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魔法先生なんてガラじゃねえ!  作者: 砂握
第一幕 教師と生徒のブートキャンプ
47/48

16

 デカい檜風呂で湯につかり、豪勢な飯で腹を満たし、柔らかい布団で身を休める。

 人生の大半がクソみたいな生活だった俺からすると、もはや旅行で温泉に来たような夢心地。

 優雅な生活に慣れっこな娘共にすれば物足りないレベルだろうが、そこは非日常のイベントというスパイスが効いている。

 誰もがハイテンションで口から出る声はいつもよりボリュームが大きく、些細なことで大笑い。

 日頃は落ち着き払った奏や美景ですら、風呂から出た後は浮かれていたほどだ。


 午後十時過ぎ、大部屋でゴロ寝としけ込んだ後も、しばらくは姦しい声が響いていた。

 遠く離れた個室(天井や壁に古い血痕が残る謎の座敷牢)で休む俺の耳に微かな虫の声が聞こえ始めたのは、夜中の十二時を幾らか過ぎた頃。

 見回りをする副担任の足音が部屋に引っ込んだのを聞き届けた後、俺もようやく瞼を閉じた。


 俺は夢を見ない体質だ。

 もちろん生まれつきではない。

 十代前半、ヤンチャしすぎてお巡りさんよりも怖い人たちにとっ捕まって以降、頭の中をアレコレ弄られた。

 処置の一つである記憶の封印は、記憶と密接な関わりを持つ夢という現象も間接的に閉鎖した。

 閉鎖であって封印ではない。

 如何に優れた魔導師であれ、完全な記憶の操作は不可能であるため、実際は夢を見ているらしい。

 強烈な恐怖を感じて飛び起きたり、目覚めた時に涙を流していたりはする。

 ただどんな夢を見ていたか全く思い出せないだけだ。


 しかし、九霄学園で教師をやるようになってから、この体質に異変が生じた。

 漠然とではあるが、夢を記憶したまま目覚めることがあるのだ。

 些細で他愛のないものばかりで、頭を弄られるより前のイメージが想起することはない。

 だが、確かな変化であり、何とも落ち着かない変化だった。

 夢はストレスに影響されやすい。

 ストレスは自覚がある場合もあれば、無自覚の場合もある。

 学級崩壊からのクラレクという流れは、無自覚のストレスを与えていたのかもしれない。

 かくしてこの夜、俺は軽い悪夢を見るハメになった。


 欧米、東南アジア、中東を全て足してチャンプルーにしたような、実在しない街。

 顔もプロフィールもわからないターゲット。

 姿の見えない敵、壊れた携帯端末、銃弾が一発だけ残った拳銃。

 やること全てが裏目に出るという工作員あるあるの最悪の展開が続くという、シンプルな悪夢だ。

 夢であると気づいているのに、自分では目覚めることが出来ないもどかしさ。

 全身がだるく、嫌な臭いが意識を痺れさせている。

 異様に喉が渇く。


 目覚めようと必死であがくも、夢の中の俺は絶体絶命の状況に追い詰められていく。

 満身創痍、治療をしようと転がり込んだ廃病院。

 見つけたのは医薬品ではなく六つのベッド。

 横たわるのはアラブ系の少年達。瞼を閉じてピクリとも動かないがまだ生きている。

 ――こいつらをちゃんと殺してやれば、俺も救われるんじゃないか?

