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魔法先生なんてガラじゃねえ!  作者: 砂握
第一幕 教師と生徒のブートキャンプ
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14

 女が三人集まれば姦しい。

 うるさいとか、やかましいという基本的にネガティブな言葉である。

 今なら男尊女卑的であるとか言われてしまいそうだが、まあ女が三人集まってキャッキャしてるのは、明るく元気な絵面でもあるだろう。

 平日の昼間から男が三人集まっているところを想像してみて欲しい。

 どうしても彼女がいない負け犬の集いみたいになって静かで暗い。

 それに比べれば姦しいのは悪いことじゃない。

 ただ成長期の娘が十三人も集まって、しかも飯を食うとなれば話は違う。


「っかぁ! 冷えた麦茶とさくさくの唐揚げがあれば何もいらない!」

「そう言いながらあたしの卵焼き取るなよ!」

「可愛い女の子の食事風景って良いわね。身体が熱くなるわ」

「あなたは頭を冷やしなさい」

「うーん。毒は入ってないみたいだけど……うわ、茄子だ。よろしく」

「子どもみたいな好き嫌い言って。自分で食べなきゃ駄目だよ。はいあーん」

「このお魚美味しいなぁ。何て名前のやつだろう?」

「コノアイダ、タスケテイタダイタ、イワナダヨ」

「焼き魚で腹話術とかやめて。命に対して失礼でしょ」

「うわぁ、でっかいアシダカグモ! ねえ知ってる? 一番大好きなのはゴキ」

「言わなくていいから! 佃煮食べてる時に言わないでいいから!」

「汁物も漬物も大変美味です。素晴らしい淑女力をお持ちですね」

「どうしよう、ごはんもう空だ……ナユタさん、パンとかある?」


 ワルキューレの騎行が空気を震わすような光景だった。

 ペチャクチャ喋りながらモグモグ飯を食ってる少女達は、姦しいなんて範疇には収まっていない。

 戦闘ヘリの襲来と大差ない。

 数多の料理が凄まじい勢いで食いつくされていく絶望感。

 この場でお嬢様という名称が相応しい人間がいるとすればただ一人、この俺だけだろう。

 この家の主であり大量の食事を作った料理人でもあるナユタ。

 彼女はマナーを注意するどころかニコニコと笑いながら嬉しげに眺めている始末。

 俺は訝しんだが、持ち前の洞察力ですぐさま得心した。

 なるほどこの女、見た目は旦那とお揃いのジャージで無駄にピカピカ光る軽自動車に乗ってスーパーにガキのオムツを買いに行きそうな見た目をしているが、中身はババアだ。

 盆や正月に帰省した孫に謎に甘かったり苦かったりするオヤツをせっせと寄越す系のババアだ。

 孫が帰る時に笑いながら手を振る姿が年々小さくなっていく系だ。

 畜生、長生きしてくれ。


「おいテメェ、目を潤ませてるけど何か失礼なこと考えてんだろ。しばくぞ?」

「おう怖い怖い。年の功にかかれば俺の腹の底までお見通しってわけですか。ところで酒はありませんか?」

「喧嘩売りながら酒をせびるな。あるけどださねーよ、お前仕事中だろうが……ったく、ノンアルコール梅サワーで我慢しろ」

「わーいありがとうお婆ちゃんだいちゅきー!」

「唐突に可愛い幼児声で叫ぶな気色悪い! 何なんだよこの男は……」


 ぶつくさ言いながらも、俺のようなクズすらもてなしてくれるヤンキー女。

 うんうんと頷きながら人間性に感心していると、隣に座った蛍が食パンをかじりながら肘で小突いてきた。


「あんまり迷惑かけないでよ、いないと困る立派な人なんだから」

「ほう。やっぱり島にとって重要な立場なんだな」

「まあね。こっちの地域ではそれぞれの地区に顔役がいて、色んな時にあれこれ差配するんだけどさ。ナユタさんは顔役でありつつ、顔役の束ね役でもあるから一目置かれてるの。鎌系のトップが冬実さんなら鍬系のトップがナユタさんと言っても過言じゃないくらい」


