横浜万博 第2話 短編版
24時間ゲート警備のA班で、僕は何度か田村さんとペアを組んだ。
外国人に道を聞かれれば流暢な英語で答え、夜の買い出しでは暗算で素早く精算する。頭の回転が速く、誰もが一目置く存在だった。
しかし、最初の“事件”は突然起きた。
ある日、田村さんが勤務時間を過ぎても現れない。電話もつながらず、その日は3人で回すしかなかった。
ところが次の勤務日、彼は何事もなかったように現れ、「ごめん、ごめん」と軽く言って終わり。注意されても「了解、了解」と軽い返事。
そしてまた無断欠勤。
結城さんが怒鳴り、椅子を蹴飛ばすほどだった。
その日も田村さんは無言でゲートに立ち、僕とは一言も話さなかった。
それを最後に、田村さんは二度と姿を見せなかった。
代わりにB班から住吉さんがA班に加わった。
***
田村さんの無責任さは理解できなかった。
だが今思えば、彼は“他人の目”を一切気にしない人だったのだと思う。
飲み会の精算も、英語対応も、ただ自分が損したくない・イライラしたくないから動いただけ。
「助けたい」ではなく「自分のため」。
だから無断欠勤も平気だったのだろう。
一方の僕は、嫌われたくない、空気を悪くしたくない。
他人の目を気にして生きてきた。
田村さんは、その真逆の価値観を見せてくれた人だった。
***
次の揉め事は、パビリオン警備との間で起きた。
詰所が散らかっていると結城さんが怒り、マネージャーにクレーム。
すると逆に「A班の翌朝は酒臭い」と言われ、田村さんのせいにしてその場をしのいだ。
誰かが文句を言えば、相手も揚げ足を取る。
そんな構図を初めて知った。
***
さらに、結城さんは「チクったのは沼田だ」と疑い始めた。
沼田さんは無口で、僕たちと距離を置いていたからだ。
4月になり、僕が学校で週1しか入れなくなると、代わりに沼田さんがA班に入った。
揉めると思ったが、一週間後、二人は仲良くゲートに立っていた。
理由は単純だった。
沼田さんは24時間勤務を希望していたが却下され、僕たちを羨ましく思っていた。
さらに二人は中学の先輩後輩だったことが判明し、一気に打ち解けた。
人は些細な誤解で揉め、思いがけない偶然で仲良くなる。
横浜万博のゲートで、僕はそんな人間関係の不思議さを学んだ。
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