 いかれた妄想が俺の潰れた心臓を不規則に収縮させる。

 突き動かされるようにナイフを手に取り、手近な少年の左目に振り下ろした。


「……チッ!」


 誰かの舌打ち。手の中に残る異様な感触。

 その瞬間、俺は先ほど見ていたのが悪夢に過ぎず、自分が今まさに目覚めたのだと確信することが出来た。

 考えたり悩んだりはしない。

 ただ反射的に行動する。

 俺は瞼をかっと見開くと身体のバネだけで飛び起き、座敷牢の片隅に潜む襲撃者を五感プラスアルファで捕捉した。


「素敵な夜ですね。夜這いですか、ナユタさん」

「最悪な夜だ。夜襲に決まってるだろ、灰尾八雲――お前、手に何を仕込んでやがる」


 夜の闇の中、輪郭を曖昧にした鍬ナユタはギラつく瞳で俺を睨み付けた。

 その右腕からは血がしたたり落ちていたが明らかに軽症、大きい血管も神経も傷ついてはいない。

 魔法で傷を癒やしたらしい、見ている間に血が止まった。

 俺は自分の掌に視線を落とした。

 先端にナユタの血が付着した五寸釘。道場の周辺で拾ったものだ。

 何かの時に役に立つかなと考え、実際に役に立ったが、悪夢の内容をこいつが決めたのならば失敗だったかもしれない。

 後悔も罪悪感も微塵もない過去――だったはずなのだが。

 俺は自分で考えるよりも繊細で人間的な性格なのだろうか。

 嫌な音を立てる心臓をなだめながら、乾いた喉から明るい声を引きずり出した。


「俺はちょっと子どもっぽいところがありましてね、寝るときに何か安心できる物を握ってないと眠れないんです。でもほら、女子校のイベントでしょ? 銃火器とか刃物はまずいから、仕方なく釘を握って眠りに落ちたんです。まあ幼女がクマの縫いぐるみを抱いてねるようなもんです。可愛いでしょ?」

「縫いぐるみで襲撃者にカウンターを浴びせる幼女はいねーよ。せっかく薬まで嗅がせたのに、寝たまま首筋を狙ってきやがって……下手したら死んでたぞ」


 ナユタの言葉に俺は得心した。

 嫌な臭いは夢の中のものではなく、座敷牢の床下から神経系に作用する毒香でも焚いているらしい。

 それであんな悪夢を見たのかと一安心。

 寝る前に危険がないか部屋中を点検したが、空気の通り道までは気づかなかった。

 殺気に反応して迎撃する性癖に調教されていなければ、俺を失った世界はほんの少しだけ平和になっていたことだろう。


「まあ怪我をさせたのは謝ります。しかし、これもイベントの一つなんでしょうが、ちょっとやり過ぎじゃないですか――生徒達の方を担当しているお仲間の方は、ちゃんと加減してくれてるんでしょうね?」

「……気持ち悪いほど察しが良いな。ホンモノ感を出すために殺気まで込めたのに――仲間の存在にいつ気づいた?」

「この家ね、綺麗すぎるんですよ。庭は不自然なほど足跡がないし、家の中は塵一つ落ちてない。古い家ですから半日以内に徹底的に掃除しないとこうはならないが、やったのはあなた一人じゃない」

「なぜそう思う?」

「掃除みたいに、物を動かして再配置するってのは体格や性格が良く表れるんです。例えば居間の棚に飾られた小物は右利きの人間が片付けたらしいが、土間のスリッパを揃えたのは左利きの人間。丁寧だったり雑だったり、家の中を見回しただけで大勢の人間の姿が浮かんでくる。だがあなたは最近誰も来ていないと言った……まあ何かありますよね」


