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魔法先生なんてガラじゃねえ!  作者: 砂握
序幕「失業。傘を差し出す悪魔」
17/48

17

 鏡の扉を開けると、小動物の巣穴を思わせる狭い通路がずっと続いていて、奥の方がぼんやりと光っている――。


 そんな俺の予想に反し、鏡の裏には押し入れくらいのスペースしかなかった。

 ハッキング用の機材やら冷蔵庫やら簡易トイレがぎっしりと空間を占領しているため、利用者以外にはどこに何があるか一目では解らない。

 散らかる小物類が隙間を埋めるその様は、もはやゴミ捨て場だ。

 そのゴミ捨て場の中、分厚い参考書を手にした少女が埋もれていた。


「あ……桜ちゃん」


 俺の後ろから顔を出した蛍が、扉のすぐそこに座り込む例の少女を見つけてそう声を漏らした。

 桜と呼ばれた少女は、壁に設置されたディスプレイの光に横顔を照らされながら、無表情で首を傾げた。


「あら、蛍さん。こんなところでどうされたんですか?」


 それはこっちの疑問だろ。

 蛍は俺が胸の中でした突っ込みを口に出そうとしたみたいだが、眉根を寄せてそれを飲み込んだ。

 確かに、この掃き溜めで淡々と参考書をめくっていたらしい女に言われる台詞ではなかったが、蛍の方も普通ではない状況下にある。

 何と説明するのだろうと見守っていると、蛍は肩をすくめて見せた。


「ちょっと野暮用」

「そうでしたか」


 沈黙が満ちる。

 桜ちゃんとやらは落ち着いた様子で瞬きを一つ二つし、手の中の参考書に視線を落とした。

 ……突っ込みはなしかよ。

 外から開けられるはずのない隠し扉を開けて、この島にいるはずのない男が入ってきたんだぞ。

 悲鳴上げるか身をすくませるかするだろうよ。

 自分の知り合いを見つけたんなら、何事か泡を飛ばして確認するところだぞ。

 野暮用だったら仕方ないってか? 

 近頃の女子の野望用ってのは政治活動費くらい幅広いのか。俺の数少ない常識を分けてやろうか。


「あ」


 俺が常識を探してポケットをまさぐっていると、桜嬢は何かを思い出したような顔でこちらを見た。

 そうだそうだ。

 今からでも遅くない。

 動揺しすぎて逆に落ち着いちゃっただけだよな。

 さあ、言うべきことを何でもいいから言ってくれ。


「敵が来たら鈴本さんに倒せと頼まれたんでした。あの、失礼ですがあなた方は敵ですか?」


 ん、んん。

 思ってたのと違うぞ。

 でも取りあえず、質問には答えておくか。


「敵対した覚えはないが、まずは敵の定義を教えてくれ」

「風紀委員と警備員。及びそれに協力する者達だそうです」

「それなら俺達は敵じゃない。なあ蛍?」

「ええ。むしろその二つの敵になってるわね……それより桜ちゃん、ノアに頼まれたって言ってたけど、肝心のあいつはどこ? ここで悪巧みしてると思ってたんだけど」


 蛍は狭い隠し部屋をきょろきょろと見回した。

 ずれ気味の桜嬢に護衛――全く役には立っていないが――を頼んだその鈴本ノア? とかいうのがこの部屋の所有者であるハッカーなのだろう。

 見たところ機材は動いているから、この娘を囮にして別の場所で遠隔操作しているのか? 

 だとしたらその居場所を今から探し出す時間があるのかどうか。

 考えながら無意識に魔力感知を研ぎ澄ませた俺がそれに気づくのと、桜がそれを掘り起こすのはほぼ同時だった。


「鈴本さんはここです」


 散らばった携行栄養食品の山をかき分け引きずり出されたのは、ごついヘルメットをかぶった小柄な少女だった。

 メットは違法改造がほどこらされたと思しき、ネット接続用のデバイスだ。

 側面にハムスターと模したマスコットが描かれているから、探していたハッカーなのだろうが……。


「ノアは何で埋もれてたの?」


 蛍の当たり前の質問に、桜は平然と答えた。


「三十分ほど前に積み上げられていた食料品が鈴本さんの上に落ちたからです」

「……どうして払ってあげなかったの?」

「そこまで頼まれていなかったものですから」

「……そっか」


 本心からそう言っているらしい桜嬢を見て、俺はふと蛍にまともな知り合いはいるのかといぶかった。

 こういうのばっかりだと心を病む事もあるから、助けられている恩もあるし出来れば力になってやりたい。

 しかし俺もまた、まともでない人間の一人であるからやるせない。

 いや、俺のまともじゃないところに親近感を覚えたから助けてくれたのか――?