 俺は蛍の説明に頷きつつ、喉ごし爽やかな梅サワーを傾けた。

 ――最近は鍬も鎌も忙しくしている。

 居酒屋の女将が言っていたセリフを思い出す。

 大掛かりなイベントで警備が多忙を極めるのは理解できたが、南部の島民達がどれほどの関与をしているか想像も付かなかった。

 しかし学園に対して積極的にタッチしないはずの彼女たち、そしてその顔役が直接協力しているとなれば、いよいよレクリエーションの範疇を超えている気もする。

 ナユタはこの家にユニーククラスを迎え入れた時、今日の行程はここで終わりであり、食事と寝床の世話をするのが自分の役割だと語った。

 次のチェックポイントは明日伝えるとも。

 彼女の立場を考えれば、そのあまりにチープな〝役割〟を額面通り受け取って良いのか疑問が残る。

 しかも明日になるまで情報を与えられないという硬直状態。

 普通ならこっそり探りを入れるなり、有事の際に備えて手を打つなりするところだ。

 しかし俺はこの集団の監督者であってリーダーではない。

 イベント期間中におけるクラスの行動決定や計画などは生徒達に任せるべしとも指示されている。

 手を出すべきではなかった。


 俺はのんきに味噌汁をすすっている美景を見つめ、首の後ろをかいた。

 手を出すのはまずいが、傍観を決め込むのも教師ではない……気がする。

 いまいち自信はないが、まあやるだけやってみよう。


「えーと、ナユタさん?」

「なんだクソ教師。故郷に帰りたいなら廊下の突き当たりを右に行って左だぞ」

「いえ、トイレに行きたい訳じゃないんですが」

「こっわ、いつの間にうちの間取り把握してんだよ……んで、便所じゃないなら何だ?」

「今日の行程がここで終わりということは、午後の予定は特にないということですか?」

「ああそうだ。夕方に風呂入って飯食うまでは自由行動だ」

「それでしたら中庭をお借りしても良いですか? 少し身体を動かしておきたいんで」

「公序良俗に反しなければ構わないが。暴れたいなら裏にある道場使うか?」

「ありがとうございます。使用後はちゃんと清掃もしますから」 

「……お前、端っから道場借りるつもりだったな? 抜け目のないヤツ。まあ、あるもんは勝手に使ってくれていいぞ」


  怒り半分、呆れ半分。

  俺はナユタに横目で睨まれながら少女達に話しかけた。


「えー、ユニーククラスの皆さん。いや、魔王討伐隊の若き勇者達よ……昼食後は道場の方で旅に役立つ戦闘訓練を行います。参加は自由、気軽に来てください」


 俺の申し出に誰かが答える前にすかさず割って入ったのはもちろん、討伐隊のリーダーである。


「――ちょっと待ってください。勇者がどうこう言ってますけど、それってあなたの課外授業ですよね?」

「ほっほっほ。ワシは勇者達を導く謎めいた従者時ジジイ。何の話をされておられるかわかりませぬなぁ」

「何ですかその唐突な設定は――とぼけないでください。あなたを教師として認めないと私が言ったことを忘れたんですか」


 冗談が通じないJK侍は既に鯉口を切ってる。

 テーブルの反対側にいるから刀の間合いの外にいるはずだが、俺の喉元には切っ先が触れているような感覚がある。

 両隣にクラスメート、正面には無数の料理が乗った卓と、刀を抜くには恐ろしく難しい環境。

 しかし美景がその気になれば一瞬で首を切り落とされると俺は確信した。

 殺気がプンプンしている。

 刀剣技量はともかく、突然リーダーを任されたせいで余裕がないようだ。

 ボイコットの本当の理由を知らせていないせいで、守るべきクラスメート達から白い目で見られたことにショックを受けているのかもしれない。

 意外に肝っ玉は小さいらしい。


「まあまあ。そう猛り狂うなって。だが考えてみてくれ、学園長は魔王の手下であるモンスターが行く手を阻むと言っただろう? 君をはじめとする一部の生徒は自分の身を守れるだろうが、そうでない者も多いはずだ。放っておく気か?」

「私が守ります。それで良いでしょう?」

「なるほど。出来るかどうかはまた別として、だ。それはチームのリーダーとして下した最適な判断か。それとも個人的願望か?」

「それはもちろん、リーダーとして……!」


 美景は威勢良く答えようとしたが、視線を感じて口をつぐんだ。

 全校集会の後の教室で浴びた、クラスメート達のあの視線だ。

 不満や困惑はあっても、苛立ちや怒りのような特別ネガティブな感情は籠もっていない。

 だが美景に賛同していないのは明白な視線。

 たじろぎ言葉を飲み込んだ美景に、俺は淡々と声をかけた。


「重ねて言うが、これは自由参加だ。君も参加して、他の参加者に悪影響があると思えばその根拠を示して主張すれば良い。そうすれば皆も納得する。どうだ?」

「……わかりました。私も参加します」

「結構、この件はこれで片付いた。みんな食事を中断して悪かった。再開してくれ……って普通言うところなんだけどな」


 箸を止めていたのは俺と美景だけだった。

 殺気が満ちた一触即発の雰囲気の中で、他の連中は無言で視線を送っていただけで、ずっとガツガツ食っていた。

 ザ普通の女子こと古泉恵麻ですら動揺していない。

 となればこういった光景も彼女たちにとって普通の日常なのだろう。

 険悪な雰囲気よりも空腹の方が解決されるべきネガティブな事柄。

 戦場じゃ割と近場で爆発音が鳴り響いても、ベテラン兵士達は平気な顔で飯を食うし糞もする。

 慣れ以上に、そうしないと生きていけないからだ。

 ヒゲもじゃの熊みたいな男達と小綺麗な娘達が重なって見える――誰か俺に目薬をくれ。


「ユニーク通り越してフリークだな……」

「まあまあ、あんまりやり過ぎず放っておけよ。ほらもう一杯」


 ナユタは俺の肩をバンバン叩きつつ、梅サワーのおかわりを並々と注ぐ。


「――ああ、美味い。こういった手間のかかった飲み物や食べ物をいつもお一人で?」

「いや、この家で近所の連中と良く飲み食いするからな。全部をあたしが作ってる訳でもない」

「なるほど。同居人がいらっしゃるなら生徒達がご迷惑にならないかと心配で……近所の方々は良くいらっしゃるんですか?」

「いや、最近は来てないし来る予定もない。安心しな、あたし一人だから騒いでも平気だ」


 ほっとした表情を浮かべながら、俺は静かに考えを巡らせる。

 しかしナユタの視線を感じて思考を中断、小声で囁いた。


「でしたらどうです、お互い寂しい独り寝というのも自然の摂理に反する……今晩は二人でしっぽりと」

「テメェ、畑の案山子にしてやろうか。裏山の熊や猪がその緩んだ尻の穴に自然の摂理を捻じ込んでくれるぞ?」


 ナユタに胸ぐらを掴まれながら、蛍に後頭部を小突かれながら、俺はヘラヘラと笑う。

 少女達は哀れな担任を気遣いもしなかったが、熊や狼という単語に目を見開いていた。

 あえて注意せずとも、裏山に近づく者はいないだろう。

 一部の愚か者を除けば、だが。 



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