 その何かの中身がどういったものであるかは想像が付かない。

 だが努力はしているが誤魔化しの素人臭さから察するに、悪意がないことは漠然と伝わってきた。

 本気なら食事に何か仕込んだり、生徒を人質に取ったりする。そうなれば俺は打つ手がなかった。

 ――あんまりやり過ぎず、放っておけよ。

 ナユタからは俺をはめようという意識はそれほど高くなく、自制を求めるような気配が強かった。

 生徒達のために放っておけ……そういうニュアンスだ。


 クラレク初日なのに特別なイベントがない。

 タイムアタックでもあるオリエンテーリング形式なのに、次のチェックポイントは翌日に伝えるという奇妙さ。

 それらと合わせて考えればサプライズ形式のイベントが計画されているらしいと想像は付く。

 就寝中の俺をナユタが襲撃したのは足止めであろう。

 サプライズを仕掛ける側としては、俺は他の教員連中と違って少々厄介な存在だし。


「……なるほど、昼飯の時のあれは確認を取るためだったのか。お前らを出迎えるのに皆で掃除したとでも言っておけば良かったかな。ま、素人の限界ってやつかね」

「良い線行ってましたよ。隠すというよりも溶け込ませるという意識の方が大事です。そこを気をつければもっと上手く出来ると思います」

「ふん、教師面しやがって――しかしこうなると、あたしの役目はもう終わったというか、雲散霧消したというか。生徒だけじゃなく引率教師も混乱させて、一定のストレス与えろって指示が出てたんだが……あっさり受け入れられると意味がない。アンタはそこそこやるって〝鎌〟の連中に聞いたから、久しぶりに気合い入れて稽古もしたんだがなぁ」


 ナユタは残念そうにため息をつき、明後日の方向に上段蹴りを放った。

 魔装と呼ばれる体術用の魔法は使用していない、単純な魔力による強化を施しただけの一撃。

 空を切り裂く音に俺の睾丸は縮み上がった。

 鍛錬に鍛錬を重ねたガチの格闘家。

 広い野外ならともかく、逃げ場の少ないこんな場所、魔法を使う時間を与えてくれない距離じゃ三手以内に詰に詰まされる。

 寝込みを襲った時は相当に手を抜いていたらしい。


 俺全部お見通しですよアピール(半分はったり)をして良かった。

 そう胸をなで下ろした時、遠くから甲高い悲鳴が聞こえた。

 生徒達のものであろう。足音や衝突音やら、物騒な雰囲気が漂ってくる。


「どうやら〝真夜中の大ピンチ、勇者達を襲う最初の試練!〟が始まったらしいな」

「なんすかそれ。カビ臭いネーミングっすね。歳がバレますよ、はいバレた」

「あたしが考えたんじゃねえ! ったく、口の悪い奴だな――事情がわかったんならさっさと合流しろ。わかってると思うが、アンタはあんまり手出すなよ。むしろ事情がわかってるなら生徒達が本気になるようにちゃんと協力しろ。ほら、行け!」