「なあ蛍」

「ん、なに?」

「俺、真っ当な人間になれるよう、頑張ってみるよ」

「急になにそれ。気味悪い」

「蛍さん、多分今のはプロポーズの一種ですよ。先日読んだ本に似たような台詞が書かれていました。女性が返事をする前に、男は体中から血を噴き出して死んでしまいましたが」

「……桜ちゃん、あなた一体どんな本読んでるのよ」

「長浦さんが貸してくれました。後書きが面白いから読んでみて、と」

「梢かあ。あいつ中身はちゃんと読んだのかしらね……」


 年頃の娘達はこういう会話をするのか……。

 意図せずロポーズに失敗したらしい俺は失意のあまりしゃがみ込み、近くに落ちていたペットボトルを拾って、ノアとかいうハッカーのメットをこんこんと叩いた。

 もちろん八つ当たりではない。

 何か頭に落ちてきても人が騒いでいても無反応である事から、意識を完全にサイバースペースに移したフルダイブ状態だろうと予想できたが、狸寝入りの可能性もあるので一応確認しておいたのだ。

 以前、同僚が似たような状態の人間に不用意に接触して、脳みそを魔法で焼かれた事があった。

 そいつは俺にも攻撃を加えようとしたが、野郎は不健康なガリで、意識がサヨナラした同僚は体重百キロを超えるデブだったのが不運だった。

 ガリはデブにペシャンコにされ、俺が助け出さなければ窒息死していたところだった。

 巨体の下から漏れ聞こえる悲鳴がまるで春の訪れを告げる虫の音のようで、心がふと穏やかになった事を覚えている。

 同僚の失禁が作る水たまりが、ブーツのつま先につきそうになった辺りで我に返ったが。


「あの」

「……ん?」


 本当にフルダイブしてるらしいなと考えていると、桜が声をかけてきた。

 何を考えているか表情から読みにくい少女はヘルメットを指さした。

 指が示していたのはヘルメットの後方下部。

 ノアをひっくり返すとそこにはプレートがあり、開くようになっていた。

 ははーんと俺は頷きながら隙間に爪を突っ込んで開いた。


 下から現れたのは小さなテンキー。

 緊急時、外部から強制浮上させたり、サイバースペース上のダイバーに連絡を取るためのコードを入力するボタンだ。

 コードを知ってるのは信頼の置ける人間だけ。


「お話ししたければそこからかけてください。番号は――」


 その信頼の置ける人間は、事もあろうに初対面の怪しい男に、教えてはいけない番号をあっさりと教え始めた。

 人選ミスってんじゃねえかと思いつつ、俺はコードを覚えていく。

 なんと二十四桁。そりゃあ安全性を考えれば長いに越したことはないが、とても実用的ではない。

 ハッカーってのは大抵そうだが、どいつもこいつも病的な神経をしてる。

 優秀であれば優秀であるほどその傾向が強くなるから余計にタチが悪い。


「今の番号を十秒以内に打ち込んでください」

「じゅ、十秒?」


 桜の言葉に思わず問い返したのは蛍だ。

 俺は割と慣れていたのでそこまで驚かなかったが、ハッカーのライフラインを疑いの目で見つめた。


「君は出来るの、それ」

「はい。番号を教わった時に肉体制御の簡易術式を組みましたので」

「優秀だなあ……」


 事も無げに答えた桜に俺は半分呆れ、半分感心した。

 この年齢で簡易系とは言え術式を自力で作れるのは大したものだ。

 しかも肉体制御、設計図を組めても実用的に機能させて安定化させるのは難しい。

 その高度な能力をボタンの早押しに使うというのはどうかと思うが。


「うむ。スナイパーになるのをお勧めするよ」


