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魔法先生なんてガラじゃねえ!  作者: 砂握
第一幕 教師と生徒のブートキャンプ
33/48

02

 午後一発目の五時限目、本来なら魔法戦闘の授業が行われる時間。

 ユニーククラスの生徒達は自習しつつ、呼ばれた人間は俺と滝本による面談を受ける事になった。

 体裁としては新学期開始後の生活調査だが、ホームルームボイコットに関する件だとわかるヤツにはわかるだろう。

 本来ならタイマンでメンタルを追い込み、分析をしっかりやりたいところだが時間が限られている。

 加えて教師二人対一人という図式は子どもにはストレスフル。 

 気楽に喋らせたいという事で、生徒数人を同時に面談していく形にした。

 トップバッターは年少組の八重樫姫花と水船優香里ペア。


「失礼します!」

「し、失礼します」


 姫花は元気いっぱいに、優香里はやや緊張気味に多目的ルームに入ってきた。

 九歳と十歳という低年齢とあって、緊急面談に対してそれほど思うところはないらしい。

 俺の隣で微笑む滝本の存在が大きいというのもあるだろう。

 テーブルを挟んだソファーに腰を下ろした二人は、邪気のない瞳で俺を見た。


「連絡で聞いたと思うけど、新学期からしばらく経ったというのもあって、二人が楽しく学園生活を過ごせているか確認したいんだ。単刀直入に聞くが、どんな感じ?」


 滝本の助言に従って軽い感じで尋ねると、姫花は真夏のひまわりのような笑顔を浮かべた。


「いつもと変わらず楽しい! ご飯は美味しいし、ユカちんとも遊べるし、友達もいっぱい作れるし!」

「友達ってのはあのゴーレム軍団か。まあ、シャバじゃ普通に捕まるしなぁ……」


 姫花は召喚魔法に天性の才がある。

 本来なら難解極まる術式と貴重な魔法資源によって生み出されるものを、並外れた感覚と膨大な魔力で可能にしている。

 砂場で泥団子を作るようなノリで、大きめの警察署を壊滅させられるレベルのゴーレムをポンポン生み出すのだ。

 一般社会じゃ魔法の使用には厳しい制約があり、召喚魔法自体は厳重注意の対象だ。

 しかしこの異界の島ならばある程度まで許される。

 召喚生成が呼吸に近い姫花にとっては、まさに楽園のような場所だろう。


「水船さんは? 楽しくやれてる?」


 俺の問いかけに優香里は自分の三つ編みを弄びながら苦笑いを浮かべた。


「基本的にはヒメちゃんと同じで、いつも楽しいです。あとはその、ヒメちゃんの友達が暴走しないように毎日頑張ってます」

「そうか……偉いな」


 姫花が召喚魔法の使用にそこまで制限がないのは、優香里という傑出した操心師がいつも一緒にいるからだ。

 世話係は大変だろうが、姫花が生み出したゴーレムに乗って笑っている事も良く見かけるから、嫌という訳でもないらしい。

 年も近いこの年少組はホームシックで落ち込む事はあるが、強烈なストレスで不安定になったり反抗的な行動は取らない。

 学園のルールにも教師の言う事にも素直に従う――他の生徒の言う事にも。


「取りあえず元気そうで何よりだ。あとはそうだな、知っての通り俺は新人教師だから色々と足りないところがある。君たちから見て、何かこうして欲しいとか、これは改めて欲しいとかあったら、率直に教えて欲しい」


 俺個人に対する要望や批判はつまり、この面談の核心をオブラートに包んだものだ。

 ネガティブな印象を持っていれば、ごまかすつもりでも表情や仕草、呼吸に現れる。

 機材がなくとも、俺の目や耳はほんの少しの変化も逃さない。


「うーん、先生に何かして欲しいことねぇ……思いつかないなぁ。授業も別にフツーだし、変な動きしたり臭い出したりもしないし。強いて言うなら個性がないってのが問題かなぁ。ハイホー先生があたしのゴーレムなら一回潰して作り直してると思う」


 表現は独特だが、なるほど。

 現在の俺は教師になったと言うよりも、教師という役を演じてるスパイに近い。

 生徒達に当たり障りのないように振る舞っている反面、訴求力がないというのは確かにあるだろう。幼いが中々に良いところをついてくる……ん、ハイホー? 

 七人の小人達の掛け声っぽいのは俺を指しているのか?

 自慢じゃないが仕事は嫌いだぞ。世話するどころか白雪夢に食わせて欲しいわ。

 八人目として小人になるなら、ヒモスケとかアルチューとかそんな名前になるぞ。

 俺とお前にその覚悟があっても、きっとあの世のウォルトにはないはずだ。


「個性はおいおい頑張っていくさ……水船さんは? 何か要望はないか?」


 俺は手の中のチェックシートにメモを取りながら問いかけた。

 視界の端っこで優香里が首を横に振る。


「いえ、ありません。授業もわかりやすいですし」


 俺は微笑みを浮かべて頷き、ペンを置いた。


「そうか。よしよし、面談は以上です。二人ともありがとう、廊下を走らず教室に帰ってくれ」

「走る友達に乗るのはオッケーですか?」

「八重樫さんよ、友達は手を繋ぐものだ。上に乗っていい友達はそーゆー関係の――はは、やだな滝本先生。私はただ、組み体操の話をしただけですよ。さあ、先生が組み伏せられる前に次の人たちを呼んできてくれ」

「はーい」

「失礼します」


 二人が部屋を出て行って数秒後、滝本が小さくため息をついた。


「なかなか手強そうですね……」

「はい。八重樫は上手く説得され、ボイコットをしたという自覚も持っていません。水船の方は疑問を持ったものの、私に対しても指示者に対してもネガティブな感情はないようです。おそらく新人担任へのちょっとした悪戯か、どんな反応するか試してみたいとでも言われたのでしょう。受け答えの練習をした様子でしたが、それほど緊張も強くありませんでした」


 入室の時から優香里は俺の様子を伺うような仕草を見せていた。

 年齢を考えれば上手くやっていたが、こちらは観察と演技の元プロである。

 視線を合わせずに最後の質問をしたのはわざと。

 見られてないから余計に油断した優香里は、姫花のように考える仕草をせず、練習したセリフを間違えないようにスラスラ答えた。

 優香里の視線は、チェックシートを眺める俺の表情をじっと観察していた。


「さすがにこういった分野はお強いですね。誰から指示されたか問い質さなかったのは教師としても評価できます。低年齢の子達にプレッシャーを与えなかったのも良かったと思います」


 割と辛口の滝本に評価され、俺はちょっと嬉しくなった。

 副担の心のブラホックを片手で外せる日も近そうだ。


「しかし、最後の際どいジョークでマイナスです。女の子は男性が考えるよりも成長が早く、そして繊細なんです。一度最低だと思われたら取り返せませんので、次からは気をつけてください」

「両手でも外せそうにないな。ボルトカッターが必要だ……」

「何ですか?」

「いえ、しっかり気をつけます。ご注意いただき感謝します」


 俺が厳かに頭を下げた時、ノックの音が響いた。


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