりは照れているという表現の方が正確かもしれないね!うん?つまり……

「だから、アンタに投票しようって人はかなりの数に上るはずだから、今回の投票はいい勝負になるんじゃない? まぁ、頑張りな!」

 いやいや、なんかいい感じにまとめたけど忘れちゃいませんか?食堂のおばちゃん。

「さて、そうこう話ししているうちにもうそろそろ南島ですよ!」

「忘れ物が無いように、今一度ご確認して頂きもう暫くお待ちください!」

 いつの間にか、仕事モードに切り替えたのかアリアとソフィがそれぞれの持ち場で舟を漕ぎながら、乗客に声を掛けている。アタシが気づかないうちに舟は南島の船着場に進路を向けて、漕がれていた様だ。

 にしても、意外な情報が聞けたなぁと内心で思いつつ空を見上げる。

 晴れ渡った空に鳥が群れを成して、飛んでいる。

 この時のアタシは、知る由も無かった。まさか、あの鳥の群れの中にこれから会いに行く相手が紛れているなんて。

百合要素が少なくなってきた(汗

次回か、次々回くらいに残酷描写込みの戦闘シーンを書きます!(ぉ

と、何気に宣伝を告知して、更新をお待ちくださいm(_ _)m

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