 この手の術に秀でた連中が狙撃が恐ろしく上手かったのを思い出してそう言ってみたが、桜は首を横に振った。


「将来の夢は良き妻になり、良き母になる事ですから」


 その口から出てきた予想外の乙女ティックなビジョンに俺は狼狽えた。

 前時代的というか何というか。

 そもそも妻や母だの言っているが、こんなに無表情でやっていけるのだろうか。

 初夜にベッドの上でこんな無表情だったらガキも作れないし、辛うじて出来ても育てられるのか?

 ダッチワイフの方がまだ人間的な感じがする……。

 それとも好きな男の前では表情豊かになるタイプだろうか。

 とてもそうは見えないけど。


「……あれだ。君なら狙撃の得意な良き妻、良き母になれると思うよ」


 悪気はないし口に出してもいないが、初対面の娘に対する感想としてはひどいものだったので、俺は申し訳なさから適当なことを言った。

 ホント、テキトー。

 慰めもクソもあったもんじゃない。

 しかし言われた方はというと、目から鱗といった具合に大きく頷いて見せた。


「なるほど。それなら考えてみてもいいかもしれません。しかし狙撃というのは、家庭でどういった役に立つのでしょうか」

「家庭――そ、そうだな。夜中に暴走族がうるさくてガキや旦那が眠れない時に、こう、一瞬で静寂を取り戻してやるとか……」

「ああ、素晴らしいですね。まずは何から用意すればいいですか?」

「ちょ、ちょっと! 訳の解らない勧誘しないでさっさと連絡取りなさいよ! 急いでるんでしょ!?」


 陽気な音楽と共に三分スナイピングのコーナーが始まりそうになったところで、シラフの蛍が安全装置として機能した。

 ありがたい。


「ええっと、11892……」


 最近の若い者と違う俺は魔法になんか頼らない(頼れない)から、普通に頭を使うことにした。

 コードを頭に思い浮かべ、テンキー上での流れを確認し、イメージが出来たところで手を構える。

 こういった訓練も受けた事があるから、別段緊張もない。

 通りすがりの女のケツを撫でるように自然に、さらりと制限時間内に二十四桁打ち込んでやる。

 無駄のない完成された俺の技は「キモッ」とか「ゲジゲジがもがいてるみたいです」などと酷評されたが、同業者の女どもに比べれば可愛いものだったのでスルー可能。

 連中ときたら最低だった。

 手首から切り取ってオモチャの代わりにしたいだの、五秒でイかせられたらビールをおごるだの、股間のモノ足りなさを指で補ってるだの、耳が腐る事ばかり言われたものだ。

 身体の無駄毛を抜きすぎた女は心に無駄毛が生える。

 そんな教官の言葉が、今もこの胸に輝いている。


『――委員長?』


 ろくでもない輝きを消そうと胸をこすっていると、ヘルメットの外部スピーカーから声が響いた。

 サイバースペースとの通信が確立されたのだ。


『緊急事態か何か? イルカちゃんとやり合ってて手が離せないからさ、やばい状況なら一人でさっさと逃げていいから』


 早口に告げたその声は結構切羽詰まった様子で、余裕を一切感じさせなかった。

 しかしそれ以上にウキウキしていて、ピンチを含めて情報戦闘を楽しんでいるのは明白だった。

 水を差すのは可哀想だったが、こちらにも事情があるので仕方が無い。

 あまり刺激を与えないよう、出来るだけ丁寧に優しく声をかけた。


「ようビッチ。俺はお前が面白半分にマトにしたド変態だ。ほんのささやかなお礼に、現在進行形でお前の乳首をカッパドキアみたいに開発しているところなんだが、ちょっと迷っててさ。キノコ型とコーン型のどっちが――」