 ナユタは半身になって座敷牢の入り口を示した。

 一戦交えようという気配はない。

 油断させて背後から一撃ということも無さそうだ。

 俺は余裕綽々の表情を浮かべてはいたが、実際は現状をあまり理解していない。

 会話を重ねて情報を引き出したかったが、生徒達がゴタゴタやっている手前すぐに向かわなくてはならなかった。


「ああ、そうだ。昼間は酒がどうこう言ってたな。このイベントが終わったら飲ませてやるから、暇な時にでも来ると良い」

「その時はつまみを持ってきますよ」

「はは、期待してるぞ」


 からっと笑うナユタからは一仕事終えた気楽な雰囲気が見て取れる。

 彼女はこのイベントからはもう退場するのだろう。

 羨ましい話だと思いつつ軽く頭を下げ、生徒達の元へと向かうことにした。


 暗い廊下を走っていると、春休みの一件が思い浮かんだ。

 校舎内で未熟な警備達を相手にしたあれだ。

 表向きの理由は侵入者である俺の捕縛だったが、経験不足な警備達の訓練という目的が隠されていた。

 状況は違うが、雰囲気が似ている。

 クラス対抗レクリエーション。

 新入生歓迎や新クラス団結を目的とした行事。


「……なにか裏があるが、女子校のイベントに裏が必要なのか?」


 想像は付かない。

 だが学園長が企画したものである以上、確かな意義はあるのだ。

 ナユタのような人間までつぎ込んだ大きなイベント、学園の構成員である俺も確かに協力しなければならないだろう。


「勇者達を襲う最初の試練か――やっぱりシリアス感が大事だよな」


 俺は一旦立ち止まり、手に魔力を込めて全身をなで始めた。

 魔力を込められた指先は服を切り裂き、軽い出血を生じさせる。

 その僅かな血を巧みに顔に塗りたくると、如何にも大怪我を負っているような見た目に変貌した。

 関節や骨にダメージを受けたような歩き方をすれば完璧、無慈悲な兵士だって胸を痛めるし、心優しい看護師なら尻毛のトリミングまでしてくれるはずだ。


 よたよたと歩き出した俺の双眸からは自然と涙が溢れ、一歩踏み出す度に顔から血の気が引いていった。

 戦争被害者を装って何度も敵地に潜入したことがあるプロの演技。

 冷酷無慈悲な教官ですら、人形を赤子のように抱いてうわごとを繰り返す俺の姿を見たときには目を伏せたものだ。

 かくして乱闘の喧騒が満ちた部屋のふすまを俺が開けた時、中にいた者達は目を見開いて言葉を失った。


「せ、先生――」


 最初に声を発したのは襲撃者と鍔迫り合いをしている美景だった。

 現在進行形で対立しているはずなのに、俺の惨すぎる姿にそれ以上の言葉を失い、額から汗を流した。

 他の生徒達も襲撃者相手に思い思いの戦いをしていたらしいが、手を止めて呆然と俺を見ていた。

 俺は内心で上手くいったとほくそ笑みつつ、気管に血が入ったような咳をしつつ畳の上に倒れ込んだ。

 ちゃんと顔は全員を視界に収められる方を向けるという本職の技。


 しかし予想外が起きる。

 俺のガチ演技は生徒だけでなく襲撃者すらも動揺させてしまったらしい。


「ひ、酷い……なぶり殺しだ」

「姐さん何もここまでしなくても……」

「手当とかした方が良くない? て、手遅れかな?」


 悪の組織の構成員じみたお面を被った連中は慌てふためき、武器を一旦引いてしまった。

 生徒達もこの隙に攻勢に出れば良いのに、呆然と俺を眺めている。

 惨たらしい戦場を写した一枚の写真が休戦を導くように、両者が戦いを続行できなくなって凍り付いていた。


 ――しくじった。こんなはずじゃ無かったのに。


 生徒達にはスパイスを与えたかったのだ。

 灰尾やられてやんのと馬鹿にしたり、危険な相手だと緊張したり、敵を討とうと奮起したり。

 襲撃側だってそうだ、目を引いて隙を作るつもりは確かにあったが、びびって矛を収めてどうする。

 イベントが台無しじゃないか。

 いかんいかん。

 こうなったら俺が話を進めるしか無い。


「お――お前達の目的は何だ、どうしてこんなことを……」


 今更元気に話すわけにも行かない俺は、お面の襲撃者達にかすれた声で問いかけた。

 するとナユタの仲間達はビクッと身を震わせ、おずおずと喋り始めた。


「あの……私達はその……魔王に忠誠を誓った裏切り者の村人でして……いや、もちろんそういう設定ってだけなんですけど……」

「勇者達を誘い込んで安心しきったところを襲ったりとか……お前達の旅はこの先も危険がいっぱいだぞと脅したりとか」

「今のお前達の力じゃ勝てないから、成長と結束を促すよう暗にほのめかしたりとか……」

「最後はピンチに陥った勇者達のところに善良な村人達が駆けつけて、身体を張ってる隙に生徒達が逃げていくよう仕向けたりするんですけど……担任の先生がこんなことになるなんて――」