「やめろおおおお!」


 スピーカー越しではない肉声の叫びと共に、メットのフロントが音を立てて開いた。

 シールドの中から現れたライトグリーンの瞳は最初天井を睨んだが、きょろきょろと動いてすぐにこちらを見つけた。

 がばっと身を起こす。


「灰尾八雲! テメェこの野郎!」


 なかなかドスのきいた声だったが、両手で乳首の安否を確かめている姿はなんともシュール。

 少なくとも今のところ世界遺産に登録される可能性が皆無である事を四回くらいコリコリしたところで理解したらしい。

 安堵と騙された事への怒りで顔が青白くなった。


 鋭い目つきで周囲を見渡すと、蛍と桜の姿を見て舌打ちを素早く二つ。

 大方の状況を把握したのか、苦々しげな顔でうんうんと頷いている。

 なるほど、発情期のハムスターのようにせわしないなと思っていると、少女はきっとこちらを睨みつけると同時、ツバを吐きかけてきた。

 育ちが悪いのだろう、いかにも慣れた動きだったが、モーションが大きい上にキレも悪かったので回避するのは余裕だった。

 何なら飲み込んでからカサを増やしてお返ししてやっても良かったが、他の多感な娘達の前なので自重。

 床に転がっていたものを素早く拾ってお上品にブロックする。

 ハッカーは舌打ちをした。


「あ、私の参考書が……」


 声を上げたのは桜で、俺が盾にしたそれをどことなく悲しそうに見つめていた。

 見れば「日本淑女検定への道 中級編 第七巻」と記された表紙の上を、泡だったツバがどろりと滑っていっていた。

 俺は謎の参考書への突っ込みを放棄し、表紙についたツバをさっと脇の下に挟んで拭うと、桜の肩に手を回してそれを押しつけた。


「悪気はなかったんだけど、すまない。お詫びに今度、何か解らない事があったら実験台になってやるからさ」

「本当ですか」

「ああ」


 ネクタイの結び方とかそんなもんだろうと高をくくって安請け合いしたが、桜は異様な具合に瞳を輝かせた。


「良かった。被虐趣味の夫を満足させる縛り方の項目で解らないところがあったんです。長浦さんが協力してくれるのですが、男性を想定した縛り方なのでどうしても上手くいかないのです。ありがとうございます」

「……おう」


 参考書の出版会社、いや、検定やってる会社を潰そう。

 世のため人のため、情けは人のためならずだ。


「おい! お前はこんな茶番を見せるためにここに来たのか!? こっちは忙しいってのに!」


 イライラと叫んだのはノアだ。

 顔はこちらを向いていない。

 フルフェイスを脱いだハッカーは懐から取り出した眼鏡型デバイスをかけて、慌ただしく周辺機器をいじっている。

 まだ戦うつもりなのか、逃げる準備をしているのか。

 多分前者なんだろうなと思いながら、俺はその背中に声をかけた。


「率直に言う。ギブアンドテイクを提案したい」

「生憎、貰えるモノもやれるモノも持ってないよ。どうせならラブアンドピースでも提案してろ、この馬鹿」


 おお、荒れてる荒れてる。


「口が悪いなあ。いいから聞けよ。ぶっちゃけお前、もう詰んでるんだろ?」

「馬鹿にすんな! まだやれる。メインフレームはやられたけど、サブが残ってる。組み合わせて奇襲をかければ隙を作れるんだ。ようやくこれから本番なんだよ!」


 雄叫びに近いそれは異様な興奮に満ちていた。

 盛ってる。

 こいつは多分、玉砕タイプだ。

 プライドが高すぎて離脱のタイミングが解らず、追い詰められると逆にテンションが上がってしまうのだ。

 スキルはあるから的確な判断は出来るが、メンタルに振り回されて決断は出来ないというやつだ。

 まともな損得で交渉できないなら、どんどん煽っていった方が俺にとっては良さそうだ。


「本番だと? 耳を疑うぜ、ハッカーが言う台詞じゃないな。TFFS――ザ・ファースト・ファイブ・セカンズ。最初の五秒間で全てを出し切って優位に立たなければ敗北する。後はどれだけ頑張ってもお祈りの時間を稼ぐだけになるって、サイバー系魔道師の鉄則じゃなかったか? それともあれか、パパとママに電話でもするか? ケツについたクソが拭けないから手伝ってくれって」


 小学生のガキみたいな露骨な俺の煽りに、ノアは呆れたようにため息をついた。


「はいはい。そーゆーのはまた今度。忙しいからそっちの連中に相手してもらってよ。ネットをオカズ探しにしか使えないような能なしの言葉は挑発にもならないんだから。アンタがハッキングのハの時でも知ってれば話は別だけどさ」


 あしらわれても食らいつく。

 今の俺はアクセル・フォーリーだ。


「専門じゃないから言ってるんだよ。俺が仕事してきたウィザードは外見や中身はクソ揃いだったが、仕事だけはいいわけ無しできちっとやった。精神の最深層まで制御領域に解放してたからな、失敗すりゃお陀仏になった。でもま、お前は所詮学生か。サイバー戦闘だの格好つけてもガキのお遊びに過ぎないから、いくらでも言い訳つけて負けられる訳だし……確かにそうだな、お前からは貰えるモノは何もなさそうだ。ここで好きなだけ、相手のベビーシッターに遊んでもらえよ。あと言っておくが、俺はロマンチストだからな、オカズは古き良きビニ本と決めてるんだ」


 デジタルなんざクソ食らえだ――締めの言葉まで一息で言い放つ。

 ビリーの待つ車まで戻ろうと、これ見よがしに背を向けると、後ろでどんと音が聞こえた。

 振り返れば壁に拳を叩きつけたハッカーは、ぷるぷると震えていた。


「……キレさせて乗せようたって、そうはいかないからな。アタシはそこまでガキじゃない」


 キレてるじゃないの。

 むしろお守りサイズしかないその堪忍袋の小ささを心配しつつも、俺はアクセルに別れを告げ、エージェントJへと華麗なる転身を遂げた。


「オトナは乗るかどうかは話を聞いてから決めるもんだ。目的と手段を分けて考えられるからな。気分じゃなくて損得で判断する。違うか?」


 感情を込めずにそう声をかけると、ノアは無言で歯を食いしばった後、いくらか冷えた視線をよこしてきた。


「アンタがアタシなら、その提案に乗るのか?」


 ずるい質問だ。

 ただ、ある種の信頼関係を築くための最低限の挨拶とも言える。

 ちょっとは誠実に答えなければならない。


「乗るよ。他に手がないからな。ただし途中まで」

「途中?」

「見通しが確認できたところで降りる。最後まで付き合うのは危険だ。だから元協力者の背中を蹴飛ばして逃げ散らかす。まあ、お前にそれが出来るかどうかは知らないが」


 明るい緑色の瞳がちかちかと瞬いた。

 思案は一瞬、すぐさまふてぶてしく細められた。


「背中じゃなくてタマを蹴り飛ばしてやるから覚悟しとけ」


 肯定の意思表示。

 俺は格好つけて肩をすくめた。 


「望むところだ」

「……望んでどーすんのよ」


 事態を伺っていたエージェントK――ならぬ蛍が呆れながらもほっと胸をなで下ろした。

 桜はというと、どこからか取り出した荒縄をこねくり回していた。

 視線を逸らして低い天井を見上げると、俺にひたすら怯えていた相沢の事を考えた。

 思えばあいつが一番まともな人間だったな……。


「お――傍受してる警備の通信が入ったぞ。んん、警備端末を持って逃げ回っていた女子生徒を確保したらしい。が、質問には答えずじっと黙秘してるらしい……」


 ノアが虚空を見上げて言ったその言葉に、俺は目頭を押さえた。

 なんていいやつ。

 今度会ったら土下座して靴の裏を舌で綺麗にしてやろう。

 俺は自分の魂に誓いを刻み、目を見開いてマトモじゃない連中を見回した。


「では諸君。フェスティーナ・レンテ。ゆっくりと急ぐぞ」


 渋く決めた俺に、桜はぽつりと呟いた。


「人生という喜劇を演じ終えないと良いですね」

「……そん時は拍手を送ってくれよ」


 縁起でも無いがまあいいさ。

 ここらで一つ、賽を投げるとしよう。

更新遅れてしまって申し訳ありません。

熊本で身内が被災した事もあり、中々執筆できませんでした。

身辺落ち着きましたので、ぼちぼち更新を再開していきます。

よろしくお願いします。

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