 やべえ。

 全部喋るなよ。

 ちゃんと演技してくれよ、良く見りゃ俺は怪我してねーよ。

 俺の方が演技上手くてどうするんだよ。

 つーかガチの村人で素人だったなこいつら、忘れてたわ畜生。


 俺の額から脂汗が出てくると、いよいよ怪我の具合が悪化したような雰囲気になったらしい。

 娘共も女達も固唾を飲んで、俺が息を引き取るのを見守り始めた。

 いや、死にかけてると思ってるなら誰か助けろよ――。

 俺が半ギレで舌打ちしたその時、お面達が言うところの〝最後〟の局面に突入した。

 障子をなぎ倒し、怒濤の勢いで〝善良な村人達〟が現れたのだ。


「魔王に寝返った裏切り者め、こんなところにいたか!」

「勇者の皆様! ご無事でしたか!」

「この島はもう魔王の支配下になってしまいました、一刻も早く離脱を!」

「九霄学園の校章を辿れば扉を発見できます、私達がここを食い止めている間にお逃げください!」


 襲撃者役と同じように素人っぽいが練習したらしい、迫力のある演技だ。

 迫真だからこそ、それどころじゃなくなった空気の中で浮いている。

 その場の全員が呆然と視線を注ぐ中、役に入りきった村人達が硬直した魔王の手下に襲いかかった。


「ま、待って! 今はちょっとそれどころじゃ!」

「問答無用! 地獄に送り返してやる! 皆様、この隙にさあ!」

「姐さんが人殺しになっちゃうんだよ!」

「靴はすぐそこの縁側に用意してありますから、ご安心を!」

「ぐはっ! 本気で入れやがったな!」

「この時を待っていたんだ! 去年の夏の報いを受けろ!」

「根に持ちやがって――畜生、受けて立つぞ!」


 最初は演技で、途中からガチでやり合い始めた島民達。

 夜闇に飛び散る涙と鼻血、立ち尽くす生徒達。

 真夜中の大ピンチとやらは誰かさんのせいでグッチャグチャだ。

 責任を取って強引に進めるしか無い。


「兎羽! ユニーククラスのリーダーとして退避指示を出せ!」


 俺の呼びかけに我に返る美景。

 しかし動揺を収めることが出来ないのか、周囲を見回すばかりで指示が出てこない。

 まあ目の前でスリルアドベンチャーとサスペンスコメディが展開されていたら、頭が回らなくなっても仕方ないけどさ。

 俺は美景に見切りをつけ、奏に視線を移した。


「リーダーは前後不覚だ。和歌森、指示を出せ!」


 奏も額に汗を浮かべて混乱していたが、俺の言葉に顔を引き締めた。

 大きく深呼吸を一つ。


「――わかりました。ひとまずこの場から離れるため、縁側から中庭に出ましょう。優香里ちゃんと姫花ちゃんを皆で囲むようにして、先頭は……」

「はいはーい! 梢ちゃんがやります! この家から出た後の逃げ場所にも心当たりがあるから任せて!」


 顔色が普段と全く変わらない梢が、ちらりと俺を見ながら挙手をした。

 色んな意味でナイスフォロー。

 梢の明るい声に動揺が幾らか収まったのか、年齢が上の生徒達に考える余裕が生まれた。

 慌てて周囲を見回し始める。

 ユニーククラスは組んず解れつな村人達を横目に、ドタバタと行動を開始した。


 初等部組や荒事に不向きな者達を比較的動ける者達が囲む形態。

 お世辞にもフォーメーションとは言えないが、取りあえず皆が逃げるという意識を共有しているのは悪くない。

 と、血まみれの俺は倒れたまま微笑んだ――勇者達よ、俺のことは見捨てて先に行くといい。


「ニヤニヤしてないでほら立つ!」


 そんな駄犬を強引に引きずり起こしたのは飼い主の娘たる蛍だった。

 怪我人を扱う気遣いも遠慮もない。

 薄情な娘……ではなく、どうやら俺の健康状態を見抜いているらしい。

 蛍は俺に肩を貸すそぶりをしつつ、ぼそっと囁いてきた。


「演技するのは結構だけど、足手まといになるなら川に流すから」

「この島にはガンジスの支流でも流れてんのかよ――つーかよく気づいたな。自信あったのに」

「いや、普通に死体の一歩手前にしか見えないし。ただの推測。本当に怪我をしたなら、自分の姿を生徒にさらすなんて馬鹿な行為、ずっる賢い先生はしないと私は思っただけ」

「……なるほど。君は厄介だなぁ」

「死にそうな顔で嬉しそうに笑わないで、普通に怖いから」


 怪我人とその介助を装う二人が合流すると、アメーバのように締まりの無いユニーククラスは駆け足で移動し始めた。



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